2017年3月1日 (水)

第70回「海程」香川句会(2017.02.18)

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事前投句参加者の一句

         
日本を洗濯するぜよ龍の玉 島田 章平
熊野八鬼山干飯そこに零れおり 大西 健司
立春や患う父の話好き 山内  聡
てふてふを白き凶器として飼へり 小西 瞬夏
二ン月の湖胎児ゆらゆら宇宙へと 伊藤  幸
東北の紅梅白梅あの子かしら 若森 京子
咲き初めしそれそれ梅の佇まい 鈴木 幸江
裸木の微分積分まだ解けず 寺町志津子
奥讃岐描く魁夷の白と黒 漆原 義典
きさらぎの木の芽ドレミの匂いする 三好つや子
ムンク叫ぶあの人きっと花粉症 谷  孝江
大泣きの鬼は善人恵方巻 小山やす子
もう赤ちゃんじゃないよ春の膝小僧 三枝みずほ
春疾風つるり子を産むアラフォー娘 中西 裕子
残雪を踏み地母神に会いけるも 疋田恵美子
節分や鬼と福との住処なる 河田 清峰
カモシカの振り向きざまに宙光る 夏谷 胡桃
猫の手の尿(しと)の匂いや日向ぼこ 田中 怜子
天の主に悔い改めし春の草 KIYOAKI FILM
素っぴんの女の意地や冬すみれ 藤田 乙女
薄氷は割る癖絵馬は返す癖 高橋 晴子
オリオンへ十円七つ青電話 藤川 宏樹
若き日の友の横顔針供養 髙木 繁子
雪嶺や憲法も吾も七十年 稲葉 千尋
首の向き変えてあげよう冬苺 町川 悠水
合格のラインの絵文字高笑い 野澤 隆夫
冬の陽という神獣を飼いならす 月野ぽぽな
暖かくなりましたねと水のいう 野口思づゑ
ものの芽や人間だけが剥き出しに 男波 弘志
踏青やひとりで開く野のランチ 重松 敬子
春雷や紐で縛りし裏の木戸 菅原 春み
ゆふてたもれ大根の素生いかむや 増田 天志
告白前の潮満ち咽喉の水母かな 竹本  仰
落ちもせぬ熟柿のままの虚空かな 野田 信章
雪国や裾絡げ行く赤い傘 古澤 真翠
昼からの時間たぷたぷとして春 柴田 清子
背伸びして天狗なりける恵方巻 中野 佑海
雛流しそのまま姉は漂流す 矢野千代子
陽の錦糸風の銀糸や池二月 亀山祐美子
丸まりし喪服の人よ冴え返る 銀   次
シューマンのたとえばセロリ男前 桂  凛火
陽炎や風と交はり雲に寝る 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「もう赤ちゃんじゃないよ春の膝小僧」こんな堪らなく可愛くプルプルした俳句最高です。小学一年生になって、頑張って一人で毎日、大きなランドセル背負って学校に通う子供たち。何かの拍子に転んで、膝小僧を擦りむいて帰って来た。もう婆のほうが可哀想になって泣いちゃうシチュエーションっての有りですよね瀨でも、子供は顔をしかめながらも泣かないの。「僕もう、赤ちゃんじゃないよ!!」って。ウンウンそうやって大人になっちゃうんだね。ちょっと婆は淋しいよ。泣いてくれたら、抱っこも出来るのに。今月は難しい俳句が多く選びきれませんでした。小西瞬夏さん高松までお出で頂き、そして素敵な俳句を作る秘訣お教え頂き有難うございました。いつも素敵な瞬夏さんから素敵な俳句が産まれると納得いたしました。またお会いするのを楽しみにしています。

小西 瞬夏

特選句「薄氷は割る癖絵馬は返す癖」一読たいしたことは言っていないような、でも妙に気になる。それは、自分の中にある、ちょっとした気持ち「割ってみたい」「ひっくり返してみたい」というものに触れられたからだろうか。五七五という型に置くことで、そのちょっとしたことが響きあい、「薄氷」と「絵馬」という具象を得て、散文では到達できない世界を作った。「薄氷を」「絵馬を」にしたほうが、意図を薄め、よりすっきりするのではないだろうか。 問題句「告白前の潮満ち咽喉の水母かな」感覚はわかるが、言いたいことを詰め込み過ぎて、読者が遊べる余白が狭く、窮屈である。「告白前」まで説明しないほうがよいと思う。

島田 章平

特選句「冬の陽という神獣を飼いならす」何となく急かされる様な、心細い冬の陽。そんな冬の陽を神獣として飼いならしている。人生の黄昏の中、悲しいまでに穏やかな一日。

藤川 宏樹

特選句「薄氷は割る癖絵馬は返す癖」五七五を二つに割り、万人共有の「あるある」を詠って調子に破綻なし。「あっぱれ!」です。70回句会は参加一周年の句会。袋回しは数にこだわり雑になりました。皆さんの柔軟な思考、観察を伺うのが本当に楽しみです。

矢野千代子

特選句「熊野八鬼山干飯そこに零れおり」:「熊野八鬼山」―この固有名詞だけでも、読み手に訴える力はすごい。鬼という字から浮かぶさまざまのイメージが、古代から現在へと続く数多のドラマをかきたててくれるから…。

稲葉 千尋

特選句「ムンク叫ぶあの人きっと花粉症」ムンク叫ぶを持ってきた手柄。特選句「素っぴんの女の意地や冬すみれ」冬すみれの凛とした姿と上五中七の相性ぴったし。

小山やす子

特選句「てふてふを白き凶器として飼へり」てふてふの持つ危うさを凶器として捉えた感性に感じ入りました。

男波 弘志

特選句「首の向き変えてあげよう冬苺」苺にとって、向きを変えるのは人間のエゴ、せんでいいことだらけの世界「原発」向きを変えられたのは、いつ! 誰が? 暗喩の詩、珍重、珍重。問題句「告白前の潮満ち咽喉の水母かな」発想は抜群、只、主役ばかり、脇役をふやしてフォーカスを(咽喉の水母)に絞る、「告ぐる日の潮満ち咽喉にまで水母」このほうが情感が全体にいきわたりませんか。「立春や患う父の話好き」複雑な心理描写、癒える見込みがない患いなら、窓の光が痛い。「てふてふを白き凶器として飼へり」凶器、言ってしまった感あり、凶器、白、を言わずにそれを出したい。俳句は暗喩の詩。例えば、「てふてふをしまってありし部屋のノブ」「東北の紅梅白梅あの子かしら」実景、と、心象風景が重なる、俳句は、重層表現の詩、見事。「亀の鳴く大きな闇と背中合わせ(柴田清子)」闇を自身と切り離している、見事な心象風景。少し「鳴く」弱いかも、「亀の居る」で充分では、それで「大きな」も不離不即に。「薄氷は割る癖絵馬は返す癖」どこか、調子に乗りすぎているような気が、所作がどちらも軽い「 薄氷は踏む癖」ではどうですか。意志体を如実に。「ひと塊の闇セーターを脱ぐ途中(小西瞬夏)」人間の無防備さ、獣に還る瞬間、震え、珍重「冬の雨体の芯に種を撒く(小山やす子)」見事な精神の風景。種を蒔く、は季語である必要はない。それが解れば無窮の拡がりがある。撒く→蒔く、では。「昼からの時間たぷたぷとして春」すべてが概念、それでいて読み手に風景を映像化させる力あり、名人です。俳句の表現では最も困難な方法です。「遮断機の上がりて夢の枯野かな」遮断機が開き切らない、ほうが余情はあるかも、「遮断機が夢の春野へ上がるとき(藤田乙女)」インパクトは弱いですが。「げんげんの花咲くげんげんの真中(小西瞬夏)」説明を一切なくせば、俳句は俳句になる。造化は造化になる、見事。「如月や授乳のかたちの亡骸です(若森京子)」凄い、内意あり、もっと投げ出したらどうが、「如月や授乳の形の亡骸は」はっきりしませんか。形→なり「雛流しそのまま姉は漂流す」漂流、大袈裟では?例えば「姉は急流へ」描写だけでも伝わりませんか。

若森 京子

特選句「ひょいと投ぐ背の恋慕や春の馬(桂凛火)」一読して寒い季節も終りやっと春になった喜びが溢れ〈ひょいと投ぐ〉の開放感、〈背の恋慕や〉それに伴っての情感溢れることばが、春の馬に全て集約される〝言葉の綾〟が、大変巧妙で好きな句でした。

鈴木 幸江

特選句&問題句「ゆうてたもれ大根の素性いかむや」まず、“いかむや”が、分からなかった。が“如何なむ+や”の短縮形と勝手に解釈をして鑑賞した。解釈は、言って下さい大根の素性は如何なるものか、と丁寧に詰問している状況とした。何故このようなことを思い付き、俳句にしたのか訳が分からないが、その分からないところがとてもいい。人間には未知なる部分がまだまだある。そうだ、精神心理学では、意識に上る人間の意識は氷山の一角だという説も思い出したりした。これもアニミズムか。大根から元気も頂いた。

町川 悠水

飛切りの特選句「雪嶺や憲法も吾も七十年」は、信州の初冬期の北アルプスをイメージしています。そのイメージで鑑賞すれば、中七、下五が俄然生きると思いました。四月の田植頃の北陸でもよろしいが、やはり初冬期が似合うでしょう。もうひとつ特選に「落ちもせぬ熟柿のままの虚空かな」を選ばせてもらいました。落ちないで残っている熟柿が、老成した人物を暗示しているようでもあり、時が凍結した感の虚空がよい。私の好みを言えば「せで」にして欲しいところ。

大西 健司

特選句「猫の手の尿の匂いや日向ぼこ」二月二二日は猫の日。ちまたには猫俳句が溢れている。そんななかこの句の生な感覚にひかれた。猫と日向ぼこでは陳腐だが、そこにふと嗅いだ尿の匂い。その生な感覚を佳としたい。「お前の手は臭い」とか猫に言っているのだろうか。猫のとぼけた顔が見えてきそうだ。

疋田恵美子

特選句「 亀の鳴く大きな闇と背中合わせ」混沌とした現代社会を想わせるお句」上五は亀鳴くやでもいいのではないかとも思います。同じく「素っぴんの女の意地や冬すみれ」素っぴんの女性と冬すみれが好きです。女性は都知事さんの様に強く賢く素晴らしと思います。

KIYOAKI FILM

特選句「咲き初めしそれそれ梅の佇まい」梅を愛でている。「それそれ」が利いている。これによってリズム感が出て、絵になる。明るい肯定的なイメージがある。そこがいい。問題句「踏青やひとりで開く野のランチ」特に問題は感じない。ただ一句が一覧表からちょっと光っていたから選びました。「ひとりで」がいい。「ひとり」の「野のランチ」に共感。僕は街の中でひとり昼ご飯を食べる。周りに他人がいるので、ひとりではないけど、共感。野には草花がある。

竹本 仰

特選句「ものの芽や人間だけが剝き出しに」自然界に暮らすものは、おおむね自性、その身の護り方が備わっているもの。しかし、我が人類は、その護り方の術を多分に作り出せると思う故、かえって、もっとも悲惨な事態に陥らせているというべきか。たとえば、原発。たとえば、あふれる移民。ぜんぜんたとえは違うと思うけれど、カフカの「変身」のザムザのあのかわいそうな姿を思い出させます。何でしょう、以前、ハンナ・アーレントの「全体主義の起原」を読んでいる途中に、カフカが「変身」を書いたであろう動機とかなり重なるものを感じたのを覚えています。特選句「落ちもせぬ熟柿のままの虚空かな」もう落ちるかと直感される熟柿、それを虚空に焦点を与えたところがすごいなあと思いました。で、この「虚空」は、熟柿に残された時間の一瞬一瞬の緊張感と重みをたたえており、いわば生成躍動する「虚空」なのだともとらえられ、何と言いましょうか、表面張力のある時間、そのみなぎりをも連想させます。これも、場違いな表現ですが、ほうじ茶の深さに通じるなあと、まったく個人的に感心。以上。気温差、はげしい毎日です。これが春の特徴と言えばそうなのかも知れませんが、「椿事」という言葉もあります、とかく異変の季節でもあります、みなさま、お体お大切に。

月野ぽぽな

特選句「雪嶺や憲法も吾も七十年」この七十年の国の来し方と自分の来し方に思いを馳せる。険しくも美しい雪の嶺がそれらの象徴として働いている。

増田 天志

特選句「てふてふを白き凶器として飼へり」ぼくの兄さんは、殺さないでね。

夏谷 胡桃

特選句「雛流しそのまま姉は漂流し」。詩的な感じがします。紙雛のように、漂い消えてしまいそうな姉の精神の浮き沈みを表しているような。そして少しサスペンスも。雛流しの後、行方知れずの姉の身にいったい何が起きたのか。姉には秘密があったのです。特選句「丸まりし喪服の人よ冴え返る」。お葬式というより火葬場の隅で、腰を曲げ丸まった喪服の老婦人の映像が浮かびました。こんな日は、寒くなるんです。何を考えているのかな。次は自分の番だとか、その人のことを思い出しているとか。なかなか声がかけられません。

野澤 隆夫

〝ローマは一日にして成らず〟祝!!「海程」香川句会第70回おめでとうございます。今月も楽しく参加できました。特選句「ムンク叫ぶあの人きっと花粉症」:「ムンクの叫び」は絵で見ると精神的に落ち込んだ悲痛なる叫び。でも時にユーモラスに取れるところが名画か?花粉症とは最高。小生も〝己が面ムンクの叫びバナナ剥く〟胃がん手術で入院してた時小生の顔がムンクになってた時の作。「ムンクの叫び」、これからも作句したいモチーフです。特選句「薄氷は割る癖絵馬は返す癖」よくあるあると納得の風景。でも思わずニコッとするユーモア感が心地よい。問題句「シューマンのたとえばセロリー男前」この句、分かる人には秀句なんだろうなーと勝手に思ってますが…。シューマン、セロリー、男前???

古澤 真翠

特選句「 遮断機の上がりて夢の春野かな」作者の春を待ちのぞむ気持ちが、「遮断機の上がりて夢の」に凝縮され 一気に花吹雪の舞うような景色が浮かんできました。他にも、「水仙やはねかえされる愚痴ごころ(中西裕子)」「うすらいや不安たたえし黒き水(銀次)」「冬晴れや檸檬一顆と青き海(高橋晴子)」も心の情景が 鮮明に浮かび、特選にさせていただきたいくらい心に響く作品でした。

河田 清峰

特選句「紙雛の折目ただしき山河かな(野田信章)」手元の雛と背景の山河の対比が…連山影を正しうす…を想わせて実にただしきを響かせて気持ちいい句である!もうひとつの特選句「若駒よそこ弁慶の泣きどころ(矢野千代子)」若駒の脚の清しさに焦点をあてたのが良かった!弁慶と牛若丸を思い出させて俳諧味がある。

野田 信章

「下萌や今日いちにちの横顔に(男波弘志)」の句の「横向きに」には表向きに現れないようなある一面がある。今日いちにちそのことに徹したというそこにはもう一人の自己の存在感の手応えが窺える。「下萌や」の配合には、この生き様を包み込む自愛の念も感得される。「熊野八鬼山干飯そこに零れおり」は古来より人を引き付けてやまない熊野山地の景である。この地の聖と俗との混沌とした交わりの在り様が、干飯のこぼれ落ちた一粒一粒を通して、如実にそのことを諾わせるものがある。「愛の日の驚きやすき綿ぼこり(月野ぽぽな)」の句は中句以下の「綿ぼこり」の強調でよき屈折感が生れて、逆にその分「愛の日」に対しての厚みのある情感が加わったと思える。「昼からの時間たぶたぷとして春」を問題句としたのは〈昼からの時間たぷたぷとして春だ〉として味読したいためである。高が一時然れど一字ということである。

柴田 清子

特選句「げんげんの花咲くげんげんの真中」げんげんの花以外何も書かれていない。最後に「真中」の一言で終るこの一句を特選とした。繰返し読めば読むほど、げんげんの花は果てなく広がってゆく。そして人間の喜怒哀楽の全てが、この「げんげんの花」の中にあるように思えた。この一句に投げ込まれた私は、今も、この先も、この句から何かをつかみ取ろうとしている。楽しんでいる。最後に、この句が、どの句よりも好きであること。

伊藤 幸

特選句「落ちもせぬ熟柿のままの虚空かな」私には仏教・哲学 薀蓄を唱える知識は皆無に等しいが、この句に存在する所謂「無」とやら、これぞ「無からの創造」ではあるまいか。「後は読者の読みに任せた」と問題提示された気分だ。特選句「茶が微温いイノシシ罠にヒトの香(夏谷胡桃)」人間が鳥獣を捕らえて喰う。これは世の習いであるが捕らえたもののどうにも納得がいかない。同じ生を受けた人間として罪悪感にとらわれる。これも宗教や哲学に類したものと受け取られないでもないが…。茶が微温いという措辞が胸を打つ。

三枝みずほ

特選句「空を読み風読み鴨の引くころか(谷 孝江)」作者も鴨と同じく、空や風を読めるという点に惹かれました。日々の観察から自然の流れを感じられる感性が素敵です。特選句「ひと塊の闇セーターを脱ぐ途中」確かに真っ暗で、少し怖い空間。でも脱いでしまえばそこは日常。きっと不安や悩みを抱えてる時は、こんな感じなのかも。

漆原 義典

特選句「春疾風つるり子を産むアラフォー娘」は、中下、つるりと子を産むどもアラフォー娘が白いです。ほほえましく楽しい句です。暖かい春の訪れが待ち遠しくなります。ありがとうございます。

銀   次

今月の誤読●「手踊りの婆さこきりこ節が聞こえる(大西健司」。オラ見ただよ。今朝のまんだ早い時間に裏の畑さいっただよ。そしたら見たこともねえ「婆さ」が朝焼けんなかでひょいひょいと手振り足振りしてるだによ。オラわげわかんねでボーッと立ってると、婆さ、こっちさ見てニャッと笑っただよ。そんとき、ありゃオラが子どもんころ死んだ婆さだと(顔も覚えてねえのに)なぜだかわかったのす。歌が好きだった踊るのが好きだった婆さだったのす。なあんも聞こえねえのに、その「手踊りの」ふりを見てると、オラ、ああと思い当たった。あれは婆さがいつも歌って踊ってたあの歌だ。〈コキリコの竹は七寸五分じゃ 長いは袖のかなかいじゃ 窓のサンサはデレデコデン 晴れのサンサも デレデコデン〉。オラ叫んだだ。婆さ、あんたけえ! オラ走っただ。オラに会いに来たのけえ! じゃが婆さは、なあんも言わず笑いながら雪んなか消えていっただ。粉雪の降る空の彼方から、小さな声で、かすかに、ほのかに「こきりこ節が聞こえる」。こきりこ節が生きてる限り、ご先祖さまも生きてんだなって。オラァ、畑耕しながら、デレデコデン、デレデコデン、なんか嬉しくってよ。ずっと歌ってただ。

田中 怜子

特選句「恐竜の貌して鶏よ旧正月(藤川宏樹)」すくっと首をあげて、つつつと走る鶏 かわいい恐竜のごとし。特選句「首の向き変えてあげよう冬苺」家庭菜園かな、いちごが赤く立派に育ち、いとしげに、茎が折れないように向きを変えてあげる。こんな人時が大事なのですよね。両句とも、日常のつつましい生活のよろこびです。

野口思づゑ

特選句「カモシカの振り向きざまに宙光る」カモシカがこちらを向いた。その動き、そしてその背景がどこか神がかって見えたに違いない。問題句「てふてふを白き凶器として飼へり」何故蝶々が白い凶器なのか、どうしてもわからない。問題句「愛の日の驚きやすき綿ぼこり」驚きやすき綿ぼこりの意味がよくわからず、また愛の日はバレンタインデーなのだと思いますが、その日との結びつきとなると、ますますわからなくなってしまう。その他「大雪やわれらまどろむ深海魚(稲葉千尋)」雪に埋もれるとこんな感じなのかしら、と想像した。「昼からの時間たぷたぷとして春」たぷたぷ、の表現が好き。選句内に入れられなかったのですが、今回はちょっと哀しくて妖しくて怖いような句がいくつかありました。例えば・・「廃屋に金庫鳥葬の匂いせる(大西健司)」「料峭や女体彩なす四次元へ[伊藤 幸)」「如月や授乳のかたちの亡骸です」「雛流しそのまま姉は漂流す」

寺町志津子

特選句「東北の紅梅白梅あの子かしら」毎月、大らかできめ細かいお世話をくださる野崎さんの下に寄せられるのびのびと自由闊達で新鮮な数多の佳句。今月もしかり。その中で一読心惹かれた句である。「あの子かしら」は、三・一・一で還らぬ魂となった我が子なのか。あるいは馴染の幼子なのか。咲き匂う紅梅、白梅の中から、あるいは向こうから、実像とも思われる子の姿が作者の眼前に現れた。「あの子かしら」が「東北の紅梅白梅」とよく響き合って、不思議な感情を湛えて胸を打ち、句は、哀切を帯びた美しい詩情を醸し出している。

三好つや子

特選句「ひと塊の闇セーターを脱ぐ途中」無難な色やデザインを好むような生き方を、知らず知らずしている自分と決別し、自由に生きようとしたときに起こる心の葛藤が、「ひと塊の闇」にうまく表現されています。特選句「シューマンのたとえばセロリ男前」シューマンの美しいピアノの曲を聴きながら、清々しい風味のセロリを食べている。そんな感じの男前です、という喩え方に共感。「如月や授乳のかたちの亡骸です」子を産み育てるだけの栄養がないまま、野良猫が出産し、命を落とすという現状が切ないです。

菅原 春み

特選句「雪国や裾絡げ行く赤い傘」色、景色が見えます。具象的なものが見えて、映像がさらに鮮やかに。「昼からの時間たぶたぶとして春」春ならではの抽象的なときの流れ。たぶたぶが面白い。選「素っぴんの女の意地や冬すみれ」この女性に寄り添いたいような気持ちです。季語もあっていていい。「雪嶺や憲法も吾も七十年」祈りに似た平和への思いを淡々と語る作者。共感します。

中西 裕子

特選句「踏青やひとりで開く野のランチ」春の青草でのランチが、春が来た雰囲気がでて楽しく思えました。気になる句は「麺工場湯気噴き吹かれ山眠る(高橋晴子)」で、山眠ると、麺工場の活気との対比なのでしょうか、イメージがわかなかったです。

山内 聡

特選句「若き日の友の横顔針供養」。針供養という季語がとても生きていて詩情の溢れる一句となっていると思いました。まだお互いに若かった頃の顔を思い出し、そして何本かの駄目になっていく針たちの年月が見事に重なっています。一枚の写真がセピア色を帯びているような時間を読み込んでいるなあ、と感服しました。

桂 凛火

特選句「大泣きの鬼は善人恵方巻」泣いた赤鬼の話はとても好きな童話です。鬼は悪いもの、こわいものと憎まれている存在でありながら実はどうかなーというそこのところが好きなのですが、この句はその感じが「善人」といい切ることであらわされていてよかったと思います。恵方巻は、「コンビニのわな」ともいわれますが現代的なものとのとりあわせもよかったと思います。

亀山祐美子

特選句「薄氷は割る癖絵馬は返す癖」誰にでも思い当たる癖です。人間の心理に根差した行動に共感を覚えます。

藤田 乙女

特選句「カモシカの振り向きざまに宙光る」カモシカが見ようとしたものは、何だったのでしょうか?人間の世界とカモシカの世界、同じ生きとし生けるものなれど、人間の方が上位?いいえ、神々しいばかりに大宇宙の光に照らされたカモシカの存在感に圧倒されました。「紙雛の折目ただしき山河かな」まず、ひな祭りの原型のひとつとも言われ、古来から行われている雛形の身を浄める厳粛な行為を想起しました。そして、大自然に対する人間の畏敬の念やその中で歴史を刻んできた人々が紙雛に託すささやかな幸せを願う思いがよく伝わってきました。

高橋 晴子

特選句「雪嶺や憲法も吾も七十年」何も言ってないが、雪嶺をもってきたことで作者の思いが伝わる。いい句だ。問題句「竜の玉権威を嫌ふボブ・ディラン」:「権威を嫌ふ」と言葉で言ってしまえば、それまでで、せっかく〝竜の玉〟を持ってきたのだから、言葉でいわないで物でいって欲しい。それが俳句です。言葉でいっている句が多すぎる。定形を破るなら、それなりのリズム感なり、何かが欲しい。何でもありもいいけど俳句は俳句の詩的存在感がある。言葉をもっと磨いて欲しい。

野﨑 憲子

特選句「告白前の潮満ち咽喉の水母かな」上五、七音が効果的で、「告白前」の作者の緊張感がズンと伝わってきます。「潮満ち咽喉の」の句跨りが大きなうねりとなって下五の「水母」に収束して行きます。「海月」ではなく「水母」が、膨らんでゆく愛語のようで、実感として伝わってまいります。問題句「ものの芽や人間だけが剥き出しに」とても惹かれた句です。「人間だけが剥き出しに」は、霊長類の長である人類の色んな側面を、見事に表現していると思いました。ただ、「ものの芽」が、発想の契機であるのですが、あまりにもそのものズバリで、そこが残念でした。しかし、心に響く作品であります。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

春一番
北国の春一番は工事中
銀   次
春一番子のちぎり絵にキリン来る
中野 佑海
シェパードの一気に駆ける春一番
野澤 隆夫
春一番眉の太さは父に似る
亀山祐美子
定年や通用口の春一番
小山やす子
あなにやし醤の町の春一番
河田 清峰
鶯や年をとるのが早すぎる
鈴木 幸江
珈琲の微糖鶯の綱渡り
柴田 清子
鶯や母からもらふ母子手帳
三枝みずほ
鶯や蕪村の頃も小さくて
男波 弘志
囀り
囀りて都会の顔となりゆけり
三枝みずほ
それもまた私しのこと囀れり
男波 弘志
囀を耳に溜めたる朝寝かな
中野 佑海
囀や赤いポストを探しをり
小山やす子
囀りや半濁音の光なか
河田 清峰
揚げたてのコロッケひとつ囀れり
野﨑 憲子
あっという間の一生でした囀れり
鈴木 幸江
くちびる
手錠せしくちびる赤き少年犯
銀   次
桃咲けりやはらかすぎるくちびるよ
柴田 清子
故あって唇ばかり乾くかな
鈴木 幸江
ふらここや紅きくちびる抱き寄せて
島田 章平
鳥の恋
礼服の腕組み軽き鳥の恋
亀山祐美子
地に落ちた覇者が漂流鳥の恋
小山やす子
電線に寄りそふ影や鳥の恋
銀   次
りんご茶の甘い裏切り鳥の恋
中野 佑海
口角揚げ君待つホーム鳥の恋
藤川 宏樹
フラダンスそれって何よ鳥の恋
河田 清峰
鳥の恋このカステラは期限切れ
野澤 隆夫
眠る
眠るとふ日向ごごちの小さき死
銀   次
B面のわたしが眠る春の雨
三枝みずほ
生きる術なくなり眠る雪女
小山やす子
高橋たねをさん
冬日向高橋たねをだけだった
男波 弘志
たねをさん梅見てペンを握ってる
中野 佑海
ポポンS用意しましたたねをさん
島田 章平
でで虫が交尾むはにかむたねをさん
小山やす子
差出人不明の葉書「たねを」さん
鈴木 幸江
春虹の伝道師ですたねをさん
野﨑 憲子
白梅や前も後ろも海見えて
河田 清峰
ふと咲けり露地に移せし梅の花
野澤 隆夫
首筋に風のくちびる梅ひらく
野﨑 憲子
梅一輪キャベツ2個程の愛放つ
中野 佑海
梅の香や思い通りにやるだけよ
藤川 宏樹
余寒
すぐ読めてしまう葉書や春寒し
男波 弘志
言われればそうですねの余寒あり
鈴木 幸江
とんでもない風の産まるる余寒かな
野﨑 憲子
旅鞄息整える余寒かな
藤川 宏樹
八朔柑
口下手に生きて八朔頬張りぬ
三枝みずほ
八朔を横にながむる人か何
河田 清峰
八朔や太陽の愛一人じめ
中野 佑海

句会メモ

今回で、香川句会は、七十回を迎えました。ご参加の皆様方のお蔭様です。ありがとうございます。18日の句会には、徳島から小山やす子さん、岡山から小西瞬夏さん、久々の町川悠水さんもご参加になり、熱く楽しい句会になりました。

<袋回し句会>は即興の良さです。まだまだ推敲の途中の句も有るかと思いますが、それもまた一興です。今回のお題に本句会の代表だった「高橋たねを」さんも登場し、句会場のどこかで、たねをさんが嬉しそうにご覧になっているように強く感じました。尚、小西瞬夏さんの<袋回し句会>の作品は、ご本人の希望により不掲載としました。 次回の、ご参加を楽しみにいたしております。

2017年2月4日 (土)

第69回「海程」香川句会(2017.01.21)

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事前投句参加者の一句

      
冬菫ここは玩具を診るお家(うち) 三好つや子
戦後っ子われも老いたか風邪に臥せ 稲葉 千尋
静さや母よ真面目よ磯千鳥 KIYOAKI FILM
小六月「もだえ神」となるもえにし 疋田恵美子
日脚伸ぶちょっと悪い事してみたい 夏谷 胡桃
木枯らしや体の中の狭い道 河野 志保
ひろしまに「第九」歌ふ日年惜しむ 野澤 隆夫
脱稿のごと枯山に夕日の輪 若森 京子
研ぎ汁の明るさであり冬至空 月野ぽぽな
雪の猪名野たんすながもち家紋浮き 矢野千代子
寒晴るる野の果て五岳・象頭山 高橋 晴子
大向こう銀翼が切る残り柿 藤川 宏樹
本閉じてわたしに戻る石蕗の花 谷  孝江
風呂吹きの滑らか角なしほっこりと 由   子
一頭の蝶一対の耳凍てる 小西 瞬夏
月光や誰あれもいない冬座敷 髙木 繁子
踏まれるを待つていた音落葉かな 山内  聡
寝正月長命遺伝子抱きしめて 町川 悠水
かにかくの流れに鷺が淑気かな 田中 怜子
初老だなんてぽっぽりんりん冬木の芽 伊藤  幸
虎落笛この身に緩むところ無し 小山やす子
作麼生(そもさん)と皸みせて活断層 河田 清峰
まあいっか深読みしない日向ぼこ 三枝みずほ
外套の釦がちぎれそうな今 男波 弘志
胸騒ぎ 梅矯める手に一雫 古澤 真翠
柿熟すいつも正念場のわたし 寺町志津子
雪中花あんたと分かるまで抱いて 柴田 清子
大根洗ふ伊那の一天かき曇り 菅原 春み
生まれるも死ぬるも発光銀狐 桂  凛火
冬ざるる木の実の黒に行き着きし 亀山祐美子
冬眠の惰眠の完眠お正月 中野 佑海
土竜塚より男這い出る開戦日 大西 健司
ばちばちと小倉生まれの喧嘩独楽 島田 章平
封印はあそこと決める遠花火 野口思づゑ
後朝(きぬぎぬ)やオニオンスープを熱くして 重松 敬子
雪しぐれ墓標に終る青春記 増田 天志
心に闇また一人寝の布団敷く 鈴木 幸江
自転車に大根結わえ往診医 中西 裕子
般若心経青空の青冴えゆけり 竹本  仰
冬眠や静けき卵抱きをり 銀   次
晩冬や口なまなまと忌をつどい 野田 信章
飾り焚きどんどどどんと天を突く 漆原 義典
寒晴るる円周率の夫婦かな 藤田 乙女
通りやんせ風の抜け道きつと雪 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「冬菫ここは玩具を診るお家(うち)」子供たちの大切なおもちゃを治してくれる所があれば良いなと思っていました。そこは野原の端っこにちょっこりと店を出していま す。皆に良く分かる様にと菫の街灯を灯して、壊れたおもちゃたちを待っています。とてもメルヘンかつ郷愁をそそられます。特選句「研ぎ汁の明るさであり冬至空」手の切れそうな 冷たい水で研ぐ米。薄暗い廚に拡がる残照。もうすぐ家族が帰ります。早く夕餉を作らなくっちゃ!!大変だけどそわそわウキウキした気持ちが良くでています。ちょっと言えば、最後 の「空」は要らないかなと思います。「あり」で良いかと。以上、今年も楽しい奇抜な皆様の俳句を楽しみにしてます。俳句世界に身を入れて、やっと五年生。寒さにも負けず、目を 凝らして、知らずに今まで気が付かずになおざりにしていた事こそ大切に探検です。また、新しい世界を生きて行けます。どうぞ宜しくお願いいたします。

小西 瞬夏

特選句「木枯らしや体の中の狭い道」たしかに体の中にはいろいろな道がある。「狭い」と捉えたところに、なにか生きていくことに対する困難に立ち向かう作者の心象が重な る。それは「木枯らし」という季語の働きにもよるものだろう。そして、そんな中でも、「生き抜いてゆく」という強い意志を感じさせる。「道」は未来へ続くものとしても広がって ゆく。

藤川 宏樹

句会で皆さんの評を伺うのが楽しく勉強になります。今月の選句は句会の後、かなり動きました。特選句は「ひなたぼこ来世魚か虫か禽(亀山祐美子)」です。ひなたの微睡み。来世からお迎 えの動物に見守られる涅槃図を想い浮かべました。十七音の極み、素晴らしいです。

月野ぽぽな

特選句「大根洗う伊那の一天かき曇り」沢庵漬けのための大根を天竜川に注ぐそれはそれは冷たい流れで洗うのはこの時期。伊那谷特有のどよんとした曇り空を一天と掴んだと ころもお見事。遠い故郷を思いました。地名で言えば、他に「ぱちぱちと小倉生まれの喧嘩独楽」もよく生きていると思いました。

増田 天志

特選句「冬菫ここは玩具を診るお家(うち)」虚に遊びたし、現実世界は、醜く歪む。

柴田 清子

特選句「ヒロシマに雪降るこれは事件です(谷 孝江)」:「ヒロシマ」「雪」「事件」どの言葉も非常に強い。この言葉でもって、このように言い切られると、身動き出来なくなる一句の 強さが魅力です。

野澤 隆夫

特選句「後朝やオニオンスープ熱くして」:〝後朝(きぬぎぬ)〟という言葉、実は知らなかったので直ぐ辞書で調べて納得。「明けゆけばおのが後朝なるぞ悲しき」。オニオ ンスープで別れの朝を迎えた。熱いスープをふーふー吹いてる沈黙の二人の景が浮かびます。特選句「自転車に大根結わえ往診医」ノスタルジックな、昭和の郷愁をそそる一句で す。 〝ALWAYAS 三丁目の夕日〟の小児科医・宅間先生が目に浮かびます。問題句「寒晴るる円周率の夫婦かな」厳しい寒気の晴天と3.145の夫婦。どんな夫婦なんだろうと… 。不可思議な夫婦であり俳句だと。面白い。敢えて問題句です。

山内 聡

特選句「本閉じてわたしに戻る石蕗の花」本を読む前に石蕗の花を賞でていて、さあ読書しよう。読書も小1時間ちょっと疲れてきて栞を挟んで本を閉じ、また庭の石蕗の花に 目が行き本の世界から我に帰る瞬間。次に問題句の「寒晴るる円周率の夫婦かな」僕の捉え方は超越数である円周率の小数点以下がずっと続く永遠を夫婦の永遠でいたい縁を表現した 句だと思いました。袋回し句会は「でたらめに風吹いている海鼠かな」海鼠ってでたらめみたいな生き物に感じるし、そこにでたらめの風が吹いている。詩情感じました。次に「鳴つ ている南天を見ず今日終わる」南天は鳴るはずのものではないですが、そこに句心が届かなかった今日一日のスランプみたいなものを詩情にしているところに感銘しました。「霰打つ 身の内にある蝶番い」心に蝶番。感服しました。霰でどの蝶番が動いたのか。そして蝶番というものはそこに固定されていて、それがぶれない心を表現しているのかな、なんて思いま した。と、袋回し句会で特にこの3点を頂いたのですが、どれも男波さん。句歴の長さから詩情が溢れているようで素晴らしいと思いました。☆初参加の山内聡です。句歴と言ってい いのかどうか分かりませんが、18年句を詠んでいます。さらに俳句が上達したいという思いで海程香川支部に参加させていただきました。やはり参加してよかったです。新たな感覚 を身につけたような気になりました。ステージ2.0といった感じです。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

若森 京子

特選句「恋歌留多やんちゃな亡父も加わりぬ(伊藤 幸)」お正月の恋歌留多の思い出と現実が重なって家族の嬉々とした声が聞える様だ。臨場感があって好きだ。恋の一字が入って一句に 艶がある。特選句「生まれるも死ぬるも発光銀狐」銀狐は白く光って他と違って少し上等な狐だが生まれる時も死ぬ時も発光する狐の一生を人間に置き替えてみても面白いが、生死の 瞬間を発光すると捉えた感覚がいい。

寺町志津子

特選句「本閉じてわたしに戻る石蕗の花」閉じた本はどのような内容だったのでしょうか?夢のような恋愛小説?未知の世界を描く科学小説?ハラハラドキドキの推理小説?古 今東西、いずこの国かの古典?いずれにしろ、一心に読み耽り、すっかりその物語のヒロインになり切っていた「わたし」。一段落して本を閉じた目の先に「石蕗の花」が・・・。非 日常からいつもの日常に戻った「わたし」の心の動きに、深緑色の葉の中から花茎をのばして咲いている「石蕗の花」が実によく利いていて好きな句であった。

伊藤 幸

特選句「地震の果て更地の上の御慶かな(野田信章)」熊本は復興の真っ只中。あちこちで解体改築修復とそれでも手が付けられない状態のところも珍しくない。更地も又同じである。どう であれ新年はやって来るのだ。被害大の方々を思うと胸が痛む。特選句「如月の遅れ毛さくっと薪を割る」前回「白菜をバサッと裂いただけのこと」という句を特選としたが今回もよ く似た句ではあったが如月の遅れ毛というフレーズが好きで特選とした。上語と下語がマッチして佳句を成していると思う。

古澤 真翠

特選句「 地震の果て更地の上の御慶かな」熊本の方でしょうか…。想像を絶するようなご体験の中 新しい年をご無事に迎えられましたことに感慨も一入です。「更地の上の御 慶かな」清々しくも力強い一歩を踏み出された句に エネルギーが伝わってきます。陰ながら応援していますよ。

三枝みずほ

今回も刺激的な作品が多くて、大変勉強になりました。よろしくお願い致します。特選句「初老だなんてぽっぽりんりん冬木の芽」あたたかそうで、弾んでいて、まだまだ元気 そうで、面白い響きに共感しました。冬木の芽も効いていました。「戦後っ子われも老いたか風邪に臥せ」戦後の混乱に生まれ、変動激しき中に青春時代、バブル高度成長期に働き、 デジタル時代に高齢期を迎え、まさに大変化怒涛の一生。そんな戦後っ子もここらでちょっと休んでもいいかも。

稲葉 千尋

特選句「冬菫ここは玩具を診るお家(うち)」玩具を診るお家と冬菫ばっちり。特選句「十七音冷たき器透きとほる」十七音の俳句その厳さを「冷たき器」とは素晴しい。問題句 「土竜塚より男這い出る開戦日」〝より〟はいらないのでは?

疋田美恵子

特選句「冬菫ここは玩具を診るお家」傷んだ玩具を大切な宝のように持って、にこやかに立つ男の子の姿が見えて良い。特選句「氷踏む子等の歓声朝の道(藤田乙女)」かん高い子供の声に 氷の割れるバリバリ音、懐かしい風景です。

竹本 仰

特選句「初老だなんてぽっぽりんりん冬木の芽」古今亭志ん生師匠の落語のテープの中に出てきた「出るものはしょうがないじゃないか」という声を思い出しました。「初老」 という言葉とのずれ、或いは言葉を笑うというスタンスが面白いです。うちのお寺にあった御齢三百歳(昨年倒壊の危険性につき引退願った)のもちの木が、時々、そんな表情だった のを思い出します。この「なんて」にある、独特の恥じらいというか何というか微妙な笑顔というか、くすぐってくれますね。特選句「雪しぐれ墓標に終る青春記」よくあるようなセ ンチメンタリズムを見事に表していることに一票。岸上大作の墓(行ったことはないけれど、あくまで想像上なんですが)に来たような。すると、その墓参りに来たもう一人が福島泰 樹だったような、そんな風景の中で「岸上、一杯、やろう」と、一升瓶の栓を抜き、懐に温めた湯呑を取りだし、とくとくと……にごり酒の表をみぞれが消えてゆき。とてもしみるも のがありますね。特選句「如月の遅れ毛さくっと薪を割る(桂 凛火)」:「後れ毛」ならぬ「遅れ毛」にわざがあると思います。何でしょう、ここに口惜しさがひしと感じられます。可能性を生き 切ることを青春というのなら、生き切れなかった可能性を身に引き受けるのも青春かなあ。というような感慨を起こさせるんですね。七年ほど前、姫路文学館で岸上大作没後50年展 がありまして、その時、一隅にあった落書きコーナーの片隅に秋田明大と名のある数行がありました。(この方、知ってますかね、若い方は。どこかで調べると、すぐ出てきます。) 姫路の郊外でお仕事されているようで、出てきたんだと思いますが。その数行に、強烈な忸怩たる思いがしんしんとあり、そうですね、ウナセラディ東京のような余韻が来ました。そ れをメモにとったのですが、見当たらないものの、我々は何がわかったというのだ、みたいなことだったでしょうか。この数行の感じ、ふと思い出しました。以上です。寒い毎日です が、やっと激務、先が見えて来ました。恐ろしいことに、元旦に来た年賀状のお礼もまだ書けていず、寒中見舞いに邁進することに。四月まで、書けるかどうか。また、皆さま、本年 もよろしくお願いいたします。

大西 健司

特選句「雪中花あんたと分かるまで抱いて」特選句というか、まあ問題句というか微妙なところでいただいた。松方弘樹さんが亡くなったが、この句からは任侠映画の一場面が 思われる。出所してきた男に縋りつく女といったところか。久々の逢瀬の場面だろう。妙に気になった一句。耐える女のいじらしさ、しみるなぁ。ところで拙句「陰陽師」この句の「 ごんぼ」が句会で問題になったとのことだが、作者としてはたんに牛蒡のことである。十二月の斎宮歴史体験館での「追儺のまつり」の一応吟行句だ。陰陽師が鬼を追い払う祭文を読 み、まつりは始まる。そこでふと陰陽師はごんぼのなれのはてだと感じたまで。「陰陽師痩身追儺の列動く」特に陰陽師に扮した方がそうだと思ったのではないことを付記します。お 騒がせしました。→句会での問いかけにお答えくださりありがとうございました。因みに「外套は擦り切れ税吏ルシコフよ」の「ルシコフ」に付いての質問には、作者の増田天志さん から「ルシコフは、架空の人物名で、勝手に、名付けました。」と返信が有りました。

鈴木 幸江

特選句「雪中花あんたと分かるまで抱いて」雪中に埋もれている花を女性に見立てての句として鑑賞した。雪をも溶かす情熱を欲する人、それに応えようとする人。その情熱と 真摯な愛を失いつつある現代人への警句として頂いた。特選句「晩冬や口なまなまと忌をつどい」寒い時期の葬儀か法事だろうか。縁ある人々の精進落としだろう。生きている者と亡 くなった者との違いが、くどくどと説明はしていないが深く深く伝わってくる。生きている者は、悲しみの中にも食べることを受け入れてゆくのだ。問題句「小六月『もだえ神』とな るもえにし」まず、「もだえ神」が分からなかったが、その人生を運命を受け入れようとする姿勢に学ぶところがあった。句会にて、「もだえ神」が水俣病を患った方の本にある言葉 と知り、その受容の態に生命力の漲りみたいなものさえ感じ感動した。

町川 悠水

今月は佳句が多く絞り込みに苦労しました。そこで、視点を少しずらしながら選んでみました。特選句「日脚伸ぶちょっと悪いことしてみたい」は、昔誰かが“不良老人の勧め ”とか言ったのを思い出し、面白い句にしたなと感じました。メディアでは凶悪犯罪が日常的に報道されるのですが、そうした人にこうした句の心得があればセーブも出来たのでしょ うが、人の業の深さはマグマさえ掘り当ててしまうのですね。特選句「晩冬や口なまなまと忌をつどい」は異色の句ですが、人生たるものその特異なひとコマを見事に掬い取っている と感心しました。そのほか、特選にはしなかったものの「冬の雲匍匐前進日本へ」は秀句、「雪の猪名野たんすながもち家紋浮き」も地名が生きていて同列に置きました。ただし、「 浮き」は浮いた感じになっており、惜しいと思いました。

男波 弘志

「凍蝶の舌の伸びゆく疲れかな」永遠の疲れ、死を平易に表現することで、生から死への有様が見える。「静さや母よ真面目よ磯千鳥」よ、の繰り返しで母の佇まいが見える。 「木枯らしや体の中の狭い道」人体の穴から木枯しが吹きこむ、リアルさ。体の中の、は、中を、のほうが更にリアル。「初弥撒や遠き街より明けはじむ」初彌撒、で類型を免れてい る。風景の見える句。「初老だなんてぽっぽりんりん冬木の芽」オノマトペの軽快さ、だれもいっていない音楽性。「柿熟すいつも正念場のわたし」熟す、で正念場に雑念が入る。「 柿一つ」でそれが消える。「冬ざるる木の実の黒に行き着きし」滅びの色は同時に再生の色でもある。「サルビアまで歩いた街の若さかな(河野志保)」サルビア、の明るさ、前向きさ、この町は 誰の故郷でもある。「晩冬や口なまなまと忌をつどい」生者の業、口は物を。命を喰らう口でもある。俳句はこのごろ体そのものになってきていますが、ときどき体を離れてしまうこ とばは、畢竟、嘘だと感じております。僕の嘘を見付けたら叱咤して下さい。不尽

野口思づゑ

「戦後っ子われも老いたか風邪に臥せ」戦後っ子といわれた世代も今や中高年。以前だったらたかが風邪。それがこのごろはその風邪に「臥せる」ようになってしまった。加齢 への嘆きが明るく伝わってくる。「セロリ抱く少女白鷺寒き朝」セロリの透明感と少女の組み合わせ、白鷺の白と寒い朝が加わり痛々しい程の冷たさが感じられる。「日脚伸ぶちょっ と悪い事してみたい」本格的な夜遊びまでには時間があるし、という訳でそんな事はしない。で、どんな悪い事を考えているのやら、私もやってみたい。「地震の果て更地の御慶かな 」地震による更地。そこに御慶を見る明るさが嬉しい。「外套は擦り切れ税吏ルシコフよ」税吏ルシコフとは、小説か映画の登場人物なのだろうか。刑事コロンボ風のヨレヨレの、オ ーバーというより外套という方がふさわしいコートを着た冴えない中年の税務署の役人像が浮かび、寒いロシアで何をしたのだ、と興味をそそられる。「寒春るる円周率の夫婦かな」 どこまでもスパッと交わらないのか、でも寒くても晴れるので困難を乗り越えつつ、どこまでも続く夫婦なのでしょう。:シドニーは昨日今日と30度以下なので、楽勝!と気が大きい のですが、油断大敵、まだまだ予報ではこれから30度ぐんと越える日もありそうなのです。。

野田 信章

特選句「脱稿のごと枯山に夕日の輪」は、孤影に傾き過ぎず個の情景として美しく自立し得ているのは「脱稿のごと」という喩の力―物書きとしての苦心の果ての体感の支えあ ってのことと思う。「研ぎ汁の明るさであり冬至空」は冬至湯など習俗の情緒に頼らず時空そのものに向けた視点の簡潔さがある。日々のいとなみの米を研ぎ流す、その明度を通して 、冬至という日の極まりとそこからの再生へと暮らしの中の希求も含まれている。「虎落笛この身に緩むところ無し」は三通りの解が成り立つが、自分の時間さえ無きと言える、その 生き様の中での虎落笛との出合い、響感の一句として頂いた。

重松 敬子

特選句「冬眠や静けき卵抱きをり」将来を期して、雌伏の時を耐えている。しかし静けき卵で熱き物は失われていないことを感じさせる。なかなか、格調の高い句である。

KIYOAKI FILM

問題句「ヒロシマに雪降るこれは事件です」一句読んで無学な僕は分かりにくかったです。原爆ドームには約三回行って、父とおおあせ掻いて見ました。一回目は子供です。二 回目三回目は真剣は真剣に見た。しかし詳しくわからない。これを問題句にするのが問題かもしれない。下五の「これは事件です」に感じて。特選句「まるでもう赤い海鼠になった気 分」一句読んで痛快に面白かったです。「気分」がちょっと気になりました。ても面白い俳句です。特選句「ひろしまに「第九」歌ふ夕日の輪」:「第九」「年惜しむ」気になりました 。でも「第九」を歌うのがいいと思ったのです。

三好つや子

特選句「冬眠の惰眠の完眠お正月」生命の営みにかかわる三つの眠り。正月は神さまからのお年玉なんだから、と惰眠をむさぼっている作者が目に浮かびそう。魅力的な句です 。特選句「寒満月狼になる人になる」厳冬のなか狼という[野生]と、人という[理性]に、月がそれぞれ光を与え、歩むべき道を照らしている・・・。そんなアニミズムの世界を感じま した。「陰陽師どこかごんぼのなれのはて」土まみれの木の根っこにしか見えないゴボウだけれど、味わい深く、食物繊維が豊富で、煎じると喉の炎症を鎮めるといスグレモノ野菜。 「陰陽師」との取り合わせに技あり。

中西 裕子

特選句「初老だなんてぽっぽりんりん冬木の芽」の初老だなんての句のぽっぽりんりんが熱を感じてげんきをもらえるような感じでした。一月はインフルエンザと、普通の風邪 で2回も寝込んでしまいました、「戦後っ子われも老いたか風邪に臥せ」のわれも老いたかが、共感でした。元気な春を迎えたいと思います。→お大事に!

河野 志保

特選句「外套の」 ギリギリの状態をズバリ切り取った簡潔さに感銘。それと同時に軽い余韻も感じて心に残った。

夏谷 胡桃

特選句「冬菫ここは玩具を診るお家」。かわい過ぎる。それで特選はやめたほうがいいかなと逡巡したうえで一番に。冬菫が私の中でこだましてしまったのです。特選句「小六 月「もだえ神」となるもえにし」。句としていいのかどうかという悩みが。「えにし」が伝わってこない気がします。でもちょうど、石牟礼道子の『なきなが原』を読んでいるところ でした。不条理ばかりの世の中で、何もできないもだえ苦しむ神となるしかない、という叫びが聞こえてきますね。それで頂きました。この句はもう少し工夫するとわかりやすくなる と思います。問題句「寒椿手首の中の手が捥げる」がわかりませんでした。手首の中に手のような骨があるのだろうかと、想像はめぐり答えがでませんでした。

島田 章平

特選句「寒晴るる野の果て五岳・象頭山」寒晴れの讃岐平野。緑の薄れた平野に潮風の匂い。野の果てに象頭山が神々しく聳えます。遠くから「金毘羅ふねふね」が聞こえて来 そうです。

亀山祐美子

特選句『小六月「もだえ神」となるもえにし』句会当日の選句では落としていた。「もだえ神」がよくわからなかった。野崎さんから水俣病患者の石牟礼道子さんの「苦海浄土 」の話を聞いた。作者自身が「もだえ神」に匹敵するような病を患っているが「となるもえにし」とその運命を受け入れ、今は穏やかな「小六月」の中に居る。冬へ向かう暖かさの中 にいる自覚の切なさが苦しい。問題句としては「ちよつと悪い事してみたいと」「まあいっか深読みしない」「いつも正念場のわたし」「生まれるも死ぬるも」「いつだつていまがい ちばん」等の慣用句じみた言葉使いは如何なものか。たった十七文字しかないのに、自分の思いをこんな雑な使い方で楽をしては勿体ない。伝えたい事は自分の言葉で伝えなければ意 味がない。これは、自分を戒める言葉でもある。句会で、句会報で新しい知識を得るのは、自分の頑固さを知るのはとても愉しい。また参加させて頂きます。今年もよろしくお願いい たします。寒さ厳しきおり、皆様御自愛下さいませ。

漆原 義典

特選句「白衣脱ぎ全ての紙燃やし雪(夏谷胡桃)」脱ぐ、燃やすという内面に宿る複雑な心情と、白と赤の色彩の対比が妙に寂しく感じられ、冬の季節感をうまく表現されているなぁと感動 し特選とさせていただきました。

小山やす子

特選句「一頭の蝶一対の耳凍てる」毅然とした作者の生きざまが見えていて好感が持てました。

桂 凛火

特選句「鶏冠われに初夢はナポレオン」初夢がナポレオンだなんて素敵です。ナポレオンは英雄ですが一方で名声ばかりではない。そんな人を夢に見るなんていい夢なのかどう かと思う隙を与えないつまり、「鶏冠われに」からして理詰めの句だと思うのですが、その勢いがまた魅力でもある。勢いと気負いの有るところが好きです。年頭の句として面白く交 好感がもてました。

菅原 春み

特選句「脱稿のごと故山の夕日の輪」この比喩が個性的でおもしろい。特選句「自転車に大根結わえ往診医」形式がくっきり見える。一昔前の医師の姿のように懐かしい。「冬 菫ここは玩具を診るお家」季語がとてもあう。取り合わせの妙。「セロリ抱く少女白鷺寒き朝」不思議な句。「亡国や氷の剣振り回す」日本かアメリカか。「白梅や母の遺歌集未完な り」白梅が未完の切なさをあらわしている。

河田 清峰

特選句『小六月「もだえ神」となるもえにし』:「もだえ神」を知った時!小六月の季語を感じた時!冬に向かう時の一息!優しさ!哀しさを感じました!いつも冬を忘れて春 ばかり生きてきたことを恥じる思いです!これからの一歩として活きます。

藤田 乙女

特選句「冬眠や静けき卵抱きをり」しんしんと雪降るその大地の下に次に生まれ出る命の輝きの神秘や偉大さを感じるような句です。雄大さと繊細さをあわせもった句ですね。

野﨑 憲子

特選句「般若心経青空の青冴えゆけり」私は、二十年来、祖母を真似て朝夕、太陽を拝しながら般若心経を唱えることを日課としています。読経のお仕舞の「・・般若心経」そ して沈黙の後、目をひらくと景色が透けて行き、独特のリズムが、力が、足の裏から這い上がってくるような感覚を覚えることがあります。まさに「青空の青冴えゆけり」の世界。平 明な句の中に、真実が宿る、です。問題句「凍蝶の舌の伸びゆく疲れかな」この季節になると高橋たねをさんの「海程」香川句会最後の句「一文(いちもん)字(じ)蝶(せせり)にぎりし めたい夜泣石」を思い出します。揚句は、感覚の効いた優れた作品。只、「疲れかな」は、少し饒舌過ぎるように思います。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

トランプ
セーターの胸に編み込む?(ハート)のA
柴田 清子
トランプを引く手も凍る太平洋
中野 佑海
トランプのぎっしりつまる冬銀河
野﨑 憲子
初場所
初場所やひたすら歩く影法師
野﨑 憲子
初場所やたすきかえしはイナバウアー
漆原 義典
正月の椅子が足りない尻相撲
亀山祐美子
初場所や芸妓の目線どこにある
山内  聡
初場所や一茶も鳥もとく俵
男波 弘志
退屈がひとり居るかな冬の風
藤川 宏樹
寒鴉ぶっちゃけ話に風嗤う
野﨑 憲子
でたらめに風吹いている海鼠かな
男波 弘志
北風の空にずどんと鉄砲玉
野澤 隆夫
箱の中に箱があること春隣り
柴田 清子
人脈や私の箱に冬日向
山内  聡
諦めぬ老いの箱にや蕗の薹
中野 佑海
みかん箱夕餉囲んだころのこと
藤川 宏樹
雑煮
あん雑煮ついつい笑つてしまひけり
柴田 清子
深刻に考え過ぎだ雑煮食へ
藤川 宏樹
故郷(くに)捨ててあん餅雑煮好きになり
山内  聡
南天
南天飴なめなめ登る初金毘羅
野澤 隆夫
南天の実は情熱の赤ですよ
漆原 義典
鳴っている南天を見ず今日終る
男波 弘志
南天や時間通りに事を成す
柴田 清子
南天や墓となる山ならぬ山
鈴木 幸江
霰来るコップに落とす指輪かな
亀山祐美子
セーターの袖綻びし初霰
中野 佑海
初あらればりばり踏みてシェフと犬
野澤 隆夫
はらはらと犬は糞する霰降る
鈴木 幸江
大寒
大寒や理由(わけ)のない反抗してみる
柴田 清子
大寒の金子兜太の体かな
男波 弘志
大寒やいぼの大きくなりにけり
山内  聡
大寒の奥歯の痛み眼のかゆみ
亀山祐美子

句会メモ

初句会に、柴田清子さん、中野佑海さんが、艶やかな和服姿で登場し、句会が華やぎました。 今回は、4か月前に香川に引っ越していらした「海程」の男波弘志さんと句歴18年の山 内聡さんの初参加があり熱い初句会になりました。作品も、ますます多様化してまいりました。お陰さまで、これからが楽しみです。

2016年12月28日 (水)

第68回「海程」香川句会(2016.12.17)

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事前投句参加者の一句

                 
師走です一男去ってまた三男 中野 佑海
君の夢醒めて闇飛ぶ冬蛍 島田 章平
産婆駈け出す丹波篠山吊し柿 大西 健司
絶壁にオットウセイ落つ冬の風 KIYOAKI FILM
葛湯してゆっくりとひらがなになる 月野ぽぽな
白鳥ふわり戦う禽と化す瞬間 伊藤  幸
十二月こんなところに捻子回し 三好つや子
うまそうな言葉ころがる蜜柑かな 河野 志保
けもののようぐりぐり眠る冬木の芽 桂  凛火
生きるとは何段活用日短し 寺町志津子
白菜をバサッと裂いただけのこと 柴田 清子
鬼柚子や片思いですニキビ顔 漆原 義典
冬薔薇邪気無き会話つづきおり 田中 怜子
冬紅葉どこかで村が焼かれゆく 増田 天志
宣候(ようそろ)は音楽(がく)なり霧の家島へ 矢野千代子
黒髪の乱れて今朝の雪化粧 藤田 乙女
壇ノ浦螺旋ミサゴが描く平和 藤川 宏樹
物音や扉ひらけば冬の月 髙木 繁子
そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅 小西 瞬夏
寂しければ水を飲むらし冬の犬 鈴木 幸江
絮薄に夕陽くれない足入れ婚 小山やす子
猪垣の中ぽつねんと自衛隊 河田 清峰
冬日向蜂のむくろに縞美し 高橋 晴子
婆一点進む冬田の日本晴れ 竹本  仰
夜や長し供物の柿をいただきぬ 疋田恵美子
トコトコとがに股小春日和です 三枝みずほ
虎落笛 何がよいやらわるいやら 古澤 真翠
母となる真ん丸お腹よ冬紅葉 中西 裕子
信仰か自我か修道女息白し 野口思づゑ
果し得ぬ黙約黄すみれ点在す 野田 信章
大根干す光まみれの日本海 稲葉 千尋
夕支度老母働かす兄の怠慢 由   子
狼狽という日溜りよ一つ老いて 若森 京子
義士の日の息吹きかけて眼鏡拭く 谷  孝江
洟啜り釜揚げうどん生醤油で 野澤 隆夫
雪野にてキツネノママゴト緋毛氈 夏谷 胡桃
忘れたと生き生き答ふ爺小春 町川 悠水
大枯野恐竜闊歩する脳裏 重松 敬子
息白き子の背に巨大なランドセル 銀   次
落ち葉踏む平和の音を響かせて 亀山祐美子
糖質を避ける僧侶や初時雨 菅原 春み
風とまり寒の石からボブ・ディラン 野﨑 憲子

句会の窓

安西 篤

11月の「海程」秩父俳句道場でお目にかかった海程会会長の安西篤さんに先月の句会報を送らせていただきました。そのお礼状の葉書の一部を紹介させていただきます。:☆歳末を迎えましたが、変わらぬ奮闘ぶりを頼もしく思っています。香川句会は、地域にこだわらず多方面から多彩な個性が参加していて充実した内容になっていると思いました。「刈田くる青鷺少年兵の貌(若森京子)」「抽斗の奥に枯れ行く備忘(小山やす子)」「産土やかくもしづかに柚子たわわ(疋田恵美子)」「秋茄子は哲学的に夕暮れる(月野ぽぽな)」「書きかけの手帳のようなオリオン座(河野志保)」「夕冷えの無患子困民史を蔵す(野田信章)」「天降りくる調べよ冬の黒猫よ(野﨑憲子)」等注目。皆さんの評も面白い。これからも頑張ってください。

増田 天志

特選「宣候(ようそろ)は音楽(がく)なり霧の家島へ」作者の肉体が、芸術にスパークしている。良い作品は、創作意欲を鼓舞してくれる。

中野 佑海

特選句「信仰か自我か修道女息白し」ああ、神様。私は多分罪深い女です。私は修道女でありながら恋をしてしまいました。神を取るべきか、彼を取るべきか。ああ、この嘆き の息さえも罪で氷になってカラカラと音を発てて零れて行きそうです。許して神様!特選句「着信音はほろすけほうほう風の中(野﨑憲子)」携帯の着信音が梟なんて、いいえ、携帯 電話自体が梟だなんて、とっても素敵。その想像力に乾杯です。私もハスキー型携帯電話とか欲しいです。気に入った人しか繋がらない気紛れ電話とか!すみません。ますます、とり とめがなくなりました。今月もとっても楽しい句会を有難うございました。体の調子がもうひとつと仰っしゃりつつ、滋賀から高松迄頑張ってお出で下さった、増田天志様有難うござ いました。何気に何時にも増して慎ましく、袋回しに沢山の素敵な句を創られ、とても勉強になりました。有難うございました。来年の句会もとっても楽しみにしてます。どうぞ良い お年をお迎え下さい。

藤川 宏樹

特選「そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅」かつて粘土で塑像を造っていました。頭でこねまわすのでなく土に触れてこねる。眼と手で造る実感、物の重量感がありました。冬は指に 伝わる冷たさに往生しました。「粘土の蝶に粘土の翅」の実像を未だ思い描けず、「どんなもの?」と問いを反芻しています。そこが句の魅力、面白いですね。

伊藤  幸

特選句「白菜をバサッと裂いただけのこと」いいですね。まさに「スカッとジャパン」です。女性のみ与えられたストレス解消法です。 やってみました。バサッ!!気持ち良 かったですよ。特選句「果たし得ぬ黙約黄すみれ点在す」何と切ない悲しいストーリーでしょう。果たすことが出来ないままで終わった恋?はたまた誰かの死?春あんなに咲き誇って いた野の黄スミレが今でも点在しているというに…。でも果たし得なかったからこそ、いつまでも心の中に思い出として生き続けているのかも?

小西 瞬夏

特選句「冬銀河いちばん美しい屍(月野ぽぽな)」:「美しい」だけではなく「いちばん美しい」。ここまで言いきられると、「美しい」というやや甘めの言葉もなにか凄みを 帯びてくる。「冬銀河」と「屍」はややイメージが近いとはいえ、効果的に響きあい、冷たさ、輝きと闇の深さ、永遠の命、などを思わせる。

桂  凛火

特選句「冬のすじ雲なんとなくあんたの香(柴田清子)」あんたの香がインパクトありました。なんとなくでつないだところも面白いです。冬のすじ雲との取り合わせもいいで すね。威勢がよくすっきりとして好きでした。

若森 京子

特選句「まだ会えぬ朱唇観音山椒の実(野田信章)」作者の朱唇観音への長年の間憧れる気持がよく出ている。きっとエロチックな魅力的な観音様なのであろう。何気ない山椒 の実の季語もぴりりと効いている。特選句「義士の日の息吹きかけて眼鏡拭く」義士の日の作者の特別な息で拭かれた眼鏡。きっとこの一日は作者にとって特別な景色であったのでは と想像する。

稲葉 千尋

特選句「葛湯してゆっくりとひらがなになる」中七・下五の感覚がいい。ゆっくり味わいたい。「風とまり寒の石からボブ・ディラン」ボブ・ディランの措辞は言い得て妙である。

KIYOAKI FILM

特選句「ロシア菓子暖炉の前に亡夫(ちち)と亡母(はは)」:「亡夫(ちち)と亡母(はは)」で魅かれて、「ロシア菓子暖炉」と読んで、いいと直感で思いました。ロシアとい うのが、意味深い。母国なのだろうか。異国の菓子をはっきりと見た覚えがない、小生、日本にはない、菓子が暖炉の前に置いている と、いう映像が好きです。問題句「そぞろ寒骸の 亀よそこに海(町川悠水)」:「骸の亀よ」がいい。奇妙でもある。上五と中七下五、とてもいい。唯一覧表の俳句を見て、異質な感触があり、好きなのですが、問題句です。小生は好 きであります。

夏谷 胡桃

特選句「葛湯してゆっくりとひらがなになる」。読んだとたんに身体がユルユルほぐれるような感じを受けました。漢字でもカタカナでもない、素の自分にもどれるひらがな。 この発想は笑顔になれるいい句だと思いました。特選句「大根干す光まみれの日本海」。きらきら光る日本海が見えるような句です。平凡かもしれませんが、「光まみれ」が効いてい ると思います。

島田 章平

特選句「鉄路あり哄笑の野にオリオン座(竹本 仰)」渡辺水巴の名句「天渺々笑ひたくなりし花野かな」を思い浮かべました。闇の夜に果てしなく続く鉄路。疲れ果て、ひた すら歩き続ける難民の列。無情に輝くオリオン座。宇宙の哄笑がどこからか聞こえてくるようです。人間の愚かさを嘲笑うように・・・。

重松 敬子

特選句「硝子戸に昼の日移る漱石忌[高橋晴子)」硝子戸を開けて漱石が顔を出しそうな、気難しそうだけどどこか憎めない、そんな文豪の日常を彷彿とさせるような句。中七 の、昼の日移るがなぜか無性に懐かしい。

矢野千代子

特選句「狼狽という日溜りよ一つ老いて」わずかに一歳加齢がすすむだけで、老いへの思いがいやでも加速する。その微妙な心理の綾を「狼狽」「日溜り」を使ってうまく作品 に。無条件に納得。

大西 健司

特選句「鴉さえ食積みの性ありと母(野田信章)」だんだんと希薄になってゆく正月の風習。そんな風習のひとつ食積みについての母と娘の会話だろう。手に入れた餌やら戦利 品を隠す鴉の習性のおもしろさとあいまって、しみじみと楽しい句になった。問題句「異国の少女掌に受け雪って可愛いね(小山やす子)」こういう世界は大好きである。愛らしい異 国の少女の無邪気さが微笑ましい。それだけにもったいないとの思いが強い。もう少し整理をすればと考える。たとえば「雪って可愛い」この下句を上に持って行けばもっと生きるの では、あくまで私の好みだがいかがなものか。

小山やす子

特選句「 ふくしまや光る寒露の置手紙(若森京子)」優しい眼差しに感激しました。「葛湯してゆっくりとひらがなになる」表現が面白くて癒されます。

寺町志津子

特選句「ふくしまや光る寒露の置手紙」冷気が深まって草草の葉に宿った露が霜になった。晩秋の光を浴びたふくしまの寒露の置手紙とは、どんな内容なのでしょう。私は「美 しかったふくしまの三・一一の惨事を告げ、「『原発許すまじ』としたもの」と捉えたい。三・一一地震から五年以上経っても、事後処理の目途も覚束ないのに、更なる原発推進の動 き。先頃は被災児への卑劣ないじめも発覚。日本は、どんな方向に進むのか。原発事故直後の生々しい、痛々しい俳句から生まれる胸をえぐられるような悲しみや怒りとは違った作風 で、時は流れても、決して忘れてはならない原発事故への鎮魂と警鐘。繰り返し詠み続けていかなければならないテーマを、静かに詩的に詠まれた作者に敬意を表したい。

古澤 真翠

特選句「 冷たくてひとり泣きたくなることも(柴田清子)」:「たく」のリズムと「寂しい情感」が響き合って 何故か心に染み込んでくるような句だと思いました。

由   子

特選句「師走です一男去ってまた三男」一難が一男に変わる、発想がおもしろいです。私も去りたい、なら、もっとおもしろい。特選句「婆一点進む冬田の日本晴れ」一点、冬 、日本晴れ、潔い言葉使いに、イメージが繋がります。振り返る事はないと思われる。春ならば別の言葉を使うでしょうね。

野田 信章

「出会ったら時雨のように来る記憶(河野志保)」は出出しが説明帳のためか美しい記憶の甦りもやや薄らぐ感がある。もっと唐突感のある句柄が欲しい。「ハタハタや眼玉ぬ るぬるまだまだ死なん(桂凛火)」は生への執着感を込めたこの内容を生かし切るためには配合を含めてその推敲を望みたい。「死に近きもつれる舌に冬アイス(竹本 仰)」は、そ の着眼点に注目しつつも、今際の句としてもっと丁重に書いて一句を自立させる推敲を期待したい。右三句はそれゞの発想契機に賛同すればこその苦言である。:今年最後の句会となり ました。良き勉強のできるこの通信句会に感謝申し上げます。

疋田恵美子

特選句「鬼柚子や片思いですニキビ顔」凹凸のある特大の柚子に健康な少年のニキビ顔みるという。若々しい秀句。特選句「黒髪の乱れて今朝の雪化粧」日々の生活では当たり 前で面白くありませんので、情人だとしたら!

町川 悠水

今月は素早くチェックを入れる句がなかなか見つからなくて戸惑いを覚えましたが、これも安易な選をすることへの戒め、あるいは別の意味の試練と受け留めて作業を終えまし た。その結果は。特選句「何とのう遠くまで来しレノンの忌」は、レノンを偲んで、まさにこのとおりと実感しました。ウィキペディアで改めて生涯を追ってみたことです。今回ボブ ・ディランがノーベル賞を受賞しましたが、個人的にはビートルズでした。「生きるとは何段活用日短し」は、ずばり5段あるいは4段と言った方が、よくはなかったですかね。「宜 候は音楽なり霧の家島へ」は、これによって「宜候」という言葉があるのを初めて知りました。そして、なるほど、なるほどと。「ロシア菓子暖炉の前に亡父と亡母」は、シベリアで 亡くなった考のことなのでしょうね。深い哀惜の念を覚えます。「ハタハタや眼玉ぬるぬるまだ死なん」は、店頭で見たままは確かにこのような感じですね。関東ではよく見かけた魚 でしたが、瀬戸内生まれの私には、卵のプチプチ感はよいものの、さしたる魚とは思いませんでした。その風土に生きた人にとっては、切っても切れぬ魚のはずですからまた格別でし ょうね。他方で、はるばる秋田あたりから送られてきたハタハタが、まだ死なんと言っているのも、今様の哀れと言えるでしょうか。「唐辛子締切までの三時間」の作者は、唐辛子を どう使うのでしょうね。埼玉で長く暮らした私は、当地の人に唐辛子を履物に入れると足が温まると教えられ、時々実践していました。この作者は眺めるのでしょうか、それとも口に 含むのでしょうか。野次馬感覚で面白い!問題句「テロという言葉の翳り赤蕪」は、作者の心と狙いがある程度理解できるだけに、翳り、赤蕪の言葉の斡旋が、果たして成功している のかな、どうなのかなという気がしてなりませんでした。

月野ぽぽな

特選句「冬日向蜂のむくろの縞美し」死んだばかりの虫。生きているかのように生き生きとした姿に驚く。命の哀しさ、命の不思議。冬の日差しが優しい。

竹本 仰

特選句「白菜をバサッと裂いただけのこと」その付帯状況がまったく無いという、この切取り方が鮮明です。だから、いろんな様子を想像させる強みがあります。と同時に、何 というか、人生、所詮これだけなのよという割り切り感が快い。真実のところ、この世の中、割り切れないことばかりなんだとよくわかっているから成り立つ句。朝鮮半島の極上の白 菜は、何の調味料もかけず、そのままそれだけでご飯の単品のおかずになると聞いたことがあります、そんな連想をさせてくれますね。特選句「落葉踏む平和の音を響かせて(竹本  仰)」落葉の音に平和を感じる、その感覚が本当に平和の嗅覚の鋭さを十分感じさせます。落葉を踏み、平和というものの正体を感じる、ささいなことだけれど、その同じささいなこ とによって、大きく世界が崩れていくという暗示になってもいるように読み取れます。そして、この平和な音を聞き取れない人々が増えていくことが一番怖いことです。昔「連合赤軍 少年A」という本を読んだことがあります。これは、あのあさま山荘事件の犯人で逮捕された時、まだ高校生であった筆者の回顧録でした。すでに老いを自覚した筆者は、ある自然保 護団体のリーダーをされているんですが、本当に事件終了後はじめて現場に戻ったとき、榛名山のあたりの生態系の豊かさにまず息をのんだとありました。つまり、あの事件のころ、 まったく目の前の草木のようすに目がいかなかった自分に驚いているのです。杜甫の「春望」にも亡国のありさまを目にして、時に感じて花にも涙を濺ぎとありましたが、感受性とい うものの大切さを痛感させる句でありました。以上です。忙しさ、止まらず、という状態です。この状況が、特選句の選定につながったのかもと思ったしだい。みなさん、お元気でし ょうか。来年もよろしくお願いいたします。

鈴木 幸江

特選句「そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅」粘土一筋で創り上げるという作者の一途さがそぞろ寒いという。確かに、この作業にそぞろ寒さを合わせてみると、とてもユニークなそ ぞろ寒が感受できるので、とても面白かった。特選句「狼狽という日溜まりよ一つ老いて」激しい変化の現代、高齢化社会でひとつ歳を取ることも前例のない新体験である。安定して いるような暮らしでも、どこか狼狽している自分を感じる。この句は現代社会を鋭く捉えていると感心した。問題句「絮薄に夕陽くれない足入れ婚」まず、足入れ婚の風習が分からず 問題句とした。そして、時代と共に結婚の実態も変化していることを今更ながら考えさせられた。夕陽の当たる絮薄のイメージが重なる結婚など現代では想像がつかない。家制度のあ った時代を想った。

河野 志保

特選句「物音や扉ひらけば冬の月」冬の月がひょっこり訪ねて来たようで、どこかユーモラスな句。場面に温かさがあって惹かれた。日常を大切にする作者の姿勢も感じる。

柴田 清子

特選句「考えている雪よりも遠い場(月野ぽぽな)作者にも、読み手の一人一人のみんなが、持っている場所、それは各々違っていても。今晩あたり「雪よりも遠い場所」へ、 夢の中なら行けるかも。特選句「風とまり寒の石からボブ・ディラン」今、話題の人ボブ・ディランが「寒の石から」が、的確であると思った。いつ、私達の前に、どんな形で、寒の 石から表れてくれるのでしょうか。増田天志さんが参加して下さり、新人ベテランの島田章平さん、着物姿の佑海さん、漆原さんが、河童三千匹を連れて来た(事前投句作品「冬の雨 三千の河童島走る・・漆原義典に拠る)から、さあ大変、にぎやかな楽しい納め句会となりました。

田中 怜子

今回は気持ちがいい句を特選句としました。「白菜をバサッと裂いただけのこと」です。わからない句は「祖母の毛皮と京の人言う大書院」です。祖母の毛皮と大書院のむすびつきがわかりません。→十一月の「海程」関西合同句会丹波篠山吟行に和装の毛皮のコートでご参加の方有り、すかさず句材にされた作品で す。

三好つや子

特選句「身を折りてなを曲げて引く冬の草(稲葉千尋)」根っこが土にしがみつき、おいそれとは抜けない冬草は、私にとって老いた母親そのもの。己の力量を試すように存在 する冬草に、いろんなドラマが想像できそうな素晴らしい句です。特選句「うまそうな言葉ころがる蜜柑かな」 楽をして儲かる話とか、若返りの秘策とか、他愛もない会話の中で一 人歩きする妄想・・・。蜜柑をむいて食べている間の、うたかたの幸福感がうまく表現されていると思います。問題句「けもののようぐりぐり眠る冬木の芽」 中七と下五がとてもユ ニークで、123句中でもっとも好きな言い回しです。ただし、上五がこれでいいのか気になりました。

野澤 隆夫

昨日は冬至とか。一年が早いです。〝第九〟も高高、広島と終わり…。でも二月の徳島が楽しみ。選句をお届けします。特選句「生きるとは何段活用日短し」…口ずさみました 。「生く=生きム、生きタリ、生く。、生くるトキ、生くれドモ、生きよ」。上二段で活用させて日々の生活に感謝。もう一句。特選句「壇ノ浦螺旋ミサゴが描く平和」…屋島・壇ノ 浦の鶚スポットが目に浮かびます。平和の一光景。問題句「雪崩来て革ジャン牧師のべらんめえ」…ちょっと問題ある牧師さん?雪崩に大 騒ぎの…。コメディーか…来年もよろしくお 願いいたします。よいお年を…。

銀   次

今月の誤読●「トコトコとがに股小春日和です」。廊下の向こうから「トコトコと」幼児のような足音が聞こえてきた。サチ子は気配を感じて、そっと障子を開けてみた。庭で は十姉妹がエサをついばんでいる。その障子の影から「小春」さんが、おはよ、とキッチンに入ってきた。いつもと同じ風景、毎日という日常がつづくことのなんという穏やかさ。小 春さんおはよと、夫のトミオが元気よく言う。ちゃんと食事時がわかるのね、と妻のサチ子。小春は食卓につくなり、右手に味噌汁のお椀を持ち、左手にオムレツの皿を持ち、ウオッ と重量上げの選手よろしく持ち上げて見せた。驚いた夫のトミオは、笑いながら、すごいねえ、と言った。サチ子はなんだか嬉しくなって、次のオリンピックは小春さんが金メダルね え、と言う。小春の踏ん張った「がに股」から、大人用のオムツが見えている。小春九十六歳。サチ子は背後から小春をギュッと抱きしめた。泣いていた。婆ちゃん、好きよと言った 。小春婆さんはそれにはかまわず、あらあら十姉妹が飛んでゆくよと、空を見上げた。それはなにげない「日和です」。そういう幸せのカタチなんです。

三枝みずほ

特選句「葛湯してゆっくりとひらがなになる」角張ったものが削られて、だんだんひらがなになっていくという感覚がよかったです。忙しさの中にも自分自身が柔らかくなれる 場所や時間を持つことは大切で、惹かれた一句です。「黄落の始まる前の深呼吸」晩秋の静けさと冬に向かう激しさが深呼吸と黄落で表現されていて、風を感じさせられた作品でした。 この晩秋の空気感、何とも言えず好きです。今年も残すところあと二週間ですね。一年があっという間に過ぎてしまいます。香川句会に参加させて頂き、毎月様々な発見、刺激、活力 を頂き、感謝しております。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます!

河田 清峰

特選句「産婆駆け出す丹波篠山吊し柿」産婆駆け出す の離れ具合といかにも篠山にはあり得そうな付き具合と吊し柿 なおかつさんばとささやまの響きが良くて楽しくなりまし た♪篠山吟行また行きたく思ってます!お誘いくださいませ!ありがとう♪

漆原 義典

特選句は「産婆駆け出す丹波篠山吊し柿」です。この句には暖かい空気が心地よく流れています。古き良き昭和の空気です。「産婆駆け出す」と「吊し柿」の「動」と「静」の 対比が素晴らしいです。即決で特選とさせていただきました。ありがとうございました。

藤田 乙女

特選句「君の夢醒めて闇飛ぶ冬蛍」人の世の儚さをしみじみと感じます。「苦しさの己が生みし子のらしき(鈴木幸江)」親の子への複雑な思いがよく伝わってきます。

野口思づゑ

特選句「十二月こんなところに螺子回し」家族の誰か、家の修理やら点検の役目の人がいて年末あちこち螺子回しで修繕したのだろうけど、仕舞い忘れたか置きっぱなしになっ ている。あらま、こんなところに螺子回しがあるわ、とその一瞬の気持ちを述べているだけなのだが、シンプルで飾りの無い中に12月らしさ、家族の生活の様子など目に浮かび暮ら しに密着した、良い句だと思った。「異国の少女掌に受け雪って可愛いね」雪に縁の無い国の少女なのでしょう。雪を可愛いという発想が面白い。

中西 裕子

特選句「寂しければ水を飲むらし冬の犬」なにか切ない感じで、冬の水は冷たかろうにと思いました。「吊り棚へ母よ背伸ばし鍋支度(藤川宏樹)」はお母さんが普段は背中が すこし丸いけど、元気に背を伸ばし鍋支度をはりきって始めたのかなと、老いもかんじつつ元気でいてねというお気持ちかと思いました。今年は参加率が悪かったけれど伺ったときは 楽しく勉強になりました。来年はもっと出席が目標。一年間ありがとうございました。

亀山祐美子

特選句『そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅』:「粘土の蝶に粘土の翅」は当たり前だが「そぞろ寒」の季語を置と何やらもぞもぞざわざわしてくる。きな臭さがしてくる。考え過ぎ だろうか。皆様とお会い出来てうれしい句会でした。やはり俳句は『座の文学』だと思いました。刺激をありがとうございました。よいお歳を!

高橋 晴子

特選句「猪垣の中ぽつねんと自衛隊」自衛隊の存在感、これでいいのです、という感。面白くて共感!問題句「欠けて寂しあの人もそうだったか」何となくわかって面白いのだ けど、上五にしっかりした季語を入れて表現すると(特に「欠けて」の処)もっと現実感が定着していい句になる。

野﨑 憲子

特選句「息白き子の背に巨大なランドセル」:「巨大なランドセル」が、いい。冬の朝、この学童の背負ったランドセルの中に、いったい何が入っているのだろう?中八音が、 まだまだ大きくなって行くランドセルを想像させる。もしかしたら、風船のように空へ舞いあがるかも知れない。重荷ではなく夢のぎっしり詰まった虹色のランドセルであって欲しい 。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

皇帝ダリア
階(きざはし)のはじまり皇帝ダリアかな
亀山祐美子
これ好きかも皇帝ダリア高すぎて
河田 清峰
隣家の皇帝ダリア仏頂面
藤川 宏樹
煤逃
煤逃げをさせじとばかり子の泣けり
鈴木 幸江
煤逃のプーチン招く好きかもね
河田 清峰
煤逃や美しき罠(わな)かもしれず
中野 佑海
煤逃の女六人寄り来たる
亀山祐美子
煤逃げを嫌いドスンと当主なり
増田 天志
柚子
老いらくや火傷で済まぬ柚子の棘
島田 章平
あと百里歩いてゆけば柚子の里
銀   次
消えちゃうわ私に柚子をかけないで
増田 天志
選択ミスはいつものことよ柚子は黄に
野﨑 憲子
醤油垂れ惚気(のろけ)る口や柚子の棘
藤川 宏樹
訳があるこんなに大きな柚子の棘
鈴木 幸江
冬の虹
人間になりそこないし冬の虹
亀山祐美子
冬虹の根元に放哉いまもゐる
柴田 清子
ここにボク向こうにアヒル冬の虹
増田 天志
みんな虹海鼠も人も星たちも
野﨑 憲子
冬の虹何色が好きと妻が言う
漆原 義典
初雪やアンパン食めば星の歌
野﨑 憲子
雪の日は降る雪だけを見てゐたい
柴田 清子
あんたもう苦労ないのよ雪頭
藤川 宏樹
雪兎ぼやいてないで翔んでみな
中野 佑海
深読みはせずしんしんと初雪
三枝みずほ
柊の香ほどの夢見ています
柴田 清子
寒月光夢の中でも捨てられる
増田 天志
再放送亡き人とゐる夢炬燵
藤川 宏樹
忘年会
頬杖の頬重たくて年忘れけり
柴田 清子
忘年会逃げて君に逢いに来た
鈴木 幸江
放哉
放哉の歩幅私の歩幅かな
亀山祐美子
茶封筒の中に放哉モソモソす
柴田 清子
墓石が咳をしている島の墓地
島田 章平
輪郭は風のことのは放哉忌
野﨑 憲子
冬の蚊が這ふ放哉の寝たあたり
島田 章平

句会メモ

本年最後の句会の17日は、雲一つない冬晴れの日でした。大津より増田天志さんが、観音寺より河田清峰さんや亀山祐美子さんも参加し、始終笑い声の絶えない、あっという間の4時間の 句会でした。和服姿の中野佑海さんが今年最後の句会に大輪の華を添えてくださいました。皆さま、感謝です!鈴木幸江さんが、ご自宅の庭で育てた柚子を持って来てくださり、句会 にご参加の方々にお土産にくださいました。柚子の香って、こんなにも香り高いものかと再認識しました。

年の瀬いただいた、安西篤さんからお葉書から・・「香川句会報68回を有り難うございました。香川句会は、東京の青山俳句工場と並んで地域横断的な通信句会として、又相互交流の場として気を吐いています。なんといっても68回という持続力が素晴らしい。今回の収穫句を次にー<産婆駈け出す丹波篠山吊し柿><まだ会えぬ朱唇観音山椒の実><着信音はほろすけほうほう風の中><光踏み合うて冬蝶遊ばせる><冬銀河いちばん美しい屍><生きるとは何段活用日短し>ヴェテランも若手も全力で取り組んでおられる意欲をひしひしと感じさせられます。これもプロモーターの地道な努力あればこそと思わずにはいられません。次第に、確実に、関西の有力な拠点になる事でしょう。どうぞ来年も頑張って下さい。」・・・ 一回一回の句会を大切に、じっくりゆっくり楽しんでやって行きたいと思います。安西さん、大きなエールをありがとうございます!

ことし最後の句会も、盛会の内に終わることができました。ご参加の皆さまのお陰さまでございます。来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。毎回、毎回、たくさんの新たな作品 との出逢いがあり、大きな元気をいただきました。心よりお礼申し上げます。これからがますます楽しみです。皆さま、どうか佳いお年をお迎えください!

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