香川句会報 第58回(2016.01.16)
事前投句参加者の一句
花八ツ手式守伊之助休養す | 稲葉 千尋 |
柩小さし水鳥はみな水に眠る | 小西 瞬夏 |
年の瀬や皺嗄れ声の裁判所 | 尾崎 憲正 |
雪もよい蟹たべに行く愉快なバス | 重松 敬子 |
鍋焼きをはふはふ啜る和解かな | 三好つや子 |
岩石やガガガガガガガ蝶番 | KIYOAKI FILM |
風冴えて夕げの買い出し坂くだる | 中西 裕子 |
前衛書の心なりけり冬木立 | 漆原 義典 |
左義長やあおりあおられ鳥飛翔 | 田中 怜子 |
比叡山全て承知で眠りおり | 古澤 真翠 |
ラジオ消す世界は冬の木霊して | 夏谷 胡桃 |
軒先に春光あちこち猫いびき | 髙木 繁子 |
女鳥王(めとりのおうきみ)白鳥となりし夜の帳(とばり) | 寺町志津子 |
冬雲の光瞳に溜め死者送る | 小山やす子 |
午後という間抜けた時間冬の雷 | 谷 孝江 |
一椀は過疎の明るさせりなずな | 矢野千代子 |
寄鍋や外は小雨になつてゐし | 高橋 晴子 |
大銀杏大切株となりし冬 | 亀山祐美子 |
ゴム銃で狙い撃ちするオリオンへ | 伊藤 幸 |
木葉木菟夜は袖ふるめくら縞 | 若森 京子 |
凍港や天の穴からカモメ降る | 銀 次 |
鮮やかな冬日滅びのささくれて | 竹本 仰 |
馬駆ける土の匂いを強くして | 河野 志保 |
木枯しを背負って帰るワンルーム | 三枝みずほ |
盥にて冬の満月飼っている | 増田 天志 |
風止まり静止画となる冬日かな | 藤田 乙女 |
遠耳の二人の阿吽冬朝日 | 野田 信章 |
捨てたはずの本また積んで年新た | 中野 佑海 |
源内と孵卵器のような初句会 | 町川 悠水 |
所望して七草粥のドリアなる | 野澤 隆夫 |
水底に藻の揺る戯れごと恋の | 桂 凛火 |
群青や鼻の穴見る初鏡 | 鈴木 幸江 |
凍蝶の砕けて遠い星に風 | 月野ぽぽな |
鐘が鳴る夢の枯野に鐘が鳴る | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 中野 佑海
毎回、色々な俳句談義とっても楽しくかつ為になります。さて、1月句会の選句は下記の通りです。特選句「からだじゅう手ぶらな拒絶冬の鯉」正しくまな板の上の鯉ですね。中七の表現がもうどうすることも出来ない感満載で、可笑し味すら漂わせていま す。最高の万才です。もしくは、道ならぬ恋に堕ちて、夜も日も明けぬとか!特選句「鮮やかな冬日滅びのささくれて」冬の抜ける様に澄んだ青い空。その精妙さ故に、狂ってしまった私の人生を少しずつ少しずつ元に揺り戻してくれる様な気がしてしまうのです 。それにもうすぐ、本当に明るい春がやって来るはず。問題句「水底に藻の揺れる戯れごと恋の」この句後半部分は「恋の戯れごと」ではどうしていけないのでしょうか?これは余談ですが、十二月の拙句「柿色に泥む山里離れ牛」こんな風景まだあるのかな?と 書いて選んで下さった田中怜子様。有難うございました。十一月に四国八十八カ所二十一番大龍寺から二十二番平等寺に。ザアザア降りの雨の中を杖を突いて歩いて降りた。本当に疲れて里に降りた頃、西の山の際が雨上がりの綺麗な茜色。里は薄墨色に黄昏。そ の耕作地の山影にもの凄く大きな黒い塊。大きな鳴き声だけがそれが牛だと語っている。まだ四国にはこんな隠れ里があったのだと感嘆しきり。懐かしむ間もなく足を引き摺り平等寺に倒れ込みました。四国八十八カ所は正しく大人のテーマパークです。本当に俳 句の世界は奥深いですね!!銀次さんが仰っていましたが、何でも喋れる海程香川句会は最高です。今週は寒中ど真ん中。どうぞお身体大切に。
- 月野ぽぽな
特選句「冬の丘剣玉老人ぽっと咲く(三好つや子)」剣玉の得意なご老人、すっとわざが決まった時なのでしょうか。生を集中の一瞬を「咲く」と言えたところが手柄です。冬もその人の人生を思わせて、ちょうどよく効いていると思います。
- 漆原 義典
特選句「鍋焼きをはふはふ啜る和解かな」夫婦か恋人がちょっとした口喧嘩をしたのかなぁ・・そのあとのほのぼのとした和解の様子が、「はふはふ啜る」でうまく表現されている素晴らしい句だと思い特選にさせていただきました。
- 若森 京子
特選句「群青や鼻の穴見る初鏡」鼻の穴の暗さと作者の直視する群青との落差のコントラストの面白さが一句を広く深くしている。初鏡の季語により一年の始めの作者の意気ごみも感じられる。特選句「海寄りの難民の影臘梅に(野田信章)」庭の隅に咲く 蝋梅の香りに浸りながら、あの透明な花に色と思いを馳せるのが好きだが、私はシルクロードの荷を解いたが、今は、あの難民の悲劇をふと思った。臘梅には色々な思いが重なってくる。
- 野田 信章
三行メッセージ(註:句稿に掲載の参加者のお一人からの質問・・「みなさん、俳句はどのように作るのでしょうか。聞いてみたいです。季語から?言葉が降りてくるのかしら?私は最近降りてこないのです。」)に対してーこのように貴重な愚問を発する ことは実作者にとって、とても大切なことではなかろうか。私もまた似たような課題を抱えながら新年を、もたもたと歩き出したところである。メッセージの主旨の前段、後段の疑問に対する端緒はこの百二句(句稿の全句)の中にだって存在する筈である。と申 しますのも、良き作り手になりたいと思うなら、何よりも先ず良き読み手になることではないでしょうか。方法論もここのところを踏まえた上での対応を考えたいと思います。
- 町川 悠水
濃厚な「海程香川句会」に、まず感謝。疲れはするものの、これくらいで疲れるようでは除籍しますよと、叱られそうな気もしています。今月も交代制によって、手厚い洗礼を受けました。これにも感謝。そして忘れてならないのは、それを切り盛りしてい る世話人さんの情熱と力量。簡潔表現すれば以上ですな。では次に、見直しを含めた選句とコメントを。特選句「前衛書の心なりけり冬木立」。格調高く秀逸と見ました。ただし、「前衛の書の鑑(かがみ)なり冬木立」ではないの?と呟きたい外野席。特選句「 一椀は過疎の明るさせりなずな」。中七が巧みであり、作者の心の豊かさまで伝わってくる。準特選句「おでん屋のテレビざらつく午前二時(桂 凛火)」。いいですなあ、作者の内面とその場の光景が描き切れていて。問題句「午後という間の抜けた時間冬の雷 」。読み違えていないなら、作者の意図は「冬の雷間抜けた午後が蘇生する」ではなかったか、あるいはそれに近かったのでは?「冬の海波寂びゆくところ天国」は佳句ながら、「冬の海波・・」は「冬浪の・・」でよかったのでは?〈自戒〉短時間のうちの百の 選はきつい。一例を挙げると、「黙祷す十七日の寒稽古」は選ぶべきであったと。年齢のせいにはしたくないし、「ではどうするのじゃ」と己が己に問うている。どこかで誰かが「もっと高く翔べばいいのよ」とささやいている。ほかにも書きたいことがあります が、取敢えずここまで
- 増田 天志
特選句「凍蝶の砕けて遠い星に風」想像力による詩情の豊さ。
- 伊藤 幸
特選句「遠耳の二人の阿吽冬朝日」年輪を重ねた夫婦或いは親友同士、物言わずとも全て分かり合える。いつ迄生きられるか分からねど今日も又二人に一日が始まる。冬朝日がそれでも生きるという意欲に満ちて前向き姿勢が窺える。こうありたいと願う。 特選句「蜘蛛の巣をくぐりそこねて冬ぬくし」動の後悔、静の後悔。私なら動の後悔を選ぶであろう。結果的には動かずして今を平和に過ごす自分がいる。それはそれで良いのかも…。蜘蛛の巣と冬ぬくしの意外な取合せが微妙に合致している。
- 竹本 仰
特選句「夕狩や生ある物の水飲む刻」:「生」は、セイと読むのか、シヨウか。セイと読めば、生命ある側からの見方、シヨウとすれば、「死」と対概念のものとなるでしょうか。私はシヨウと読みました。つまり、これは瞬間ではなく、永続的なものとし て。シヨウあるものは、命のために水を飲むのだけれど、また、それは命のためにそのシヨウを殺める時でもあるんだと。会田綱雄の「伝説」という詩を思い出しました。輪廻転生という掟を感じさせる、荘重な、いい句だなと思いました。特選句「寒星を天に満 たして柩ゆく」:「柩」という用字がいいと思いました。昔は、ソウレンと言い、野辺の送りがほとんどだったようですが、今や葬儀は肉体労働ではなくなりました。私の個人的な宗教観との出会いは、生命はどこかに「還る」という感覚がした所からで、還ると ころがあるという思いが始まりだったでしょうか。この句は、そんな思いに重なるなあと。宮沢賢治の「なめとこ山の熊」でしたか、小十郎という猟師がこれまで自分が殺してきた熊に見送られて死につつ笑っているというラストがありました。ソクラテスの弁明 だったか、ソクラテスはごく自然に、死は思ったほど辛いものでもなかろうと、自分が死刑になるのを嘆く弟子たちをかえって励ましているのには、驚かされました。宇宙(コスモス)があるということは、いいもんだなあと、また、この句にも感じました。以上 です。あと、コメント求めている方に。「俳句の作り方、あれば私にも教えてください。そういえば、この間、知り合いの方が、夜、自宅の庭につくはずのライトが点いてないと、不思議に思い庭へ降りたところ、ブロックにつまずき、これでもかという程派手に 転んで、全身傷だらけになったそうです。全治二か月。それを語るときのその方のいきいきとした表情が忘れられません。ひょっとしたら、俳句もそんなものなのかも。不思議、事件、語り・・・しかも、全身全霊。ただ、私の場合は、そんな俳句、作れません。 どちらかというと、ブロックのかわりに、季語につまずいていますね。」そして、「言葉が降りてくる」ということについて、次元の異なる話ですが、ハイデガーという方は、我々に本質について気づかせる「呼び声」というものが必ずあるとを考え、それは我々 自身の深い所に生まれる声なのですが、それを受け取るのも、また受け間違うのも、また我々なのだと言っていました。飛躍して考えると、「言葉が降りてくる」というのも、そういう我々のあり方に即したものなので、ハイデガー先生自身は多分、自分の状態に 正直であること、よく耳を澄ますことが大切だと言われているように感じます。ぐっと寒くなりましたね。いつも、ありがとうございます。みなさん、お元気で、また、来月。
- 三好つや子
特選句「難聴もつるうめもどき母もどき(若森京子)」冬枯れのなかで炎のような実をつけるツルウメモドキに、今の自分のもどかしい気持ちを込めた境涯句でしょうか。下五の言葉があっさりしているようで、深いです。特選句「盥にて冬の満月飼ってい る」大きな景と小さな景が一体となり、不思議な世界観を感じました。「みなさん、俳句はどのように・・」についてですが、絵の場合、クロッキーと言って人物などを数分でざっくり描く表現方法があります。私は、日々の暮らしの中で、気になる景を十七音で クロッキーし、書きだめして、時間ができたとき、意外な言葉に置き換えたりして、推敲を楽しむようにしています。香川句会は、実験的な俳句が多く、すごく刺激をもらいます。こうした刺激こそ、作句には大切だと思います。
- 野澤 隆夫
一月の句会、突然の息子帰国で欠席。〝一年の計は元旦にあり〟初句会が惜しかったかと…。でも半年ぶりに元気な息子を見て今年もいい年でありたいと思いました。特選句「鍋焼きをはふはふ啜る和解かな」先日、ちょっとしたもめ事があり我々夫婦で何 とか対応。その席の炬燵で〝おしるこ〟を当事者と「はふはふ」ならぬ「ふうふう」啜れ、つかのまの一安心。でも翌日には腹立ちましたが…。特選句「捨てたはずの本また積んで年新た」この句も小生の年末風景。本箱の整理で捨てた本、加賀乙彦「湿原 上・ 下」(朝日新聞社・1985年)を今日も読んでます。〇 小生の作句スランプ解消法 「言葉が降りてこない」ときは、「朝日俳壇」の年度版(朝日新聞社刊)と 小沢昭一「俳句で綴る変哲半生記」(岩波書店刊)で該当月の前後を 読んで季語、言葉を探したり イメージしたりしています。
- 夏谷 胡桃
特選句「一椀は過疎の明るさせりなずな」。田舎の楽しみは食です。そこら辺の野原からとった野草、採りたての畑の野菜、木の芽の一番鮮やかなところを頂く。贅沢な一椀にひとり満足。そんなことを思いました。問題句は「山彦や春野は血だまり溢れて る」。恐いです、八つ墓村のイメージになってしまいました。作者の意図は?:俳句を作るときは、机に向かい真っ白な紙を置かないと言葉が出てこないです。それでも、俳句脳になるのに時間がかかります。本当は、運転の時、お風呂に入りながら、料理をしな がら、俳句を考えようとしています。でも、仕事のこと、やらなくてはいけないことがグルグル頭を回り俳句を忘れてしまいます。谷川俊太郎さんが「詩を書くときは、まず頭を空っぽにする」と書いていたのを読んだことがあります。私には頭を空っぽにすると いうのが難しい。すぐに雑然とした思考が入ってきます。日々の雑事の中で俳句に向かうために、どうしたらいいか考えています。頭の切り替えをうまくできるようになりたいです。
- 小西 瞬夏
特選句「群青や鼻の穴見る初鏡」上五の切れがよい。「群青」が鼻の穴の色なのか、または世界に広がる色なのか。両方に視点が広がるところに、「鼻の穴見る」というナンセンスなことがくるギャップがおもしろい。なかなかない「初鏡」である。理屈を 排してなにか意味のないユーモラスな日常を意味ありげに作った。問題句「独りとはこんな軋みか髪切虫」:「髪切虫」との取り合わせはいいが「独り」と「軋み」のつなぎ方がありがち。「~とは~こんな~か」が理屈っぽい。意図が見え過ぎてしまった。「独 り」がひらがなだったらすこし意図がやわらぐ気もするが。
- 鈴木 幸江
特選句「岩石やガガガガガガガ蝶番」少し古くなった蝶番の存在感を小唄にしたような句だ。人の英知の結晶の蝶番、それだけのこんな句があってもいいと思った。ガガガガガガは、ガ音を含んだ、岩石と蝶番に掛り、岩石は、蝶番の枕詞のような働きをし ているところが面白いと思った。特選句「讃岐ではおっぱい山に初日射す(漆原義典)」讃岐には、乳房の形の山があり、そこには、初日が射すという。なんと、目出度い風景だろう。何故、讃岐にそんな山がよく似合うのか訳は分からないが、その訳の分からぬ ところを目出度い句に仕上げた強引な風土愛に惹かれた。根底にアニミズムもあり、いいと思った。問題句「問へばただ茫洋といま虹の脚(竹本仰)」一読、その曖昧さ加減に惹かれた。作者は、人生の意味を問うていたのだろうか、その答えが「虹の脚」だとい うのか。「いま」の解釈も難しかった。「いま」という一瞬の現象である「虹の脚」という意味だろうか。推測ばかりの共鳴句であった。:作句について: 私は、よく夜中目覚めた時、さまざまな想いに襲われる。そして、そこから前へ進むためその時の想いを 句にしたくなり、その表現を試みている。
- 尾崎 憲正
特選句「来し方も行く末も虚雪催(中野佑海)」暖冬で推移していたこの冬も、このところ冬型が強くなりました。県境の山並みは今日もねずみ色の雲の下にあって時々しか姿を現しません。今の世の有様、世界の未来を“虚”であると感じる作者が雪催の 空の下に居るのです。誰もがこの句に共感を持つことのない時代が来ることを祈ります。今が一番厳しい季節です。どうかご自愛ください。
- 田中 怜子
特選句「大銀杏大切り株となりし冬」伐採された木へのオマージュ、残念に思う気持ちも。特選句「風止まり静止画となる冬日かな」目を細めて、静止画が気分を味わっている。
- 銀 次
今月の誤読●「早や湯冷め兎の耳をわしづかみ(矢野千代子)」。この一見難解な句は、まぎれもなくジェイムズ・ジョイスの『フェネガンズ・ウェイク』の影響下のもとに発想されたものであり、暗示はさらに繊細で、象徴主義はより純粋で洗練されたも のとなっている。ごらんの通り、この句では「早や湯冷め」した詠み手が、それにもかかわらず「兎の耳をわしづかみ」して遊んだとなっているが、常識で判断していただきたい。そんなことをしていれば風邪をひくではないか。だがここで用いられている手法は 『フェネガンズ』同様、出来事の時間軸をずらすことによって、読者の目を不自然で複雑な時間の展開のなかで起きているように誤誘導し、よって本来の枠組みを破壊しているのである。読者がこれを読み解くには、また理解するには兎と遊ぶ→湯冷めと再構築す ることがj肝要であり、そののちシンボルの対応関係と手法の呼応関係、さらには動物界への言及箇所といった構成要素からなる一枚のタペストリーをイメージすればいいのである。さすれば読者はこの時空間の諸関係および本質的不確定性が思わぬ効果を生み出し ていることを発見するだろう。かくしてロンバルディア平原で起こったささやかな出来事が曖昧性を獲得しつつ想像力の多産的繁殖能力により液体的宇宙への入り口として機能しはじめるのである。
- 小山やす子
特選句「木葉木菟夜は袖ふるめくら縞」地味のようだけど洒落た句と思います。特選句「からだじゅう手ぶらな拒絶冬の鯉」ニヒルというか・・・孤独が伝わってきます。
- 三枝みずほ
特選句「特選句「鍋焼きをはふはふ啜る和解かな」一読してこの二人の状況、関係性が理解できて、実景が持つ説得力の強さを実感しました。こういう和解もたまにはいいですね。「ラジオ消す世界は冬の木霊して」ラジオを消した途端、冬の木霊を感じる という感性の鋭さ、静寂の世界観、自然の持つ力に共感しました。まだまだ寒い日が続きそうです。御身体どうぞご自愛ください。
- 古澤 真翠
特選句「重たげにカラス乗せたる冬木立(銀次)」ほっそりとした冬木立の天辺でひと休みしているカラスのシルエットに 一幅の絵を見るような句です。多くを語らずとも、作者の深い心情が見て取れるようで共感を覚えました。「俳句の作り方のご質問 」私の場合は、自分が感激したり感動した場面を思い出しながら しばらくその場面を瞼に浮かべて 浸ります。それから ぴったりくる言葉を探します。皆さんも 苦心なさっていらっしゃるのですね。安心しました。ひと月に一度、頭の体操をさせて頂く機会に 心 から感謝しています。
- 寺町志津子
特選句「午後という間抜けた時間冬の雷」午前の持つきりりとした緊張感に比し、午後を間抜けた時間とは言い得て妙。間抜けた時間に一瞬の緊張感が走る冬の雷。午前は、人生の前半生、午後は後半生とも思われ、人生の後半に居る私の実感とも重なり、 いただいた。「凭れる木欲し淋しい冬木ならばよし(谷孝江)」人に疲れ、仕事に疲れ、何かに寄りかかりたい時、若葉の意欲満々な元気な木ではなく、虚飾を捨てた素の木こそに安息が得られる思いに共感。「讃岐ではおっぱい山に初日射す」好きな句。なんと 大らかなで、素朴で、ほのぼのと明るいお元日の風景であろうか。読み手の気持ちをも、明るく大きくする癒しの句とも言えよう。
- KIYOAKI FILM
特選句「左義長やあおりあおられ鳥飛翔」冬の空の鳥も寒さに震えているようだ。「あおりあおられ」の迫られた感に息を呑んだ。特選句「午後という間抜けた時間冬の雷」:「間抜けた」が変わっているけど、午後の気怠さに苦しんで自分は「午後という 間抜けた」に心魅かれました。
- 亀山祐美子
特選句「特選句『花八つ手式守伊之助休養す』季語の「花八つ手」が軍配扇を彷彿とさせる。二番手行司の「式守伊之助」を盛り上げ、「休養」の無念さへと繋ぐ。とても人間くさい一句。『盥にて冬の満月飼っている』「盥」と「冬の満月」が響きあい、 おもしろい一句。ただ、「盥にて」の「にて」で、楽をした分平凡になった。惜しい。久々に句会に出席しました。皆様の句評、余談、とても勉強になりました。席題もバラエティーに飛んでいて、苦しいながら、楽しかったです。ありがとうございました。
- 谷 孝江
特選句「一椀は過疎の明るさせりなずな」ひとつの椀の中に宇宙が詰まっています。質素で明るくて暖かで誰もが感じていたい故郷がここにあります。特選句「鐘が鳴る夢の枯野に鐘が鳴る」暗さを感じない所が大好きです。私が普段見慣れている加賀平野 の枯野とはちょっと違いハイカラさんの枯野ですね。たのしく拝見させてもらいました。
- 桂 凛火
特選句「馬駆ける土の匂いを強くして」馬が走るとしかいっていない単純な中になぜかすがすがしい命の息吹が感じられました。土のにおいがするだけでなく「強くして」が効いているのでしょう。気持ちの良い句で心ひかれました。問題句「群青や鼻の穴 見る初鏡」群青の意味がわからない。なんで鼻の穴を正月に眺めるのかもわからないのですがそこが面白くていただきました。すこし斜に構えたところ、うまくでたのがよかったです。
- 稲葉 千尋
特選句「難聴もつるうめもどき母もどき」なかなかリズムが良い。「つるうめもどき」の季語佳し。特選句「一椀は過疎の明るさせりなずな」七種の表現にも色々あるが、「過疎の明るさ」が良い。
- 中西 裕子
特選句「葉牡丹のおしゃまな会話つきあうよ(矢野千代子)」葉牡丹が、個人的に気になる存在です。花のような野菜のような地味なようなはでなような、毎年買います。おしゃまな会話という読みが、深いとおもいました。「蜘蛛の巣をくぐりそこねて冬ぬくし(河野志保)」の蜘蛛の糸も、あるあるっという感じです。久しぶりの参加で楽しかったです。また、出来るだけうかがいたいと思います。今年もよろしくお願いいたします。
- 藤田 乙女
特選句「汝が腕の中に横たう我が枯野(月野ぽぽな)」特選句「木枯しを背負って帰るワンルーム」一人の孤独、二人の中でも一人である孤独を二句から感じ取り、共感しました。
- 高橋 晴子
特選句「大銀杏大切株となりし冬」うまい!時の経過が見える。特選句「凭る木欲し淋しい冬木ならば良し」淋しいは消した方がいいが、「I」音にリズム感あり作者の心が伝わる。問題句「前衛書の心なりけり冬木立」いい句なんだけど「心なりけり」と 言ってしまえばそれまで。例えば「冬木立陽当たり翳り前衛書」位に結果として心が出ればいい。句作コメント:出来ない時は作らなくていい。自分をしっかりみつめて人の句を読むなり本でも読んでりゃいい。季語から言葉が降りてくる?全く思い違い。季語は 思いを伝える為の手段です。
- 野﨑 憲子
特選句「凍港や天の穴からカモメ降る」凍りついたような冬の港に動くものは鴎のみ。その鴎らが、天の穴から降りてくるという。天空の隙間から降りてきた鴎は地上を観て何を思ったか?思わず外に出て天を見上げたくなる一句です。今回は、句稿の中に 、ご参加の方からの質問「みなさん、俳句はどのように作るのでしょうか。聞いてみたいです。季語から?言葉が降りてくるのかしら?私は最近降りてこないのです。」を掲載させて頂きました。質問された夏谷胡桃さん、そして色んなコメントを寄せて下さった 方々有難うございます。私は、句作には、集中力が一番と思います。でも、疲れていたら駄目ですね。「よく眠る夢の枯野が青むまで 兜太」じっくり、ゆっくり・・ですね。
袋回し句会
蕪
- 好物は蕪の丸さと浅づけよ
- 中西 裕子
- 蕪の穴つまづく風につまづけり
- 亀山祐美子
水仙
- 水仙やジョン万次郎が黒船と
- 町川 悠水
- 水仙が目覚めし朝は摂氏五度
- 漆原 義典
- どこからかおこげのにほひ水仙花
- 野﨑 憲子
湯たんぽ
- 苦楽ありせめてゆたんぽ抱くように
- 町川 悠水
- 孕み女のやうに湯婆抱いてをり
- 亀山祐美子
耳
- 木枯に鼻をかくして耳かくす
- 中西 裕子
- 口寄せて耳の冷たき人であり
- 中野 佑海
- とんがって耳渦巻いて寒夜かな
- 野﨑 憲子
歌留多
- 五十六のかるた賭博か真珠湾
- 銀 次
- カルタ会恋のうたのみ覚えけり
- 漆原 義典
お茶
- 海は雪瞽女さんに出す茶の熱さ
- 銀 次
- 娘珈琲ほうじ茶飲みし昭和妻
- 漆原 義典
- 茶々入れる見合い話のゆるき冬
- 中野 佑海
- 昼酒のはてて茶づけの小正月
- 亀山祐美子
- お茶にするなかなか終わらぬ大そうじ
- 中西 裕子
寿
- 福寿草懐しき顔見たくなり
- 中野 佑海
- 寿(いのち)かな地軸の傾きで笑ふ
- 野﨑 憲子
- 賀状には本名直筆寿(いのちなが)
- 町川 悠水
句会メモ
平成28年の初句会は、16日に、いつものサンポートホール高松の会議室で行いました。常連の野澤隆夫さんと、三枝みずほさんが、お家の用事と重なり欠席の中、久々に、登場の亀山祐美子さんの気合の入った鑑賞や笑顔が、笑顔を呼び、とても楽しかったです。今回の事前投句の句稿の余白に、投句と共に送られてきた夏谷胡桃さんからの作句に対する問いかけを載せてみました。すると、色んなコメントが寄せられ、いつにも増して、興味深い「句会の窓」となりました。
竹本仰さんからのメールの中、句会報の感想が述べられていましたので、掲載させていただきました。<特に今回のように「みなさん、俳句はどのように?」という問いかけは、様々な俳句への向き合い方をそれとなくあらわにしていて、出来ることなら、全員の回答を読みたかったところです。香川句会がすばらしいのは、このような「地平」が見られるところなのだと思います。だから、いつも、どなたかがこのような問いを発してくれることを望んでいます。今回は、佑海さんの自注が大変面白かったのと、銀次さんも「フィネガンズ・ウェイク」の読者だったことにいたく共感いたしました。そうですね、次回、私も、何か一つ、問いかけてみようかと思います。いつも、ありがとうございます。>「問いかけ」いいですね。次回からも、さらりと、深く、よろしくお願い申し上げます。楽しみにいたしております。
Posted at 2016年1月28日 午後 11:47 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
謹賀新年
平成二十八年の幕開けです。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
本日の朝日新聞一面に金子兜太先生の朝日賞ご受章の朗報が掲載されていました。受賞理由は「戦後一貫して現代俳句を牽引」とあり、「反戦と前衛掲げ人間を詠む」と題しての先生の文章の中に「新聞俳壇はジャーナリズム」「型にはめずに自由に、それこそが文芸表現である」とありました。至言とおもいます。
写真は、本日の大串半島から観た初日です。
Posted at 2016年1月1日 午前 09:59 by noriko in 「海程」の窓 | 投稿されたコメント [0]
香川句会報 第57回(2015.12.19)
事前投句参加者の一句
枯色に泥(なず)む山里離れ牛 | 中野 佑海 |
田の神の在すがごとく麦青む | 稲葉 千尋 |
散歩道遠回りして日記買う | 髙木 繁子 |
感情を吸い込む冬野駆けるべし | 伊藤 幸 |
木枯しや閑と閑閑として涙 | KIYOAKI FILM |
雪が降るどこかでピアノ誰か病み | 谷 孝江 |
大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ | 月野ぽぽな |
よく話す雀に会える冬うらら | 河野 志保 |
骨相のきれいな木です蛇眠る | 三好つや子 |
寒桜千手観音臍痒い | 夏谷 胡桃 |
感情の熱(ほて)りかな蓮の骨泛ぶ | 矢野千代子 |
雪女と君の背中に書いてある | 郡 さと |
バス停は落葉の山の吹き溜まり | 古澤 真翠 |
完璧な瑕疵となりたる月うさぎ | 増田 天志 |
ランナーは玉の汗なり冬日さす | 漆原 義典 |
霜柱地球防衛合唱団 | 亀山祐美子 |
四肢軟弱のわれ山繭の重ね着美し | 若森 京子 |
流氷や躰の真芯貫いて | 銀 次 |
冬天へ掌ここにある命 | 三枝みずほ |
禍も福もつぎはぎ冬温し | 小山やす子 |
ターシャの家ジンジャー堅パン聖樹かな | 田中 怜子 |
空箱の溜るくらがり十二月 | 高橋晴子 |
火事明かり浴びればみづみづしき躰 | 小西 瞬夏 |
冬の亀婚活なのか石の上 | 町川 悠水 |
指揮棒にあわせて踊るポインセチア | 野澤 隆夫 |
四回転ジャンプ蓮の実飛んだ | 重松 敬子 |
翡翠が明るみとなる薄き闇 | 竹本 仰 |
冬座敷わたしにものを言う人形 | 寺町志津子 |
こんにちは落葉がカラカラついてくる | 中西 裕子 |
戦を語る義父よ秋ぐみ噛むように | 野田 信章 |
踏みだせぬ冬菜ざぶざぶと空の下 | 桂 凛火 |
亡き母をまだ越えられぬ卵酒 | 藤田 乙女 |
鍵探す鍵穴ひとつ冬銀河 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 増田 天志
特選句「雪が降るどこかでピアノ誰か病み」一面の銀世界。雪降る間に、灯火が幽かに揺れてい る。その一つ一つに、生の営みがある。宜しくお願い致します。また、出席させて頂きます。楽しい句会でしたね。
- 中野 佑海
特選句「散りぬるは同じ間合ひの鴨の陣(亀山祐美子)」言葉の並びが流れる水のようにスルス ルと書かれている。飲んだ水がスルスルとのど越し爽やかに胃の腑に吸収されていくような。不思議な 魅力の俳句です。まるで平賀源内のカラクリ玩具のようです。問題句「四肢軟弱のわれ山繭の重ね着美 し」最初読ませて頂いたときは全く意味が分からなかったけれど、喩え様もない儚さが心に澱のように ひたひたと差し迫ってきて離れません。俳句と言うより、詩ですね。増田天志様。今回も滋賀から五時 間掛けて遠い香川まで海外旅行お疲れ様でした。相変わらずの鋭いのか温いのか分からない破天荒なご 指摘凄く面白く笑わせて頂き有難うございました。(まだまだ)青春十八(歳)切符でお出でになれる体力 にも敬服致します。やはり先月拳を突き上げ誓った甲斐がありました。また、来年も宜しくお願いいた します。
- 野澤 隆夫
特選句「玉子粥呆けし母と知恵くらべ(三好つや子)」玉子粥をめぐって作者とお母さんの攻防 があったのだろうか。小生も数年前には母との〝知恵くらべ〟のあったことを思い出します。〝諸行無 常〟遠からず小生にも子らとの知恵比べがあるのだろう…。「ターシャの家ジンジャー堅パン聖樹かな 」問題句というのだろうか?名詞の畳み掛けがターシャの生活を彷彿させてくれる。
- 三枝みずほ
特選句「踏みだせぬ冬菜ざぶざぶと空の下」空の下で冬菜を洗う日常と、そこから抜け出したい のか?もしくは、何かと葛藤し躊躇している作者に共感しました。「ざぶざぶ」と表していることで全 体を暗くさせず、前向きさも感じられます。冬菜を洗う作者と止まったままの作者の心、静と動の組み 合わせにも感心させられました。
- 銀 次
今月の誤読●「翡翠が明るみとなる薄き闇」。『フフと小さく含み笑いがこぼれた。怪人二十面 相はひとりごちた。「翡翠には赤もあれば白色もある、だが純粋に蒼いのはほとんどない。これこそが チベットのラマ寺院で千年前に奪われ、皇帝、大富豪の手を転々としてきたキッスイの蒼翡翠だ。この 翡翠を手に入れるに領土の半分を差し出す国王さえいようというものだ」。と、なんと! そのときス テンドグラスが木っ端みじんに割れた。そこにスックと立ったは、我らが名探偵・明智小五郎だ。「二 十面相くん。もう夜明けだ。その「翡翠が明るみになるとき」、さあどんな色に変わったかね?」。二 十面相はハッと翡翠に目をやり、一瞬躊躇した。明智はそのスキを逃さず言った。「本物はこの手にあ るのだよ。さあ、見たまえ」と手にしたものを放り投げた。瞬間、反射的に二十面相はあたかもボール を交換するがごとく、手にした翡翠を明智に投げ返した。「引っかかったね二十面相くん。わたしが投 げたのはよく出来たガラス細工だ。そしておまえが投げ返したのは本物だったんだよ」。「薄き闇」で の明智のトリックプレーだったのだ』(乱歩はここまで読み返して、つまらん、スランプだ。こんなト リックじゃ乱歩の名が廃る。と、原稿を破り裂いた。午前四時、まだ〆切りには間がある)ーー乱歩先 生ゴメンなさーい。
- 古澤 真翠
特選句「孤独なる魂ひとつ冬すみれ(藤田乙女)」静謐な作者の心が 伝わってくるような句。 言葉を交わさなくても通じあえるようなお人柄に 親しみを感じました。今年も あと僅かとなりました 。来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
- 竹本 仰
特選句「霙しなやかに表出する無人駅(伊藤 幸)」無人駅というのは間違いなく昭和の繁栄の 嵐のあとの空き箱です。マッチ売りの少女じゃないけれど、一瞬夢が燃えさかっていたという事実があ ります。そういえば、昔、倉本聰の「今日、悲別で」という舞台に接しましたが、廃坑に追い込まれる 町の駅から若者たちが次々と都会に出てゆく、その見送りのシーンがあり、その輪の中から一人の青年 が胴上げで放り投げられた瞬間、ストップモーションとなり、「22歳の別れ」のイントロが流れる溶暗 となっていました。あの衝撃というか、一つの時代の見事な切り口に感心いたしましたが、この句は、 その後日談として登場するにふさわしいと味わいました。特選句「鍵探す鍵穴ひとつ冬銀河」この世に 生まれたからには、誰でもひとつの鍵を探してる、しかもそのひとつは意想外の身近なところからとい う感じで受け止めました。そして、身近なところほど、多く神秘は潜んでいると。だから、なぜかこの 「冬銀河」が身近なものとして感じられるところが面白いと思います。というか、冬銀河に住んでいる 私を思い出させる「郷愁」を感じさせてくれ、何か大変うれしいと思いました。以上です。寒くなりま した。句にも、いろいろな寒さが盛り込まれておりました。選をしながら、結構ぬくもってきたのは、 言葉のもつ息吹きのせいだったでしょうか。みなさん、いつも、ありがとうございます。今後とも、よ ろしくお願いいたします。
- 稲葉 千尋
特選句「四回転ジャンプ蓮の実飛んだ」四回転と蓮の実飛んだの取り合せの良さと共に、スケー トのジャンプが浮ぶ。「霜柱地球防衛合唱団」漢字ばかりでありながら合唱団と捉えた霜柱が嬉しそう 。
- 町川 悠水
句会のはじめに、出席者は交代制なの?と思われるような顔合わせに、まず驚きました。でも、 通信手段を駆使しての海程香川句会、加えて世話人が、野崎さんですから、こうなのだと納得。なにし ろ、母なる川に帰ってくる鮭のような体で、滋賀の都の俳人まで現れるのですから。本当に驚きました 。その余韻が冷めないところでの選句作業。二回目なので時間内に作業は終えたものの、実際は難航。 では、選評を。特選句「冬の噴水しあわせの呪文唱えるよ」。冬の噴水としあわせの呪文が絶妙。小 生もこのような句をつくりたい。準特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」。蛇が燕の巣を狙うために 、まずドアノブに絡まり、さらに上を狙っているのを拝見したことなど、蛇のウルトラ技を数々見聞し た小生にとって、この句は拍手喝采もの。準特選句「霜柱地球防衛合唱団」。漢詩風俳句は小生の好み 。讃岐平野では霜柱をあまり見かけなく、見かけたにしてもここまでは詠めないでしょう。二年前まで の三十余年間埼玉県中部に住んだ小生には、環境汚染など荒らしまくっている人間に対して、地球が精 一杯の抵抗をみせているという観察が新鮮。佳句ながら問題句「完璧な瑕疵となりたる月うさぎ」。鋭 い捉え方に感心しつつも、選評など聞くうちに問題句に。完璧、瑕疵が厳格表現であるだけに、しかも 瑕疵は普段使わない法令用語であるだけに、なりたるのような曖昧ないしは流れた表現は、作品として むしろ惜しまれるというのが、我流評価。私なら、「完璧な瑕疵であるぞよ月うさぎ」としたいですね 。〈自句自解〉「大根の体操葉っぱの上げ下ろし」は庭のミニ菜園で気づき、出来た句です。大根の葉 は風にも揺れますが、育ててみると雨や日差しによって上げ下ろしをするのです。しかもこの朝は、近 所のラジオ体操に偶々出かけて行き、帰ってきたところで、そうか大根も体操するのだと発見したので した。隠居ならこその発見をお笑いください。
- 小西 瞬夏
特選句「空箱の溜るくらがり十二月」「溜まる」は「ま」がいるのでは。また、「空箱に」のほ うがいいだろうか。などと細かいところは気になりながらも、十二月の暗がりを空き箱の中に発見され たさりげないところに感銘を受けた。お歳暮やら、年末年始の用意やら、なにかと箱が空になる時期か もしれない。日常の中にふっと訪れる空虚感をとらえたと思う。
- KIYOAKI FILM
特選句「バス停は落ち葉の山の吹き溜まり」バス停と落葉の取り合わせが良かった。以下に続く 映像も心地よいです。問題句「火事明かり浴びればみづみづしき躰」 好句です。問題句と言うよりも 、好句です。
- 野田 信章
「大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ」「骨相のきれいな木です蛇眠る」「悴んできてすこしだけ木 の気持ち(月野ぽぽな)」これらの句は、私にとって、平明にして純粋感覚の句と呼びたい作品である 。しかも確かな肉体の反応がある。今はじめて見たものではなく、この誌上で時折お目にかかるもので ある。独りでのぼせて空回りした作句の途次で、ふっと振り向かせてくれるのもこれらの句である。句 作の原点ここにありと、感のたいせつさを示唆してくれる句が他にも多々ある。年の終りに当り感謝申 し上げます。良きお年を。
- 河野 志保
特選句「霜柱地球防衛合唱団」漢字の羅列が印象的で、すんなり心に入ってきた。霜柱は大地に 広がる小さな命だと初めて気付いた。自然の営みこそ「地球防衛」なのだと納得。それに朝日に光るさ まは「合唱団」という感じがピタリ。環境への優しい眼差しと深い洞察を感じる句。
- 重松 敬子
特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」木々は、季節折々の美しさを我々にみせてくれる。すっ かり葉を落としてしまった裸木も、又美しい。虚飾を脱ぎ捨てた、潔さを感じ、自然の懐の深さを感じ させる句だと思う。
- 亀山祐美子
特選句『父も子も昭和の生まれ大焚火(小山やす子)』焚火を囲む親子の関係性がほのぼのとし て好きな一句です。勝手に頑固親父の棟梁と跡継ぎだと決め付けています。逆選句『火事明かり浴びれ ばみづみづしき躰』「火事明かり」が「大焚火」ならまだしも、他人の不幸を喜んでいるようで不快。 いつもに増して難解な句が多く作者の意図が計り知れない。掴めない。頭が古いのでしょう。
- 田中 怜子
特選句「柿色に泥む山里離れ牛」風景が浮かびます。もうない世界なのか、まだあるのか、なつ かしい田園風景。特選句「禍も福もつぎはぎ冬温し」こんな穏やかな心境になれるといいけど。
- 月野ぽぽな
特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」形の整った木の様を「骨相のきれいな」といったところ が手柄。蛇もこの木の元を選んで冬眠しているかのようだ。香川句会の皆様、今年も憲子さんの情熱溢 れ且つきめ細やかなご運営のもと、句会をご一緒できて光栄でした。来年もどうぞよろしくお願いいた します。
- 小山やす子
特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」独特の発想で面白いです。木の相が想像されて其処へ蛇 を持ってきたのは真似できないです。
- 夏谷 胡桃
特選句「亡き母をまだ越えられぬ卵酒」これは卵酒に惹かれました。なぜ卵酒なのだろう。以前 、村の小正月には公民館に女性だけ集まって卵酒を飲みました。私は大量の卵酒を作りました。なぜ、 卵酒?おばちゃんたちは夏祭りの時はビール飲んでいるから飲めない人たちではないのに。そう聞くと 、「そういうものだ」と言います。村は農村ではなく、山村です。炭を焼いて熊を撃って暮らしてきま した。戦争中は男たちが戦争に取られ、女性はドングリや木の根まで食べ、子どもを育てました。炭俵 も担ぎました。たくましく明るく優しい女性たち。もっと教えて欲しいことがあったのに、ひとり死に ふたり死に、小正月の集まりはなくなりました。私は、そんな母たちを越えられずに年だけ取っていき ます。こんなことを思い出した句です。特選句「東病棟あおしさむし馬繋がれ」たぶんわかりづらい句 なのかしら。私にはイメージが浮んできた俳句です。私は山暮らしをやめ、精神科病院勤務をしていて いました。精神科病院には、こういう感じがあると思ったのです。貧しい山里には生があったのに、近 代的に見えるきれいな精神科には生がない。あおしさむし馬繋がれているような感じです。この句の作 者はどんな人、どうしてこんなことがわかるのと思いました。問題句「鍵探す鍵穴ひとつ冬銀河」惹か れる句です。でも、なんだか既視感があって、特選にできませんでした。勘違いかもしれません。追記 :今月から参加します。岩手に住む夏谷胡桃です。句会というものに出る機会もないまま俳句を続けて います。思うように作れなくて、何度俳句をやめようかと思ったことか。でも、やめられそうもないの で、もう少し勉強していこうと思いました。よろしくお願いいたします。四国はあこがれの地です。お 金と時間ができたら四国と山陰を旅したいと夢見ています。
- 中西 裕子
特選句「踏みだせぬ冬菜ざぶざぶと空の下」踏み出せずとためらっているのに、ざぶざぶといさ ぎいい音との対比がおもしろいと思いました。「大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ」の冬夕焼けが大空の しびれという表現も、しもやけを連想して面白かったです。今年は雑事に追われ、ご無沙汰ばかりで来 年は余裕があればいいな。余裕は自分次第よ、といわれそうですが。ご迷惑かけ通しですみませんでし た。懲りずに来年もよろしくお願いいたします。
- 寺町志津子
特選「戦を語る義父よ秋ぐみ噛むように」句意的にはよく見受けられるようにも思うが、「秋ぐ み噛むように」で、詩情溢れる句に。且つ新鮮。今こそ聞いておきたい戦争体験談。夏ぐみに比し、よ り素朴で野趣味のある秋ぐみ。義父の真摯な語り口、姿が、静謐かつ情感豊かに伝わり、それを聞き入 っている作者の義父への温かな気持ちも思われて心打たれた。特選&問題句「雪が降るどこかでピアノ 誰か病み」妙な選評であるが、下五の「誰か病み」の「誰か」の良し悪しが私には判断できず、その意 味で、私にとっての問題句と言えよう。まるで、映画か小説のプロローグのよう。これからどんな展開 があり、どんなエピローグが待ち受けているのか想像が膨らみ、最後まで特選を外せなかった。
- 桂 凛火
特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」骨相がきれいとは言いえて妙ですね。そこに蛇が眠るっ て絵になります。クール過ぎず甘くなく美しい絵のような世界観ですね。とても心ひかれました。〈で す〉の多用はどうかなと、おもうことも多いのですが、やはりここではいい味が出たと思います。
- 伊藤 幸
特選句「四肢軟弱のわれ山繭の重ね着美し」昨年半月版損傷で手術した。吾が身に降りかかって 初めて他人の痛みを知った。懸命に積み重ねた太く光沢のある繭は誰が見ても美しい。軟弱と諦めてし まわず作者にもガンバレとエールを送りたい。山繭の重ね着という表現に脱帽。特選句「禍も福もつぎ はぎ冬温し」何十年も生きていれば紆余曲折悲喜交々数々の禍福に遭遇する。今となればそれ等も皆よ き思い出。つぎはぎと笑いつつ言える年齢に達し、又冬温しと締められた潔さに敬意を表したい。
- 郡 さと
言い過ぎている句と、反対に言葉と背景の足らない句。勉強不足を感じた一年でした。(私が) 説得不足の私の選に、お付き合して下さって有り難うございました。ただ 俳句の世界は広くて、奧が 深いから、選に一喜一憂はいらない。どこかで、誰かに理解されるし、又、反対のこともあると感じた 一年でした。良いお年を。
- 高橋 晴子
特選句「すべりひゆ母より享けし蹠かな」・・「母より享けし足のうら」に、「すべりひゆ」と いう植物を対したところに響くものを感じる。問題句「さっきまで体にあった鵙の声」面白い句で、「 体にあった鵙の声」がどういうことかもっとわかればいい。単に耳に残っていたということなのか、そ れとも他の何かを感じていたのか。全く趣は別だが、楸邨に「冬鵙と共有世界もの言ふな」これは人間 関係をいっているのだが、なくなったことで、あったことを感じさせられた面白い表現で気に入ってい るが。
- 谷 孝江
特選句「雪女と君の背中に書いてある」雪女もこんな風に表現されると面白いですね。妖しくて ユーモアがあって、私も一度会ってみたいです。特選句「火事明かり浴びればみづみづしき躰」夜の遠 火事でしょうか。何かしら新鮮な情景が感じられます。今年もたくさんの句に出会えて学ばせて頂き有 難うございました。来年も何卒よろしくお願い申し上げます
- 藤田 乙女
特選句「柿色に泥む山里離れ牛」原発や噴火などの災害で人間が手放さざるをえなかった牛たち のことを想像し、切ない気持ちになりました。大いなる自然の中で人間も生かされているもののひとつ であることを謙虚に受け止めて、生きるべきだと感じるこの頃です。「よく話す雀に会える冬うらら」 良寛さんの歌を連想しました。また、孤独な気持ちに日差しが差し込んでくるような感じや爽やかさも 抱きました。皆様のコメントを読ませていただくことが、初心者の私には、とてもよい勉強となってい ます。ありがたく思います。
- 野﨑 憲子
特選句「大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ」天空は生きもの。その少しの変化に作者は耳を澄まし 眼を凝らす。その痺れは、人類の引き起した大気汚染やテロ事件が発端なのであろうか、凍て空に、夕 焼けが美しい。問題句「完璧な瑕疵となりたる月うさぎ」・・「完璧な瑕疵」って何?お月さまの兎が 、ビックリするような一句です。でも、不思議に、惹かれる作品でもあります。
袋回し句会
草刈鎌
- 天辺に朝日や冬の草刈鎌
- 野﨑 憲子
- 胸ぽんと叩き草刈鎌の術
- 増田 天志
港
- こぶし降る港々の酒場かな
- 銀 次
- 宝船帆を降ろしたる夢港
- 中野 佑海
凍星
- 凍星や癌切りし夜の痰切れず
- 野澤 隆夫
- マッチ棒焦げゆく芯は凍てる星
- 増田 天志
暖炉
- 暖炉より猫跳飛しぬ反抗期
- 町川 悠水
- 惻隠の暖炉でありし人の暮れ
- 中野 佑海
おしくらまんじゅう
- 極点のおしくらまんじゅうシベリア犬
- 銀 次
- おしくらまんじゅうおいら絶対強くなる
- 野﨑 憲子
クリスマス
- 硝子器にあまたの指紋クリスマス
- 増田 天志
- 狂女らがクリスマスツリーを曳ゐてくる
- 銀 次
綿虫
- 綿虫とふ発火寸前の闇である
- 野﨑 憲子
- 綿虫の万華鏡なるハイウェー
- 中野 佑海
句会メモ
今回は、大津より、増田天志さんが参加され、三か月ぶりの漆原さんや、先月からご参加の町川さん 、そして野澤さん、銀次さん、私の6人での句会のスタートでした。男性ばかりに囲まれて、なんだか、私も、男性に なったような不思議に華やぐ気分、なかなか良いものですね。間もなく妙齢の佳人、中野さんの登場で、 バランス的にも落ち着き、句会も、ぐんと盛り上がって行きました。事前投句の合評は、気に入った作品への 鑑賞が分かれたり、意気投合したり、まさに<人生いろいろ>でした。続く、袋回し句会も、作者の色合いが垣間見られて興味深かったです。
平成二十七年が終わろうとしています。お陰さまで、「海程」香川句会は、今年、発足五周年を迎えま した。六月には、いつもの句会場を飛び出して、塩江・志度吟行に出かけました。武田編集長を始め、 月野ぽぽなさん、田中怜子さんなど、遠路おいでくださった方々もあり、生の吟行句会の醍醐味を存分に堪能しました。感謝です。
それぞれの作品が、ぶつかり合うことで、新しい発見が生れます。作者も、個性豊かな方々ばかりで、作品も、多様性を帯び、これからの句会が、ますます楽しみに なってまいりました。来年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
Posted at 2015年12月29日 午後 11:40 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]