第169回「海程香川」句会(2026.02.14)
事前投句参加者の一句
| シベリアに魂拾い来て温泉(ゆ)に入れる | 滝澤 泰斗 |
| 海は日に応えて光る野水仙 | 菅原 春み |
| レアアース凍星砕き序奏とす | 森本由美子 |
| 蝋梅の香に酔ふ俗世を離れ来て | 柾木はつ子 |
| 白梅にひかりあつめて兜太の忌 | 佐孝 石画 |
| 裸樹の鳥点として点々と | 時田 幻椏 |
| 春宵や湯にほろほろと蒙古斑 | 和緒 玲子 |
| てっぺんは空だけがさわれる雪だ | 月野ぽぽな |
| 指切りの小指に春がやって来る | 柴田 清子 |
| 狐の目つくり笑いも板につき | 山下 一夫 |
| 名馬ほどほどほどに無事春麗ら | 藤川 宏樹 |
| しんしんと泉勃起する裸木 | 島田 章平 |
| 生き切ってこその往生「福は内」 | 津田 将也 |
| 女の瞳輝くブルカ脱ぎ捨てて | 塩野 正春 |
| 太鼓打つ血の滾りたる初稽古 | 末澤 等 |
| 星ひかるさんてんいちよん円やかに | 中村 セミ |
| 寒暮しれつとすれちがう影猪(しし)ならん | 野田 信章 |
| ちちははよ病めば布団に小さき吾 | 花舎 薫 |
| 寒鯉の髭がからまるからどいて | 河西 志帆 |
| 湯たんぽを蹴ればボコンと淋しく応ふ | 矢野二十四 |
| 水鳥のふいに未知なる水面下 | 福井 明子 |
| 春耕や眠りし蛙布団剥ぐ | 漆原 義典 |
| 白雲がとぼけてきたよ春隣 | 高木 水志 |
| 激情よ朝霧てさぐりして秩父 | 若森 京子 |
| 日だまりや猫の目をして永遠を見る | 遠藤 和代 |
| 猛る蛇身の内を砂ながれいて | 男波 弘志 |
| 空っぽの自分のなかの空っ風 | 三好三香穂 |
| すうーっと兎発たせて叔母永眠る | 吉田 和恵 |
| 揚がらない凧持ち走る男かな | 榎本 祐子 |
| ベジタリアンこの際捨てて薬喰 | 新野 祐子 |
| 戦無き千本鳥居風花と | 河田 清峰 |
| 水温む水面を叩く鴨の群れ | 出水 義弘 |
| あたたかき余白のありて父の文(ふみ) | 大浦ともこ |
| 風花や我が道を往くことかたし | 石井 はな |
| 土笑うくすぐったくて山笑う | 野口思づゑ |
| 亡きひとと縁側にゐて二月かな | 銀 次 |
| 卵黄の光を春の箸で溶く | 松本美智子 |
| 薄氷や僕ら黙礼の危うさで | 河野 志保 |
| ゆるゆると春の気配やくしゃみでる | 田中 怜子 |
| 春立つや憚りながら演歌なぞ | 荒井まり子 |
| ぼんやりと父の猫背が初鏡 | 松本 勇二 |
| 手から手へ渡す暦よ樽柿よ | 岡田 奈々 |
| キラキラと人混みが好き春満月 | 布戸 道江 |
| 靴盗人は裏の狐よ瓢宿 | 大西 健司 |
| 寒月光ひりり働き甲斐擦り切れ | すずき穂波 |
| 春の雪あなたと此処にゐたやうな | 各務 麗至 |
| 鶴折れば山も谷も吹雪きけり | 十河 宣洋 |
| 初霰三尊像の頬ゆたか | 樽谷 宗寛 |
| 猫背正す蕾ツンつん黄水仙 | 山本 弥生 |
| 手を振れば手を振り返す菜葉服 | 田中アパート |
| みほとけのてのひら厚き抱卵期 | 小西 瞬夏 |
| そよ風や夢のつづきの紋黄蝶 | 松岡 早苗 |
| 蝉氷人形の瞳は開いたまま | 伊藤 幸 |
| ささやかな恋物語梅ひらく | 藤田 乙女 |
| はなうたのひとのみちかけ山笑ふ | 亀山祐美子 |
| 隅っこに着ぶくれているあやまれない | 三枝みずほ |
| 大綿は雲の糸屑かもしれぬ | 川本 一葉 |
| 待春や影やはらかき草の上 | 佳 凛 |
| 迷ふとは人間らしさ梅ふふむ | 岡田ミツヒロ |
| 耕馬往くギリシャ神話の本棄つる | 豊原 清明 |
| 貼り紙の半分ヒラヒラ冬ざるる | 綾田 節子 |
| ダムの底に竈 渇水の春よ | 向井 桐華 |
| 父さんの顔撫で出棺春めいて | 竹本 仰 |
| 枯れ庭に野良の喧嘩や礫打つ | 疋田恵美子 |
| 寒の水ときどき星を汲むように | 佐藤 詠子 |
| 午後二時の生きてる化石日向ぼこ | 三好つや子 |
| 熊撃たれパンダは別れに涙して | 増田 暁子 |
| この星のかなしみ告げよ夕ひばり | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「裸樹の鳥点として点々と」。カメラワークが絶妙な一句。寒々とした木に鳥が一羽やってくる、そしてまた一羽、一羽と。シンプルな言葉使い、多くのことを語らないからこそ、小さくとも懸命に生きる命のありようがしみじみと伝わってくる。
- 松本 勇二
特選句「午後二時の生きてる化石日向ぼこ」。・・・「生きてる化石」という冷静な自己分析が光ります。「午後二時」が生きている感をリアルに表出しました。優々とした日向ぼこです。
- すずき穂波
特選句「激情よ朝霧てさぐりして秩父」。兜太師のあの(アベ政治を許さない)のスローガンが浮かぶ。自民党圧勝の世になった。「朝霧てさぐり」には師の意思を継ぐ者としての意気込みを感じる。「秩父」の結語がそう読ませる。特選句「鶴折れば山も谷も吹雪きけり」。折り紙の銀の鶴が1つ、我が家に飾ってある。お日様があたるととても美しく輝く。この句の鶴も美しく輝く銀色の鶴ではないか。美と哀は裏腹・・・そんなことをふと感じた句。
- 十河 宣洋
特選句「猛る蛇身の内を砂ながれいて」。白蛇伝などの物語を思う。官能的であり危うい心理。特選句「ダムの底に竈 渇水の春よ」。狭い日本。あちこちにダムに沈んだ地域がある。私の生まれ育った村もダムに沈んだ地域がある。ダム底にはいつまでも消えない人の生きた名残がある。
- 綾田 節子
特選句「てっぺんは空だけさわれる雪だ」。豪雪地の方ですね、景が浮かんできます。積もった雪を見上げた時の空は青空と解釈いたしました。屋根の雪下ろしは呉々もお気を付け下さい。もう少しの辛抱です、春がきます。特選句「指切りの小指に春がやってきた」。小指に春がやってきた。がとても効いています。
- 藤川 宏樹
特選句「午後二時の生きてる化石日向ぼこ」。「生きてる化石」は進化せず現存する生物シーラカンスなどを言うが、「午後二時の日向ぼこ」でロダンの「考える人」、化石のように動かない陰鬱な老爺の姿が浮かんだ。かく言う私もいい年なので、シーラカンスには悪いが「生きてる化石」にはなりたくないなぁ。
- 伊藤 幸
特選句「冬空に一本の杭師の気魄かな(樽谷宗寛)」。今回は今年の厳しい余寒のせいでしょうか。どの句も気魄に溢れていたような気がします。特に掲句は兜太先生の遺志を継いで歩いて行こうとする力強い姿勢が感じられました。特選句「見上げれば夜のやさしさ青鮫忌」。兜太先生には力強い信念の中にもお日様のような穏やかで優しい笑顔があった。空を見上げれば「オウ!」と 手を挙げて挨拶されたその笑顔が今でも忘れられない。
- 豊原 清明
特選句「父さんの顔撫で出棺春めいて」。父との別れを、切実に感じる。問題句「男ひかるさんてんいちよん円やかに」。大きな星空に人間の暮しを思う。
- 岡田 奈々
特選句「レアアース凍星砕き序奏とす」。今血眼になって世界中が探しているレアアースこんなものに頼らない地球でいたいものです。特選句「てっぺんは空だけがさわれる雪だ」。ふわふわの雪。触れられるようで、触れば融けてもういない。空は雪の母。可愛い子だ。「枝先に光ふくふく二月尽」。ふくふくのオノマトペが自然の暖かさに触れた気がする。「日だまりや猫の目をして永遠を見る」。猫っていつも視線が遠くを見ている。今だけでなく全てを見通せる力を持っているのかも。ちょっと借りて私も先を見たい。「ベジタリアンこの際捨てて薬喰」。分かります。私も通った道。やっぱりこの歳になったら、美味しいものは食べたい。「とぅびしゅばっと木たちが目を覚ませば春」。上の句がとても新鮮で新しい伊吹を放っている。「キラキラと人混みが好き春満月」。暖かくなって人出が増えると満月も輝き出す。「初霰三尊像の頬ゆたか」。霰の寒くて堅い様子と仏像の温かくて柔らかい様と対比が素敵。「寒の水ときどき星を汲むように」。張り詰めた様な寒の水。輝く星を汲んでいるような錯覚も。「午後二時の生きてる化石日向ぼこ」。日向ぼこをしている老人はやはり化石でしょうか?♡今月は海程香川句会参加出来て良かったです。お腹よじれるほど笑いました。有難うございました。
- 各務 麗至
特選句「はなうたのひとのみちかけ山笑ふ」。たぶん「ひとのみちかけ」とは人の生老病死だろう。喜怒哀楽の人生だろう。「はなうた」で始まり「山笑ふ」で一句にして、悲しさや苦しさにも負けず明るく強く生きようとしている姿、そんな克己ややさしさが見えて来るのは平がなだからだろうか。漢字は往々にして一つの意味を強要することになるが、平がなは音韻や視覚から読み手の経験や知識がかさなり働く。読み手にとって良くも悪くもなる危うさがないではないが・・・・。そこがまた俳句の豊かさかも知れないなどと私は思ってみる。特選句「迷ふとは人間らしさ梅ふふむ」。平がなではないが、先の鑑賞の意味あいをそのままこの句にも当てはめたい。人間だからこそ迷いの人生なのだ。
- 津田 将也
特選句「白雲がとぼけてきたよ春隣」。「白雲がとぼけてきたよ」は、典型的な擬人法(比喩の一種)です。動かない白雲が、まるで意思を持っている人間のように、とぼけ、知らんぷりする様子を描写しており、もうそこまでやって来ている「春隣」を、ユーモアたっぷりに表現しています。
- 柴田 清子
特選句「あたたかき余白のありて父の文(ふみ)」。父と子の愛あふれんばかりの句になっている。「鶴折れば山も谷も吹雪けり」。折鶴からの発想の吹雪、最高に素晴しい特選です。特選句「父さんの顔撫で出棺春めいて」。父との最后の別れの瞬間が、あたたかく詠まれています。
- 福井 明子
特選句「薄氷や僕らが黙礼の危うさで」。「薄氷」には、ちぢこまるような寒さのなかに、早春の明るさがこめられていると思うのだが、この句には、世界の危うさが……。杞憂であってほしいのだが。
- 花舎 薫
特選句「亡きひとと縁側にゐて二月かな」。二月とは思えない陽気に縁側に出てみたのだろう。目を閉じて温もりを感じればいつものように彼が隣にいる気がする。愛する人の死を受け入れる始まりかもしれない。気付かぬうちにもう春は来ている。特選句「卵黄の光を春の箸で溶く」。卵、光、春の柔らかく明るいものを重ねて、それを箸で混ぜ合わせるというとても綺麗な句。混ぜるではなく溶くとしたところも効果的。とろりとした卵の形状や黄金色の光が見えるようだ。
- 柾木はつ子
特選句「春宵や湯にほろほろと蒙古斑」。赤ちゃんを湯舟で洗っている時の情景かなと思いましたが、暖かいお湯の中で優しく洗って貰っているお尻。気持ち良く恍惚とした赤ちゃんの表情が目に見えるようです。特選句「午後二時の生きてる化石日向ぼこ」。最も暖かくゆったりしたこの時間、陽だまりに溶け込むように眠りこけている人の姿を思い浮かべました。「化石」の表現に納得です。 本文
- 布戸 道江
特選句「寒鯉の髭がからまるからどいて」。寒の鯉が群がる景、からまるどいての会話調がおもしろい。「春の雪大地に戦ひを許し」。雪積もるウクライナテレビで見るといつまで戦争が続くのかとあきれる。「既製品の言葉はだめよ猫の恋」。俳句をつくる時に当てはめて。「 卵黄の光を春の箸で溶く」。卵黄の光、春の箸とゆう詩的表現。「最初はぐうみんなゐなくて椿散る」。椿のつぼみはぐうの形、写生と時間の経過。「寒の水ときどき星を汲むように」。満天の星空、写す寒の水、詩情溢れて。以上。
- 大西 健司
特選句「揚がらない凧持ち走る男かな」。「不器用ですから」そんな声が聞こえてきそう。何となくタイミングがとれない男の悲哀、人生に通じるものがある。ユーモラスでいて哀しい。問題句「湯たんぽを蹴ればポコンと淋しく応ふ」。何ともいえない味のある一句。だけどもったいなあと思わせる、この破調。なぜ下七なの。「湯たんぽ蹴ればポコンと淋し音のする」「湯たんぽを蹴ればポコンと応ふかな」こんなところかなと思いつつ、勝手にいろいろ考えている。仕上げを大切に。「薄氷や僕ら黙礼の危うさで」。危うさで 〝で〟を抜いていただいた。あしからず。
- 田中 怜子
特選句「新聞を我が幅に畳み初電車(布戸道江)」。世界も日本も、ゆとりなく排他的世界に陥っている。私にとっても落ち着かないいらいらした日々が続いている。そのような時でも、毎日同じ時間に出勤し、電車の中で自分の幅に新聞を畳み・・・と淡々と生活することの大事さを感じさせてくれている。“我が幅に畳み”がいいですね。初電車とは、初出勤の電車なのか、その日の一番電車なのか?特選句「熊撃たれパンダは別れに涙して」。去年から今年にかけての出来事、今までの人間の欲望の結果ですよね。そして、パンダにはうかれて! パンダも政治的戦略に使われている。人間の欲望、駆け引きの自然、動物世界に現れた結果ですね。
- 三好つや子
特選句「しんしんと泉勃起する裸木」。寒さに耐えながら、梢や枝にあまたの芽をつける冬木。「勃起」という言葉によって、裸木の雄々しさがワイルドに描かれ、肉感的なアニミズムの詩情を感じました。特選句「蘖やおのずと閂はずされて(若森京子)」。老いてゆく日々であっても、ふと心身に力のみなぎるときがあり、それは切株に萌えでる若い芽と似ているかもしれません。死というゴールに向かい、晴れたり曇ったりする日を、肯定的に受け止める老境をこの句から学べそうな気がします。「土笑うくすぐったくて山笑う」。地中の種が割れて芽をだし、緑がうっすらと広がる地面に、虫たちがぞわぞわと這う。そんな頃を「土笑う」と表現し、「山笑う」と着地させた、惚れ惚れする一句。「寒の水ときどき星を汲むように」。寒々と透けた水面に映る星空。寒の水の神秘さをリリカルに紡ぎ、魅せられました。
- 漆原 義典
特選句「指切りの小指に春がやって来る」。春を待つ心が指切りの小指と良く表現されています。素晴らしい句をありがとうございます。
- 和緒 玲子
特選句「幼のカタコト詩篇のように斑雪(伊藤 幸)」。幼子の単語ばかりのお喋りはカタコトでまるで詩篇のようであり、斑らに残った雪のようであるという把握。句のぷつっぷつっとした切れもまるでカタコトのよう。片仮名表記もよい働き。
- 野田 信章
特選句「寒の水ときどき星を汲むように」。古来より新年の若水や寒の内の水は命の水とされてきたものである。ここには昼間とは異なる汲水場の情景が展けている。夕星、夜星の配合により「寒の水」そのものの質感が如実に把握されている。この句の彼方にあるとおもえる次の一句を想起するところである。<一夜汲み二夜風を汲み花すすき(三井絹枝)>→三井絹枝さんとは、毎年の全国大会の後の吟行でご一緒させていただきました。少女のような美しい笑顔の感性豊かな憧れの先輩でした。彼女の句集『狐に礼』・・名作です。
- 塩野 正春
特選句「白梅に光集めて兜太の忌」。金子先生の句には梅、中でも白梅がたくさん出てきます。先生にとって白梅は平和を意味する重要な空間と理解します。白梅が能動的に光を集める・・との表現に平和を求める奥深い情景が見えます。(兜太の忌)と付きすぎの感も少しありますが、私は先生のお気持ちを強く捉えた一句と見ます。特選句「老いの機敏描く老優寒昴(野口思づゑ)」。老いを演じることは実際の老いの姿を見せるより難しいかもしれません。小津安二郎監督の映画などで静かな老人の仕草を見ますが、単なる(老)を表現するのではない微妙な空気が伝わります。手の動き、箸や茶わんの持つ仕草など、名作と言われる所以です。この句の作者は恐らくご自分で舞台を演出されておられるのではないかな?と思わせるほど切込み鋭い描写ですね! 寒昴との季語によって句を広げています。うまく表現できてないかもしれませんが特選句とさせていただきました。問題句「耕馬往くギリシャ神話の本棄つる」。ギリシャ神話調べてみましたが農耕馬に関連するのが見当たりませんでした。が、なんとなく惹かれる句です。作者のお気持ちが知りたいと思います。 ♡ 作者の豊原清明さんからのメッセージを以下に「評、ありがとうございます。石寒太の『よくわかる歳時記』の「耕」を読み、いい風景と思い、頭の中の風景を作ったので、ギリシア神話のエピソードにはなかったのかと、分かりました。参考にします。感謝します。」 自句自解「女の瞳輝くブルカ脱ぎ捨てて」。ネットXだけの情報です。地上波は全く無視していますがイラン革命2026でイランの人々1~2万人が殺されています。多くはISISイスラム過激派テロリストに征服された方々で、多くの女性が犠牲になっています。勇敢な一部の女性は、これまで強制されていたブルカを脱ぎ立ち上がりました。瞳が大きく輝いています。現在アメリカとイスラエル、その他中東の部隊が彼女らを救いに向かっています。俳句には沿わない情景ですが金子兜太先生のトラック島でのお話を思い出して出句しました。「尊厳死と決めし友梅一輪みて寝入る」。 実際に私が経験したことです。私の外資系時代の上司がスイスの故郷に戻って居りました。しばらくそこに私の長女が私の代理で滞在していたのですが、突然安楽死を選ばれました。ホスピスに入院して数日の事です。安心したのか‘もしれません・・が娘に電話で大泣きされました。辛い話が多いですが皆様にお判りいただければ幸いです。
- 若森 京子
特選句『生き切ってこその往生「福は内」』。季語の「福は内」がいきいきと臨場感となって豆が飛んでくる様だ。上五,中七,の措辞が強く迫ってくる。特選句「ちちははよ病めば布団に小さき吾」。実感として精神的,肉体的にも病んでいる時は、この歳になっても、ちちははに縋ってしまう人間の弱さがある。
- 島田 章平
特選句「あたたかき余白のありて父の文(ふみ)」。父の文は無駄がなく、さっぱりとしている。しかし、余白の中に、子供たちに対する愛情がさりげなく表れている。そんなことに気がついた時は父はもういない。
- 矢野二十四
特選句「隅っこに着ぶくれているあやまれない」。情景描写が巧み。下句の口語体の独白に生身の人間が出ている。パンチの効いた句。「春浅み月のしずくもこぼれ落ち」。ロマンティックな和歌の世界。「雪原や狐振り向くローカル電車」。北国の旅。狐に対する目線がローカル線の旅情へ誘う。「新聞を我が幅に畳み初電車」。平凡な詠み振りにサラリーマンのペーソスあり。中八を身幅とすれば中七で特選。「ちちははよ病めば布団に小さき吾」。病めばがややあいまい。成人の作者が現に病んでいる景なら特選。「揚がらない凧持ち走る男かな」。私のことを言っている。「蝉氷人形の瞳は開いたまま」。季語の使い方が上手い。「春雪や書架に娘の愛読書」。季語が利いている。娘さんは今どこに居られるのだろうか。「父さんの顔撫で出棺春めいて」。具体的な描写と季語の使い方が佳かった。「寒の水ときどき星を汲むように」。透明感のある句。
- 植松 まめ
特選句「海は日に答えて光る野水仙」。現代詩の講座のS先生の故郷が伊豆の下田でした。先生が亡くなられたあと受講していた友人と下田を旅しました。海と灯台と野水仙で有名な爪木崎へ行きました。素晴らしい先生でした。特選句「指切りの小指に春がやって来る」。この句が好きだと連れ合いに言うと少女趣味と言われましたがわたしは今でも夢見る乙女です。
- 川本 一葉
特選句「白雲がとぼけてきたよ春隣」。春待つ心を力を抜いた表現が読み手の心を捉えました。今もそして春になれば良いことがあるような、幸せな優しい気持ちになれます。
- 末澤 等
特選句「初霰三尊像の頬ゆたか」。三尊像とは、おそらく釈迦三尊像のことと思いますが、あられが降っている厳かな静寂の中で、釈迦如来が穏やかな微笑みをたたえて座っておられる姿が見に浮かびました。お釈迦様の微笑みで、世界中で繰り広げられている戦争や争いが一日も速く無くなればとの思いで、取らせていただきました。
- 榎本 祐子
特選句「鶴折れば山も谷も吹雪けり」。一枚の紙を山折し谷折りし鶴を形作る。その工程に、一折ごとに作者の心を過るであろう何かを思わせる。
- 三枝みずほ
特選句「薄氷や僕ら黙礼の危うさで」。本来黙礼は日本社会における作法や礼節であるが、《黙礼の危うさ》となればどこか抑圧された社会を思う。僕らと複数にすることでより鮮明にその危うさを意識した。特選句「はなうたのひとのみちかけ山笑ふ」。鼻歌という言葉を持たない歌だからこそ、人の満ち欠けを鋭敏に感じられるのだろう。自然のリズムと共鳴した一句。
- 佐藤 詠子
特選句「湯たんぽを蹴ればポコンと淋しく応ふ」。ポコンという音が響くほど静かな夜。たんぽを擬人化していて滑稽さに惹かれました。私も湯たんぽが親友なので(笑)ただ、下五がやはり長くてもったいない気もしました。「湯たんぽを蹴ればぽこんと応ふだけ」ぐらいでどうでしょうか。「淋しく」という言葉を入れなくても、ぽこんだけで淋しさが伝わると思いました。特選句「隅っこに着ぶくれているあやまれない」。あやまれない不器用さが伝わり切ないです。着ぶくれているのは寒いからだけじゃなく、自分の殻に閉じこもっているという意味も感じます。家族の日常の中に時々ある一コマですね。
- 岡田ミツヒロ
特選句「音読の抑揚を出て白兎(三枝みずほ)」。音読による精神の活性、いま殻を破って外界へ飛躍せんとする白兎。か弱い白兎の懸命な姿が彷彿とする。特選句「あたたかき余白のありて父の文(ふみ)」。「あたたかき余白」のフレーズが心に沁みる。寡黙で暖かい父親像、それでこそいつまでも子の心に残りその人生を支える存在となりうるのであろう。
- 亀山祐美子
特選句『春寒し蝋の匂ひのあばら骨(和緒玲子)』。この感性には脱帽です。魚のあばら骨ではつまらない。ここはやはり自分自身のあばら骨でしょう。匂うはずのないあばら骨の匂いを嗅ぐ寒い春の朝の寝床。あるいは入浴で衣服を脱ぎ捨てて嗅ぐ己が体臭の温み。きっと痩せていらっしゃるのでしょうね。おもしろい一句です。
- 中村 セミ
特選句「蝉氷人形の瞳は開いたまま」。仕事でA県の山奥の会場に行く途中神社があった。合格祈願をしていたら、手水鉢があったので、手を洗おうと水にさわったら凍っていた。蝉氷の下に人形があったので、パリパリ割り人形を手に取った。その時それは目を見開いた。ぼくは何か危ないものを感じ目を瞑った。それから、ゆっくり目をあけると誰かが目の上の氷を割り僕をとりあげた。・・蝉氷人形の瞳は開いたまま・・
- 月野ぽぽな
特選句「白梅にひかりあつめて兜太の忌」。「白梅や老子無心の旅に住む」を世に贈り、梅の季節に旅立った兜太師への敬愛の心に満ちた一句だと思います。素晴らしい作品をありがとうございます。
- 山本 弥生
特選句「あたたかき余白のありて父の文(ふみ)」。父からもらった手紙は、いつも余白の方が多い。その余白に、父のやさしさや、あたたかさが詰まっていて、父の愛情の深さを知る事が出来て嬉しい。
- 疋田恵美子
特選句「女の瞳輝くブルカ脱ぎ捨てて」。「ブルカ脱ぎ捨てて」抑圧からの解放感。自由な自分を取り戻す意志の強さを感じます。
- 増田 暁子
特選句「春宵や湯にほろほろと蒙古斑」。幼い子と湯に入りまだ消えない蒙古斑が揺れている。平和な春の宵が続きますように。
- 新野 祐子
特選句「土笑うくすぐったくて山笑う」。何という大らかさ、のどかさ、アニミズム、これが世界をおおえば戦争などなくなります。
- 樽谷 宗寛
特選句「靴盗人は裏の狐よ瓢宿」。まずおもしろいなあ・・童話の世界を想像させました、靴盗人が狐であるとは。それに瓢宿の季語がよい。鄙びた村の宿かな瓢があちこちぶら下がり、風さえ感じました。
- 河田 清峰
特選句「蝉氷人形の瞳は開いたまま」。人形の瞳の薄氷に蝉氷とは哀しい。
- 松本美智子
特選句「寒月光ひりり働き甲斐擦り切れ」。ブラックな職場といわれている職業について何年になりましょうか。来年度でとりあえずの退職となりますが,たくさんの同僚が体調や精神的不調を訴えてぎりぎりのところで頑張っています。「働き甲斐」を凌駕するほどの「繁忙」に精神的に参っています。最近「働き方改革」について最近学んだばかりでこの句がとても気になりました。擦り切れないように,あと一年頑張りたいと思います。♡よろしくお願いします。球春到来。明日から宮崎でおこなわれているヤクルトのキャンプを見学してきます。WBCのキャンプもしていて,宮崎は賑わっているようです
- 佳 凛
特選句「迷ふとは人間らしさ梅ふふむ」。迷うから人間なのか、人間だから迷うのか、考えさせられる一句です。
- 遠藤 和代
特選句「指切りの小指に春がやって来る」。どんな春なのか想像するだけで心が弾んできそうな句ですね。特選句「亡きひとと縁側にゐて二月かな」。亡きひとと縁側にいて、と言いきっているところにひかれました。
- 吉田 和恵
特選句「薄氷や僕ら黙礼の危うさで」。黙礼の曖昧さが僕らという複数形でふくらみ、その危うさが薄氷に集束されている。過度とも思える気遣いの一方で責任を伴わないヘイトや中傷誹謗がSNS等で拡散されていることに対する批判ともとれる。
- 松岡 早苗
特選句「猛る蛇身の内を砂ながれいて」。「猛る蛇」の荒々しい生気と、己が身の内をながれる「砂」という無機質な感覚の取り合わせが新鮮で、強烈なインパクトがありました。特選句「薄氷や僕ら黙礼の危うさで」。初恋かなにかプラトニックな関係性を想像しました。朝すれ違うときのヒリヒリするようなドキドキ感。純粋さ故に、時には鋭く傷付けたり傷付いたりもする。
- 佐孝 石画
特選句なし。「てっぺんは空だけがさわれる雪だ」。おそらく天上で雪が生まれる瞬間のシーンだろう。空だけが「さわれる」という幻想は、この世で目にすることのできない数々の奇跡があるはずだという希望につながっている。その希望の念こそアニミズムというのかもしれない。ガザ、ウクライナなどの殺戮を含め、人間界の泥濘と対照にある世界。それが「空だけがさわれる」世界なのだろう。「我を知る匂いが足りぬ蝋梅よ」。我をの「を」という助詞が、内省的な方向性を纏い、ミステリアスで哲学的な雰囲気を醸し出している。ただ最後の「よ」がやや蛇足感あり。「揚がらない凧持ち走る男かな」。微笑ましく、ユーモラス。風のない日に子に愛を注ぐ父親像か。「亡きひとと縁側にゐて二月かな」。金子先生のご命日も2/20ですね。「凸凹は只の特性ねぎぼうず」。「只の特性」という諦念めいた言い回しは、日常のさまざまな苦境に響いてくるように思う。
- 河西 志帆
特選句「シベリアに魂拾い来て温泉(ゆ)に入れる」。映画「ひまわり」の果てしない凍土が忘れられません。上田城に「凍傷者カアヤンカアヤンと呼びて逝く」という地元の俳人、板垣峰水さんの句碑があります。でも、この句に出会えて救われた気がします。温かい温泉に入れてあげて下さい。戦争のばかやろう!といいながら。特選句「春宵や湯にほろほろと蒙古斑」。二人の子供にも、四人の孫にも、蒙古斑がありませんでした。私の子供の頃、銭湯で見る子供のお尻には、くっきりとありました。あのモンゴロイドの青い印はいったい何処にいってしまったんだろう。特選句「てっぺんは空だけがさわれる雪だ」。子供のつぶやきのような、大人の嘆きのような、この形が好きです。その雪を四年見ていません。俳句は面白いですね。こんなに唸らせてくれる。特選句「隅っこに着ぶくれているあやまれない」。この隅っこを知っています。ごめんねを言いたいけど言えないのか、それとも絶対言う必要がないから口を閉じているのか。そのどちらかですよね。多分!どうぞもう少し、隅っこにペタンと座っていて下さい!
- 野口思づゑ
「狐の目作り笑いも板につき」。何も特別な出来事でもないのに、卵黄の、光と例えた鮮やかな黄色、それを溶いた箸を、春の箸と、いかにも箸を軽やかに使っているような日常の光景が柔らかく浮かんできました。「狐の目作り笑いも板につき」。作り笑いなど一種の媚びを武器に、今の地位を得た方ですが、この場での作り笑いに私たちも慣らされてきました。季語の狐が効いています。ただこの「目」は形は笑でも凄みがありますよね。「一人欠け戸惑う春の台所」。 「戸惑う」に悲しみがこもっています。「隅っこに着ぶくれているあやまれない」。「あやまれない」とあるのでご自分のことなのでしょうけど、不貞腐れているような照れているようなユーモアを感じます。以上です。
- 森本由美子
特選句「シベリアに魂拾い来て温泉(ゆ)に入れる」。 鋭い矢のように胸に刺さる句です。凍土に絶えた数しれぬ命、同じ時代の人間でありながら生きながらへて祈ることしかできない自分。心の底にこびり付いていた哀惜の念を解きほぐし、この句は改めてそれを全身に巡らせてくださいました。
- 銀 次
今月の誤読●「裸樹の鳥点として点々と」。その朝、わたしは離婚届を手に家を出た。署名も押印もすんでいる。あとは提出すればいいだけだ。決心したつもりだった。だが迷いも残っていた。だからだ。思ってたのとは違い、スッキリもせず晴れ晴れともしなかった。こんなはずではなかった。足取りは重く、一歩一歩が頼りない。なんだか頭もボンヤリしている。そのせいか見慣れた風景もいつもとは違って見えた。十メートルほど先にある一本の裸木になにやら点のようなものが見える。それもひとつではなくいくつもだ。まるでモダンアートの画家がデタラメに線を引いて、そこに気のおもむくままにポツリポツリと筆を入れたようだ。「どうかしている、わたし」。そう思いつつそれがなにかを見極めようと足を早めた。と同時にヒューと音がして一陣の木枯らしが吹いた。とたん点はほどけ一斉に羽ばたいて空に舞い上がる。鳥だ。鳥の群れだ。点だと思っていたのは生きものだったのだ。だが一羽だけ残った鳥がいた。いや点だ。その点は点のまま残っている。残った点はほとんど動かない。飛ばない選択も、残った理由もわたしにはわからない。たしかなことはそれが点であり、いまのわたし自身であることだ。離婚届を出そうか出すまいか、この期に及んで迷っているわたし。わたしは心のなかで「飛べ、飛べ」とその点に向かって叫んでいた。点でいたいのか、それとも鳥になって羽ばたきたいのか。点のまま無機質に生きるわたしと、鳥としていきいきとして大空を羽ばたくわたし。さあ、どちらを選ぶのだ。点よ。そしてわたしよ。
- 河野 志保
特選句「すうっーと兎発たせて叔母永眠る」。永訣の場面が不思議な映像で表現されている。「兎」と一緒に旅立って行ったということだろうか。民話のような温かさを感じた。いつも思うのですが、選句や選評は本当に難しい。金子先生が朝日俳壇に書いてらしたあの選評が好きでした。的確で簡潔、作者への真心も感じられて。
- 滝澤 泰斗
特選二句「白梅にひかりあつめて兜太の忌」「百年の枯野ゆく兜太の孤島(島田章平)」。今月はいつも以上に秀句揃いで、選句泣かせ・・・それでもやはり、先生の忌は外せない。多くの人が選ぶに違い無いと思いながら・・・。特選に推したい秀句「老いの機微描く老優寒卵」。難しい季語「寒卵」のお手本の様な一句。「名馬ほどほどほどに無事春麗ら」。競馬ファンとして納得の一句。「ちちははよ病めば布団に小さき吾」。しみじみ・・・いい句だなぁ。「空っぽの自分のなかの空っ風」。なかなかに言い得て妙・・・。「土笑うくすぐったくて山笑う」。なるほど・・・そう来たか。「卵黄の光を春の箸で溶く」。理屈抜きに上手い。「最初はぐうみんなゐなくて椿散る」。私もそんな年になった。知った人がいなくなる世ほどつまらないものは無いかもしれない。「耕馬往くギリシャ神話の本棄つる」。捨てがたい一句・・・困った。
- 高木 水志
特選句「あたたかき余白のありて父の文(ふみ)」。ふだん多くを語らない父親がしたためた手紙を見て、その余白に春の暖かさを感じたところが素敵だと思った。
- 山下 一夫
特選句「音読の抑揚を出て白兎(三枝みずほ)」。音読の抑揚つまりリズムと兎が跳ね走る様子、読んでいるテキストの余白と白がシンクロ。後先を言うと音読からなのでしょう。飛躍のあるイメージに無理なく移行していく感性と手際が素晴らしい。特選句「春の雪あなたと此処にゐたやうな」。ピンク・フロイド「炎~あなたがここにいてほしい」は一九七五年に全米一位となった大ヒットアルバムですが、五十年を経て再びランキング一位(全英)となりました。掲句はその出だしの楽曲「狂ったダイヤモンド」の世界そのものです。歌詞に「春の雪」は出てきませんが、夢幻的なエレキギターの音色がまさにそれなのです。問題句「自家受粉できぬ白梅鮫交る(時田幻椏)」。「白梅」は老子の句、「鮫」は青鮫の句、「交る」は谷に鯉の句と兜太師を想わないわけにはいきません。やり過ぎの感は否めませんが、「自家受粉できぬ」に込められたもどかしさ、師を恋う心や喪失感に共感します。
- 向井 桐華
特選句「白梅にひかりあつめて兜太の忌」。白梅は香りも強く青空にとても映える大好きな花です。私は兜太先生にお会いする事は叶いませんでしたが、これからは白梅を見るたびに兜太先生を想うことでしょう。
- 竹本 仰
特選句「ちちははよ病めば布団に小さき吾」:幼い頃はよく病気する。すると、否応なく更に以前の幼児体験に戻ってしまう自分がいる。臨床体験というのは、限りなく自身のルーツに戻される。それは前進が出来ないからつき戻されるのか、それとも自分の根幹がつねにあってやっと振り返るのか。自分自身も九時間の大手術の前夜、しきりに亡き父のことを思い出し、世界の広さと自身の小ささにあらためて気づき、かえって不思議な満足感を覚えたことがあった。よく昔は友達と、病気の時は教育テレビがいいね、と語ったことがあるが、生老病死、人間って、そう出来てるんだろうか。特選句「あたたかき余白のありて父の文」:父からの手紙は、独特の味がした。文面にすでにハニカミがあった。母からの手紙に比べ、声がやや遠く、しかも格好を気にして、時々口ごもっている。そんな凹凸というか、曲折というか、振り返ると、けっこう面白いものだったに違いない。そんな父親の、寡黙な余白、じつに心にくくて、いい句だと思う。特選句「そよ風や夢のつづきの紋黄蝶」:夢体験というのは、共通したものがある。この二か月ほど毎日、夢を見ているが、三日前は危険な傾斜の山道に差しかかった夢。回り道をして、なぜか下の道に出てから、その危険な道を上ろうとしていた。その時、道端に姿を現したのは、何と紋黄蝶だった。同じ紋黄蝶とは言わないが、何かこの句に懐かしさを覚えた。♡バタフライエフェクトという言葉がある。どんな小さな出来事にも大事件につながる可能性がある。逆に言えば、何一つ無視できる事象はない。俳句って、そこだろうか。むしろ、そんなエフェクトをこそ見い出せと。それではまた、よろしくお願いします。
- 菅原 春み
特選句「大綿は雲の糸屑かもしれぬ」。雲の糸屑といった俳人はなかったのでは? 発見に感動です。特選句「父さんの顔撫で出棺春めいて」。悲しいけれども精いっぱい介護なさって納得した様子が季語にあらわれています。春めいて、いいですね。
- 男波 弘志
寸感「我を知る匂いが足りぬ臘梅よ」。徒に芳香を放っている自己などは何処に もないであろう。自己とは造花そのものであるから。だが、作者はまだ思春期の自我に未練があるのであろう。そういう執着をころがして遊んでいるのだろう。準特選。「寒の水ときどき星を汲むように」。一切の描写はない、だが観えているものがある、これを写実というのであろう。準特選。
- 石井 はな
特選句「一人欠け戸惑う春の台所(佐藤詠子)」。ご家族を亡くしたのでしょう。食事の用意も一人分減らして作るのだけど、慣れないし手順が狂ってしまう。大事な人を亡くした悲しみは、思わぬ所に隠れています。それにつけ、あれにつけ悲しみはふっと湧いてくる。台所で呆然としている姿が浮かびます。春の季語に前を向こうとする姿勢が伺えます。
- 三好三香穂
「シベリアに魂拾い来て温泉に入れる」。シベリア抑留された方を何人かぞんじあげています。それぞれに壮絶な経験をされ、無事帰国したと思うと、ソ連のスパイに間違えられたりと、中々に辛い思いをされたと聞いています。この方は帰国を果たせられなかったのでしょう。寒く凍えた魂を湯に入れる思いで、一緒に温泉に入っているのでしょう、遺族の方の切ない思いが伝わって来ます。戦争は理不尽な悲劇を作ります。ウクライナでも、一旦挙げたロシアの拳はなかなかに降ろせなく、悲劇が続くばかりです。「てっぺんは空だけがさわれる雪だ」。富士山は人が登れるけど、中国の又ヒマラヤのある山は、宗教信仰の対象であり、登ってはいけない神聖な山があるそうです。おそらくそういう山のてっぺんの雪のことだと思います。空だけがさわれる…と表現したことが面白いと思いました。
- 大浦ともこ
特選句「湯たんぽを蹴ればポコンと淋しく応ふ」。ポコンというオノマトベが素朴な響きで湯たんぽの余熱のような淋しさが伝わってきます。特選句「鶴折れば山も谷も吹雪けり」。上五の鶴折ればの静寂が吹き荒れる吹雪の激しさ、自然の厳しさを際立させています。
- 出水 義弘
特選句「枝先に光ふくふく二月尽(松本美智子)」。四温の日もあり、春が少しづつ近づいている様子が、枝先の「光ふくふく」で良く表現されていると思います。春よ早く来い、の気持ちいっぱいです。特選句「あたたかき余白のありて父の文(ふみ)」。「文は人なり」と言われます。きっとお父さんは心の余裕のある方でしょう。父親を慕う気持ちが良く表れています。
- 野﨑 憲子
特選句「見上げれば夜のやさしさ青鮫忌(佐孝石画)」。師のご命日は、兜太忌、もしくは「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」に因んで青鮫忌とも称される。この句はご自宅の白梅が咲き、春の兆しが満ちた折、庭が海底のような青い気に包まれ、そこに精悍な青鮫が泳ぎ出すという幻想の景から生まれたという。生命力に満ちた一句である。その奔放な「青鮫」のイメージを踏まえつつ、見上げた先に広がるのは、闇ではなく、どこか人を包み込むような<夜のやさしさ>である。それは、師の面影をそっと呼び起こし、夜空の奥に青鮫の気配がゆるやかに漂うようでもある。師への敬愛と追悼のおもいが溢れんばかりに伝わってくる。特選句「寒暮しれつとすれちがう影猪(しし)ならん」。寒暮の薄闇に〈しれっとすれちがう〉猪の気配が、不気味さと臨場感を生んでいる。影のように通り過ぎる野生の気配が、読後に静かな余韻を残す。姿ではなく空気感で存在を示す点に、「猪が来て空気を食べる春の峠」(兜太)との響き合いが感じられる。
袋回し句会
兜太・青鮫・種
- 屋根葺(ふ)きて青空が青鮫になる
- 中村 セミ
- 兜太まく種緑泥片岩の春の川
- 岡田 奈々
- 種蒔くや約束ひとつまたひとつ
- 銀 次
- そうきたかと笑まふ落日兜太の忌
- 野﨑 憲子
- 思ひ出したやうな突風青鮫忌
- 和緒 玲子
- 水槽の鮫と目の合ふ兜太の忌
- 和緒 玲子
- 見返ればまた種が降る鷺娘
- 野﨑 憲子
- 青鮫忌戦の止まぬ国数多
- 島田 章平
- 青年の永き助走や青鮫忌
- 大浦ともこ
- 種をまく野面を芽吹く音のして
- 島田 章平
- 青鮫の背中を踏みて春渡る
- 三好三香穂
チョコレート
- 二人よりひとりがいいのチョコレート
- 柴田 清子
- 冬ざるる夫婦別姓ビターチョコ
- 藤川 宏樹
- ぶっきらぼうに渡されるチョコ迷い子に
- 岡田 奈々
- バレンタイン夫の傷跡見ないふり
- 末澤 等
- 誰よりも私に渡すチョコレート
- 島田 章平
- バレンタインデー深爪にハイヒール
- 和緒 玲子
- 十五の春チョコの苦きを味はへり
- 大浦ともこ
春(立つ)
- 春の夜は動かぬ石が柔らかい
- 中村 セミ
- 春立つや時間が少し横に伸び
- 銀 次
- 左右のほっぺに夢は山ほど春立ちぬ
- 岡田 奈々
- 春立ちて夫の呼ぶ声高くなる
- 末澤 等
- 水兵リーベ欲し農夫寝る春野
- 藤川 宏樹
- 春立つや飛行機雲に空ぐさり
- 遠藤 和代
- 春雪やただ生きてゐてほしいのです
- 野﨑 憲子
- 機嫌良き鰭もて春の淡水魚
- 和緒 玲子
- 塩ふって食むクレソンや春きたる
- 大浦ともこ
- 肉球を舐める猫ゐて春立ちぬ
- 島田 章平
猫
- 日なたぼこ猫の欠伸の音がする
- 島田 章平
- 恋猫のやうにはうまくいかないわ
- 柴田 清子
- 猫に椅子ゆずられる年となり
- 銀 次
- なめ猫もトリプルコークで三回転
- 中村 セミ
- 恋猫のそうきたかつて恋の猫
- 野﨑 憲子
- 島風や子猫そろそろ目の開かむ
- 和緒 玲子
- 恋の猫静かな光消えてゆく
- 末澤 等
梅
- 注射器で吸い出すような梅の糸
- 中村 セミ
- 南無大師白梅の道光ってる
- 末澤 等
- 慟哭の水の星なり梅真白
- 野﨑 憲子
- 父看取る部屋に影あるしだれ梅
- 大浦ともこ
- 白梅を映して母の鏡古る
- 和緒 玲子
- 老梅に実はもういいと撫でてやる
- 遠藤 和代
- 白梅や嘘の言葉を温める
- 銀 次
【通信欄】&【句会メモ】
【通信欄】2月14日の句会に自転車に乗って元気に参加されていた島田章平さんが、17日の夕方急逝されました。その日の朝8時過ぎに、『サンデー毎日』の俳句王に入選されたと私にメールが入っていました。病院帰りに体調を崩し、搬送先の病院で亡くなられたそうです。私が知ったのは24日で、まさに青天の霹靂でした。80歳近くとは思えないフットワークの軽さと溢れるほどの表現力に圧倒されていました。本会の掲示板も積極的にご自身の快挙を始め連衆の方々の動静を温かく投稿してくださっていました。大きな穴がポッカリ空いたような思いです。でも、今は、本会をますます熱く楽しい場に進化させてゆくのが島田さんへの何よりのご供養になると強く感じています。皆さま今後ともよろしくお願いいたします。
【句会メモ】早春の眩しい日差しのかな、十数名の連衆が集い、楽しく豊かな時間を過ごすことができました。二月二十日は兜太先生のご命日です。満開の白梅を見上げては「梅咲いて庭中に青鮫が来ている(兜太)」を思い出します。今日はバレンタインデー、持ち寄りのお菓子には、チョコや鶯餅もありました。袋回しのお題「兜太・青鮫・種」は、島田さんからです。島田さんの作品は全句掲載させていただきました。心からご冥福をお祈りいたします。
おーい章平さんそつちも梅が満開かい 憲子
Posted at 2026年3月1日 午前 03:50 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第170回「海程香川」句会(2026.03.14)ご案内
令和8年2月句会は、早春の眩しい日差しのかな、十数名の連衆が集い、楽しく豊かな時間を過ごすことができました。二月二十日は兜太先生のご命日です。満開の白梅を見上げては「梅咲いて庭中に青鮫が来ている(兜太)」を思い出します。袋回しにも関連したお題が登場しました。月末に<今月の作品集>を更新の予定です。お楽しみに!
では、次回3月句会のご案内を・・
- 日時
- 2026年3月14日(土)
- 場所
- ふじかわ建築スタヂオ☆☆ 高松市番町2丁目5-5
- 時間
- 午後1時 ~ 午後5時
事前投句は、通信句会形式です。投句締切は、3月7日(土)(必着)です。ご参加楽しみに致しております。
- 事前投句作品
- 2句
- 会費
- 500円
連絡先:noriko_n11☆yahoo.co.jp(☆を@に変換してください)
「海程香川」代表 野﨑憲子Posted at 2026年2月15日 午後 11:24 by noriko in 句会案内 | 投稿されたコメント [0]
第168回「海程香川」句会(2026.01.10)
事前投句参加者の一句
| 霧はれて大和三山初の日矢 | 樽谷 宗寛 |
| 悪書束ね探偵事務所煤払 | 大西 健司 |
| 蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな | 小西 瞬夏 |
| ぶかぶかのセーター昼の月近し | 松本 勇二 |
| 堂々の自分に酔ふてかじかめり | 藤川 宏樹 |
| 携帯の見えない声を抱いている | 中村 セミ |
| 清元の声音や寒夜哭く老犬 | すずき穂波 |
| 寒椿たましひ青く青く消ゆ | 各務 麗至 |
| 日の笹子遺影は眼開きてありぬ | 野田 信章 |
| 空想を傷つけぬよう冬ざれる | 岡田 奈々 |
| 内視鏡はらわた艶めいて冬日 | 福井 明子 |
| 柚子湯に浮く星の流れる方に浮く | 十河 宣洋 |
| 幸不幸小さじ二杯の去年ことし | 伊藤 幸 |
| セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来 | 和緒 玲子 |
| 健康診断今年もなんとかパズル解く | 重松 敬子 |
| 寒鴉頭痛して背中じゃぶじゃぶ | 豊原 清明 |
| 肩書きのいらぬ故郷冬すみれ | 佐藤 詠子 |
| 鳶一羽光となれる初日かな | 柾木はつ子 |
| セーターは汀のごとし死者の前 | 若森 京子 |
| 元日やのぞみ静かに田町駅 | 滝澤 泰斗 |
| 花やぎて暦に印初句会 | 野口思づゑ |
| 凍て星を譜面に一つシベリウス | 吉田 和恵 |
| 遍路転がし越えて肩風冬日さす | 末澤 等 |
| 青空の呟きとなる落ち葉踏む | 三枝みずほ |
| 働いて働いて裸木に感謝 | 河田 清峰 |
| コート着て我も一つの後ろ姿 | 河野 志保 |
| さざ波のやうな悔恨除夜の鐘 | 植松 まめ |
| 初夢や切られ役とてライト浴ぶ | 塩野 正春 |
| 雪晴れや馬橇のつけし通学道 | 森本由美子 |
| よっこらしょと記憶をもどす年用意 | 三好つや子 |
| すり硝子あちらはたぶん凍てている | 山下 一夫 |
| 冬晴や醤にほへる船着場 | 大浦ともこ |
| なんの老い三人姉妹の初化粧 | 増田 暁子 |
| 年明けや餡雑煮食べし讃岐顔 | 漆原 義典 |
| 狐のだます私でいたい目を濡らし | 新野 祐子 |
| きらめきをもてなすように冬の浜 | 高木 水志 |
| 「ハルウララ」さがしにゆきし冬競馬 | 遠藤 和代 |
| 寒紅や鏡の向こうで決心す | 柴田 清子 |
| 茶葉開く玻璃のポットや冬の雨 | 川本 一葉 |
| 初鏡作り笑顔はやめました | 綾田 節子 |
| 生食パン齧る言葉は春の風 | 竹本 仰 |
| 氏神に賑わい戻り年新た | 出水 義弘 |
| 臍の緒をたぐって母の毛糸玉 | 河西 志帆 |
| 寄付金はバイオリンケースへ鰯雲 | 布戸 道江 |
| 海原にむらさき湧くよ初日出るよ | 津田 将也 |
| 青太やあ切り子光りに寒の灘 | 疋田恵美子 |
| 狐火や俳諧自由といふ心 | 島田 章平 |
| 冬夕焼け鬼籍の友等の墨絵かな | 山本 弥生 |
| 去年今年絆創膏を張り替へる | 矢野二十四 |
| のこる人いなくなる人去年今年 | 向井 桐華 |
| 日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く | 花舎 薫 |
| ああ熊よ「森のくまさん」が歌えない | 岡田ミツヒロ |
| 短日や聖母へ空けるバスの席 | 松岡 早苗 |
| キューポラの煙突から吉永小百合冬の旅 | 田中アパート |
| 本心が言えぬ別れや冬の月 | 藤田 乙女 |
| 賽の目に任せし日々や初比叡 | 荒井まり子 |
| 声埋めいまからさくらまであるく | 男波 弘志 |
| 死がひとつ梢にありて柚子日和 | 榎本 祐子 |
| 新春の光のどけし児等の声 | 三好三香穂 |
| 暗黒に浮かぶ地球や去年今年 | 稲 暁 |
| 一切れのケーキを半分こ師走の昼 | 田中 怜子 |
| 年用意終えて月齢十二日 | 時田 幻椏 |
| 君を通り抜けてきた冬の夕焼 | 佐孝 石画 |
| 山茶花の白や横顔似てきたる | 亀山祐美子 |
| 冬日向大地を歩く吾子と鳩 | 薫 香 |
| 穴ひとつ掘るだけに生き大晦日 | 銀 次 |
| 爆音の頭上に響く聖夜かな | 石井 はな |
| 鹿と歩く女神と歩く松林 | 松本美智子 |
| 元日の空見ていたるパンダかな | 菅原 春み |
| いきものに最初の鼓動冬銀河 | 月野ぽぽな |
| AIに産土は無し初日の出 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。ゆったりとした入浴風景に癒されます。「星の流れる方に」に奔放な詩精神が如実です。
- 小西 瞬夏
特選句「落としもの雪に埋もれし色鉛筆(矢野二十四)」。真っ白の雪の中に埋もれてしまった色鉛筆は何色だったのだろう。それは春になったらわかることなのだ。私の「落としもの」はなんだろう、などと考えてみたりもできる。
- 矢野二十四
特撰句「雪晴れや馬橇のつけし通学道」。実景描写に風土と未来を詠み込んでいる。馬の吐く白息が力強い。特選句「声埋めいまからさくらまであるく」。このさくらは無季。むしろ季感は「いまから」=冬の句座の現在にある。沈黙ではなく春への芽吹きとして「声埋め」が利いている。「あるく」にひたむきなものを感じる。「悪書束ね探偵事務所煤払」。確かに悪書。探偵事務所の煤払とは着眼点が面白い。「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。ぽこぽこは毛玉にも胎動にもかかっている。セーターに胎動。手触り動き温か味が感じられる句。「すり硝子あちらはたぶん凍てている」。外が見えないのか、あるいは外から内が見えないのか、「あちら」という言葉一つに無限の広がりがある。「冬晴や醤にほへる船着場」。日本海側の穏やかな冬晴れの日。味噌・醤油の匂いがする旧い港・倉庫街を思い浮かべた。景に暮らしの厚み・郷愁あり。「茶葉開く玻璃のポットや冬の雨」。外は冬の雨。窓ガラスに露が流れ室内全体が茶葉のように開いている。ゆっくりした時間の流れと透明感のある静かな佇まいが心地よい。「寄付金はバイオリンケースへ鰯雲」。バイオリンケースがとても佳い。秋に出されたら特選。句座の場合には出来立てのほやほや感を伴う方が詩の鮮度が増すと思う。「呵呵と葱太るエプロン脱ぎ捨てる」。大笑いするほど葱が太った。だからエプロンを脱ぎ捨てる。よく分からないがこの破調が面白い。「飴切の音で目覚める柴又帝釈天(塩野正春)」。帝釈天が目覚める。トントン音が聞こえて街の風情が見えるのが佳い。柴又はいらないのでは。
初参加の弁:今回より参加させて戴きます。句会報を拝見して以前から参加させて戴きたいと思っていました。皆様から刺激を戴いて自己研鑽に励みたいと思います。よろしくお願いします。
- 十河 宣洋
特選句「コート着て我も一つの後ろ姿」。普段見馴れている目の前の人の群。後ろ姿。今日のコートはどうだろう、似合っているかなどと通りの鏡や窓に写してみる。前を行く人の後ろ姿を見て、ああ自分も後ろ姿を見られているんだという思いが頭をよぎった。多の中の個を感じた。特選句「呵呵と葱太るエプロン脱ぎ捨てる(小西瞬夏)」。呵々大笑しながら葱が太っていく。楽しい風景と言うより目の前の畑の状況。そんなことを思いながら葱をきざんでいる。太るのは葱だけでない、私もだ。思わずエプロンを外しストレッチ等始めた。作者の大らかな気持ちが伝わってくる。
- 豊原 清明
特撰句「キューポラの煙突から吉永小百合冬の旅」。「キューポラの町」は数回見ましたが、断片の欠片しか覚えていません。確かに吉永小百合だった。ファンでしょうか、煙突と冬の旅で選びました。問題句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。景色が浮かび、昭和の感じの一句。屋根の猫と思いました。今では野良はいなくなりました。良かったような、寂しいような街角。
- 岡田 奈々
特撰句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。柚子湯最高です。それも星の見えるお風呂最高です。これ以上の極楽はありません。後はちょっと熱燗のお盆でも添えられていたら、天国ですね。特選句「幸不幸小さじ二杯の去年ことし」。幸と不幸はあざなえる縄のごと裏表でやって来ます。それぞれ小さじ一杯ずつなら平穏無事な一年だったことでしょう。祝着祝着。「悪書束ね探偵事務所煤払」。探偵事務所には良いことよりも悪い事の調査が多いのでしょうか?去年の事は忘れて、今年こそは良い年に。「働いて働いて裸木に感謝」。何も資産はないけれど元気で働けるこの体が一番の財産です。「一画一画だいじに書いて冬木かな(佐孝石画)」。葉っぱが落ちて、素っ裸の冬木。けれど、枝っぷりが男っぷり。「去年今年絆創膏を張り替える」。お父さんお母さんお疲れ様です。熱いお風呂に入って、新しい絆創膏を貼って、体大切にして下さい。「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。陽だまりの縁側は暖かい。心も体も和みます。ふわっと、ほわっとね。「初雪やようこそ独り言の世界」(河野志保)。雪に語りかけたり、手に取って遊んだり。童心に帰ります。「賽の目に任せし日々や初比叡」。去年はなるに任せた一年だったのでしょう。今年こそはと比叡山にお参り。年初の気持も新たに始めます。「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。君は何処にいるのでしょうか。眼前に。過去の日に。眼前なら正しく神々し君よ。過去の君なら、あれこれあった苦しい去年を過ごし、ちょっぴり大人になった僕。
- 佐孝 石画
特選なし。「初夢や黄金の馬乗りつぶす(野﨑憲子)」。「乗りつぶす」がいい。「黄金」はどうか「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。上五中七の抒情に強く惹かれるところだが、下の「冬ざれる」が「付け」感がありやや予定調和か。「内視鏡はらわた艶めいて冬日」。斬新な映像。最後は「冬」だけにとどめて、切れ味を出しても良かった。『電柱に「探しています」寒夕焼』。発想と視点が新鮮。「探しています」はもちろん「自分」にもかかってくる。
- 遠藤 和代
特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。1年間の悔恨がさざ波のような、とは本当にうまい。
- 樽谷 宗寛
特選句「氏神に賑わい戻り年新た」。普段はしい一んとしている神社初詣での人の賑わいが戻りと作者の感慨がひしと伝わってきました。佳い年新たでしたね。
- 藤川 宏樹
特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。旅先の深夜。満天の星眺めひとり露天風呂に浸っていると、誰か入りやがて近くに・・・、女性の気配。闇に浮かぶ人影と一言交わしたものの、早々に退散した。翌朝、御膳の飯を仲居さんが装ってくれたが・・・、その人だった。夢か現かあいまいになった記憶の底から、「~浮く~浮く」のリフレインが浮かばせてくれたのが遠い昔の出来事。
- 福井 明子
特選句「きらめきをもてなすように冬の浜」。水面のきらめきに、いつも目をみはり、眼前の風景をどう表現しようかと思いながらいます。この句の、もてなすように、という言葉が、おおいなるふところの冬の浜とひびきあい、海の波が、光や風のメッセージであることをも感じさせてくれます。
- 各務 麗至
特撰句「コート着て我も一つの後ろ姿」。冬になって、誰も彼も同じように見えてしまうコート姿。それは何も衣装だけに限らず内面も似たり寄ったりの、そうあることが人間社会を安寧にさせているのかも知れない。作者はそんな諦観達観の境地にあればこそ、「我もコート着て」と社会に順応する。しかし、誰も彼もと同じような「後ろ姿」のそこには、「一つの」と強調して、全体の中にも一個の個性・・・夫々があって、一つ間違えば大きな破綻を招くぞ(例えば犯罪や戦争)という社会批評も見えて来る。特選句「狐火や俳諧自由といふ心」。闇の中のいくら小さくてもいい鬼火やたましいの火になって、それこそ自由な心で何事にも対峙していきたい。否応なく兜太先生が出てくる。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦」。自分を葬る墓穴を自分で掘る。先の「一つの後ろ姿」にも通じる諦念や充実の人生で、「穴ひとつ掘る」と謙虚に大晦日を迎えて救われた。
- 大西 健司
特選句「蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな」。地味な句だが実感が在る。見事な蝋細工の食品サンプルゆえの寒々しさだろう。
- 柴田 清子
特選句「新春の光のどけし児等の声」。新しい年を、心から迎えている一句。いつの時代でも、こうありたい年の始めの特選一句としました。
- 男波 弘志
「本は薄い方がいい落葉舞う(布戸道江)」。確かにそう思います。やはらかく開けない本は用を果たせないでしょう。広辞苑が凄いと思うのは見開きにしても素直にしていますね。それほど厚くもないのに見開くと強引に戻ろうとする書籍がありますが、本のことを全く知らない人たちが作ったんでしょう。因みにですが、糸で綴じていないものは全て冊子であって本ではありません。本は必ず糸で綴じてあります。この本も糸で綴じてあるのでしょう。秀作
- 河田 清峰
特選句「冬虹くぐる性善説を生きてきて(新野祐子)」。戦後登り路を汗流して来て、プーチン、トランプに性悪説の現実に眼を覚ましています。
- 塩野 正春
特選句「よっこらしょと記憶を戻す年用意」。なんたって昔取った杵柄は忘れないよ! まず雑煮の具材や味付けは得意中の得意だった・・がこの頃は思い出すのにかなりのエネルギーを使う。ほかに何をしたっけ?障子貼り?すす払い?ああ大変だ。 話し変わるが関西にきて驚くことの一つはセーノ、ヨッコラショ、ドッコイショの掛け声を良く聞くこと。ある時など、看護士さんが私の腕から点滴針を抜くのにセーノ‥と掛け声かけておられた。日本は平和だ。特選句「父の面影濁りはじめた寒の鯉(若森京子)」。私、男として気にしていることの一つに余り父を称える句が少ないことです。故に作者が父の面影を追っておられたことに感謝します。年月が経って次第に薄れる父への思いを濁りはじめた寒の鯉と表現され素晴らしい韻を含んだ句となっています。作者にとって父は大きくゆったりした鯉の姿に見えたことでしょう。
- 花舎 薫
特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。多分露天風呂だと思う。柚子湯の香りや温さに身をまかせる小さな至福感。流れ星の方へ向かっていくのは体というより希望を持とうとする心だろう。組み合わせには既視感ありだが「浮く」のリフレインが効果を上げていると思った。 特選句「なんの老い三人姉妹の初化粧」。思わずクスッと笑ってしまった。正月だから三人姉妹が揃い、それぞれおしゃれして化粧にも力が入っている、そんな光景がありありと目に浮かぶ。老いなぞ何のそのという気概を上五で詠み新年ならではの句になっている。
- 河野 志保
特選句「携帯の見えない声を抱いている」。電話の向こう、愛する人を思う。その人の温もりを感じ、声を抱きしめるひととき。季語はないが冬の句と受け取った。
- 津田 将也
特選句「セーターは汀のごとし死者の前」。比喩の巧い俳句と出合った。推し測って考えると、この死者は「海難事故」に遭った、水葬される者の一人ではなかろうか。とも思ったりしています。
- 三好つや子
特選句「悪書束ね探偵事務所煤払」。探偵がかっこよく事件を解決するのは小説や漫画の話。現実は浮気調査がらみの尾行が多いとか。この句から、古びたビルの一室、埃っぽく胡散臭そうな事務所が目に浮かび、煤払いという季語が味のある雰囲気をだしています。特選句「セーターは汀のごとし死者の前」。たぶん不慮の事故、あるいは事件に巻き込まれ、セーターを着たまま命を失ったのかもしれない。そんな死者の体温がのこるセーターを、生と死の汀と捉えたのでしょうか。気になる作品です。「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。お腹の中の胎児の心音を感受。ポコポコの音にほっこり。「ロボットも人を見習い御慶かな」。今、話題のフィジカルAIのおじぎしている姿を想像。「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。私もそうですが、老後ってこんな感じではないでしょうか。
- 島田 章平
特選句「肩書きのいらぬ故郷冬すみれ」。たくさんの転勤の後60歳を過ぎて 故郷の香川県に戻りました。そこで多くの出会いがありました。「以前のお仕事は?」と問われた事はありません。多くの方に今の私を受け入れて頂きました。故郷は本当に温かい所です。
- 和緒 玲子
特選句「コート着て我も一つの後ろ姿」。私単体の動作から、やがてそれが顔の無い群衆の一粒となるという俯瞰へ。滑らかなカメラワークの移動。特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。手繰るという動詞が臍の緒、母、毛糸玉を繋ぐ。同時に母の記憶も手繰っているのだろう。抑えた表現から母を思う気持ちが滲み出る。「初雪やようこそ独り言の世界」特選にしたい一句。滅多に雪の降らない瀬戸内では初雪が舞うと独りごちながら空を見上げてしまう。ようこその四文字を使うことの斬新さが光る。
- 石井 はな
特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。本当に悔恨はさざ波の様に来ますね。大きく足を掬われる事は無いのだけど、いつまでもいつまでも心に巣食う様にです。スッキリ断ち切る方法が知りたいです。
- 河西 志帆
特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。自分の入る終焉のその穴の事でしょうか。違ってたらごめんなさい。深くて少し怖いけど・・この歳になってくるとそんな風に思えたりもするんです。「斜めからものを見る癖石蕗の花」。真っ直ぐ見るのは楽そうですが、実は難しいんですよね。案外、斜めからの方が良く見えそうだもの。「AIに産土は無し初日の出」。愛と読んでも、やはり、温かさはないんです。産土がないとは、よく言ってくれました。本当にそうですよね。
- 佐藤 詠子
特選句「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。冬ざれるという淋しい現実の景の中にいるのに、空想だけは自由、心の中だけはふんわりしているようで、自己愛を感じる句。私は空想好きなので大いに共感しました。特選句「去年今年絆創膏を張り替へる」、絆創膏で隠しているのは実際の傷ではなく、心の傷と受け取りました。張り替えるに、去年の傷が癒えたかそっと確かめる自愛の心が見えます。一見、簡単そうな表現なのに、去年今年との取り合わせにより作者が新年に向けての前向きさを感じ奥深い心象風景ではないでしょうか。ほくそ笑んでしまいました。
- 松岡 早苗
特選句「雪が降る鉛筆の字が濃くなった(中村セミ)」。雪が降り出して、書き物をしていた机が暗く翳ったのでしょうか。「鉛筆の字が濃くなった」という表現が素敵で、雪の白さと黒い文字の対比がモノトーンの繊細な陰影を感じさせてくれました。特選句「死がひとつ梢にありて柚子日和」。梢で死んでいるのは小鳥か何かの昆虫でしょうか。それともこの木を世話していた人が亡くなってしまったのでしょうか。晩秋の日ざしの下、柚子の実の明るい黄色と暗く冷たい死の、くっきりした明暗が印象的でした。
- 出水 義弘
特選句「狐火や俳諧自由といふ心」。狐火のように神秘的な実態のよく分からないものですよ、俳諧自由の心とは、と言っているように思われる。自由には、自己の基準を確立しなければならない厳しさを伴う。多読多作で精進します。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。生きるとは、穴を掘っては埋め、埋めては掘ると言ってもよい、日々の単調な繰り返しの連続であり、1年経てば大晦日になる。そして、一生を終える。深い悟りを詠んだものと思われる。
- 布戸 道江
特選句「 死がひとつ梢にありて柚子日和」。生き物の宿命、必ず死はいつかは来る、柚子が明るく灯ってる。身近な死を明るく迎えよう。「元旦の空見ていたるパンダかな」。昨年パンダが帰国するらしいと聞いて早速パンダに会いに行った、丁度園舎に戻る時間で後ろ姿を数秒見ただけだった、空は続いている、又いつか会える時が来るだろう。
- 若森 京子
特選句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。狐をだますではなく狐のだます私でいたい。微妙な心理、騙されたい私。「人を騙すより騙される人に」とよく言うがその心理であろうか。下五の 目を濡らしの措辞に作者の純真な人間性に惹かれた。特選句「一艘の緋の舟流る冬椿(銀次)」。寒中に咲く可憐でそして健気な冬椿から、この様に美しくも動きのあるイメージに、作者の美意識に感動した。
- 滝澤 泰斗
特選句「凍て星を譜面に一つシベリウス」。シベリウスと言えば、七つの交響曲という事だろうが、高校時代に吹奏楽で、そして、合唱団で歌った「フィンランディア」・・・あの荘重な重低音が、壮大な北欧の大地を想起させ、一等星の凍て星のきらめきは後半の合唱に繋がった。特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。除夜の鐘はまさに、繰り出してくる百八つの音波が次々と、煩悩を振り落としてくれる。掲句は、除夜の鐘の音にさざ波のように湧き起ってくる悔恨と同調させたところが新鮮でした。以下、共鳴句「冬麗の海神(わたつみ)統べる大鳥居(松本美智子)」。美しい情景に魅了された。「絶滅の道行く熊を悲しめり」。今年ほど熊の出没のニュースに動揺したことはなかった。熊も絶滅危惧種なのか。悲しい、時事俳句。「悪書束ね探偵事務所煤払」。この悪書とは何ぞやから始まって、探偵事務所の選択と季語のフィット感が絶妙。面白い句になった。「放哉の髑髏の語る寒夜かな(島田章平)」。どこかの博物館にある髑髏をみて、思わず咳き込んだか? とすれば、放哉を持ってきたのがお手柄だが、自句自解を聞いてみたくなった。「内視鏡はらわた艶めいて冬日」。母親を大腸がんで亡くし、40歳で大腸ポリープを取って以来、定期的に内視鏡で自分の腸をモニターでみている。確かに艶めいているが、もつ鍋や鶏皮が食えなくなった。自分に照らし合せて・・・つい、いただいた・・・『電柱に「探しています」寒夕焼(花舎 薫)』。様々な物語を勝手に紡ぎ始めた自分がいた。寒夕焼の季語がいい。
- 新野 祐子
特選句「鳶一羽光となれる初日かな」。私も見たことがあるんです。秋晴れのきれいな日でした。鳶が空を切って飛んだ軌跡が一直線の光になったのを。これが初日であれば何ともめでたいことですね。特選句「幸不幸小さじ二杯の去年ことし」。幸や不幸を「小さじ二杯」とたとえたのを見たことがありませんでした。びっくり!
- 植松 まめ
特選句「霧はれて大和三山初の日矢」。新春らしくて清々しい句。私も二年前に甘樫の丘から大和三山を眺め感無量でした。特選句「凍て星を譜面にひとつシベリウス」。凍て星を 譜面にひとつの言葉に惹かれました。フィンランドの国民的作曲家シベリウスの「フィンランディア」また聴いてみます。
- 疋田恵美子
特選句「健康診断今年もなんとかパズル解く」。身体に問題もなく新しい年へのスタートおめでたいことです。下五がいいですね。特選句『「ハルウララ」さがしにゆきし冬競馬』。「ハルウララ」はお元気でしたか。
- すずき穂波
特選句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。とても繊細な句で頂きました。特に「目を濡らし」を結びに持ってきたところの感覚に惹かれます。特選句「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。この句も同じく繊細で冬ざれという季語のザラつき感を独自の肌感覚、何というか、そろっと諸手で掬いとっておられる。これら二句共、作者は頭の中で作っておられるが、読者の視覚に微弱電流を流し想像させようとしておられ それが何とも心地よい。そんな句なので頂きました。
- 野口思づゑ
特選句「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。青く消えてゆく魂。きっと美しい人生をおくられた方なのでしょう。「伊予柑や話の種も無き夫婦」。伊予柑の程よい甘さで、話さなくても心が通じ合っているごベテラン夫婦なのでしょう。「太箸や本籍甲の二二番」。甲とか乙が住所に使われていたのですね。この住所だけで場所や時の流れを感じる。太箸の季語がとてもふさわしい。「雪が降る鉛筆の字が濃くなった」。とても面白い降雪の帰結です。
- 岡田ミツヒロ
特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。中七の「毛玉ぽこぽこ」にしっかりと実感があり、その喜びがふんわりと広がってくる。羊水に泳ぐ胎児の元気そうな様子も彷彿としてくる。特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。日向ぼこの時に現実から遊離するような状態を「宙に浮く」と浮遊感覚として言い留めた。
- 三好三香穂
「ぶかぶかのセーター昼の月近し」。最近のトレンドは、ぶかぶかである。青い空に浮かんだ白い月が近いというのである。同じ青のセーターかもしれない。「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。おそらく紅い椿でしょう。魂は青い炎なのでしょう。抽象化した表現ながら、惹かれる句です。「坂の町の出口は空へ白き息」。坂を登りつめれば青い空ですね。
- 柾木はつ子
特選句「AIに産土は無し初日の出」。言われてみれば確かに。ところで、この先AIロボットがますます進化して人間と対等に会話ができるようになった時、人間の方が相手を本物の人間と錯覚して接するようになるのではないかと、考えれば空恐ろしい気がするのは、私だけでしょうか?特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。この「穴」とは一体何を指すのでしょうか?肯定的にも否定的にも取れますが、随分と興味をそそられるキーワードです。
- 榎本 祐子
特選句「去年今年絆創膏を張り替える」。新年を迎える感懐の中での、日常の人間的な行為が面白い。
- 田中 怜子
特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。いつも着ている、毛玉がついているようなセーターを着て、温い日差しが気持ちよい。赤ん坊を待つその幸せ感がにじみでていたる、また日常語が飾り気なくていいですね。特選句「暗黒に浮かぶ地球や去年今年」。今の地球がおかれている状況を俯瞰して見つめるその眼差しがいいですね。怖さもあるけど。
- 山本 弥生
特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。高齢の夫婦が仲良く記憶をもどし乍ら年用意をしている姿がとてもよく見えます。
- 伊藤 幸
特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。「よっこらしょ」一年の疲れを記憶と共に呼び起こし労う。そうして前を向き新しい気持ちで年を迎える。作者に「ガンバレ!」とエールを送りたい。特選句「元日やのぞみ静かに田町駅」。「田町駅」という固有名詞がリアルなかたちで想像を掻き立てる。古ぼけた看板に楷書で書かれた駅名、待合室には木製のニスの剝げかかった長椅子。大きな野望はないが今年こそ何かを成したいという願いが窺える。
- 菅原 春み
特選句「絶滅の道行く熊を悲しめり(河西志帆)」。先住民の熊を追いやった人間たちのせいで、こんな事件が起きているのですよね。共感しました。特選句「冬晴や醤にほへる船着場」。オーソドックスな格調高い句です。五感を駆使しつつ映像が立ち上がります。
- 漆原 義典
特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。私は母の句が好きです。臍の緒と母の毛糸玉のむすびつき、母との強い絆がよく表現されています。素晴らしい句をありがとうございます。
- 荒井まり子
特選句「死がひとつ梢にありて柚子日和」。絶対は死。死は一定である。柚子湯ではなく、柚子日和ゆったりして優しい、穏やかな時間が愛おしい。
- 中村 セミ
特選句「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。ひと枝の寒椿を部屋に置いておくと、椿の赤い、赤い魂のような花が、むかしの色々な人達とあったたわいでもない、喧騒の様な出来事が不思議と、思い出させ其れ等は、青く、青く消えて行くのだった。
- 銀 次
今月の誤読●「冬日向大地を歩く吾子と鳩」。暖かい冬の昼下がりのことだ。わたしはわが子を連れて近所の公園に行った。生まれてから一年余、歩き方をおぼえて以来、娘はよちよち歩きが楽しくて仕方がないようだ。二、三歩足を進めてはこちらを振り返りニコッと笑う。何度もそれをくり返す。その仕草がたまらなく愛らしい。まだ満足にはしゃべれないのだが「マー」と声をあげる。「ママ」のつもりだろう。わたしはそれに応えて手を振る。娘がまたキャッと笑って歩き出す。なんという幸せな日。たぶん人生で最良の一日だろう。それを祝福するかのように、娘のまわりにはたくさんの鳩が集まり、くちばしで土をつついている。それはあたかも雲の上を天使が歩いているかのようだ。娘がその鳩を指さしこっちを見た。わたしは一語一語切りながら「ハ・ト」と教えた。その言葉がわかったのかどうか、娘は一羽の鳩に手を伸ばした。すると驚いた鳩はクッと短く啼き、宙に飛んだ。その拍子に娘はストンと土の上に尻もちをついた。一瞬おいて娘は大きな声を張り上げて泣き出した。その声が合図だったかのように数十羽の鳩がいっせいに空に舞い上がった。とたん娘は泣きやんでポカンと空を見上げた。真っ青に晴れた空を群れをなした鳩が飛ぶ。娘はその光景に見とれるように鳩たちを目で追った。たぶんそのとき、言葉にはならないだろうが、娘は実感として知っただろう。この世界には大地があることを。空があることを。
- 大浦ともこ
特選句「蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな」。場末の古びた食堂だろうか・・寒くもあるが懐かしくもある句と思います。食品サンプルに着目したのも面白いです。特選句「たうたうと仔猫が乳を吸ふ暖炉(和緒玲子)」。いかにも暖かく幸せな気分になれます。たうたうというオノマトベにもゆっくり流れる時間が伝わります。目の前の様子の様でもあり、絵本の中の一幅の絵のようでもあり、子どもの頃の幸せな思い出でもあるようです。
- 末澤 等
特選句「冬夕焼け鬼籍の友等の墨絵かな」。どうにか6回り目の年男を終えることができた昨年、学生時代の同級生や入社同期生の友人の訃報が届きました。そのようななか、この句を詠ませて頂いた際に、冬には急に下りてくる帳により夕焼けが墨絵のごとく変化していく情景が浮かび、友人たちのことが深く思い出されました。大変心に残る句だと思います。
- 川本 一葉
特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。ぽかぽかして少し眠気もきてこの世ではない感じが伝わって来ます。ふっとちょこっとというのも可愛くて新鮮だと思いました。
- 向井 桐華
特選句「寒鴉鳴いたって鳴いたって鴉(柴田清子)」。こういう発想があったのかと思わされました。鳴いたって鳴いたってのリフレインがとても効いています。
- 野田 信章
特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。中句に至る「セーターの毛玉ぽこぽこ」の素朴な物象感の把握あっての一句と読んだ。これによって胎動期を迎えた母体そのものの讃歌が生れている。
- 増田 暁子
特選句「クリスマス対岸のよう勉強部屋(十河宣洋)」。騒ぎの外にある受験生の勉強部屋でしょうね。追い込みの時期なので大変。特選句「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。遠距離恋愛のふたりかも? 同じ夕焼を見ている時間差がもどかしいね。
- 竹本 仰
特選句「凍て星を譜面に一つシベリウス」:シベリウスはフィンランドの作曲家。ロシア圧政下にあった祖国への愛国心をテーマにした曲などで名を成したようだが、それ以上詳しいことはわからない。したがって、この譜面が何の曲を指しているのだかはわからない。わからないながら、その想いに共感できる部分がはっきり一つだけあって、百年以上の時空を超えてつながっているというのではないか。生なるものの神秘というのか、そんな出会いを感じた。特選句「短日や聖母へ空けるバスの席」:バスというのは不思議な場所だなと思うことが何度かあった。学生時代に自死したK君という友人がいて、まだその喪中だったが、空っぽの始発のバスに友人Aが乗って来た。死んだK君とも知り合いで、私を含め三人は仲が良かった、というより死んだK君の数少ない話し相手がその二人だったと言えた。自ずと死んだK君の話になった。その時思ったのは、けっこう乗客のいる筈のバスに二人だけなんて、何かおかしいということだった。誰か来そう、それはK君なのではというように、ひそひそ声で話をしていた。そう、だから、バスには思わぬ出会いが何気なく待っている気がして、聖母なるものの予感もまたあろうかと思った。特選句「いきものに最初の鼓動冬銀河」:いきものの最初の鼓動というのは、どこから始まるのだろう。とふとそんなことを考えたくらい、新鮮な何かを問われた気がした。死んだらどこへ行くか、或る病院の死に近い方々に聞くと、六割が星になると答えたそうだ。そうか、宇宙の運行の中に帰るということなのだろうか。とすれば、生まれる時も、宇宙の運行から来たと言えるのかもしれない。今年の元旦は息子に誘われ、朝の五時からちょっとした登山に行った。初日の出というより、登ることが目的だったのだが、或るダムに車を置いて空を見上げると、本当にぶちまけた程に星々が。うぉっと、渋谷区在住の息子は声を漏らした。そうだ、こいつ聖夜に生まれた子だった。うぉっという声に引かれて、何かいいものが見えた気がした。たしかにスタート地点に戻った気がした。そんなことを思い出した。♡皆さん、本年もよろしくお願いいたします。元日登山に始まった年、何かいい感じがしました。みなさん、お元気ですか。どこかでお会いしたいですね。
- 月野ぽぽな
特選句「日の笹子遺影は眼開きてありぬ」。遺影を見ながら、亡き人が目を閉じているところを思い出しているのでしょうか。それは、臨終の床での姿でしょうか。そこに至るたくさんの思い出もやってくることでしょう。笹子でなく、日の笹子、に思いの深さを感じます。哀しみと癒しが共にあります。
- 三枝みずほ
特選句「すり硝子あちらはたぶん凍てている」。すり硝子一枚を隔てて変わる世界。不透明な硝子であるがゆえに読者それぞれに思う“あちら”があるだろう。帰れない故郷、立ち入れない場所がふとよぎる。
- 高木 水志
特選句「清元の声音や寒夜哭く老犬」。長年飼ってきた老犬が体調が悪いのか清元の声のように鳴いているのが苦しく感じた。
- 重松 敬子
特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。私もよっこらしょが増えてきました。しかし、気持ちはまだまだ青春!!
- 森本由美子
特選句『電柱に「探しています」寒夕焼(花舎 薫)』。探しものは何?辿り着いたのは、もしかして自分自身の心棒ではないのか。寒夕焼を背に自分に対峙する姿を想像させる。
- 亀山祐美子
特選句『臍の緒をたぐつて母の毛糸玉』。母親になる喜びを我が子の靴下・帽子を明るい毛糸で編むことで表現する母への感謝。自分の臍の緒が母の毛糸玉に紡がれる原動力になっている事実に改めて気付く幸せ。誕生前から愛情と情緒が形になる感覚が美しい。特選句『坂の町出口は空へ白き息(三枝みずほ)』。この町の坂道はまるで人生のようだ。上へ上へと向上心溢るる長い長い道程は充実感・満足感広がる空へと続く。単なる風景に人生をなぞる。「白い息」は空へ昇る日の最後の一息なのかもしれない。奇しくも誕生と終焉の俳句を選んだ。そんな年齢になっているのだと改めて実感した。
- 稲 暁
特選句「野良猫の歩をすすめゆく初景色(榎本祐子)」。初景色という季語に、野良猫を配して意外性があると思います。
- 吉田 和恵
特選句「落としもの雪に埋もれし色鉛筆」。落としたものは明日を描く色鉛筆だった。しかも雪に埋もれてと。切ないですね。でも雪が消えたらきっと見つかると思いますよ。
- 山下 一夫
特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。あたたかくやわらかでのどかな空気感に満ちていて癒される句です。「ぼこ」「ふとっちょ」「ちょこっと」の感覚を「日向」と「宙に浮く」との概念でサンドしたことが成功しています。特選句「声埋めいまからさくらまであるく」。 「さくらまで」というのは距離であり時間でもあるのでしょう。また「声埋め」は「あるく」主体のいる場所であり体(胸)でもあるのでしょう。抽象的かつ多義的なのですが「いまから」で並々ならぬ決意のようなものが伝わってきます。問題句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。狐にだまされて涙するような純情可憐な人でいたいとの願望で、詠者はその逆という自嘲や嘆きがあるのかと味わい深いです。七七七で少し散文的なところは内容に合っているとも言えますが、五音にしていく余地もあるように思います。
- 太藤田 乙女
特選句「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。冬の夕焼けの美しさの如く君は幾年月を経てきても凛とした佇まいと辛苦も乗り越えてきたであろうけれど変わらぬ清楚な美を感じさせる女性なのでしょう。その女性を見つめる作者の深い想いが冬夕焼の情景と重なって心に沁みます。
- 松本美智子
特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。「臍の緒」と「毛糸玉」の取り合わせが妙でした。物の少なかった時代,昔は母が小さくなったセーターなどをほどいて丸くなった毛糸玉から新たに編みなおしていたな・・・と思い出しました。いろいろな色の毛糸玉の不思議な雰囲気と母と胎児を結びつける大切な「臍の緒」を取り合わせたノスタルジーを感じる秀句だと思いました。
- 野﨑 憲子
特選句「青空の呟きとなる落ち葉踏む」。青空の下、ひとり歩く足もとで落ち葉が、かさりと鳴る。その微かな音は、まるで空がそっと言葉をこぼしたように、世界の静けさの中へ吸い込まれていく。透明で、どこか孤独で、しかし不思議な温もりを帯びた一瞬。落ち葉のかすかな響きが、いつしか「青空の呟き」へと変わってゆく。それは、地球が声を持つ瞬間のようでもある。特選句「いきものに最初の鼓動冬銀河」。冬銀河の深い静寂の底で、小さな星がひとつ、ぽうっと誕生したような気配がある。それはまだ名も持たぬ命が、世界に触れようとする最初の震え。かすかな温もりの記憶が、そっと胸に灯る。冬の夜空を仰ぎながら、「生命とはなんと儚く、なんと尊いものか」その思いが言葉にならぬまま、静かに広がっていく。どちらの作品にも、平和への祈りが静かに息づいている。その思いが世界最短定型詩となり静かに広がっていく。いま、人類の足もとはあまりにも脆い。だからこそ、冬銀河の光のように、青空の呟きのように、愛語の俳句が、これから世界へ向けて熱くそして確かに発信されてゆくことを願ってやまない。
袋回し句会
風花
- 風花やあなたの声をみつけます
- 三枝みずほ
- アスファルトだらけの街を風花す
- 和緒 玲子
- 風花のやうな約束してしまう
- 柴田 清子
- 言の葉はたましひのかほ風花
- 野﨑 憲子
- 風花や森の奥処に息ひとつ
- 野﨑 憲子
- 恥ずかしさとも戦うんだよ風の花
- 藤川 宏樹
冬の月
- 初恋は成就せぬもの冬の月
- 藤川 宏樹
- 穀潰しの目立ちたがりや冬の月
- 野﨑 憲子
- 自販機の灯に寄り添えり冬の月
- 銀 次
- 沼風はそらしどれみふあ冬の月
- 野﨑 憲子
- 予報士の外した指輪冬の月
- 藤川 宏樹
- 寒月光体突き抜けゐたるかな
- 柴田 清子
- 輪の中にいて鈍き牙なり冬の月
- 三枝みずほ
- 夢一つ叶えて帰る冬の月
- 末澤 等
- タワマンに住まへど二階冬の月
- 藤川 宏樹
卵
- 卵焼上手にできた春よ来い
- 柴田 清子
- 老人の卵の座る日向ぼこ
- 島田 章平
- 卵ぶつけたし病室の壁白すぎて
- 銀 次
- 縄文のヴィーナス君は寒卵
- 野﨑 憲子
- 恐竜の卵抱いてる冬休み
- 島田 章平
- 火の底の戦語るや寒卵
- 三枝みずほ
- 穴ひとつ掘り終えせがむ寒卵
- 末澤 等
馬
- 寒晴れや親馬の後から仔馬
- 柴田 清子
- 霜踏むや曲芸の馬迷い馬
- 銀 次
- 息白し母馬仔馬岬風
- 島田 章平
- 冬あたたか仔馬スキップして厩舎
- 和緒 玲子
- 牛と午子午線またぐ大枯野
- 藤川 宏樹
トランプ
- トランプ繰る指先より消えゆけり
- 三枝みずほ
- 孫とするトランプ母の負け
- 島田 章平
- 和平へと切れよトランプ冬の月
- 野﨑 憲子
【通信欄】&【句会メモ】
「海程」の後継誌「海原」は、本年より安西 篤さんから堀之内長一さんに代表が交替し新たなる第一歩を踏み出しました。「海程香川」も一回一回の句会を大切にますます熱く渦巻いてまいりたいと存じます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
令和八年初句会は、寒気が緩み冬日射す一月十日に開催いたしました。子育てまっ最中の三枝みずほさんも久々に参加され、淑気溢れる楽しく豊かな句会になりました。
Posted at 2026年1月25日 午前 04:21 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]