第168回「海程香川」句会(2026.01.10)
事前投句参加者の一句
| 霧はれて大和三山初の日矢 | 樽谷 宗寛 |
| 悪書束ね探偵事務所煤払 | 大西 健司 |
| 蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな | 小西 瞬夏 |
| ぶかぶかのセーター昼の月近し | 松本 勇二 |
| 堂々の自分に酔ふてかじかめり | 藤川 宏樹 |
| 携帯の見えない声を抱いている | 中村 セミ |
| 清元の声音や寒夜哭く老犬 | すずき穂波 |
| 寒椿たましひ青く青く消ゆ | 各務 麗至 |
| 日の笹子遺影は眼開きてありぬ | 野田 信章 |
| 空想を傷つけぬよう冬ざれる | 岡田 奈々 |
| 内視鏡はらわた艶めいて冬日 | 福井 明子 |
| 柚子湯に浮く星の流れる方に浮く | 十河 宣洋 |
| 幸不幸小さじ二杯の去年ことし | 伊藤 幸 |
| セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来 | 和緒 玲子 |
| 健康診断今年もなんとかパズル解く | 重松 敬子 |
| 寒鴉頭痛して背中じゃぶじゃぶ | 豊原 清明 |
| 肩書きのいらぬ故郷冬すみれ | 佐藤 詠子 |
| 鳶一羽光となれる初日かな | 柾木はつ子 |
| セーターは汀のごとし死者の前 | 若森 京子 |
| 元日やのぞみ静かに田町駅 | 滝澤 泰斗 |
| 花やぎて暦に印初句会 | 野口思づゑ |
| 凍て星を譜面に一つシベリウス | 吉田 和恵 |
| 遍路転がし越えて肩風冬日さす | 末澤 等 |
| 青空の呟きとなる落ち葉踏む | 三枝みずほ |
| 働いて働いて裸木に感謝 | 河田 清峰 |
| コート着て我も一つの後ろ姿 | 河野 志保 |
| さざ波のやうな悔恨除夜の鐘 | 植松 まめ |
| 初夢や切られ役とてライト浴ぶ | 塩野 正春 |
| 雪晴れや馬橇のつけし通学道 | 森本由美子 |
| よっこらしょと記憶をもどす年用意 | 三好つや子 |
| すり硝子あちらはたぶん凍てている | 山下 一夫 |
| 冬晴や醤にほへる船着場 | 大浦ともこ |
| なんの老い三人姉妹の初化粧 | 増田 暁子 |
| 年明けや餡雑煮食べし讃岐顔 | 漆原 義典 |
| 狐のだます私でいたい目を濡らし | 新野 祐子 |
| きらめきをもてなすように冬の浜 | 高木 水志 |
| 「ハルウララ」さがしにゆきし冬競馬 | 遠藤 和代 |
| 寒紅や鏡の向こうで決心す | 柴田 清子 |
| 茶葉開く玻璃のポットや冬の雨 | 川本 一葉 |
| 初鏡作り笑顔はやめました | 綾田 節子 |
| 生食パン齧る言葉は春の風 | 竹本 仰 |
| 氏神に賑わい戻り年新た | 出水 義弘 |
| 臍の緒をたぐって母の毛糸玉 | 河西 志帆 |
| 寄付金はバイオリンケースへ鰯雲 | 布戸 道江 |
| 海原にむらさき湧くよ初日出るよ | 津田 将也 |
| 青太やあ切り子光りに寒の灘 | 疋田恵美子 |
| 狐火や俳諧自由といふ心 | 島田 章平 |
| 冬夕焼け鬼籍の友等の墨絵かな | 山本 弥生 |
| 去年今年絆創膏を張り替へる | 矢野二十四 |
| のこる人いなくなる人去年今年 | 向井 桐華 |
| 日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く | 花舎 薫 |
| ああ熊よ「森のくまさん」が歌えない | 岡田ミツヒロ |
| 短日や聖母へ空けるバスの席 | 松岡 早苗 |
| キューポラの煙突から吉永小百合冬の旅 | 田中アパート |
| 本心が言えぬ別れや冬の月 | 藤田 乙女 |
| 賽の目に任せし日々や初比叡 | 荒井まり子 |
| 声埋めいまからさくらまであるく | 男波 弘志 |
| 死がひとつ梢にありて柚子日和 | 榎本 祐子 |
| 新春の光のどけし児等の声 | 三好三香穂 |
| 暗黒に浮かぶ地球や去年今年 | 稲 暁 |
| 一切れのケーキを半分こ師走の昼 | 田中 怜子 |
| 年用意終えて月齢十二日 | 時田 幻椏 |
| 君を通り抜けてきた冬の夕焼 | 佐孝 石画 |
| 山茶花の白や横顔似てきたる | 亀山祐美子 |
| 冬日向大地を歩く吾子と鳩 | 薫 香 |
| 穴ひとつ掘るだけに生き大晦日 | 銀 次 |
| 爆音の頭上に響く聖夜かな | 石井 はな |
| 鹿と歩く女神と歩く松林 | 松本美智子 |
| 元日の空見ていたるパンダかな | 菅原 春み |
| いきものに最初の鼓動冬銀河 | 月野ぽぽな |
| AIに産土は無し初日の出 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。ゆったりとした入浴風景に癒されます。「星の流れる方に」に奔放な詩精神が如実です。
- 小西 瞬夏
特選句「落としもの雪に埋もれし色鉛筆(矢野二十四)」。真っ白の雪の中に埋もれてしまった色鉛筆は何色だったのだろう。それは春になったらわかることなのだ。私の「落としもの」はなんだろう、などと考えてみたりもできる。
- 矢野二十四
特撰句「雪晴れや馬橇のつけし通学道」。実景描写に風土と未来を詠み込んでいる。馬の吐く白息が力強い。特選句「声埋めいまからさくらまであるく」。このさくらは無季。むしろ季感は「いまから」=冬の句座の現在にある。沈黙ではなく春への芽吹きとして「声埋め」が利いている。「あるく」にひたむきなものを感じる。「悪書束ね探偵事務所煤払」。確かに悪書。探偵事務所の煤払とは着眼点が面白い。「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。ぽこぽこは毛玉にも胎動にもかかっている。セーターに胎動。手触り動き温か味が感じられる句。「すり硝子あちらはたぶん凍てている」。外が見えないのか、あるいは外から内が見えないのか、「あちら」という言葉一つに無限の広がりがある。「冬晴や醤にほへる船着場」。日本海側の穏やかな冬晴れの日。味噌・醤油の匂いがする旧い港・倉庫街を思い浮かべた。景に暮らしの厚み・郷愁あり。「茶葉開く玻璃のポットや冬の雨」。外は冬の雨。窓ガラスに露が流れ室内全体が茶葉のように開いている。ゆっくりした時間の流れと透明感のある静かな佇まいが心地よい。「寄付金はバイオリンケースへ鰯雲」。バイオリンケースがとても佳い。秋に出されたら特選。句座の場合には出来立てのほやほや感を伴う方が詩の鮮度が増すと思う。「呵呵と葱太るエプロン脱ぎ捨てる」。大笑いするほど葱が太った。だからエプロンを脱ぎ捨てる。よく分からないがこの破調が面白い。「飴切の音で目覚める柴又帝釈天(塩野正春)」。帝釈天が目覚める。トントン音が聞こえて街の風情が見えるのが佳い。柴又はいらないのでは。
初参加の弁:今回より参加させて戴きます。句会報を拝見して以前から参加させて戴きたいと思っていました。皆様から刺激を戴いて自己研鑽に励みたいと思います。よろしくお願いします。
- 十河 宣洋
特選句「コート着て我も一つの後ろ姿」。普段見馴れている目の前の人の群。後ろ姿。今日のコートはどうだろう、似合っているかなどと通りの鏡や窓に写してみる。前を行く人の後ろ姿を見て、ああ自分も後ろ姿を見られているんだという思いが頭をよぎった。多の中の個を感じた。特選句「呵呵と葱太るエプロン脱ぎ捨てる(小西瞬夏)」。呵々大笑しながら葱が太っていく。楽しい風景と言うより目の前の畑の状況。そんなことを思いながら葱をきざんでいる。太るのは葱だけでない、私もだ。思わずエプロンを外しストレッチ等始めた。作者の大らかな気持ちが伝わってくる。
- 豊原 清明
特撰句「キューポラの煙突から吉永小百合冬の旅」。「キューポラの町」は数回見ましたが、断片の欠片しか覚えていません。確かに吉永小百合だった。ファンでしょうか、煙突と冬の旅で選びました。問題句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。景色が浮かび、昭和の感じの一句。屋根の猫と思いました。今では野良はいなくなりました。良かったような、寂しいような街角。
- 岡田 奈々
特撰句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。柚子湯最高です。それも星の見えるお風呂最高です。これ以上の極楽はありません。後はちょっと熱燗のお盆でも添えられていたら、天国ですね。特選句「幸不幸小さじ二杯の去年ことし」。幸と不幸はあざなえる縄のごと裏表でやって来ます。それぞれ小さじ一杯ずつなら平穏無事な一年だったことでしょう。祝着祝着。「悪書束ね探偵事務所煤払」。探偵事務所には良いことよりも悪い事の調査が多いのでしょうか?去年の事は忘れて、今年こそは良い年に。「働いて働いて裸木に感謝」。何も資産はないけれど元気で働けるこの体が一番の財産です。「一画一画だいじに書いて冬木かな(佐孝石画)」。葉っぱが落ちて、素っ裸の冬木。けれど、枝っぷりが男っぷり。「去年今年絆創膏を張り替える」。お父さんお母さんお疲れ様です。熱いお風呂に入って、新しい絆創膏を貼って、体大切にして下さい。「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。陽だまりの縁側は暖かい。心も体も和みます。ふわっと、ほわっとね。「初雪やようこそ独り言の世界」(河野志保)。雪に語りかけたり、手に取って遊んだり。童心に帰ります。「賽の目に任せし日々や初比叡」。去年はなるに任せた一年だったのでしょう。今年こそはと比叡山にお参り。年初の気持も新たに始めます。「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。君は何処にいるのでしょうか。眼前に。過去の日に。眼前なら正しく神々し君よ。過去の君なら、あれこれあった苦しい去年を過ごし、ちょっぴり大人になった僕。
- 佐孝 石画
特選なし。「初夢や黄金の馬乗りつぶす(野﨑憲子)」。「乗りつぶす」がいい。「黄金」はどうか「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。上五中七の抒情に強く惹かれるところだが、下の「冬ざれる」が「付け」感がありやや予定調和か。「内視鏡はらわた艶めいて冬日」。斬新な映像。最後は「冬」だけにとどめて、切れ味を出しても良かった。『電柱に「探しています」寒夕焼』。発想と視点が新鮮。「探しています」はもちろん「自分」にもかかってくる。
- 遠藤 和代
特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。1年間の悔恨がさざ波のような、とは本当にうまい。
- 樽谷 宗寛
特選句「氏神に賑わい戻り年新た」。普段はしい一んとしている神社初詣での人の賑わいが戻りと作者の感慨がひしと伝わってきました。佳い年新たでしたね。
- 藤川 宏樹
特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。旅先の深夜。満天の星眺めひとり露天風呂に浸っていると、誰か入りやがて近くに・・・、女性の気配。闇に浮かぶ人影と一言交わしたものの、早々に退散した。翌朝、御膳の飯を仲居さんが装ってくれたが・・・、その人だった。夢か現かあいまいになった記憶の底から、「~浮く~浮く」のリフレインが浮かばせてくれたのが遠い昔の出来事。
- 福井 明子
特選句「きらめきをもてなすように冬の浜」。水面のきらめきに、いつも目をみはり、眼前の風景をどう表現しようかと思いながらいます。この句の、もてなすように、という言葉が、おおいなるふところの冬の浜とひびきあい、海の波が、光や風のメッセージであることをも感じさせてくれます。
- 各務 麗至
特撰句「コート着て我も一つの後ろ姿」。冬になって、誰も彼も同じように見えてしまうコート姿。それは何も衣装だけに限らず内面も似たり寄ったりの、そうあることが人間社会を安寧にさせているのかも知れない。作者はそんな諦観達観の境地にあればこそ、「我もコート着て」と社会に順応する。しかし、誰も彼もと同じような「後ろ姿」のそこには、「一つの」と強調して、全体の中にも一個の個性・・・夫々があって、一つ間違えば大きな破綻を招くぞ(例えば犯罪や戦争)という社会批評も見えて来る。特選句「狐火や俳諧自由といふ心」。闇の中のいくら小さくてもいい鬼火やたましいの火になって、それこそ自由な心で何事にも対峙していきたい。否応なく兜太先生が出てくる。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦」。自分を葬る墓穴を自分で掘る。先の「一つの後ろ姿」にも通じる諦念や充実の人生で、「穴ひとつ掘る」と謙虚に大晦日を迎えて救われた。
- 大西 健司
特選句「蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな」。地味な句だが実感が在る。見事な蝋細工の食品サンプルゆえの寒々しさだろう。
- 柴田 清子
特選句「新春の光のどけし児等の声」。新しい年を、心から迎えている一句。いつの時代でも、こうありたい年の始めの特選一句としました。
- 男波 弘志
「本は薄い方がいい落葉舞う(布戸道江)」。確かにそう思います。やはらかく開けない本は用を果たせないでしょう。広辞苑が凄いと思うのは見開きにしても素直にしていますね。それほど厚くもないのに見開くと強引に戻ろうとする書籍がありますが、本のことを全く知らない人たちが作ったんでしょう。因みにですが、糸で綴じていないものは全て冊子であって本ではありません。本は必ず糸で綴じてあります。この本も糸で綴じてあるのでしょう。秀作
- 河田 清峰
特選句「冬虹くぐる性善説を生きてきて(新野祐子)」。戦後登り路を汗流して来て、プーチン、トランプに性悪説の現実に眼を覚ましています。
- 塩野 正春
特選句「よっこらしょと記憶を戻す年用意」。なんたって昔取った杵柄は忘れないよ! まず雑煮の具材や味付けは得意中の得意だった・・がこの頃は思い出すのにかなりのエネルギーを使う。ほかに何をしたっけ?障子貼り?すす払い?ああ大変だ。 話し変わるが関西にきて驚くことの一つはセーノ、ヨッコラショ、ドッコイショの掛け声を良く聞くこと。ある時など、看護士さんが私の腕から点滴針を抜くのにセーノ‥と掛け声かけておられた。日本は平和だ。特選句「父の面影濁りはじめた寒の鯉(若森京子)」。私、男として気にしていることの一つに余り父を称える句が少ないことです。故に作者が父の面影を追っておられたことに感謝します。年月が経って次第に薄れる父への思いを濁りはじめた寒の鯉と表現され素晴らしい韻を含んだ句となっています。作者にとって父は大きくゆったりした鯉の姿に見えたことでしょう。
- 花舎 薫
特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。多分露天風呂だと思う。柚子湯の香りや温さに身をまかせる小さな至福感。流れ星の方へ向かっていくのは体というより希望を持とうとする心だろう。組み合わせには既視感ありだが「浮く」のリフレインが効果を上げていると思った。 特選句「なんの老い三人姉妹の初化粧」。思わずクスッと笑ってしまった。正月だから三人姉妹が揃い、それぞれおしゃれして化粧にも力が入っている、そんな光景がありありと目に浮かぶ。老いなぞ何のそのという気概を上五で詠み新年ならではの句になっている。
- 河野 志保
特選句「携帯の見えない声を抱いている」。電話の向こう、愛する人を思う。その人の温もりを感じ、声を抱きしめるひととき。季語はないが冬の句と受け取った。
- 津田 将也
特選句「セーターは汀のごとし死者の前」。比喩の巧い俳句と出合った。推し測って考えると、この死者は「海難事故」に遭った、水葬される者の一人ではなかろうか。とも思ったりしています。
- 三好つや子
特選句「悪書束ね探偵事務所煤払」。探偵がかっこよく事件を解決するのは小説や漫画の話。現実は浮気調査がらみの尾行が多いとか。この句から、古びたビルの一室、埃っぽく胡散臭そうな事務所が目に浮かび、煤払いという季語が味のある雰囲気をだしています。特選句「セーターは汀のごとし死者の前」。たぶん不慮の事故、あるいは事件に巻き込まれ、セーターを着たまま命を失ったのかもしれない。そんな死者の体温がのこるセーターを、生と死の汀と捉えたのでしょうか。気になる作品です。「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。お腹の中の胎児の心音を感受。ポコポコの音にほっこり。「ロボットも人を見習い御慶かな」。今、話題のフィジカルAIのおじぎしている姿を想像。「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。私もそうですが、老後ってこんな感じではないでしょうか。
- 島田 章平
特選句「肩書きのいらぬ故郷冬すみれ」。たくさんの転勤の後60歳を過ぎて 故郷の香川県に戻りました。そこで多くの出会いがありました。「以前のお仕事は?」と問われた事はありません。多くの方に今の私を受け入れて頂きました。故郷は本当に温かい所です。
- 和緒 玲子
特選句「コート着て我も一つの後ろ姿」。私単体の動作から、やがてそれが顔の無い群衆の一粒となるという俯瞰へ。滑らかなカメラワークの移動。特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。手繰るという動詞が臍の緒、母、毛糸玉を繋ぐ。同時に母の記憶も手繰っているのだろう。抑えた表現から母を思う気持ちが滲み出る。「初雪やようこそ独り言の世界」特選にしたい一句。滅多に雪の降らない瀬戸内では初雪が舞うと独りごちながら空を見上げてしまう。ようこその四文字を使うことの斬新さが光る。
- 石井 はな
特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。本当に悔恨はさざ波の様に来ますね。大きく足を掬われる事は無いのだけど、いつまでもいつまでも心に巣食う様にです。スッキリ断ち切る方法が知りたいです。
- 河西 志帆
特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。自分の入る終焉のその穴の事でしょうか。違ってたらごめんなさい。深くて少し怖いけど・・この歳になってくるとそんな風に思えたりもするんです。「斜めからものを見る癖石蕗の花」。真っ直ぐ見るのは楽そうですが、実は難しいんですよね。案外、斜めからの方が良く見えそうだもの。「AIに産土は無し初日の出」。愛と読んでも、やはり、温かさはないんです。産土がないとは、よく言ってくれました。本当にそうですよね。
- 佐藤 詠子
特選句「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。冬ざれるという淋しい現実の景の中にいるのに、空想だけは自由、心の中だけはふんわりしているようで、自己愛を感じる句。私は空想好きなので大いに共感しました。特選句「去年今年絆創膏を張り替へる」、絆創膏で隠しているのは実際の傷ではなく、心の傷と受け取りました。張り替えるに、去年の傷が癒えたかそっと確かめる自愛の心が見えます。一見、簡単そうな表現なのに、去年今年との取り合わせにより作者が新年に向けての前向きさを感じ奥深い心象風景ではないでしょうか。ほくそ笑んでしまいました。
- 松岡 早苗
特選句「雪が降る鉛筆の字が濃くなった(中村セミ)」。雪が降り出して、書き物をしていた机が暗く翳ったのでしょうか。「鉛筆の字が濃くなった」という表現が素敵で、雪の白さと黒い文字の対比がモノトーンの繊細な陰影を感じさせてくれました。特選句「死がひとつ梢にありて柚子日和」。梢で死んでいるのは小鳥か何かの昆虫でしょうか。それともこの木を世話していた人が亡くなってしまったのでしょうか。晩秋の日ざしの下、柚子の実の明るい黄色と暗く冷たい死の、くっきりした明暗が印象的でした。
- 出水 義弘
特選句「狐火や俳諧自由といふ心」。狐火のように神秘的な実態のよく分からないものですよ、俳諧自由の心とは、と言っているように思われる。自由には、自己の基準を確立しなければならない厳しさを伴う。多読多作で精進します。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。生きるとは、穴を掘っては埋め、埋めては掘ると言ってもよい、日々の単調な繰り返しの連続であり、1年経てば大晦日になる。そして、一生を終える。深い悟りを詠んだものと思われる。
- 布戸 道江
特選句「 死がひとつ梢にありて柚子日和」。生き物の宿命、必ず死はいつかは来る、柚子が明るく灯ってる。身近な死を明るく迎えよう。「元旦の空見ていたるパンダかな」。昨年パンダが帰国するらしいと聞いて早速パンダに会いに行った、丁度園舎に戻る時間で後ろ姿を数秒見ただけだった、空は続いている、又いつか会える時が来るだろう。
- 若森 京子
特選句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。狐をだますではなく狐のだます私でいたい。微妙な心理、騙されたい私。「人を騙すより騙される人に」とよく言うがその心理であろうか。下五の 目を濡らしの措辞に作者の純真な人間性に惹かれた。特選句「一艘の緋の舟流る冬椿(銀次)」。寒中に咲く可憐でそして健気な冬椿から、この様に美しくも動きのあるイメージに、作者の美意識に感動した。
- 滝澤 泰斗
特選句「凍て星を譜面に一つシベリウス」。シベリウスと言えば、七つの交響曲という事だろうが、高校時代に吹奏楽で、そして、合唱団で歌った「フィンランディア」・・・あの荘重な重低音が、壮大な北欧の大地を想起させ、一等星の凍て星のきらめきは後半の合唱に繋がった。特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。除夜の鐘はまさに、繰り出してくる百八つの音波が次々と、煩悩を振り落としてくれる。掲句は、除夜の鐘の音にさざ波のように湧き起ってくる悔恨と同調させたところが新鮮でした。以下、共鳴句「冬麗の海神(わたつみ)統べる大鳥居(松本美智子)」。美しい情景に魅了された。「絶滅の道行く熊を悲しめり」。今年ほど熊の出没のニュースに動揺したことはなかった。熊も絶滅危惧種なのか。悲しい、時事俳句。「悪書束ね探偵事務所煤払」。この悪書とは何ぞやから始まって、探偵事務所の選択と季語のフィット感が絶妙。面白い句になった。「放哉の髑髏の語る寒夜かな(島田章平)」。どこかの博物館にある髑髏をみて、思わず咳き込んだか? とすれば、放哉を持ってきたのがお手柄だが、自句自解を聞いてみたくなった。「内視鏡はらわた艶めいて冬日」。母親を大腸がんで亡くし、40歳で大腸ポリープを取って以来、定期的に内視鏡で自分の腸をモニターでみている。確かに艶めいているが、もつ鍋や鶏皮が食えなくなった。自分に照らし合せて・・・つい、いただいた・・・『電柱に「探しています」寒夕焼(花舎 薫)』。様々な物語を勝手に紡ぎ始めた自分がいた。寒夕焼の季語がいい。
- 新野 祐子
特選句「鳶一羽光となれる初日かな」。私も見たことがあるんです。秋晴れのきれいな日でした。鳶が空を切って飛んだ軌跡が一直線の光になったのを。これが初日であれば何ともめでたいことですね。特選句「幸不幸小さじ二杯の去年ことし」。幸や不幸を「小さじ二杯」とたとえたのを見たことがありませんでした。びっくり!
- 植松 まめ
特選句「霧はれて大和三山初の日矢」。新春らしくて清々しい句。私も二年前に甘樫の丘から大和三山を眺め感無量でした。特選句「凍て星を譜面にひとつシベリウス」。凍て星を 譜面にひとつの言葉に惹かれました。フィンランドの国民的作曲家シベリウスの「フィンランディア」また聴いてみます。
- 疋田恵美子
特選句「健康診断今年もなんとかパズル解く」。身体に問題もなく新しい年へのスタートおめでたいことです。下五がいいですね。特選句『「ハルウララ」さがしにゆきし冬競馬』。「ハルウララ」はお元気でしたか。
- すずき穂波
特選句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。とても繊細な句で頂きました。特に「目を濡らし」を結びに持ってきたところの感覚に惹かれます。特選句「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。この句も同じく繊細で冬ざれという季語のザラつき感を独自の肌感覚、何というか、そろっと諸手で掬いとっておられる。これら二句共、作者は頭の中で作っておられるが、読者の視覚に微弱電流を流し想像させようとしておられ それが何とも心地よい。そんな句なので頂きました。
- 野口思づゑ
特選句「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。青く消えてゆく魂。きっと美しい人生をおくられた方なのでしょう。「伊予柑や話の種も無き夫婦」。伊予柑の程よい甘さで、話さなくても心が通じ合っているごベテラン夫婦なのでしょう。「太箸や本籍甲の二二番」。甲とか乙が住所に使われていたのですね。この住所だけで場所や時の流れを感じる。太箸の季語がとてもふさわしい。「雪が降る鉛筆の字が濃くなった」。とても面白い降雪の帰結です。
- 岡田ミツヒロ
特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。中七の「毛玉ぽこぽこ」にしっかりと実感があり、その喜びがふんわりと広がってくる。羊水に泳ぐ胎児の元気そうな様子も彷彿としてくる。特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。日向ぼこの時に現実から遊離するような状態を「宙に浮く」と浮遊感覚として言い留めた。
- 三好三香穂
「ぶかぶかのセーター昼の月近し」。最近のトレンドは、ぶかぶかである。青い空に浮かんだ白い月が近いというのである。同じ青のセーターかもしれない。「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。おそらく紅い椿でしょう。魂は青い炎なのでしょう。抽象化した表現ながら、惹かれる句です。「坂の町の出口は空へ白き息」。坂を登りつめれば青い空ですね。
- 柾木はつ子
特選句「AIに産土は無し初日の出」。言われてみれば確かに。ところで、この先AIロボットがますます進化して人間と対等に会話ができるようになった時、人間の方が相手を本物の人間と錯覚して接するようになるのではないかと、考えれば空恐ろしい気がするのは、私だけでしょうか?特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。この「穴」とは一体何を指すのでしょうか?肯定的にも否定的にも取れますが、随分と興味をそそられるキーワードです。
- 榎本 祐子
特選句「去年今年絆創膏を張り替える」。新年を迎える感懐の中での、日常の人間的な行為が面白い。
- 田中 怜子
特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。いつも着ている、毛玉がついているようなセーターを着て、温い日差しが気持ちよい。赤ん坊を待つその幸せ感がにじみでていたる、また日常語が飾り気なくていいですね。特選句「暗黒に浮かぶ地球や去年今年」。今の地球がおかれている状況を俯瞰して見つめるその眼差しがいいですね。怖さもあるけど。
- 山本 弥生
特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。高齢の夫婦が仲良く記憶をもどし乍ら年用意をしている姿がとてもよく見えます。
- 伊藤 幸
特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。「よっこらしょ」一年の疲れを記憶と共に呼び起こし労う。そうして前を向き新しい気持ちで年を迎える。作者に「ガンバレ!」とエールを送りたい。特選句「元日やのぞみ静かに田町駅」。「田町駅」という固有名詞がリアルなかたちで想像を掻き立てる。古ぼけた看板に楷書で書かれた駅名、待合室には木製のニスの剝げかかった長椅子。大きな野望はないが今年こそ何かを成したいという願いが窺える。
- 菅原 春み
特選句「絶滅の道行く熊を悲しめり(河西志帆)」。先住民の熊を追いやった人間たちのせいで、こんな事件が起きているのですよね。共感しました。特選句「冬晴や醤にほへる船着場」。オーソドックスな格調高い句です。五感を駆使しつつ映像が立ち上がります。
- 漆原 義典
特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。私は母の句が好きです。臍の緒と母の毛糸玉のむすびつき、母との強い絆がよく表現されています。素晴らしい句をありがとうございます。
- 荒井まり子
特選句「死がひとつ梢にありて柚子日和」。絶対は死。死は一定である。柚子湯ではなく、柚子日和ゆったりして優しい、穏やかな時間が愛おしい。
- 中村 セミ
特選句「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。ひと枝の寒椿を部屋に置いておくと、椿の赤い、赤い魂のような花が、むかしの色々な人達とあったたわいでもない、喧騒の様な出来事が不思議と、思い出させ其れ等は、青く、青く消えて行くのだった。
- 銀 次
今月の誤読●「冬日向大地を歩く吾子と鳩」。暖かい冬の昼下がりのことだ。わたしはわが子を連れて近所の公園に行った。生まれてから一年余、歩き方をおぼえて以来、娘はよちよち歩きが楽しくて仕方がないようだ。二、三歩足を進めてはこちらを振り返りニコッと笑う。何度もそれをくり返す。その仕草がたまらなく愛らしい。まだ満足にはしゃべれないのだが「マー」と声をあげる。「ママ」のつもりだろう。わたしはそれに応えて手を振る。娘がまたキャッと笑って歩き出す。なんという幸せな日。たぶん人生で最良の一日だろう。それを祝福するかのように、娘のまわりにはたくさんの鳩が集まり、くちばしで土をつついている。それはあたかも雲の上を天使が歩いているかのようだ。娘がその鳩を指さしこっちを見た。わたしは一語一語切りながら「ハ・ト」と教えた。その言葉がわかったのかどうか、娘は一羽の鳩に手を伸ばした。すると驚いた鳩はクッと短く啼き、宙に飛んだ。その拍子に娘はストンと土の上に尻もちをついた。一瞬おいて娘は大きな声を張り上げて泣き出した。その声が合図だったかのように数十羽の鳩がいっせいに空に舞い上がった。とたん娘は泣きやんでポカンと空を見上げた。真っ青に晴れた空を群れをなした鳩が飛ぶ。娘はその光景に見とれるように鳩たちを目で追った。たぶんそのとき、言葉にはならないだろうが、娘は実感として知っただろう。この世界には大地があることを。空があることを。
- 大浦ともこ
特選句「蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな」。場末の古びた食堂だろうか・・寒くもあるが懐かしくもある句と思います。食品サンプルに着目したのも面白いです。特選句「たうたうと仔猫が乳を吸ふ暖炉(和緒玲子)」。いかにも暖かく幸せな気分になれます。たうたうというオノマトベにもゆっくり流れる時間が伝わります。目の前の様子の様でもあり、絵本の中の一幅の絵のようでもあり、子どもの頃の幸せな思い出でもあるようです。
- 末澤 等
特選句「冬夕焼け鬼籍の友等の墨絵かな」。どうにか6回り目の年男を終えることができた昨年、学生時代の同級生や入社同期生の友人の訃報が届きました。そのようななか、この句を詠ませて頂いた際に、冬には急に下りてくる帳により夕焼けが墨絵のごとく変化していく情景が浮かび、友人たちのことが深く思い出されました。大変心に残る句だと思います。
- 川本 一葉
特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。ぽかぽかして少し眠気もきてこの世ではない感じが伝わって来ます。ふっとちょこっとというのも可愛くて新鮮だと思いました。
- 向井 桐華
特選句「寒鴉鳴いたって鳴いたって鴉(柴田清子)」。こういう発想があったのかと思わされました。鳴いたって鳴いたってのリフレインがとても効いています。
- 野田 信章
特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。中句に至る「セーターの毛玉ぽこぽこ」の素朴な物象感の把握あっての一句と読んだ。これによって胎動期を迎えた母体そのものの讃歌が生れている。
- 増田 暁子
特選句「クリスマス対岸のよう勉強部屋(十河宣洋)」。騒ぎの外にある受験生の勉強部屋でしょうね。追い込みの時期なので大変。特選句「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。遠距離恋愛のふたりかも? 同じ夕焼を見ている時間差がもどかしいね。
- 竹本 仰
特選句「凍て星を譜面に一つシベリウス」:シベリウスはフィンランドの作曲家。ロシア圧政下にあった祖国への愛国心をテーマにした曲などで名を成したようだが、それ以上詳しいことはわからない。したがって、この譜面が何の曲を指しているのだかはわからない。わからないながら、その想いに共感できる部分がはっきり一つだけあって、百年以上の時空を超えてつながっているというのではないか。生なるものの神秘というのか、そんな出会いを感じた。特選句「短日や聖母へ空けるバスの席」:バスというのは不思議な場所だなと思うことが何度かあった。学生時代に自死したK君という友人がいて、まだその喪中だったが、空っぽの始発のバスに友人Aが乗って来た。死んだK君とも知り合いで、私を含め三人は仲が良かった、というより死んだK君の数少ない話し相手がその二人だったと言えた。自ずと死んだK君の話になった。その時思ったのは、けっこう乗客のいる筈のバスに二人だけなんて、何かおかしいということだった。誰か来そう、それはK君なのではというように、ひそひそ声で話をしていた。そう、だから、バスには思わぬ出会いが何気なく待っている気がして、聖母なるものの予感もまたあろうかと思った。特選句「いきものに最初の鼓動冬銀河」:いきものの最初の鼓動というのは、どこから始まるのだろう。とふとそんなことを考えたくらい、新鮮な何かを問われた気がした。死んだらどこへ行くか、或る病院の死に近い方々に聞くと、六割が星になると答えたそうだ。そうか、宇宙の運行の中に帰るということなのだろうか。とすれば、生まれる時も、宇宙の運行から来たと言えるのかもしれない。今年の元旦は息子に誘われ、朝の五時からちょっとした登山に行った。初日の出というより、登ることが目的だったのだが、或るダムに車を置いて空を見上げると、本当にぶちまけた程に星々が。うぉっと、渋谷区在住の息子は声を漏らした。そうだ、こいつ聖夜に生まれた子だった。うぉっという声に引かれて、何かいいものが見えた気がした。たしかにスタート地点に戻った気がした。そんなことを思い出した。♡皆さん、本年もよろしくお願いいたします。元日登山に始まった年、何かいい感じがしました。みなさん、お元気ですか。どこかでお会いしたいですね。
- 月野ぽぽな
特選句「日の笹子遺影は眼開きてありぬ」。遺影を見ながら、亡き人が目を閉じているところを思い出しているのでしょうか。それは、臨終の床での姿でしょうか。そこに至るたくさんの思い出もやってくることでしょう。笹子でなく、日の笹子、に思いの深さを感じます。哀しみと癒しが共にあります。
- 三枝みずほ
特選句「すり硝子あちらはたぶん凍てている」。すり硝子一枚を隔てて変わる世界。不透明な硝子であるがゆえに読者それぞれに思う“あちら”があるだろう。帰れない故郷、立ち入れない場所がふとよぎる。
- 高木 水志
特選句「清元の声音や寒夜哭く老犬」。長年飼ってきた老犬が体調が悪いのか清元の声のように鳴いているのが苦しく感じた。
- 重松 敬子
特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。私もよっこらしょが増えてきました。しかし、気持ちはまだまだ青春!!
- 森本由美子
特選句『電柱に「探しています」寒夕焼(花舎 薫)』。探しものは何?辿り着いたのは、もしかして自分自身の心棒ではないのか。寒夕焼を背に自分に対峙する姿を想像させる。
- 亀山祐美子
特選句『臍の緒をたぐつて母の毛糸玉』。母親になる喜びを我が子の靴下・帽子を明るい毛糸で編むことで表現する母への感謝。自分の臍の緒が母の毛糸玉に紡がれる原動力になっている事実に改めて気付く幸せ。誕生前から愛情と情緒が形になる感覚が美しい。特選句『坂の町出口は空へ白き息(三枝みずほ)』。この町の坂道はまるで人生のようだ。上へ上へと向上心溢るる長い長い道程は充実感・満足感広がる空へと続く。単なる風景に人生をなぞる。「白い息」は空へ昇る日の最後の一息なのかもしれない。奇しくも誕生と終焉の俳句を選んだ。そんな年齢になっているのだと改めて実感した。
- 稲 暁
特選句「野良猫の歩をすすめゆく初景色(榎本祐子)」。初景色という季語に、野良猫を配して意外性があると思います。
- 吉田 和恵
特選句「落としもの雪に埋もれし色鉛筆」。落としたものは明日を描く色鉛筆だった。しかも雪に埋もれてと。切ないですね。でも雪が消えたらきっと見つかると思いますよ。
- 山下 一夫
特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。あたたかくやわらかでのどかな空気感に満ちていて癒される句です。「ぼこ」「ふとっちょ」「ちょこっと」の感覚を「日向」と「宙に浮く」との概念でサンドしたことが成功しています。特選句「声埋めいまからさくらまであるく」。 「さくらまで」というのは距離であり時間でもあるのでしょう。また「声埋め」は「あるく」主体のいる場所であり体(胸)でもあるのでしょう。抽象的かつ多義的なのですが「いまから」で並々ならぬ決意のようなものが伝わってきます。問題句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。狐にだまされて涙するような純情可憐な人でいたいとの願望で、詠者はその逆という自嘲や嘆きがあるのかと味わい深いです。七七七で少し散文的なところは内容に合っているとも言えますが、五音にしていく余地もあるように思います。
- 太藤田 乙女
特選句「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。冬の夕焼けの美しさの如く君は幾年月を経てきても凛とした佇まいと辛苦も乗り越えてきたであろうけれど変わらぬ清楚な美を感じさせる女性なのでしょう。その女性を見つめる作者の深い想いが冬夕焼の情景と重なって心に沁みます。
- 松本美智子
特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。「臍の緒」と「毛糸玉」の取り合わせが妙でした。物の少なかった時代,昔は母が小さくなったセーターなどをほどいて丸くなった毛糸玉から新たに編みなおしていたな・・・と思い出しました。いろいろな色の毛糸玉の不思議な雰囲気と母と胎児を結びつける大切な「臍の緒」を取り合わせたノスタルジーを感じる秀句だと思いました。
- 野﨑 憲子
特選句「青空の呟きとなる落ち葉踏む」。青空の下、ひとり歩く足もとで落ち葉が、かさりと鳴る。その微かな音は、まるで空がそっと言葉をこぼしたように、世界の静けさの中へ吸い込まれていく。透明で、どこか孤独で、しかし不思議な温もりを帯びた一瞬。落ち葉のかすかな響きが、いつしか「青空の呟き」へと変わってゆく。それは、地球が声を持つ瞬間のようでもある。特選句「いきものに最初の鼓動冬銀河」。冬銀河の深い静寂の底で、小さな星がひとつ、ぽうっと誕生したような気配がある。それはまだ名も持たぬ命が、世界に触れようとする最初の震え。かすかな温もりの記憶が、そっと胸に灯る。冬の夜空を仰ぎながら、「生命とはなんと儚く、なんと尊いものか」その思いが言葉にならぬまま、静かに広がっていく。どちらの作品にも、平和への祈りが静かに息づいている。その思いが世界最短定型詩となり静かに広がっていく。いま、人類の足もとはあまりにも脆い。だからこそ、冬銀河の光のように、青空の呟きのように、愛語の俳句が、これから世界へ向けて熱くそして確かに発信されてゆくことを願ってやまない。
袋回し句会
風花
- 風花やあなたの声をみつけます
- 三枝みずほ
- アスファルトだらけの街を風花す
- 和緒 玲子
- 風花のやうな約束してしまう
- 柴田 清子
- 言の葉はたましひのかほ風花
- 野﨑 憲子
- 風花や森の奥処に息ひとつ
- 野﨑 憲子
- 恥ずかしさとも戦うんだよ風の花
- 藤川 宏樹
冬の月
- 初恋は成就せぬもの冬の月
- 藤川 宏樹
- 穀潰しの目立ちたがりや冬の月
- 野﨑 憲子
- 自販機の灯に寄り添えり冬の月
- 銀 次
- 沼風はそらしどれみふあ冬の月
- 野﨑 憲子
- 予報士の外した指輪冬の月
- 藤川 宏樹
- 寒月光体突き抜けゐたるかな
- 柴田 清子
- 輪の中にいて鈍き牙なり冬の月
- 三枝みずほ
- 夢一つ叶えて帰る冬の月
- 末澤 等
- タワマンに住まへど二階冬の月
- 藤川 宏樹
卵
- 卵焼上手にできた春よ来い
- 柴田 清子
- 老人の卵の座る日向ぼこ
- 島田 章平
- 卵ぶつけたし病室の壁白すぎて
- 銀 次
- 縄文のヴィーナス君は寒卵
- 野﨑 憲子
- 恐竜の卵抱いてる冬休み
- 島田 章平
- 火の底の戦語るや寒卵
- 三枝みずほ
- 穴ひとつ掘り終えせがむ寒卵
- 末澤 等
馬
- 寒晴れや親馬の後から仔馬
- 柴田 清子
- 霜踏むや曲芸の馬迷い馬
- 銀 次
- 息白し母馬仔馬岬風
- 島田 章平
- 冬あたたか仔馬スキップして厩舎
- 和緒 玲子
- 牛と午子午線またぐ大枯野
- 藤川 宏樹
トランプ
- トランプ繰る指先より消えゆけり
- 三枝みずほ
- 孫とするトランプ母の負け
- 島田 章平
- 和平へと切れよトランプ冬の月
- 野﨑 憲子
【通信欄】&【句会メモ】
「海程」の後継誌「海原」は、本年より安西 篤さんから堀之内長一さんに代表が交替し新たなる第一歩を踏み出しました。「海程香川」も一回一回の句会を大切にますます熱く渦巻いてまいりたいと存じます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
令和八年初句会は、寒気が緩み冬日射す一月十日に開催いたしました。子育てまっ最中の三枝みずほさんも久々に参加され、淑気溢れる楽しく豊かな句会になりました。
Posted at 2026年1月25日 午前 04:21 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第169回「海程香川」句会(2026.02.14)ご案内
令和8年初句会は、寒気が緩み冬日差すなか、楽しく豊かな時間を過ごすことができました。月末に<今月の作品集>を更新の予定です。お楽しみに!
では、次回2月句会のご案内を・・
- 日時
- 2026年2月14日(土)
- 場所
- ふじかわ建築スタヂオ☆☆ 高松市番町2丁目5-5
- 時間
- 午後1時 ~ 午後5時
事前投句は、通信句会形式です。投句締切は、2月7日(土)(必着)です。ご参加楽しみに致しております。
- 事前投句作品
- 2句
- 会費
- 500円
連絡先:noriko_n11☆yahoo.co.jp(☆を@に変換してください)
「海程香川」代表 野﨑憲子Posted at 2026年1月13日 午前 03:14 by noriko in 句会案内 | 投稿されたコメント [0]
第167回「海程香川」句会(2025.11.08)
事前投句参加者の一句
| 言い訳を軽く聞きつつ林檎剥く | 吉田 和恵 |
| 切手には異国の偉人鳥渡る | 大浦ともこ |
| 秋蚊鳴くほどの恋慕を便箋に | 男波 弘志 |
| 待宵や「うれし」てふ字の女偏 | 松岡 早苗 |
| 文化の日金継ぎ美しき志野茶碗 | 向井 桐華 |
| 月明り土はろばろと花の種 | 福井 明子 |
| それぞれの思い行き交う遍路道 | 末澤 等 |
| 古地図の道標ふらふらと秋の蝶 | 増田 暁子 |
| 亀虫の警告無意識の加害 | 時田 幻椏 |
| 富士山のたらし込みめく秋の鯉 | 河田 清峰 |
| ローゼルの繁り私のセカンドライフ | 疋田恵美子 |
| 小骨とは違ふ何かが刺さつて秋 | 柾木はつ子 |
| 鰯雲豪快な空振りである | 佐孝 石画 |
| 臨書する筆も唸りし虎落笛 | 漆原 義典 |
| 山の秋空が高さをとりもどす | 亀山祐美子 |
| 人逝くに木犀激しく匂うなり | 榎本 祐子 |
| 冬の芽の限りある土慎ましく | 豊原 清明 |
| 青空に蔵王の樹氷突き刺さる | 遠藤 和代 |
| ばらばらのびっくり箱の木の実かな | 高木 水志 |
| 「ハラヘッタ」熊の呻きが花野より | 新野 祐子 |
| すたすたと枯野の犬となりゆけり | 稲 暁 |
| 蛍の家童顔の女主(あるじ)は蛇殺す | 田中 怜子 |
| 北へ汽車父冬耕の野に訛る | 竹本 仰 |
| 鰯雲破片つなげるように声 | 三枝みずほ |
| キメキメの目線にポーズ七五三 | 山下 一夫 |
| 蹴られても品性保つ新松子 | 森本由美子 |
| 古里の梨の重さよ父母よ | 樽谷 宗寛 |
| 錦秋やトスを待てずに爆ぜしころ | 松本 勇二 |
| エロスともアガペーとも手中の林檎 | 伊藤 幸 |
| 夫婦獅子戯れ合へり豊の秋 | 出水 義弘 |
| 母さん撃たれた!くんくんと森へ仔熊 | 十河 宣洋 |
| 水に棲む大銀杏の十日間 | 中村 セミ |
| 今頃は海の上かも旅の蝶 | 川本 一葉 |
| 職退けばのたりと勤労感謝の日 | 岡田ミツヒロ |
| 月光に入れてうすつぺらのからだ | 小西 瞬夏 |
| 大花野父の翼を拾いけり | 綾田 節子 |
| 獣らの耳鼻動く霧ぶすま | 菅原 春み |
| 私の中のおかしなお化けハロウィン | 重松 敬子 |
| 横顔へ性善説を説く焚火 | 和緒 玲子 |
| ナナカマドの意志あり言語聴覚士 | 三好つや子 |
| しゃっくりの止まず六道参りかな | 荒井まり子 |
| もどらないもう何もない場所鳶の秋 | 花舎 薫 |
| 白粉の花に泣き顔見られけり | 柴田 清子 |
| マジっすかマジでございます菊日和 | 野口思づゑ |
| 秋うらら猫の会話のまあるくて | 河野 志保 |
| 小さい秋みつけたかなと空をみる | 田中アパート |
| 不器量蜜柑己が如しと山の婆 | 野田 信章 |
| 鳥を呼び日を呼び返し冬耕す | 佳 凛 |
| 月光迫りくる犬あとずさる | 銀 次 |
| 朝寒やヨガのポーズの木になりて | 薫 香 |
| 号泣のあと熟寝の子小鳥来る | 月野ぽぽな |
| 十三夜種火のままの恋心 | 藤田 乙女 |
| カプセルトイ冬きらきらと転がり来 | 松本美智子 |
| ボタン穴掛け違えても冬は来る | 佐藤 詠子 |
| 今日かけっこ一番だったよ秋夕餉 | 藤川 宏樹 |
| 独り立つナウシカ色なき風の谷 | 島田 章平 |
| 冬ざれや息はしづかに風になる | 各務 麗至 |
| 小鳥来る旅行雑誌の色褪せて | 大西 健司 |
| 新松子自分の根っこ考える | 津田 将也 |
| 朝顔の日記に泣いて早や八十路 | 塩野 正春 |
| 青空を遊び疲れて野鶏頭 | 岡田 奈々 |
| 幕内弁当に栗と團十郎 | 布戸 道江 |
| 良夜かなわたし閉じたり開いたり | 桂 凜火 |
| 天高し友と逢う日は部屋干しで | 山本 弥生 |
| 朝寒やカフェにひと匙落とす蜜 | 植松 まめ |
| 読書週間活字拾うも本読まず | 滝澤 泰斗 |
| 軍隊はまだまだ此処にある良夜 | 河西 志帆 |
| 秋の陽に埃落つ様宇宙かな | 三好三香穂 |
| 青空に似合わぬ国旗冬近し | 石井 はな |
| 雨はシャンソン十一月の赤い薔薇 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「鳥を呼び日を呼び返し冬耕す」。自然と一体となって耕す光景が鮮やかに、そして大いなる光量をもって表現されています。
- 小西 瞬夏
特選句「月明り土はろばろと花の種」。月の明かり、大地の土、植物の命、それらがぼんやりとつながっているアニミズムの世界。「はろばろ」という意味の曖昧な言葉が、それらをゆったりとつなぎ、まとめ上げている。命の循環を感じさせる一句。
- 十河 宣洋
特選句「職退けばのたりと勤労感謝の日」。自画像か周りの人が見ているのか。自分かもしれない。いずれにしてもこの気持ちわかる。二十数年前の自分を思い出した。今は毎日のたりである。特選句「私の中のおかしなお化けハロウィン」。皆が心の中に仕舞ってある妖怪やお化け。ハロウィンになにかやってみたい。お化けにでもなってみようか。私がやるとやっぱり可笑しいかも。などと自問している。
- 岡田 奈々
特選句「しゃっくりの止まず六道参りかな」。しゃっくりは止まらなくなるとそればかり気になって何も手に着かなくなります。それの鬱々した感じを六道参りをしているようという逃げたいのに逃げられない悲しさ。特選句「マジっすかマジでございます菊日和」。何が本当なのか全然分からないけど、この季節の清々しさはあの酷暑からは想像もつかない。本当よく眠れます。「秋風に永遠を聞く土偶かな」。土偶の何処を見ているのか、何を考えているのか分からなかったけど、永遠というものを感じていたのですね。「文化の日金継ぎ美しき志野茶碗」。そのままよりも、金継ぎした物の方がずっと奥深い美しさがあると思う。「小骨とは違ふ何かが刺さつて秋」。どうも何かが気になって仕方ないのに決定的な違和感に迄は至らぬもどかしさ。とかく物思う秋。「眠れぬ夜長円周率と根比べ(野口思づゑ)」。夜寝るのが遅くなると何故か眠られなくなる。その長さは円周率に匹敵して、永遠に続きそう。「横顔へ性善説を説く焚火」。焚火のちらつく様が横顔の人を説得しているようって。人は元々良い人なのか?「黄菊茹で鉢にあふるる北訛り(福井明子)」。菊膾の優しい滋味が東北地方の人の優しさと直向きさを醸し出す。「読書週間活字拾うも本読まず」。年取ると読もうと思って本を買うけど、目次を見ただけで、読まずに終わった積ん読の増えること。「ケーキより松茸御飯誕生日(岡田ミツヒロ)」。言わずと知れた松茸御飯のあの薫り。何時でも食べたいですね。この歳になるとケーキは重いです。
- 月野ぽぽな
特選句「鰯雲破片つなげるように声」。「破片つなげるように声」から屈託のある感情がよく見えてきました。鰯雲がその心をよく受け止めていると思います。
- 豊原 清明
特選句「母さん撃たれた!くんくんと森へ仔熊」。秋になると、熊は撃たれる。腹が減って、腹が減って。親熊も悲惨である。問題句「エロスともアガペーとも手中の林檎」。林檎の形が性的である。エロス。
- 各務 麗至
特選句「ほんの小さな一歩も一歩いわし雲(竹本 仰)」。何でもなさそうな一歩だけど、その確実な一歩こそが人生を切り開く力。一歩一歩歩いて来て見あげた空一面にいわし雲。その雲群の力強い一匹一匹の勢いが一歩も一歩との自覚に重なって見えて、それこそ限りない気持の良さが広がりました。問題句「月光に入れてうすつぺらのからだ」。問題句「軍隊はまだまだ此処にある良夜」。何か上下左右是非のあらゆる方向から、そんな講評や鑑賞ができそうな不思議で怖い作に思えてしまいました。
- 桂 凜火
特選句「人逝くに木犀激しく匂うなり」。人がなくなることはとても大きなことですが、悲しいと思うよりも寂しいと思うよりもなにかしんとした感情のない時があるように思いますが、その瞬間の静寂を木犀の匂いのという形のないもので表されたのかと感じました。切なくていい句ですね。
- 野口思づゑ
今回はみな等しく惹かれ特選句絞れませんでした。「鰯雲ガニ股歩きの父は鳶職」。きっとお父様が誇りなのでしょう。ガニ股歩きのお父様らしき方の後ろ姿が目に浮かびました。「言い訳を軽く聞きつつ林檎剥く」。ちょっと迷惑だな、と思いながら目と手は林檎に。そんな何気ない日常の日々が捉えられている。『「あれ」「あの」で会話を繋ぐ秋の暮れ』。下5で、若くはない夫婦なのでしょう。典型的なこの手の会話。お互いに理解し続くのですよね。
- 河野 志保
特選句「鰯雲豪快な空振りである」。野球の1シーンが気持ちの良い句に仕上った。広くて美しくて物悲しい「鰯雲」が効いている。「豪快な空振り」には人生のいろいろな場面も想像でき解釈も膨らむ。
- 津田 将也
特選句「富士山のたらし込みめく秋の鯉」。江戸時代の琳派の絵師たちによって多用された日本画の技法に「たらし込み」がある。異なる濃度の絵具や水を垂らすことで、自然なにじみやぼやかしを画面に生み出す技法である。計算し尽くされた線画とは異なり、偶然性の効果を期待した趣がある。秋の錦鯉は、この技法で描かれた如き見事な赤富士文様を身に巻きつけ、悠然と泳ぎ、作者や他の人たちの目や心を魅了している。
- 柴田 清子
特選句「雨はシャンソン十一月の赤き薔薇」。全身を音楽の流れる気分のいい一句。この句の虜になりました。特選句「古里の梨の重さよ父母よ」。古里の父母を偲ぶに「古里の梨の重さ」を先に置いた事が、思いの深い佳句となっている。
- 樽谷 宗寛
特選句「カプセルトイ冬きらきらと転がり来」。カプセルトイと中七、下五の取り合わせがよい。心の弾む 明るく 句です。
- 藤川 宏樹
特選句『待宵や「うれし」てふ字の女偏』。女偏の字は多数あるが男偏の字は浮かばない。「女」は象形、「男」は田+力の会意、背景に古来の男尊女卑があるようだが現代女性の地位向上は喜ばしい。今秋の女性初の宰相誕生を詠んだ句と受け取った。
- 中村 セミ
特選句「蛍の家童顔の女王は蛇殺す」。ホテル「ホタル」に泊まった夜、5Fにつき、廊下に蛇が一匹這ってきていたが、知らぬ顔して、部屋に入った。暫くするとノックされ、女将が「蛇の通報があったのですが、大丈夫ですか」「ああ、この部屋にはいません。大丈夫です。」と、言った。「ですね」と、言って後ろからの手を、前に持ってくると、手に、蛇が掴まれていて、かぶりと噛んで、僕をみて、妖しく笑った。そして顔は光はじめた。まるで、それは、大きなホタルが、ヘビを咥え、光っているようにみえた。「小骨とは違ふ何かが刺さつて秋」。違う何かが気になる。昔、TVで8時に、洋画のインベーダーというのをやっていた。ロイ、シネスフ扮する主人公が宇宙からの侵略者を退治していく話なのだが、この主人公は、かたくなに、それを、信じて本当は、普通の人を、たくさん殺したのではないか。おそらく何かが突き刺さるという、表現は、なんでもあり。でも、作品は、面白いとおもいました。
- 増田 暁子
特選句「葛引けば産土まぼろしの如く」。寒くなり葛引いた物を食べれば、故郷の風景、食べ物など思い浮かぶ。思い出す顔もある。
- 三好つや子
特選句「月光に入れてうすっぺらのからだ」。一読して、月の光に透けそうなほど痩せ衰えた五体が、目に浮かびました。鏡や窓ガラスに映る老いたからだが哀しく、愛おしく、そして美しい。さまざまな思いが句に込められ、味わい深いです。特選句「ボタン穴掛け違えても冬は来る」。心にもやもやを抱えながら、前を向いて生きるしかないとき、人はこういう心境になるのでしょう。そんな状況をさばさばとした言葉で紡ぎ、いっそう心に刺さりました。「鰯雲ガニ股歩きの父は鳶職」。現役を退いたあとも周りから頼りにされる父を、誇りに思う気持ちがほっこり伝わってきます。鰯雲がいいですね。「鳥を呼び日を呼び返し冬耕す」。広々とした空の下、黙々と土を耕す光景に、冬ならではのきりりとした空気感があり、惹かれました。
- 福井 明子
特選句「しゃっくりの止まず六道参りかな」。遠い記憶に、胎内記憶がうすれていくほど、しゃっくりは出なくなる。そんなことを聞いたことがある。子どものころ、あれほど出ていたしゃっくりが、今は全く出ない。六道参りとは、生まれかわりの輪廻の道程、だとすれば、そこには目には見えない、いのちのさまよい、萌芽、鼓動があるような気がして、不思議な辻に迷い込んでしまいました。
- 岡田ミツヒロ
特選句「大花野父の翼を拾いけり」。在りし日、翼もてこの世を翔けめぐった父への追慕と祝福。「大花野」と「拾いけり」に作者の思いが滲み出ている。特選句「私の中のおかしなお化けハロウィン」。人の身中に棲む得体の知れないもの、時にはそれを外に出し踊って騒いで発散させ、なだめる。それがハロウィン。内奥の陰の部分を戯画化した諧謔の光る一句。
- 柾木はつ子
特選句『「ハラヘッタ」熊の呻きが花野より』「知恵くらべ獣もわれらも花野風(十河宣洋)」。甲乙つけ難いので何れも特選とさせて頂きます。毎日、ニュースで見聞きしておりますが、他郷の事とは思われません。正に生存競走の激化があらゆる場面で起こっているこの世界。只々慄くしかありません。特選句「キメキメの目線にポーズ七五三」。いかにも現代っ子の七五三という雰囲気が現れていて微笑ましいです。
- 若森 京子
特選句「小骨とは違う何かが刺さって秋」。小骨が刺さっても、ずっと違和感があり大変だが、それとは違う何か精神的なものに刺さり毎日が憂鬱なのであろう。そして秋がやって来た。特選句「月光に入れてうすっぺらのからだ」。月光に照らされると、自分の肉体が透かされている感覚になり、うすっぺらに自己暗示された一句。平仮名の効果もよく効いている。
- 島田 章平
特選句「古里の梨の重さよ父母よ」。梨は他のどんな果物より重い感じがする。ざらっとした手触りはまさに父母の愛。遠く離れてこそ、父母の愛を深く感じる。
- 河西 志帆
特選句「小骨とは違ふ何かが刺さって秋」。何かが刺さっている感じがよくわかります。それはなんなんだろう。特選句「月光に入れてうすつぺらのからだ」。うすっぺらのという言い方がいいですね。人間って、本当はそうなんじゃないかと思う。みんなね。
- 伊藤 幸
特選句「北へ汽車父冬耕の野に訛」。父に訛ではなく野に訛の表現効果大。故郷へ向かう汽車の中、作者の心は既に故郷。作者の思いが伝わってくるようだ。特選句「職退けばのたりと勤労感謝の日」。職を退いてこれでゆっくり出来ると思っていたのが勤労感謝の日を前になんとなく寂しい気持ちになるのは何故だろう。掲句の「のたり」は蕪村の「春の海ひねもすのたりのたりかな」とは少しニュアンスが違うのではないかと思われて仕方ない。
- 男波 弘志
寸感。「良夜かなわたし閉じたり開いたり」。この古典を一心の背負った季語が今この時飛躍している。清少納言もさぞ驚かれているだろう。上五に、かな、を据えることはこの詩形に於いては極めて難事であるが、それも無理なく整っております。この「閉じたり開いたり」をどう受け取るかだが、自分は過去から現在へ至る人々の声を聴いている。芭蕉の最晩年の名吟が閉じたり開いたりもしている。特選。 人声や此道かへる秋のくれ 芭蕉 「転ばぬようにが口癖南無妙菠薐草(若森京子)」。名号にほうれん草を接ぎ木した手腕は見事でございます。読み手の数だけ物語が生まれるだろう。この破調にも日蓮上人の気迫の余波が十分に伝わっております。秀作。
- 松本美智子
特選句「切手には異国の偉人鳥渡る」。外国の切手やコインには何か懐かしさや異郷の地に馳せるロマンが宿っているように思います。その切手と「渡る鳥」を取り合わせることで、旅をいざない・・・体は今ここに、心は遠い異国の地にある気分になりました。♡今月の皆さんの句を拝見して「新松子」という季語を知りました。鈴虫を「月鈴子」ということも調べてわかりました。勉強させていただいています。
- 榎本 祐子
特選句「鰯雲ガニ股歩きの父は鳶職(綾田節子)」。ガニ股、父は鳶職の止め方が切なく響きます。空を舞う鳶のイメージと鰯雲の背景で、高所で仕事をしていた父に寄せる思いが伝わります。
- 疋田恵美子
特選句「エロスともアガペーとも手中の林檎」。愛の概念を。具体的な「林檎」と結びつけた、引かれるお句でした。特選句「母さん撃たれた!くんくんと森へ仔熊」。人も熊も生きづらい世の中になりましたね。
- 佐藤 詠子
特選句「水に棲む大銀杏の十日間」。まずは作者の懐の深さに拍手です。作者が大銀杏を見つめていたのは、おそらく十日間だけではなく、銀杏の葉が枝にある頃からだと推測します。葉が落ちた後も、池や川の端で美しく存在する姿を「水に棲む」と表現された所が好きです。そこに銀杏の意志が感じられます。やがて朽ちて姿を失くしていく大銀杏。季節の移ろい、生命の宿命を10日間見つめながら、人間もまた齢を重ねていつか終わっていくのだという無常観がこの句の真ん中にあると読みました。黙の中にある愛に共感。 ♡初参加です。2001年に海程に入会しました。きっかけは父(海原秋田・舘岡誠二)です。本音の自分、言えない想いを書くことが好き!で俳句を続けてきました(笑)
- 松岡 早苗
特選句「横顔へ性善説を説く焚火」。焚火に当たっている人の横顔には、どこか哲学的な陰影が醸し出されています。そして、寒いなか手をかざす焚火の明るさ、暖かさは、なるほど「性善説」そのものであるなあと納得しました。情景が鮮明に浮かび、さらに「性善説」が出てくる意外性がとても素晴らしいと思いました。特選句「秋うらら猫の会話のまあるくて」。仲良しの猫たちが甘えた声で鳴き合っているのでしょうか。「会話のまあるくて」がとても素敵で、秋晴れの暖かな光をいっぱい感じることができました。
- 布戸 道江
特選句「今頃は海の上かも旅の蝶」。今年のアサギマダラは飛来が少なかったとの報道、報道に吊られて、小豆島、観音寺、奈良など追いかけた事があります。今年も藤袴の苗を置いて待って居ました。待つ事でワクワクします。この句気持ちがピッタリです。
- 佐孝 石画
特選句「青空を遊び疲れて野鶏頭」。この句は二通りの解釈に分かれると思う。下句「野鶏頭」の前で切れるかどうかが解釈の分岐点。切れる場合は、作者が「青空」を飽かず眺めた後、視線を下ろした先に出会った「野鶏頭」の鮮やかさへの賛美。切らずに読むと、鶏頭花が空を遊んだ後に地上に舞い降りて、何事もなかったように屹立している不条理な幻想。筆者は読後思わず一句一章として後者の風景を幻視しまったのだが、拙句に「新樹らは空を歩いていたのです」「冬木いま雲上を歩いてきました」があり、この句の解釈を、木々が知らぬ間に空を散歩している世界と重ねてしまったところがある。俳句のセオリー通りならば、「切れ」がある前者の解釈で、「青空」を眺める視線と、「鶏頭」への視線の推移の中で生じる作者の心の揺らめきを表した作品なのだろうし、それもとても魅力的な抒情だと思う。「青空を」の「を」という助詞の斡旋も、解釈に広がりをもたらし秀逸である。「切手には異国の偉人鳥渡る」。視点と季語の配合が秀逸。助詞「に・は」の音感が少し冗漫な気がするので、「は」を抜いて「古切手に」くらいの方がいいかもしれない。「小骨とは違ふ何かが刺さつて秋」。文語ではなく「小骨とは違う何かが刺さって秋」としたほうが「キレ」が出るように思うのだが。
- 菅原 春み
特選句「人逝くに木犀激しく匂うなり」。人が亡くなると神経が研ぎ澄まされ、きゅう覚まで鋭敏になる様子がみごとに書かれています。特選句「すたすたと枯野の犬となりにけり」。犬が野良、野犬になってしまったのでしょうか。枯野に夢中になって行ってしまったと言うことでしょうか? 味わいがあります。
- 漆原 義典
特選句「秋蚊なくほどの恋慕を便箋に」。秋蚊鳴くが、恋慕を便箋に綴る心境をよく表現していると思います。素晴らしい句をありがとうございます。
- 吉田 和恵
特選句「雨はシャンソン十一月の赤い薔薇」。十一月の雨と赤い薔薇の対比が素敵。時雨が赤い薔薇の前でシャンソンに聞こえたらどんなに楽しいことでしょう。
- 大浦ともこ
特選句「北へ汽車父冬耕の野に訛る」。汽車に乗り故郷に向かっているのでしょうか・・郷愁の一句です。特選句「カプセルトイ冬きらきらと転がり来」。クリスマスや雪といった冬の持つ心の弾みのようなものが伝わります。カプセルトイというチープなものに託しているのも面白く「きらきらと転がり来」に様子がうまく表現されています。
- 薫 香
特選句「みどり児があくび誘い秋桜(藤川宏樹)」。ほのぼのとした句に癒されました。
- 山本 弥生
特選句「不器量蜜柑己が如しと山の婆」。狭の山里に吟行に行った日、初めて出逢った婆さんから昔からの知人のようにやさしい声で、屋敷に無農薬で実ったみかんを二個「見かけは悪いけど中味はおいしいのよ」と手渡してくれた。
- 時田 幻椏
「鰯雲ガニ股歩きの父は鳶」。一句に三匹の生き物、ご苦労様です。「言い訳を軽く聞きつつ林檎剥く」。「エロスともアガペーとも手中の林檎」。林檎の句を二つ。『待宵や「うれし」てふ字の女偏』「月光に入れてうすっぺらのからだ」「菊月の鏡の間自刃の間」。月の句三句。「号泣のあと熟寝の子小鳥来る」「ボタン穴掛け違えても冬は来る」。最近の生活実感、 と言う事で。
- 田中 怜子
特選句「それぞれの思い行き交う遍路道」。地味な句だけれど、いろいろな思いで遍路をしよう、ということになった方を淡々とえがいている。映像として傘を目深にかぶって黙々と歩き続ける人、同行二人だけの映像が浮かびます。特選句「古里の梨の重さよ父母よ」。スーパーで梨が高いこと高いこと。数年前まではそうでなかったが、総じて果物の値段はあがっている。しかし、育てるご苦労をよく知っている子供だからこそ、ご両親への敬愛が梨をとおして語られているのがいいな、と思います。ご両親の代で終わらせずに末永く作り続けて欲しいな、と。
- 高木 水志
特選句「言い訳を軽く聞きつつ林檎剥く」。必死で言い訳しているのが馬鹿馬鹿しく思えるくらい、作者が林檎をさくさくとリズムよく軽やかに剝きながら、余裕をもって聞いている様子がおもしろい。
- 綾田 節子
特選句「言い訳を軽く聞きつつ林檎剥く 」。情景が見えてきます。時に必要ですが、言い訳って嫌いです。 どうか手を切らないように。 特選句「鰯雲豪快な空振りである 」。とっても気持ち良い空振りですね 、作者もきっと豪快な方でしょう、爽快です。
- 三好三香穂
特選句「大花野父の翼を拾いけり」。父の翼は、父の夢や希望のようなもの、それを拾って、受け継ぐとは、何と素敵なこと。舞台は、大きな大きな花野である。私の父は凧を揚げたり、紙飛行機を飛ばしたりしていた。その翼であれば、なおのこと嬉しいだろう。
- 植松 まめ
特選句「代役のいない厨に土大根(佐藤詠子〉」。静寂が流れる厨に土のついた大根が置かれています。多分自分の畑で採れた大根でしょう。代役のいないの表現に生きる強い意志を感じました。
- 竹本 仰
特選句「鰯雲破片つなげるように声」:破片という処から、色んなもののイメージが浮かぶ。個々の胸中に広がっている破片、またはどこかの戦場に落ちている破片とも。そこでは声が出ないものの、降って来たように声がする。その声は何だろうか。あるいは「クオバディス(あなたたちはどこへ?)」と言っているのか。意味の広がりを感じさせる句である。特選句「落ち葉して木々箴言の如きかな(稲 暁)」:落葉は時に言葉よりずっと説得力あり、ずんと響いてくるものがある。超言語だ。キャロル・リードの『第三の男』のラストシーンなどそうだった。人生におけるキーポイントには確かに落ち葉があった。というのを思い出した。特選句「カプセルトイ冬きらきらと転がり来」:子供のあの眼の高さで見たカプセルトイには、我々の想像も及ばない夢が詰まっているんだろうなと思う。その眼で見た冬はさらに輝いているんだろう。ああ、あの眼が欲しいなあ。三橋敏雄<かもめ来よ天金の書をひらくたび>を思い出した。♡今年の最終回でした。今年は忙しかったなあ。これからもそうなんだろうけど、よく生きてきた。大げさか。ただよく、ウクライナやガザのことが頭をよぎった。生きるって何?みなさん、またよろしくお願いします。どこかでお会いしましょう。
- 新野 祐子
特選句「母さん撃たれた!くんくんと森へ仔熊」。こんなにせつない句ある?自然と共生する難しさを痛感しています。人間だけの地球ではないことを、もっと根源からかんがえないといけない時代になったと思います。「チャブ台のヒグマに説教松本智津夫(田中アパート)」。松本智津夫がヒグマに説教する?麻原彰晃じゃないところも可笑しい。死刑になった人を可笑しいなんていって悪いけど。
- 塩野 正春
特選句「秋蚊鳴くほどの恋慕を便せんに」。秋蚊のか細い鳴き声の恋? 果たしてどんな恋かなと想像させてくれる。今は言えないが昔は確かに恋だった? あるいは恋そのものが淡い夢だった・・とか。 いつになっても恋は語りたい。特選句「北へ汽車父冬耕の野に訛る」。お父さんは東北出身? 列車が北に走り出す。例えば宇都宮あたりに来ると田んぼが広がり、つい話に訛が出る。実は私もそうなんです。訛は抜けないし、話すことに喜びを感じる。いいな、古里は。準特選句「黄菊茹で鉢にあふるる北訛り」。(もってのほか)とかいう黄色の菊時々取り寄せて食べます。懐かしい味ですね。東北、山形で食べます。ポン酢がよく合いますね。
- 石井 はな
特選句「冬ざれや息はしづかに風になる」。自分の吐いた息が風になって流れていく。自分も自分の息も自然の循環の一部で、全ての物は繋がっている事を感じます。息は息だけでなく思いも乗せて世界と一体になって私は世界と繋がります。
- 滝澤 泰斗
特選句「言い訳を軽く聞きつつ林檎剥く」。どこかで見たような聞いたような句だが、何故か魅かれた。言い訳を言っているのはこちらで、こちらの屁理屈の様な言い訳を、「また、始まった・・・」と、意に介さすに軽く、聞いて、退屈を紛らわすようにリンゴを剥いている・・・これって、家じゃん・・・。特選句「古地図の道標ふらふらと秋の蝶」。一語、一語の言葉の道具仕立てと言うか、揃え方良い。まさに、編んだ一句とでも言おうか。準特選句「北へ汽車父冬耕の野に訛る」。一瞬、作者の立ち位置を探りたくなるが、そんなことはどうでもいい。稲刈りが終わり、ふるさとの土を守る愚直な父の姿を活写した。共鳴句「小骨とは違ふ何かが刺さつて秋」。刺さるのは、言葉か、現象か、人間の厄介さをシンボリックに切り取って印象強し。
- 河田 清峰
特選句「人逝くに木犀激しく匂うなり」。人を引き付けて止まない木犀の香り。大事な人を失ったのであろう!哀しみが身に沁みてくる句。
- 花舎 薫
特選句「鳥を呼び日を呼び返し冬耕す」。これは実際の生活を詠まれたものと思う。抽象的な句が多い中で、景は明瞭で鑑賞していて清々しい気持ちになった。そして一年を通しての労働、大地とのつながりや自然との共存といった作者のストイックな日常も読み取ることができる。「鳥を呼び日を呼び返し」のリズムがよい。一介の農耕者がまるでマーリンのように自然を操っている壮大で美しいシーンを見たような気がした。
- 末澤 等
特選句「私の中のおかしなお化けハロウィン」。人間は誰しも心の中に本人の人間性とは異なるおかしな部分を持ち合わせていると言われていますが、それを「お化け」と表現し、季語の「ハロウィン」と組み合わせているところが大変ユニークだと感じました。
- 向井 桐華
特選句「秋うらら猫の会話のまあるくて」。「猫会議」という言葉があります。どこからか猫が集まってくるのです。その穏やかな光景が浮かびました。秋うららと下五が呼応しています。
- 出水 義弘
特選句「古地図の道標ふらふらと秋の蝶」。古地図に示されている、今も残っているかどうかも良く分からない昔の道標を案内にして歩いている自分は、弱弱しく頼りなげに飛んでいる秋蝶のようである。季節のわびしさが良く表現されていると思う。特選句「枯葉舞う仰向きクスクスくるくると(花舎 薫)」。風に舞う枯れ葉の動きがオノマトペで上手く表現されている。まるで、子供たちが風の中で、笑いながら回り踊っているように、明るく楽しい情景を思い描いた。
- 野田 信章
特選句「鳥を呼び日を呼び返し冬耕す」。一読、日も西へ傾きつゝある冬の野面の様が伺える。暮れ切るまでのあとひと頑張りの気持が、上句から中句にかけての修辞の中に込められているかと思う。それは、雲間から今日の終りのいま一度差し渡る陽光を感得できるからである。再読していると、一句の韻律に籠もるこの気は、遠く農耕社会の中に受け継がれてきた呪術的な儀礼とも底流するものを覚えるところがある。黙々と地に根を張った人の佳句である。
- 三枝みずほ
特選句「白粉の花に泣き顔見られけり」。白粉花を見たことによって自分が泣いている、もしくは泣きたい感情があることに気づいたのだろう。日々の生活の、緊張の糸が切れた瞬間を捉えた一句。夕方にひっそりと開く白粉の花がよく効いている。
- 山下 一夫
特選句「ローゼルの繁り私のセカンドライフ」。ローゼルについて今回調べて初めて知りました。ハイビスカスの仲間らしいのですが、どちらかというとオクラのようなやや野暮ったい花を秋に咲かすようです。しかし食用にされる開花後のがくとほうは、それこそ野暮ったいオクラの比ではない鮮やかな赤色。表現から老後を明るく寿ぐ雰囲気が素敵です。特選句「良夜かなわたし閉じたり開いたり」。月の満ち欠けは潮の干満に影響を与えていますが、それに発して古代から人間の心にも影響を与えると信じられています。特に満月は狂気を引き起こすとも。押さえた詠い振りながらそういった雰囲気が存分に伝わってきます。問題句「マジっすかマジでございます菊日和」。職場などで若い男性の口癖に対して、年長の女性がユーモアで応じる、若しくは、少しイラっとしながら内心で呟いている光景が思い浮かびます。「菊日和」は動くのか動かないのか。なぜか年長の女性を思い浮かべてしまうことから、動かないのかななどと思います。
- 亀山祐美子
特選句「もどらないもう何もない鳶の秋」。去年の暮に実家の墓仕舞い家仕舞いが終わり雑草が生えないように更地をセメント舗装してもらった。誰も住まない家が朽ちてゆくのは母も見たくないだろうと子どもの意見が一致した。瀬戸内芸術祭で賑わい鳶が舞う島に更地が増えただけのことだが、とてもとても遠い土地のことのように思えた。
- 稲 暁
特選句「雨はシャンソン十一月の赤い薔薇」。とてもお洒落な句だと思います。「雨はシャンソン」という表現が魅力的です。
- 銀 次
今月の誤読●「甲板に椅子と灰皿冬銀河(大浦ともこ)」。古い外国航路の貨物船。錆びた鉄の臭いと遠くでうなるエンジン音。わたしの初航海だ。眠れぬわたしは深夜甲板に出た。寒い。コートの襟をきつくあわせて夜空を見上げた。文字通りの満天の星。美しいなんて言葉じゃ足りないぐらい見事な、まさに神のみの描ける極上の芸術だ。「どうだい、素晴らしいだろう」。しゃがれた声がきこえた。振り返ると声の主がパイプをふかしながら椅子に坐っている。白い髭を長々とはやした老水夫だ。「はじめてだってな?」「はい」「ふむ」。短い会話を交わしただけでふたりとも黙りこくった。と、しばらくしたとき、足元に小さな光の粒子が転がってきた。わたしは思わず拾い上げて手のひらにのせた。なんだか少し暖かい。老水夫がいった。「星くずだよ」「星くず?」「ああ、年に一度か二度、海をわたる船には星くずが落ちてくるのさ」。わたしはそんな馬鹿なと思ったが、その光の粒にはなにか得体のしれない生命が宿っているようにも思えた。老水夫はつづけて「そいつは人の願いだよ。こういう厳しい寒さのなかで願いが凍るとそういう粒になるのさ。それをオレたちは星くずと呼んでいる」。わたしはその光を見つめつつ「だとしたら、だれの願いなんでしょう?」と訊いた。「さあな。男か女か、子どもか年寄りかそいつはわからん。叶う願いか叶わぬ願いかも、な」。やがてその光も薄らいでいって、あとに小さな水滴が残った。わたしにはそれが涙のように思えた。「願いは叶わなかったようですね」とわたしはつぶやいた。「どうだろう。案外うれし涙かもしれんぞ」そういって老水夫はニヤリと笑い、ふたたびパイプに火をつけた。
- 藤田 乙女
特選句「良夜かなわたし閉じたり開いたり」。とても魅惑的な句で惹かれました。 特選句「もどらないもう何もない場所鳶の秋」。寂しさや哀しみの感情が強く伝わってきました。
- 森本由美子
特選句「大花野父の翼を拾いけり」。幼児期に父を戦争で失った自分には心に染みる句である。戦後母は父の思い出を子供達にあまり語らなかった。抱っこされた感触の思い出もない。でも心の奥底では、いつの頃からか陽炎のように父のイメージが揺らぎ始め、いつかどこかで触れ合えるような幻想を今でも抱いている。 この句は多分他界された父上への思慕を詠んでおられるのであろう。<父の翼>に深い余韻を感じる。
- 佳 凛
特選句「夫婦獅子戯れ合ヘリ豊の秋」。豊作を祈り、夫婦獅子の舞を神に捧げる。大切な行事、今年は何時もの年より、気合いが入ったのではと、思います。
- 遠藤 和代
特選句「マジっすかマジでございます菊日和」。若者言葉を逆手にとった面白い句で、ちょっと笑える。
- 野﨑 憲子
特選句「ナナカマドの意志あり言語聴覚士」。「ナナカマドの意志あり」に惹かれた。ナナカマドは寒冷地にある赤い実をつける木。「七度竈(かまど)に入れても燃え残る」から、芯の強さの象徴とされている。その芯の強さこそ、言語聴覚士の意志に通じる。言葉やコミュ ニケーションに困難を抱える人々に寄り添い、声にならない思いを汲み取る専門職である。こんな情熱のある言語聴覚士によって引き出される、声にならない声に興味津々だ。それなら、山川草木の声もナナカマドの意志で聞き取れるのではないだろか・・否、きっと聞き取れると強く感じた。
袋回し句会
冬
- 冬青草ひかり撒き散らしてゐたり
- 柴田 清子
- 生かされて遊びせむとや冬紅葉
- 野﨑 憲子
- 冬天へ向日葵ひとつ佇ち尽くす
- 野﨑 憲子
- 生傷に千の色あり冬紅葉
- 野﨑 憲子
- 冬よ来い完全防備受けて立つ
- 三好三香穂
- 廃工場眠れる機械冬ざるる
- 銀 次
- 冬空や一秒もどす核時計
- 藤川 宏樹
- 冬深む水は光を解き放つ
- 島田 章平
動
- 聞こえるも動かぬ口や天志の忌
- 藤川 宏樹
- 波切の不動伊吹の冬恋し
- 野﨑 憲子
- 動く物動かざる物冬の影
- 島田 章平
- 冬のホッチキスニンゲンも動物である
- 野﨑 憲子
バナナ
- バナナ食む秋風を食む兜太
- 野﨑 憲子
- 兜太生誕秋のバナナをどうぞ
- 島田 章平
- お祭りの沿道に欲しバナナ売り
- 三好三香穂
- 秋天にバナナ浮かべて飛行船
- 銀 次
- 予報士の外す小指や秋バナナ
- 藤川 宏樹
神
- 神無月七人余り欠席す
- 柴田 清子
- 久方や神の御前のクリスマス
- 三好三香穂
- 不用意に妻に出会へり神の旅
- 藤川 宏樹
- 古書店の埃にまみれ旅の神
- 銀 次
- 電線にふわりと坐る旅の神
- 銀 次
- 神さへも過ちはあり開戦日
- 島田 章平
- 嗚呼これが神の鼻息からっ風
- 島田 章平
- 大雑把なんですわたし神の旅
- 野﨑 憲子
天志(天使)
- 空缶を蹴れば天使の返事かな
- 銀 次
- 笑ったら天使になれるかも小春
- 柴田 清子
- 天志の秋まあすきなこと言ふてはる
- 藤川 宏樹
- 凡天は梵天天志いつまで神の旅
- 野﨑 憲子
- 天動説の天志よいづこ秋風
- 野﨑 憲子
【通信欄】&【句会メモ】
今回の高松での句会は、参加者が10人に満ちませんでしたが、楽しく熱い句会でした。袋回しのお題に<天志>も出て、増田天志さんを偲びました。
12月13日は、午後2時から番外句会&忘年会を開催します。ブログへの公開はありません。句会は、袋回しのみで、続く忘年会も、存分に楽しみたいと存じます。会場は、ふじかわ建築スタヂオです。藤川さん、お世話になります。申込は6日までにメールで野﨑憲子宛にお願いします。
本年もブログ「海程香川」をご覧くださりありがとうございました。古希を迎えた昨年から年賀状を出すのをやめました。これからも一回一回の句会を大切に精進してまいります。来年の初句会からまたよろしくお願いいたします。少し早いですが、皆さま佳きお年をお迎えください。
令和7年11月26日 野﨑憲子拝
Posted at 2025年11月26日 午前 06:21 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]