2016年5月26日 (木)

豊原清明句集『手話する冬鹿』

裏表紙最終・決定 (2).jpg 本句会の仲間、KIYOAKI FILM  こと豊原清明さんの句集が上梓されましたので、紹介させていただきます。小冊子ながら、豊原さんの詩情満載の作品群です。

映画句集 『手話する冬鹿』  豊原清明          ㈲マルコポ.コム刊

より、十句選(野﨑憲子抄出)

わが半日虚空千年春峠

青雲やがつしり摑む福音書

夏シャツの母の胸辺にありし蝶

雨蛙こいつは無職吾は無学

原爆忌しずかに老いてゆく童

放射能もう要らんぞと草雲雀

冬鹿や光の中の爪を切る

透明な雪の言葉や狂詩曲

清明や父母の背は丸太ん棒

父依存から一歩出てスサノオの笑顔

2016年4月29日 (金)

第61回 「海程」香川句会 (2016.04.16)

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事前投句参加者の一句

里山の歌をしづかに翁草 髙木 繁子
たんぽぽの絮が楽譜に加わりぬ 月野ぽぽな
曇天の母の航路や麦の秋 KIYOAKI FILM
新漢字表がトイレに進級す 野澤 隆夫
オリオンの真下はくれん撃たれしよ 河田 清峰
花吹雪うっすら肋骨透けている 増田 天志
五歳はや言葉甘美に雛飾り 寺町志津子
揺れて春リバティ柄のワンピース 三枝みずほ
風薫る赤子の窓あけうたた寝す 中西 裕子
奈落から這い上がってくる桜咲く 古澤 真翠
靴はきし吾子の一歩や山笑う 藤田 乙女
支え合う手を貸してくれ豆の蔓 中野 佑海
つくづくし閉校式の門を出づ 稲葉 千尋
つり革の揺れて春ですねと言いたげ 谷 孝江
二度寝して巣箱に棲みしここちする 若森 京子
万葉のラップソングや遠蛙 三好つや子
桃の日の海見に上がる二階かな 重松 敬子
春雨や朝餉の椀のいびつかな 銀  次
捨つる物男のことなど八重一重 鈴木 幸江
線一本引いてここから春昼寝 竹本 仰
尻という存在花のうしろから 小山やす子
ハルビンや虱さわさわと屍人より 桂 凛火
憲法の美しさ知る花の後 夏谷 胡桃
太もものあたりから湧く春の雲 柴田 清子
はよぅ来まい手招く方へさくら舞い 藤川 宏樹
春光に突き立てて少年の爪 小西 瞬夏
仕草にて宿縁らしき蜥蜴かな 町川 悠水
パンツのゴム鮴・目高の六匹ほど 久保 智恵
我が背丈ほどの御室の桜かな 田中 怜子
たんぽぽの野は五線譜や夢を弾く 漆原 義典
陽炎の重力ただしいくらし方  伊藤 幸
干潟落日あぶれ蚊が離れない 矢野千代子
花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ 高橋 晴子
捨て切れぬものの重さよ飛花落花 亀山祐美子
焚火臭家ごと老いてゆく春か 野田 信章
竜宮の扉ひらくや花吹雪 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「褒め下手がバイロンのよう野を焼けり(伊藤幸)」バイロンが褒め上手だったら後世にこんなに名を残してはいなかった事でしょう。この作句者も下手なのですね、ほら世渡りとやらが。ほほほ!!良いか悪いかは別として、世渡り上手だったら、俳句や詩なるものを作ってはいないと思います。なかなか言いたい事も言えず、したいことも大手をふって出来ず、そんなこんなを捏ねて恒って恐る恐る出してみる。結構小心者なのです。しかし、小心者に限って大胆な事をしてしまうのです。大胆にこんなウジウジは焼いてしまいましょう!特選句「春光に突き立てて少年の爪」春の穏やかな光と見えて、光を構成する煌めきの蔭に危うさが見え隠れ。少年の心の綾取りの糸を容易く掻き切ってしまう己れの手で。若い希望と絶望を凄く上手く表していると思います。(少年の心の儘の銀次さん奥深い示唆を有難うございます。)

若森 京子

特選句「陽炎の重力ただしいくらし方」最近、何億年前から発せられている重力波が発見されたが、自然界の不思議。又、熊本大地震の現実に畏れ、人間の自然に対する虚しさをつくづく思う。唯々ただしく暮していかねば。特選句「焚火臭家ごと老いてゆく春か」日本の農家の古い家の景であるが、しかし、日本全体の現実問題として、未来を暗示している様です。

柴田 清子

ここ六階会場からの海は、ヨット一隻、もう夏がそこに。海と空と一〇八の句が、身に沁み込んでくる。久し振りの句会参加でした。『さっき赤ちゃんを産んで来ました。』と、言って参加の三枝さんのピアスが揺れていました。藤川さん、憲子さんの男友達(註:藤川さんは、高校の同窓生です。漆原さん、中野さん、中西さんも同じくです。・・野﨑)らしく、喋りだしたら銀次さん、町川さん、中野さんに負けていないの、楽しい。これで酒でも入ったら、もっと楽しくなって俳句どころでなくなるかも。大変な香川句会です。句会そのものが『特選』です。『桃の日の海見に上がる二階かな』佳句です。この季節の日差しや風を感じながら、海を遠くにして佇っていることが、詩であり俳句と思いました。

藤川 宏樹

特選句「つくづくし閉校式の門を出づ」多くの個性的な句のなか一見何気ないですが、季語「土筆」を「つくづくし」と仮名遣いしたことから地域は学校を「つくづく」使い切り、学校は地域に「尽くし」切り、無事閉校の日を迎えた意が汲み取られて深い母校愛を感じます。閉校の「門を出づ」ること。やがてスギナとなる「つくづくし」。いずれもこれからの成長を期待させるすがすがしい佳句です。自句自解「当たり前の春あり喉元通過中」は、選抜開会式、小豆島高校主将の宣誓で「当たり前の日常」という語を聞いたとき体がびりっと震えました。そしてなんとか一つ句にしようと推敲を重ねてやっと見つけた17音です。「当たり前の日常」を失ってはじめて隠れていた「当たり前」が立ち現れることを、うまく言い切れたと思います。→わたしも、開会式の宣誓を思いました。爽やかな佳句です。

小山やす子

特選句「ハルビンや虱さわさわと屍人より」ハルピンには行ったこともない身ですが重い歴史も含めてこの句からは不思議とじめじめした感じがしないのです。

町川 悠水

選評は、鑑賞眼と鑑賞力が問われることであり、作句と表裏をなすと言えば よいでしょうか。そう考えるところで15句前後をマークし、その絞り込みには苦労しました。よって、解らない句もありましたが、問題句の入る余地はありませんでした。さて、特選句「舌を出すアインシュタインは紫木蓮(河田清峰)」合評で、これには類句が沢山あると聞かされたのには、がっかりしました。でも、私には初見であり、第1席に選びました。こうしたことは俳句世界では避けられないことで、迷わず進みたいと思っています。ただ、「は」は省くべきでは?と思いましたね。以下、並選ながら、我流選評を述べさせていただきます。「褒め下手がバイロンのよう野を焼けり」は、最初鑑賞眼の低さから問題句としたものの、一転して佳句としました。海程句会ならこその洗礼と受け留めました。「寝台列車は混浴か山笑ふ(河田清峰)」は、よく利用した私にとって大いに愉しめる句であり、おまけにこの視点が好き。個室あり相部屋あり、浴衣姿も見えますからね。「ハルビンや虱さわさわと屍人より」は、高齢の方の人生句と捉えて敬意の念をもっていただきました。「屍人」は「屍(かばね)」でよろしいのでは?「虫歯して遠い医者往く摩天楼(KIYOAKI FILM)」は生活句の宜しさとしていただきました。古くは中村汀女がいますが、私は生活句を大事にし尊重したいと考えています。ただ野次馬を許していただけるなら、「顔ゆがめ急ぐ歯医者の摩天楼」としてみたい。「花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ」は、埼玉が俳句の産土である私にとって、必然的に選ぶ句でした。「千侍」も弟御であることを確かめての選です。「春の夜は鉛筆削り最終章(夏谷胡桃)」は、下5がホームラン級。「焚火臭家ごと老いてゆく春か」は、なぜ漏れてしまったか?制限時間内を口実にしましょうかね。

稲葉 千尋

特選句「春光に突き立てて少年の爪」五・五・七のリズムが苦にはならない。少年の爪が春光に輝く様に見える。特選句「曇天の母の航路や麦の秋」徘徊の母の姿、行動が手に取るようによくわかる。麦の秋が効いている。問題句「羽化はじむ春ショールにうすき汚れ」:「うすき汚れ」なしで一句にして欲しい。問題句「イースター卵の無段階活用」イースターエッグの方が良いのでは?

竹本 仰

特選句「春雨や朝餉の椀のいびつかな」私の先入観ですが、春雨は心を傷ましむるもの、それも秋のように内臓系ではなく、外傷系の、浅くは見えるものの浅くはない沁み方をするものだと思っています。この句は、そんな先入観にぴたりと来るものがあります。普段、何気なく手に持っていた朝餉の椀の形に一つ一つゆがみがあること、それだけなんですが、「や」「かな」と二つの切れ字のもつリズムが、背景と驚きとが妙にこちらを深く沈んで来させるところが妙味かなと思いました。こういう心象をそれとなく浮かび上がらせる、そういう手法、共感しました。特選句「はよぅ来まい手招く方へさくら舞い」梶井基次郎の小説「櫻の樹の下には」の終わりに、「今こそ俺は、あの櫻の樹の下で酒宴をひらいてゐる村人たちと同じ權利で、花見の酒が呑めさうな氣がする」とあり、ここを強くイメージさせられました。この句には、中也で言えば「幾時代かがありまして」的な、時間を超えて通用する像をさりげなく、それこそ目の前に舞うさくら程もありありと見せてくれています。どこかで見た、でも、あれは何なんだろうという、普遍の空気感というのでしょうか。ひょっとしたら、こういう空気に触れるために生きてきたのかなあと、社会に出たある日の私の実感にこの光景は重なるものがあり、また冒頭の方言が実に適切に使われていると思いました。

鈴木 幸江

ご挨拶。私は、この四月二十日に退職した夫とふたり、琵琶湖の近江から瀬戸内のさぬきに引っ越して参りました鈴木幸江です。滋賀にいたときは、滔々と水を湛える琵琶の湖に癒され、そして、この度は、晴れ晴れとした解放感のある瀬戸の海に導かれるようにやって参りました。香川のみなさま、並びに、ご参加のみなさまどうぞ今後とも宜しくお願い致します。→初めに移住のお話を聞いた時には、まさにぴっくりポンでした。頼りにしています!

田中 怜子

特選句「幼子の口笛のよう桜貝(月野ぽぽな)」目立たない句だけれど、こまやか、そう幼子の可愛らしさを桜貝であらわしている。特選句「?を担ぎ上げたる幹五尺(亀山祐美子)」無残に切られた幹、どっこい蘖をささえているぞ、と。問題句「舌を出すアインシュタインは紫木蓮」:「アインシュタインは」の「は」要らないと思う。

野田信章

「熊本地震」七日目の夜を迎えています。余震は続くものの少し弱くなりつつあります。断水が続いてますがあと少しの辛抱です。第六十一回分の選評を右記へ。「キー盤のどこに触れてもさくら咲く(月野ぽぽな)」「チューリップ宙を引き寄せ深呼吸(藤田乙女)」は、其れ其れに春の多感さが具体的に書き切られている句として注目した。「干潟落日あぶれ蚊が離れない」「捨て切れぬものの重さよ飛花落花」の二句は句の態様は異なるが心情の屈折したあり様が其れ其れの物象感を通して如実に伝達されるものがある。問題句二題。「花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ」は悼句としての前書きあえば兄弟愛の微笑ましい光景に陰翳を添えて味読可能かと思う。「春の世は鉛筆削り最終章」は〈春の夜の鉛筆削る最終章〉と最終章を美しく書き切るためにも推敲したいところだが如何でしょうか。

小西 瞬夏

特選句「生理用ナプキンに羽根花の冷」:「生理用ナプキン」が句になったという快挙。キーワードは羽根。飛べない羽根。でももしかしたら飛べるかもしれない羽根。「花の冷え」がなんとも女性の体の仕組みと切なく響きあう

夏谷 胡桃

特選句「万葉のラップソングや遠蛙」万葉の時代、その前の時代から蛙は同じように鳴いていたのでしょうか。万葉のラップソング。私たちが古典として勉強する歌もその時代のラップソングみたいなものだったかもしれませんね。ビートルズもエルビスも今では正統的古典の趣です。自分の俳句が自分の枠から出ない、古臭いものだということには気がついていますが、どうにも新しくはならない。ラップソングのように飛び出したいのですけど、うまくいきません。この俳句でこんなことを考えました。

古澤 真翠

特選句「たんぽぽの野は五線譜や夢を弾く」ゆっくり走る列車の窓から たんぽぽの咲く野原が広がり心ウキウキする様子が 目の前に映し出されるような雄大で美しい句だと感心しました。熊本の句友の皆様のご無事と ご健康を心よりお祈り申し上げます。

KIYOAKI FILM

特選句「五歳はや言葉甘美に雛祭り」五歳児は個性がはっきりする歳だと思う。その歳で甘美とは賢い子どもです。女子の、美しさを感じます。子ども自慢が全くないように見え、良かったと思います。特選句「涅槃西風眠気の醒めぬ背中かな(亀山祐美子)」:「眠気」が「背中」に伝わるのは納得がいく。寒い中、部屋に居ると、まず「背中」に違和感を覚える。大人の方が多いと思う。子どもの時は寒い時、腰に来ると思うから…。「涅槃西風」が良く効いている。

寺町志津子

特選句「花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ」今春、秩父道場に参加した。兜太先生はとてもお元気で、「このところやたら講演会が多くて、声が出るかどうか」と言われながらも、スックとお立ちになって、正調秩父音頭を朗々と謡って下さった。師の音頭を聞きながら、作者には、先頃お亡くなりになった秩父音頭保存会会長(正式名かどうか?)の弟さんの舞姿が過ったのではないか。そして、それは、兜太師の胸にも。また、弟さん追悼のお気持ちもあったかもしれない。「花しんしん」がよく利いていて切ない。しみじみと胸にしみる佳句である。→句会での師の「さくら咲くしんしんと咲く山国なり」を踏まえての挨拶句、お見事。

三好つや子

特選句「羽化はじむ春ショールにうすき汚れ(小西瞬夏)」家事に解放され、あでやかな装いで、男友達に会いに行くように、コンサートや美術館へ出かける。そんな女性の気持ちに共感しました。「うすき汚れ」が心にくいですね。特選句「尻という存在花のうしろから」大阪市立自然史博物館で開催されている「生命大躍進」展を見た矢先、この句に遭遇。進化の途中で、鼻の穴の一つが肛門に変異した事を知り、「尻という存在感」のフレーズに惹かれました。問題句「パンツのゴム鮴・目高の六匹ほど」ゴリ押しの語源になった鮴の利かん気な生態を、パンツのゴムの弾力に喩えているのでしょうか。妙に気になる句です。目高を入れずに、ゴムと鮴に絞った方が、面白いと思います。はじめは、鮴という魚がよくわからず、作者の真意がつかめない句でしたが、理解が広がると、この句の面白さに気づきました。

伊藤 幸

特選句「干潟落日あぶれ蚊が離れない」 美しい夕焼けの干潟と、あぶれ蚊の思いがけない取合せ。作者の心の傷か、背負う過去か?いずれにせよ胸を締め付ける句。五七五でここまで響かせるとは…俳句はやはり素晴らしい。

漆原 義典

特選句「寝台列車は混浴か山笑ふ」寝台列車を混浴みたいだと感ずる柔らかなかつユーモアに富んだ感性に、楽しい感動を受けました。山笑うという季語もよくマッチし本当に楽しい句です。ありがとうございました。

高橋 晴子

特選句「捨て切れぬものの重さよ飛花落花」目に見えぬ捨てきれぬものを感じてそれを重さというとらえ方に対して花の在りようを飛花落花という表現で捨てきれぬものの重さをより感じさせられる。覚悟を感じさせられる句。問題句「当たり前の春あり喉元通過中」当たり前の春という春があるのだろうか。喉元通過中という言葉も遊び過ぎるとおもう。実質の言葉をもっと大事にしたいと思う。

銀  次

今月の誤読●「オリオンの真下はくれん撃たれしよ」。ここでいう「オリオンの」のオリオンが、新宿カラス通りの映画館、オリオン座であることは間違いない。カラス通りは通称である。明け方、店じまいをした飲食店が残飯をゴミに出すので、大挙したカラスがエサをあさりに来るのである。午前五時あたりだとカラスの群れで酔客などは足を取られてすっ転ぶこともしばしばであった。よく通ったなあ、オリオン座。オールナイトで高倉健の「日本侠客伝シリーズ」や「昭和残侠伝シリーズ」などを一挙五本立てで上映するのである。「日活ロマンポルノ名作選」五本立てなんてのもあった。シビれたねえ、片桐夕子。昭和でいえば四五、六年のことだ。オリオン座に集まる客は、まずは酔っ払い、終電車に乗り遅れた安サラリーマン、遊ぶ金など持たない学生。わたしは学生ではなかったが金はなかった。当然オリオン座の常連だった。オリオン座のあたりには物もらいや売れ残りの娼婦、オカマちゃんなどがうろついていて、よく金をせびられたものだ。「真下は」なんてのはなおさらだ。みんなピーピーなのだ、金など「くれん」。「撃たれしよ」というのが実景なのかどうかはつまびらかではないが、なにしろヤクザ連中の全盛期である。流れ弾に当たったとしてもフシギではない。だがわたしはむしろ健さんの映画を観てすっかりその気になったシロウトさんが、金をせびりに来たお乞食さんか、オカマちゃんにデコピンでもかましたのではないかと思う。むろんそのシロウトさんが横丁の細路地に連れ込まれてボコボコにされたのはいうまでもない。一字違いだが、そのころ銀座にオデオン座というのがあった。こちらはれっきとしたロードショーの映画館で一本しか見せないくせにオリオン座の十倍くらいの入場料を取った。わたしもデートのときにはミエを張ってオデオンに行ったりしたが、なーんの面白味もないご清潔な人種の集まりだった。そんなとき、わたしはよくつぶやいたものだ。「くそったれの俗物どもめ」。そしてつづけて「今夜はオリオン座で口直ししなきゃな」。

野澤 隆夫

特選句「捨つる物男のことなど八重一重」:「捨つる物」の筆頭が「男」だったとは…。そして「男のことなど」と徹底的に「やられて」ます。いや、もう哀れ。中島みゆきの「ララバイ」破局編です。問題句は、「仕草にて宿縁らしき蜥蜴かな」:「宿縁」と「蜥蜴」のアンバランスな言葉のバランス感が不思議です。

三枝みずほ

特選句「花なずな兎跳びする好奇心(三好つや子)」花なずなは地味で目立ちませんが、工夫ひとつでしっかり音を出し、知れば知るほど興味深くなります。そんな季語との取り合わせも共感でき、この好奇心から何かが生まれそうで、とび出しそうで、前向きな生命力に溢れた作品でした。

増田 天志

特選句「にんげんの指が白布裂く彼岸」やれるだけやってみなはれ阿弥陀仏。

重松 敬子

特選句「麦秋や夫人の犬の声を聞く」:「婦人の犬」が、想像を膨らませ一編の物語が展開する。あれこれと粗筋を考えてみるのは、とても楽しい。なかなか奥行きのある句である。

河田 清峰

兜太先生に会いたくて秩父の道場へ行ってきました。初参加の河田清峰です!よろしくお願いいたします~特選は「つり革の揺れて春ですねと言いたげ」揺れる物すべてに春を感じますが身を預けるつり革にまで感じたのが良いと思います。

桂 凛火

特選句「竜宮の扉ひらくや花吹雪」竜宮の花吹雪をみるとこの世のものとは思われないような不思議な心もちになります。哀しいようなはかなさですが、ここでは竜宮の扉が開くというのです。まことに明るく景気のよい風景になりました。大胆で意外な発想に心ひかれました。「ひらくや」の切れもよかったです。

谷 孝江

今月も佳句をたくさん見せて頂き有難うございました。特選句「たんぽぽの絮が楽譜に加わりぬ」たんぽぽの絮のかろたかさ、楽しさが見えて来てつい、スキップでもしたくなるような心持ちにさせてもらいました。特選句「縦(たて)横斜め切っても切っても朧かな(寺町志津子)」自分自身が朧の中へ引き込まれてゆくような不思議な感覚を味わいました。

中西 裕子

特選句は「揺れて春リバティ柄のワンピース」で、はながらワンピースのすそがゆれて、軽やかで春の喜びのようなものを感じます。「靴はきし吾子の一歩や山笑う」も、ようやく赤ちゃんが歩き始めたのかな、山の生き生きした緑とのびていく命がかさなりみずみずしいです。「昏睡の老女よ遊べげんげ畑(銀次)」も、老女は、命がつきようとしているのでしょうか、魂が自由にげんげ畑で遊びなさいという意味なのかな、淋しさと楽しさが同居しているようで心ひかれました。今月は、身内の世話で疲れました。5月はまたさわやかに頑張りたいな。宜しくお願いいたします。

野﨑 憲子

「焚火臭家ごと老いてゆく春か」:「焚火臭」に力あり。自然の理に従いながらも、十七音の気息が<老い>を跳ね返すように感じました。一日も早く安全宣言が出ることを祈念しています。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

帽子
言の葉はいのちのおもさ春帽子
野﨑 憲子
春風を白帆に受けて帽つかみ
藤川 宏樹
帽子いっぱいたんぽぽを摘んだよ
柴田 清子
春潮
震災地癒す術(すべ)なし春の潮
町川 悠水
春の潮上げ下げ上腕二頭筋
中野 佑海
赤ちゃん
春風の寝息掬いし赤子かな
中野 佑海
赤ちゃんの目は見えずとも囀に
町川 悠水
藤房揺れる思ひの届かずに
柴田 清子
藤の花鍋島の猫の尾を開く
中野 佑海
角砂糖5
ひとりぼっちでいる春光の角砂糖
三枝みずほ
春愁や紅茶に溶ける角砂糖
銀  次
瓦煎餅
風光る思い切り割る瓦せんべい
柴田 清子
台所母のせんべいかじる音
銀  次
瓦煎餅つぶやき大きくなって春
三枝みずほ
訪ぬれば年年歳歳菫かな
町川 悠水
生き方のシンプルな人菫草
三枝みずほ
立ちつくすすみれ畑のどまん中
銀  次
だから風煮詰まって菫野に寝る
野﨑 憲子

句会メモ

十二時半を過ぎた頃、会場のサンポートホール高松の会議室の前には、スラリとした女性の人影!柴田清子さんでした。久々のご参加ですが、優しい笑顔は・・まさに風光る!、今回は、一月にママになったばかりの三枝みずほさんも、颯爽とご登場!賑わいだ楽しい句会になりました。袋回しのお題のひとつの瓦煎餅は、当日のお菓子。みずほさんの瓦煎餅をバリバリ齧る音が、楽しそうに会場に響きました。今回も、色んな作品に出逢えて幸いでした。ご参加の皆さま、感謝です。

5月は、「海程」全国大会がありお休みです。次回は、6月18日となります。午後1時から3時まで、袋回し句会をし、その後、吟行合宿に参ります。詳細は、「句会案内」そして、野崎までお問い合わせください。事前投句は、通信句会のみとなりますが、締切日他は、いつもと同じです。締切日厳守で、奮ってご参加ください。よろしくお願い申し上げます。

2016年3月31日 (木)

香川句会報 第60回(2016.03.19)

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事前投句参加者の一句

白梅やしずかに止みし姉の脈 稲葉 千尋
少年はいつも少女を待ち早春 小西 瞬夏
海地獄春の色して茹で卵 寺町志津子
俯けばしんがりの梅ほつと開く 伊藤  幸
ちるさくら受くるあなたのからだかな 竹本  仰
白鳥帰る完全無欠な青連れて 夏谷 胡桃
前を行く人から春がこぼれます 柴田 清子
風とまりふと足元にすみれ草 中西 裕子
病窓の陽射しに俺もホーホケキョ 増田 天志
穴ひとつ掘るだけに生き春の月 銀   次
とことんに列島に花ある蕊よ父の口 KIYOAKI FILM
沈丁花光に嘘のない美(は)しさ 久保 智恵
花あしび別れすぐ来る手を上げて 野田 信章
芽起こしの風に躓く麒麟の眼 亀山祐美子
風連れてどれを買おうか植木市 髙木 繁子
やわらかく仔猫かさなる箱の中 月野ぽぽな
宅急便曲がって曲がって春の街 三枝みずほ
うつばりの黝(くろ)のはなやぎ夕朧 矢野千代子
涅槃図に三十歳(さんじゅう)の我入りしまま 高橋 晴子
とりどりに鳥宿りおり春の雨 藤川 宏樹
有難うの卒業涙の相似形 中野 佑海
うどん県遍路が合掌ちゅるるるる 町川 悠水
オレンジな一日の唇軽く拭う 桂  凛火
春愁に非ず十指を陽にかざし 谷  孝江
夢十夜百年待てと春の闇 野澤 隆夫
古書店に蹄の音す菜の花忌 若森 京子
春の土アダムとイブの匂いかな 重松 敬子
三鬼の忌金属音の蠅生る 三好つや子
千手観音(かんのん)の御手にそれぞれ白木蓮 田中 怜子
春疾風ジンギスカンが旗を振る 漆原 義典
鋭角の言葉をミモザに変換す 古澤 真翠
春の空娘はぼんやり彫るがいい 小山やす子
たんぽぽや他力本願風の道 藤田 乙女
唇に雨粒二つ三つ春 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「とことんに列島に花ある蕊よ父の口」核心をつく言葉ポツリと無口なる父。息子の心に、蕊は、いつしか、果実に育つ。

月野ぽぽな

特選句「祖祀る心音かるく春落葉(矢野千代子)」:「祖祀る心音かるく」が良かった。先祖を祀る心を日々もてることは宝。その恩恵を受ける心のありよう、心音は重くなく軽い。「春落葉」もその佇まいの良さ、またその地道な生の営みに寄せる心が上五中七と通じ合っている。

中野 佑海

特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」素封家を百年近く守って来た土間の大きな太い梁。漆や煤や手入れして黒光している。そこに住む人の思いとも渾然一体となった梁。今、その家の主たる妻の心の華やぎ。夕映えの色。桃の花色と匂いと家族の歴史総てを抱き止め悠然と繋いでいく。そんなかってあった物語性を感じます。特選句「オレンジな一日の唇軽く拭く」とっても軽快な前半、どんな楽しいことがあったのかなと想像逞しくしてしまいました。後半がまた、意味深ですよね!こんな青春な一日を若い人は年とってもですが、楽しんで欲しいと思います。増田様。また、大津から半歌仙を御指導しにおいで下さり有難うございました。増田様の名さばきで面白い歌が展開しました。また、楽しい俳句論をお聞かせください。

藤川 宏樹

句会冒頭、百余の句を一気読み。この緊張感を大事にしたいです。短時間の選句ゆえ読みづらい句は飛ばしてしまいますが、ご容赦ください。特選句「芽起こしの風に躓く麒麟の眼」首長く脚長くいかにも不安定なキリンが微風にヨロッと躓く一瞬。その眼は高いが大きく優しい。「芽起こし」から日本の一景と窺えるのにサバンナの点景が浮かび来ます。起の「芽」と〆の「眼」、対が効いています。

古澤 真翠

特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」:「黝」という蒼みを帯びた黝い梁に魅入っている作者の感動を 「夕朧」と表現なさる感性に惹かれました。「み吉野に色はありけり夕朧」という句が ふと浮かんでまいりました。

野澤 隆夫

今月も楽しい句回の場を作って頂きありがとうございました。天志さん捌きの歌仙も、少し慣れてきて面白いです。6月の伊吹島吟行合宿も原案が出され、楽しみです。特選句「エシャロット刻むパリは噂好き(重松敬子)」:「エシャロット」を『広辞苑』で調べると「…タマネギに似る。…みじん切りにして香味料として…」と、〝パリは噂好き〟が何ともお洒落。最近はフランス映画を見ることもなくなり残念。「主翼灯仄か雲海の彼岸入り(藤川宏樹)」〝雲海に仄かな主翼灯〟と、目にしたことを上手に作句できてると思った。彼岸の入りの日に飛んだのです。「古書店に蹄の音す菜の花忌」この句も好きです。土佐藩祖・山内一豊が名馬を駆って古本屋に現れたか…。〝蹄の音す〟がいい。

町川 悠水

選評を書くというのは難しいものですね。句会でぱぱっとしゃべるのは比較的易しいものの、文字に置くとなると、俳壇選者の苦労もわかるようで、皆さんのお気持ちはどのようなものか。銀次さん流を真似るというのも、粋ではあるものの、手の届かぬところにあるしなあ‥‥。ここはやはり、自分の身の丈にあったやり方でいくしかないか‥‥特選句「賑わしの作句限界春の雨(古澤真翠)」以前の埼玉でのささやかな句会では、高齢者も何人かいて100歳近い人もいました。すると、このような嘆きを聞くこともありました。でも、上出来と思える句は誰だってそうそう出来るものではないよと、慰めたりしながら一緒に楽しんだものでした。実は、限界と思う気持ちこそが尊いものであり、その身のまわりから真の佳句が生まれ出るということがあるのではありませんかね。単なる同情ではなくて、「春の雨」で特選としました。僭越ながら「賑はし」がよくはありませんかね。特選句「つくしんぼ宇宙の響き満身に(増田天志)」土筆をこのように感じ取る。私の子どもの頃の強烈な印象とよく重なり合って嬉しくなります。宇宙は、光であるとみるか、響きであるとみるか、そのどちらかでしょうが、ここは「響き」で正解でしょうね。準特選句「宅急便曲がって曲がって春の雨」がグーですね。問題句「にんげんも蛙も臍出し三鬼の忌」佳句だと思うのに、なぜかよく解らない。突っ込みを入れるなら、「にんげん」ではなく「人」なのでは?三鬼に惹かれる私なので、これを超えるような句を作らねばと思う反面、果たして出来るだろうかとも。「ちるさくら受くるあなたのからだかな」は、感銘深く選ばせていただきました。ただ、「受くる」は「看取る」ではないのかと思いながら、鑑賞を間違えているかなとも‥‥。並選ながら「主翼灯仄か雲海の彼岸入り」、「春疾風ジンギスカンが旗を振る」も印象深くいただきました。全体として、わからない句はわからないまま脇に置いて、片や辞書をめくりながら鑑賞させていただくのも、新たな地平が開けてくるようで、楽しいものです。

銀   次

今月の誤読●「人といて井戸のぞくよう梨の花(夏谷胡桃)」。八五郎(以下、八)「大家さん、こいつはどういう意味なんでやしょう」大家(以下、大)「ふむ、なになに。〈人といて〉か。こりゃ、おまえ、あれだ、人といるんだよ」八「どうしてでやす」大「人じゃなきゃ、だれといりゃあいいんだい。虎かい。そんなものといた日にゃ食い殺されちまうよ」八「だったら犬でいいんじゃないですかい」大「犬だって、機嫌が悪けりゃガブリとやられちゃうんだ」八「じゃあ、猫」大「あいつは引っかく」八「うちのおっかあも時々引っかく」大「いいよもう。人だよ、人でいいんだよ。文句があるなら大岡さまにでも訴えな。で、なんだ。〈井戸のぞく〉と。いいじゃないか、のぞいたって。だいたいニンゲンなんてものは、穴があったらのぞくようにできてんだ」八「なんで井戸なんでやすか」大「あたりめえじゃねえか。女湯のぞいたらお縄になっちまわあ」八「まあ、あっしも何度か。いや、おっとっと、そりゃいいんですがね。それでその下の〈よう〉ってのはなんでやしょうね」大「挨拶じゃねえか。よう、八っつあんとか、よう、熊さんとかの、ようだよ」八「井戸に向かって、よう、でやすか。そりゃドジだ。返事が返ってくるわけがねえ」大「そこで〈梨の〉とくるんだよ」八「食うんですかい」大「梨の、と聞いてピンとこないかい」八「さあ」大「梨の、とくりゃ、つぶてだよ。梨のつぶて。返事なんか返ってくるもんかい」八「あ、なるほど。ようと呼んでも梨のつぶてか。ですが最後の〈花〉ってのが余りやすね」大「いいんだよ。八、いいかい。返事もねえのに、井戸に向かって、ようようと大声で呼んでたらどうなるね」八「さあ、アタマがフラフラしやせんか」大「そこだよ。花を英語でいうとどうなるね」八「タンポポ」大「バカ、フラワーってんだ」八「へえ。さすがは大家さん、学がありやすね」大「あたぼうよ。でだ、ようようと呼びつづけて、アタマがフラー、フラー、フラワーとなっちまうって寸法だ」八「なるほど、合点がいきやした」

竹本 仰

特選句「少しだけ離れ坐つてゐて春意(柴田清子)」たぶん、これは、異性の距離感のことではないのかと推量します。「そこ」にあなたが「ゐて」、「ここ」に私が「ゐて」、その緊張感、あるいは緩和感が、二人の距離をずばりと言い当てている。あるいは向こうはあえて書物を取り出しめくるのかも知れない、そしてこちらは何もできずにこの空間と時間の重みを抵抗できず受け止めているのみか。「ゐ」に古語感、歴史感、うまくしみこんでいるのではと思います。特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」古い民家の闇からうす闇、そこからあかりへの、グラデーションというのみでなく、立ち上がってくる時間のなまめかしさ。思わず、うなりそうな息をのむ光景です。奥行きを、一見別種の「はなやぎ」という語に見事にとらえているなあと感心しました。しかし、この共感は人生の内面へのまなざしに向けられたものかもと。春は芽吹き、開花の時期です。それと同時に、心の病もそれと正比例にあらわれるようです。知り合いにそういう方がおられ、しかし他人事ではありません。この間、ニーチェの言葉を読んでいたら、「もっと喜ぼう。ちょっといいことがあっただけでも、うんと喜ぼう。この人生、もっと喜ぼう。喜び、嬉しがって生きよう」 というところに接し面喰いました。これは、病ではない、これこそを芽吹くというのかなと。いい季節になりました。また、来月もよろしくお願いします。

若森 京子

特選句「白鳥帰る完全無欠な青連れて」毎年、カムチャッカの方から飛んで来て帰る白鳥に不思議な自然の摂理を思うが、完全無欠な青、純粋な青を運んでいるのに納得した。特選句「春の土アダムとイブの匂いかな」春の土に人間の始めよりの匂い、全ての自然界の始動がある。「アダムとイブ」と直接書かれている。これ以上の表現はない。

小西 瞬夏

特選句「少しだけ離れ坐つてゐて春意」この距離にはどういう意味があるのだろうか。その関係性や二人の間にあった出来事などが想像される。言葉以上の世界を作っている。「少しだけ」がやや安易な気がするのだが。「~ほど」とかもう少し具象に即した手がかりがほしい。

谷 孝江

特選句「少年はいつも少女を待ち早春」「前を行く人から春がこぼれます」なんて優しくて、情緒溢れる句でしょう。心暖まる思いでいっぱいになりました。八十ン年前のわたしにもこんな事があったのでしょうか。遠い遠い一シーンに出会えた心地がします。ありがとう。今月はどれも春らしくて大好きな句ばかり。選ぶのに大変でした。唯々自分好みになりました。来月はどんな句に出会えるか楽しみです。

寺町志津子

特選句「芽起こしの風に躓く麒麟の眼」一読、心奪われた。木の芽を上方に向ける芽起こし。その風に躓く麒麟の眼。恥ずかしながらその意がしかとは分かりかねているのに、何故だろうと自問自答。その取り合わせの独自性、新鮮な詩情に、実に魅力的な風が流れ、大好きな句であった。

田中 怜子

特選句「春愁に非ず十指を陽にかざし」陽にかざした指の明るい透明感が目に浮かぶ。気持ちの転換がはかられそう。特選句「やわらかく仔猫かさなる箱の中」仔猫のやわらかさ、すーすー眠っている感じがいいですね。問題句「海地獄春の色して茹で卵」:「海地獄」と「茹で卵」の意味がわからない。

三枝みずほ

特選句「「唇に雨粒二つ三つ春」春のアンニュイな世界観が出ていて惹かれました。一つとしないで、二つ三つと並べることで、逆に一つ目の雨粒が強調され、何かの始まりを予感させられるようです。リズムも素敵な作品でした。

重松 敬子

特選句「病窓の陽射しに俺もホーホケキョ」病気の句は寂しいものが多い中、よけい目立ちます。いいですね。人生は最後までこうありたい。退院も間じかなことでしょう。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き春の月」下五の春の月がすべてを物語っていると思います。作者の人生に対する姿勢でしょうか・・・・・

中西 裕子

特選句「銚子酌む三人官女や桃のほほ(藤川宏樹)」春らしいテ―マで、リズムも良いのでいただきました。「少年はいつも少女を待ち早春」の、少年少女は、若い人たちと、早春が似合います。「鳴動す小さき命の春布団(三枝みずほ)」は、新しい命への喜びが感じられます。「菜の花の一塊に襲はれる(柴田清子)」は、今まで菜の花のしみるような色の表現を、こんな言い方は思い付かなかったので新鮮でした。問題句「時に奇声発して老人春の鵯(ひよ)(野田信章)」は、問題句というかなんとなく笑ってしまうような句で、奇声が老人なのか鵯なのかわかりませんでした。増田さま、遠くからいらしてくださってありがとうございます。勉強になりました。

三好つや子

特選句「「春愁の指の先から塵になる」仕事も家事もしたくない・・・そんな春の無気力感が伝わってきます。指先が塵になるという言い回しに感動しました。特選句「春の土アダムとイブの匂いかな」春、さまざまな命が芽吹く大地。朽ちた植物、鳥や獣の骸が浸みこんだ土の匂いに、神話をイメージした作者の感性が素晴らしい。「にんげんも蛙も臍出し三鬼の忌」三鬼の忌と万愚節はおなじ日。三鬼的な物の見方と、いたずらっぽい嘘が軽妙にからんだ、面白い句です。

伊藤 幸

特選句「涅槃図に三十歳の我入りしまま」きらびやかな涅槃図の中に あの悩ましい程美しかった自分がそこにいて気持ちだけはそのままなのだ。今を否定はしないがあの頃に戻れたら何をどうしていただろう。時は残酷に刻み続ける。句がどうだと言う前に 作者の思いが手に取るように伝わってくる。特選句「オレンジな一日の唇軽く拭う」素晴らしい一日を終え まだ余韻に浸っている。興奮覚めやらず唇に舌で触れるとほんのり色づいた温かみが感じられ拭うのが勿体ない位。上中下一語一語に漂う新鮮な雰囲気が魅力である。

小山やす子

特選句「躰内に水の満ちゆく鳥曇り(亀山祐美子)」春先の気も体もけだるいそれでいて何もかもが蘇生するような感覚を上手く瑞々しい表現になっていると思いました。

柴田 清子

特選句「薄氷はきっと光の翅だろう(月野ぽぽな)」瞬きをすれば消えても不思議ではない〝うすらい〟を「光の翅」だと、優しく自分自身に言ひ聞かせていながら、読手には、強い断定と受け取れる。それは『光の翅』と言ふ言葉の発見が、詩的な句として立ち上って来る。さらに『きっと』が、キラリと翅を一瞬光らせた。こんな句に出会えるから俳句は止められないのかな・・・。特選句「鋭角の言葉をミモザに変換す」何を言はんとしているのか、理解しぬくいけれど、一読、好きか、嫌いかで言えば、大好きな句。鋭角の言葉が、何であるか、はっきりしていないことが、かえってミモザでなければならない気にさせられた。この句が、私の特選へと変換させたみたい!

漆原 義典

特選句「「有難うの卒業涙の相似形」卒業式は、将来への羽ばたく喜び、友との別れの悲しさなど、それぞれ感じるところがありますが、卒業式の有難うの言葉を涙の相似形と上手く表現されていると感心し特選とさせていただきました。私は俳句を表現する言葉が乏しく、私の俳句の引き出しには「相似形」という言葉はありませんでした。私は言葉を多く持っている人に憧れます。今後、俳句の引き出しに言葉を多く詰めていくように勉強していきます。

野田 信章

特選二句。「鋭角の言葉をミモザに変換す」「春の空娘はぼんやり彫るがいい」前句に冴えた感覚による発想の句姿を、後句に感受性の豊かな発想の句姿を認めて味読中である。「変換す」といい、「彫るがいい」といい、それは取りもなおさず詩的真実を求めての創る行為の美しさに共通するものがある。私的にも、この二点の希求するところに留意したい。「何もかも海が飲み込むめおと蝶」の一句は、中句にかけての景の取り方がよい。この句柄なら「何もかも海が呑み込む」と決めたいところでもある。

桂 凛火

特選句「宅急便曲がって曲がって春の街」リズムがよくて春の明るい気持ちが伝わりますね。曲がって曲がってがよかったです。いつも見ている情景がうまく切り取られていてさわやかです。問題句「三鬼の忌金属音の蠅埋生る」三鬼の忌との取り合わせがおもしろいです。ただいまひとつわたしには 三鬼の忌が動くようにも思えました。でも金属音の蠅うまるは素敵な表現ですね。

亀山祐美子

特選句『前を行く人から春がこぼれます』一読よくわかる。明るいアンニュイが春らしい。逆選『蒲公英を転がつて行く私の港」:「私の港」が意味不明。「私の舟」なら意味が通る。しかし面白みに欠ける。ここがこの句の肝。楽をした。残念。

高橋 晴子

特選句「白梅やしずかに止みし姉の脈」ふと蕪村の〝白梅に明くる夜ばかりとなりにけり〟を思いだした。悲しみが伝わってくる。問題句「被曝牛乳房の張りをわれに見す(稲葉千尋)」〝われに見す〟をもっと牛そのものの在り方に変えるといい句になると思う。

野﨑 憲子

特選二句。「穴ひとつ掘るだけに生き春の月」この省略の美しさ、春月の何と艶なることか!煮詰まってばかりの私にとって、この上もないエールと受けとめました。「とりどりに鳥宿りおり春の雨」ト音の繰り返しが雨音に聞こえてくる。昔、栗林公園を歩いていて、にわか雨に会った時、走り込んだ四阿・・ふと見上げると、梁の上に、尾長鳥が何羽も居ました。記憶を喚起させる作品に力あり。句に出逢ふ喜び確と三月尽 憲子  

(一部省略、原文通り)

半歌仙『風光る』の巻     捌き  増田天志

風光る島の自転車ハイカラさん
増田 天志
  ひらりひらりと夕べ陽炎
野﨑 憲子
夢うつつ鼻孔くすぐる春日にて
中野 佑海
  トイプードルのかしましき声
野澤 隆夫
うさぎはね雲をかき分け月に入り
藤川 宏樹
  温き酒にも寂を先取る
   佑海
紅葉かるトロッコ列車に手を振りて
郡  さと
  還暦過ぎし恋はうたかた
漆原 義典
七輪に束ごと燃やす想ひ文
銀   次
  兄さんと呼ぶプラットホーム
   憲子
こんぴらへ裏参道を駆け登る
   さと
  飛び交ふ鳥の哀しかるらん
   佑海
月涼し胡弓聞こゆる旅の宿
   さと
  鰻食ひたし四万十まで行く
町川 悠水
寅さんの古い映画のかかりをり
   さと
  無用の用はバケツにいけて
中西 裕子
禿隠し竹馬の友と花の宴
   悠水
  息づく灯り雛の寄り添ふ
   佑海

句会メモ

お陰さまで、「海程」香川句会は、第60回を迎えました。ひとえに、ご参加の方々、また、見守ってくださる読者の皆様の温かなお心によるものと存じます。有難うございます。そして今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

今回は、大津より増田天志さんが参加されましたので、久々に半歌仙を巻きました。俳歴も、句柄も、それぞれに違う方のご参加なればこその、ちょっと型破りな面白い歌仙になりました。歌仙には、取り決めが様々あるのですが、それをあまり気に掛けないのが、この句会の、また良い所でもあります。増田さん、捌きを有難うございました。いつかまた是非やりたいです。

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