第74回「海程」香川句会(2017.07.15)
事前投句参加者の一句
手ざわりは杏子(アンズ)被曝の帽脱げば | 若森 京子 |
手も足も待っておられぬ祭好き | 中野 佑海 |
手のひらにたくさんの線蓮の花 | 三枝みずほ |
湿気っぽい月の様です生きている | 鈴木 幸江 |
普通の苦労なんてしてない海月です | 桂 凛火 |
馬鹿なれど愚かではない棒アイス | 伊藤 幸 |
蛍火を待つ両脚を草にして | 月野ぽぽな |
春の山水は光を追いかける | 河野 志保 |
くすりばこ白夜の森の匂いかな | 三好つや子 |
老兵の正しい知性背に螢 | 野口思づゑ |
清流の華なり痣なり瑠璃蛺蝶(ルリタテハ) | 矢野千代子 |
萍のはじめは雨のひとりごと | 新野 祐子 |
長鉾の周り飛び交うチャイニーズ | 古澤 真翠 |
今閉じし目より滴るほととぎす | 小山やす子 |
行水にパチパチややの顔は丸 | 藤川 宏樹 |
道おしへひとりぼっちの通学路 | 髙木 繁子 |
くびくくり坂までくちなしの花匂う | 大西 健司 |
決心の赤い石榴の噛み応へ | 小西 瞬夏 |
マニキュアとピアスの男蛇苺 | 島田 章平 |
風蘭をもらいし姉の余命知る | 稲葉 千尋 |
鉄人が自転車飛ばす梅雨の晴 | 野澤 隆夫 |
遠雷に始まるピアノ協奏曲 | 増田 天志 |
さようなら日傘の君が溶けてゆく | 銀 次 |
人権宣言夏雲がどっと沸き | 谷 孝江 |
崩れては湧く噴水の平和乞う | 山内 聡 |
空蝉の転がっている手桶かな | 菅原 春み |
二万通の届かぬ手紙海蛍 | 河田 清峰 |
日盛りのやうな男が真正面 | 柴田 清子 |
重なりつ離れつ影と黒揚羽 | 小宮 豊和 |
七月のあをを漂流してをりぬ | 亀山祐美子 |
胡瓜食む子等の生命の連続音 | 藤田 乙女 |
夏空や海がそうしたように抱く | 男波 弘志 |
草いきれ激し母より手暗がり | 竹本 仰 |
捕虫網兄と走ればほんとの青 | 松本 勇二 |
花火今忖度各種取り揃え | 寺町志津子 |
炎天下座して抵抗うちなんちゅ | 田中 怜子 |
仮釈で出てジャズマンをさがす夏 | 田口 浩 |
被爆天使の眼窩うごくは蝌蚪ならん | 野田 信章 |
山法師俳句残像連れあるき | 疋田恵美子 |
昔のことは忘れたわってかき氷 | 夏谷 胡桃 |
桔梗一輪男一人を憶い出す | 高橋 晴子 |
夏豪雨家族写真を奪いけり | 漆原 義典 |
雲の峰生家が遠くなりにけり | 中西 裕子 |
コインロッカー奇数を選ぶ雲の峰 | 重松 敬子 |
ももももも七月の赤ちやんが来る | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「空蝉のころがっている手桶かな」景としては、手桶の中に空蝉がある、という状況。まず、それが目の前にはっきりと浮かびながらも、どこか現実感が薄い。いったいだれが、この手桶の中に空蝉を入れたのだろうか。また、なんのために? そんなことを考えていると、何かこの世ではないような空気が漂う。手桶の中の空間と、空蝉の中の空間が、どちらも「無」として存在している。
- 大西 健司
特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」:「雨のひとりごと」この美しい詩的断定にひかれた。問題句「二万通の届かぬ手紙海蛍」具体的にはこの届かぬ手紙がなんなのかはわからないが、海蛍となって海に耀いているその様は実に美しい。どこか故国に戻れなかった戦死者の思いのように胸に届く。
- 三枝みずほ
特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」桃であり、ふとももであり、お尻であり、赤ちゃんの柔らかさを表現するのに心地よい五音。「も」を発音する時の口の形も面白く、赤児をあやす大人の朗らかな顔も連想出来、この五音で存分に楽しめる。この発想と遊び心に共感した。
- 島田 章平
特選句「麦秋や声もことばも母を追う(男波弘志)」[声]とは人や動物が発生器官から出す音。[ことば]とはある意味を表すために、口で言ったり字に書いたりする事。【広辞苑より】[声]そのものは意味を持たない。感情がそのまま音になる。音が伝わり共鳴する。[ことば]は心の表現。伝える為に人は[ことば]を選ぶ。[声]と[ことば]で母を追う子供。子供の[声]と[ことば]は母親に届いたのか。甘く切ない心の記憶。「麦秋」が温かい。
- 中野 佑海
特選句「普通の苦労なんてしていない海月です」子供の頃から苦労らしい苦労なんて何も無かった。なら俳句には成らないか。ならば、やはり、並々ならぬ波瀾万丈の人生ではあったけど、その都度海月のように、あっちへゆらゆら、こっちでくるくる、とにもかくにも、毎日を一生懸命過ごして、今を迎えている。という感慨無量感が良く出ていると思う。振り返って見たら、誰の人生もそうだと思う。老年期に足を突っ込んだ者の懐古も含め。特選句「決心の赤い石榴の噛み応え」私は女性が赤いシュシュをキュッとして、ハイヒールで颯爽と歩いていたのを俳句にしようとして、巧くいかなかった事を思い出しました。この句はそれを顕して下さったのだと。特に噛み応えが良いです。問題句「恋も死もてぬかりあるな凌霄花(若森京子)」私の感覚としては、「恋も死もぬかりのありて凌霄花」であって欲しいです!!
- 野澤 隆夫
じっくり鑑賞すると投句135句、それぞれにどれも面白いです。特選句「さようなら日傘の君が溶けてゆく」漱石の『三四郎』の表紙みたいな句です。小生の拙い経験からドラマの想像できる句が好きです。「昔のことは忘れたわってかき氷」なんとなく投げやりな言葉で、かき氷を掻き込む作者が想像できます。問題句「茶碗欠けたと姉は青葉木菟になる」欠け茶碗と青葉木菟の因果関係にクエスチョ ン・マークです。でも面白い!!
- 月野ぽぽな
特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」薬箱にある、一種独特な匂い、暗さ、雰囲気を感覚的に捉えた良さ。
- 増田 天志
特選句「清流の華なり痣なり瑠璃蛺蝶(ルリタテハ)」あれほど、貴方が好きだったのに。今では、身震いがするくらい、大嫌い。そうね、私が変わってしまったのね。きっと。愛憎は、コインの表裏。
- 三好つや子
特選句「人権宣言夏雲がどっと沸き」人権宣言と夏雲のことばが響き合い、海に山にあそぶ人々の開放感が句にあふれ、感動しました。特選句「花火今忖度各種取り揃え」川柳っぽいかな、と思ったのですが、今どきの花火の種類の多さを、忖度ということばで表現したことが、面白いです。入選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」丸々としていて、元気いっぱいの赤ん坊を想像。とりわけ「七月の赤ちゃん」というフレーズに惹かれました。
- 藤川 宏樹
特選句「日盛りのやうな男が真正面」まるでCMのキャッチコピーのよう、映像が鮮明です。男の存在感だけでなく男の熱輻射が暑苦しく感じます。結びの「真正面」が、直に届かせています。面白い。
- 鈴木 幸江
特選句「馬鹿なれど愚かではない棒アイス」一読、暖かな句だと思った。そして、我が家族を顧みれば、馬鹿だけど愚かではない生き方を何とかしていると思えて、救われた。棒アイスが働いている。片手で食べられる棒アイス。学者ではないが、どこか考えが飛躍している人が考えた。私も、こんな発想の句を創って行きたいものだと痛く共鳴した。特選句「被曝天使の眼窩うごくは蝌蚪ならん」映画のワンシーンを思い浮かべるのが好きだ。この一句からは、凄まじい映像が立ち上がった。それをお伝えしたい。被曝天使は被曝された方のことだろう。眼窩は眼球のまわりの骨のことだそうだ。それが、皮膚がえぐれ露出してしまった状態で、首を動かしたのだ。それは、たぶん、蝌蚪が目に入り、思わず、何気なくその方向へ首が動いたのだろう。推測している作者が、戦争の凄まじさと生命の重さを感じでいることがよく伝わってきた。問題句「茶碗欠けたと姉は青葉木菟になる(大西健司)」感性の句は、伝わる人には伝わり、伝わらない人には伝わらない。でも、時にはこういう句を創っても良いと思った。わたしには、青葉木菟のようになっているお姉さんの姿を想像することがとても楽しかったから。
- 若森 京子
特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」:「白夜の森の匂い」ってどんな匂いかしら、草木の匂いより生き物の匂いが強いのでは、命の匂いかしら、薬箱との比喩が面白い。特選句「野をひらく鍵はしづかに蟇」野・鍵・蟇が響き合って、この短い詩型の中に最大限に静かに拡がってゆく景が見える。
- 寺町志津子
特選句「炎天下座して抵抗うちなんちゅ」戦後七十二年。沖縄では平和を求め、穏やかで安心な暮らしを希求し続けるも、いつまでも続く基地としての存在。上五、中七の「炎天下座して抵抗」が何とも切なく、痛ましく、申し訳ない思いも去来した。そして、その現状を詠み続けることの重要性を思い、「うちなんちゅ」の皆さんに、安心で穏やかな平和な日々の到来が一日も早からんことを祈り、特選にさせて頂いた。
- 夏谷 胡桃
特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」もものような赤ちゃんに会える喜びが伝わって来て、楽しい句です。「ももももも」は桃を連想してしまいます。そうしたら七月はよけいなのではと悩みました。もう少しかえられそうです。問題句は、「鉄人」です。3句もあったので、トライアスロン大会でもあったのかなと考えました。きっと有名な大会なのでしょう。でも、伝わりにくいと思いました。
- 重松 敬子
特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」私もこの季語が好きで、毎年挑戦するのですが、上手くいったためしがなく、大変勉強になりました。かって行った、ドイツの森に包まれた気持ちになり、思わず深呼吸をしました。
- 野口思づゑ
特選句「手ざわりは杏子被曝の帽脱げば」悲しいい題材の句なのだが帽子をかぶり強く生きている被害者の姿がとても巧みに表現されており感銘を受けた。その他、「普通の苦労なんてしてない海月です」では普通以上なのか以下なのか、などと思うのが楽しい。「ヒマワリが好き自己中ってところ(谷孝江)」そういえばヒマワリ、言われてみればそんな気もする。
- 山内 聡
特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」。萍で想起するのは栗林公園。今日は曇っていて久しぶりに散歩に出てみよう。ひとりで歩いているといろんなことを思い出したり想像したり。池の水面に水輪が。雨に誘われるように少し呟く作者。それを、「はじめは雨のひとりごと」としたところに詩情を感じます。そしてこの句を読むと自然と栗林公園の豊かな緑に包まれます。公園の緑に溶け込んでいくひとりごと。
- 矢野千代子
特選句「「野をひらく鍵はしづかに蟇(野﨑憲子」蟇への思い出がつよい。夏になると裏庭に出没する蟇をまるで里帰りをする子のごとく迎えて、幼児の私達には「悪さをしたらあきまへんで」と…。そんな祖母の声や姿が鮮やかによみがえる。読後には、青くて明るい夏野―が、思い出とともにあざやかな緑界―が現れてきた。
- 桂 凛火
特選句「湿気っぽい月の様です生きている」月に自分を例えるなんて大胆な・・。意外性がよかったです。そして「生きているの」表現が妙になまなましくすてきでした。
- 漆原 義典
特選句「遠雷に始まるピアノ協奏曲」、私は雷にティンパニを連想しますが、ピアノを連想した作者の優しい感性に感動しました。ありがとうございました。
- 男波 弘志
「手ざわりは杏子被爆の帽脱げば」杏子の、半生感、ケロイドを起想「手のひらにたくさんの線蓮の花」悲壮感のない手相、いっさいを蓮の花に委ねる。てのひら、平仮名の方が句意にあう。「蛍火を待つ両脚を草にして」人体の戯画化、アミニズムみつみつ。「沢蟹の鋏を上げる嬉しさよ(鈴木幸江)」悲壮感のない蟹、俳諧の蟹。「七月のあをを漂流しておりぬ」漂流、負の世界を、青が反転せしめている。青が青「を」漂流せしめている。「青が」、では平凡。「髪洗う森に太陽を沈めて(月野ぽぽな)」自己の意思体で太陽を沈める、傲慢な肉体、珍重。「夏の月吊るされている行き止まり(河野志保)」輪廻の終着点、お月さんも縊死している。「野をひらく鍵はしづかに蟇」 野をひらく、鍵は、蟇がもっている。
- 谷 孝江
特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」齢を重ねる度、くすりは手放されなくなります。「白夜の森の匂い」なんて素敵な言葉でしょう。いやな「くすり」も、すっと喉を通ります。薬を飲むのもたのしい思いがしてきそう。特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」赤ちゃん大好きです。どんなに泣き喚いていても可愛くてなりません、赤ちゃんが来るってたのしいことです。家へも是非お願いしたいです。未来がいっぱい詰まった玉手箱のような赤ちゃんを・・。
- 銀 次
今月の誤読●「メール一通夕焼けの中の少女(谷孝江)」。夢はまぼろし。現はさらなり。炎天もやうやう落ち着かむとす「夕焼けの中」。セーラー服「の少女」バス停に佇みをりぬ。三つ編みに結ひたる髪もいと麗しく、ふたつみつ垂れたる後れ毛もまた。彼の少女、ふと何事かに気づきて、黒カバンより携帯を取り出しぬ。そは「メール一通」の受信記録にて、少女そを開き見たり。少女、文面を二度三度と読み返へしのち、そつと閉ず。少女はふうと小さくため息をつき、夕焼けに眼向けたり。しかして、何故なるか、彼の少女の眼より二筋三筋の涙湧きいで、そのやはらかき頬を、静かに流れ落ちたり。もとより余は、それなるメールがどのやうなものであつたかは知らずして、ただその美しくも、あはれなる光景にいかにか心奪はれたるのみ。やがて停車場にいと古きバス到着し、少女は乗り込みぬ。余はふと我に返へりて、そのバスを追へども、すんでのところで乗り遅れたり。そのときであつた。おお、見よや。彼のバスは燐光を放ちつ、宙天に浮かんだり。余はそのあやしきに心惑はされ、ただ呆然と見送るのみ。一点、ただ一番星を目指して走り行くバス。彼のメールは冥府よりの招待かと思えじ。少女は車窓より余に手を振りぬ。静かなる微笑みとやさし眼差し。ああ、なんといふ不可思議にして、神々しき瞬間なるや。少女よ逝くか。乙女よ。その昇天の、いみじうして、いと愛らしきことか。
- 古澤 真翠
特選句「さようなら日傘の君が溶けてゆく」:「さようなら」の五文字は、いろいろな場面を彷彿とさせ 奥行きのある句だと思います。問題句(疑問句かな)「炎天や暑き封書の喪の手紙(菅原春み)」「暑き」は「厚き」かなぁ?とも思いましたが…作者は「それでは在り来たり」とお考えだったのでしょうか?
- 田口 浩
特選句「天道虫そのとき眉間ありにけり」眉間は作者であろう。否、仏の白毫相と想像を深く遊んでもいい。天道虫が草を離れた、一瞬。眼で追うのでなく、眉間という言葉を得たとき、不可思議で理不尽な俳が成就した。特選句「夏空や海がそうしたように抱く」海に入ってあおむけに寝る。浮いた身体を波にまかせる。夏空が眩しく目を閉じる。小さな波音が耳をくすぐる。快感。爽快。二重構造に作品を仕立て、愛の大きさと、やさしさを〝海がそうしたように〟と詠む。これは〝業師〟。〝抱く〟の二字がニクイ。
- 中西 裕子
特選句「日盛りのやうな男が真正面」日盛りのような男が真正面にいたら、圧迫感かな、それとも頼もしく感じるかなと想像するのも楽しい気持ちになりました。暑さに負けてないなと思いました。
- 松本 勇二
特選句「七月のあをを漂流してをりぬ」心象風景の見事な映像化に感服しました。問題句「髪洗う森に太陽を沈めて」髪を洗う時にこのように感じる感性に共感しました。五七五の定型におさめるとなお訴求力が出ると思われます。たとえば「太陽を森に沈めて髪洗う」など。
- 伊藤 幸
特選句「手も足も待っておられぬ祭り好き」分かる分かる、“ワッショイワッショイ”あの掛け声、たまりませんね。祭り好きの私に一票入れさせて下さい。私の手も足も「そうだそうだ」と言っております。特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」十年前「海程」に投句した最初の句が「湖はまじめな雨が創るのです」であった事を思い出す。 雨の一滴から川が出来数百年数千年を経て川となり萍が生まれる。雨のひとりごとの措辞、ロマンですね。
- 竹本 仰
特選句「蛍火を待つ両脚を草にして」:「蛍火」を恋の思い、予感として見るのは当然のこととして、「待つ」私はここでただの名もない草にならなければ、一介の生き物としてこれを全身で受け入れようという決意、それを体感として濃く表せているところがいいです。本気の恋と言いましょうか、自分が自分でなくなってもいいというような、一回性の直観に貫かれた情景であるかなと思い、原始的な匂い、たとえば、「あしひきの山の雫に妹待つとわれ立ち濡れぬ山の雫に」(万葉集巻二・大津の皇子)に似た香りがあります。ただこの濃さは女性のものかと想像しますが、どうでしょう?特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」とにかく「くすりばこ」が季感語であるのかと思わせるような感触がしたのが面白いですね。「白夜」を実際に体験された方でしょうか。くすりばこが白夜の森の導入剤になっていて、あのくすりばこを開けるときの一瞬の不確かな予感というか、露草の青を青空の青とつい見誤ってしまうのに似た錯覚のおののきというか、そんなところの涼やかさがあります。「白夜の森」にはいったい何があるんでしょうか、わくわくさせるもの、何となく昔触れたドストエフスキー「白夜」の世界に通じるものか、すごくくすぐってくるものがあります。季語の世界では「はくや」らしいですが、これは「びゃくや」と読まねば味が落ちるのではないかと思います。特選句「ゆれて髙松虹の根つこに眼が二つ(野﨑憲子)」高松のご当地ソングとしたら大成功ではないか。「髙松」という何気ない真面目さが「ゆれて」で恋の文脈に入ってしまった感がするのですね、しかも大きな高松にあるのはあなたの二つのまなこだけみたいな、そうですね、修学旅行で来た中学生が高松に恋をしちゃった感の響きです。この昔の恋心風の詠み方が、ある時代に対する郷愁をいたく刺激するところがあり、何となくこの句を唄いたい感にするのを止められません。この句会でしか生まれない稀有感を感じました。だから、俳句はやめられないとも言いたい。
- 河野 志保
特選句「崩れては湧く噴水の平和乞う」作者の気持ちがストレートに伝わる。しなやかなリズムにも惹かれた。揺れ動く平和への思いは噴水のよう。諦めてはいけないと静かに言い聞かせる作者を想像した。
- 小山やす子
特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」静かな水面にうきくさが彩りを添えやがて雨が来てぽつりぽつりと水輪ができる…優しい景色に魅せられました。
- 疋田恵美子
特選句「老兵の正しい知性背に螢」作家の「半藤一利」氏を思わせるお句。特選句「恋も死もてぬかりあるな凌霄花」てぬかりばかりある私、以後気をつけねばと。
- 田中 怜子
特選句「被曝天使の眼窩うごくは蝌蚪ならん」この光景は見たことあるような、うつろな眼窩 どんな哀しみがつまっているかまた、原子爆弾が落とされた日がやってきました。特選句「夏豪雨家族写真を奪いけり」毎年繰り返される自然災害 人の命も奪うけど、記憶、思い出も持っていってしまうんですね。
- 藤田 乙女
特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」: 「ももももも」から、桃と赤ちゃんの柔らかくみずみずしい頬っぺたの感触とが重なりあったり、生まれたての赤ちゃんの息づかいや鼓動まで伝わったりしてくるような感じがしました。また、「7月の赤ちゃんが来る」から7月の空の明るさや赤ちゃんの誕生を祝福する周囲の喜びも伝わってきて、明るく爽やかな気分になりました。うらやましい限りです。特選句「さようなら日傘の君が溶けてゆく」自分の愛する人の面影さえも消え去っていく、そんな寂しさと深い哀しみを感じました。しかし、自ら「さようなら」と切り出すところにそこから立ち向かおうとする希望や前向きな意思も伝わってきました。私の感性を揺さぶるような、心の奥まで響く句でした。/P>
- 河田 清峰
特選句「手ざわりは杏子被曝の帽脱げば」食感でなく触感でとらえた杏子そのなんともいえぬ感覚!帽子のしたにあるおどろおどろしさにヒロシマの夏の叫びをかんじます!また繰り返しそうな気がします。
- 亀山祐美子
互選句への解釈の違いがとても参考になりましたが、心から沸き上がる共鳴句はありませんでした。私の感性が鈍っているのでしょう。あしあらずご了承くださいませ。楽しい時間でした。またお邪魔致します。
- 小宮 豊和
特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」」作者は、白夜の森の匂いを薬箱の匂いであるという。薬箱とは富山の置き薬の箱を考える。木箱と薬の複合臭である。森は針葉樹の森で青葉と散り積もった腐葉土が匂う。下草やその実、きのこなどの菌類や地衣類も匂う。もしかしたらオーロラも匂うかもしれない。句で言っていることはわずかであるが、連想がふくらむ。
- 新野 祐子
はじめまして。俳句を始めた十年前から朝日俳壇を愛読しています。ある時、ドキッとする俳句と出会いました。作者は野﨑憲子さんだったんです。その時から野﨑さんの大ファン。今年五月の海程全国大会で野﨑さんとお話しすることができました。その縁で香川句会に参加した次第です。よろしくお願いします。特選句「清流の華なり痣なり瑠璃蛺蝶」華と痣を同列にした感性がすばらしい。渓流釣りでよく清流を渡ります。そこで蝶に会ったことはないけれど、幻想の世界に連れて行ってくれるのは瑠璃蛺蝶なんだろうなと納得させられます。特選句「くびくくり坂までくちなしの花匂う」くびくくり坂というところは実際にあるのでしょうか。あるとしたらどんな歴史的背景があるのかなどと、想像力をたくましくしてしまいます。くちなしの花があやしく匂ってきます。問題句「春の山水は光を追いかける」ここ山形は豪雪地帯で、春となれば川は大蛇のごとき勢いで山から里に駆け降りてきます。ですから私の実感としては、「光は水を追いかける」となるのです。問題句とは言えませんね。気づきの句でしょうか。
- 柴田 清子
特選句「海亀になりたいその目を信じて(夏谷胡桃)」この内容の一途な思い込みに魅力を感じます。特選句「夏空や海がそうしたように抱く」この夏空と言ふ季語には全てを包み込んで、一句を成してしまふだけの強がある。ので好きな句
- 高橋 晴子
特選句「虎尾草の群れ咲くところより自由」自由の感覚かいい。特選句「七月のあをを漂流してをりぬ」七月のあををが効いていて漂流の感生き生き。問題句「民主主義灼ける白靴洗う日よ」民主主義との関連が今ひとつ、しっくりこない。*ご投句の際のコメントより~自句「桔梗一輪男一人を憶い出す」に関連して「桔梗一輪投げ込む力ばかりの世に」櫻井博道の句。清潔な人で、展宏さんと仲のよかった。昔。東京へ行くたび、大井三ツ又の櫻井家具店へ遊びに行きました。観音寺へも森澄雄、博道、展宏できたことがある。博道は、六十歳で早逝。
- 野田 信章
「馬鹿なれど愚かではない棒アイス」は中句にかけての呟きが冷菓を噛む歯応えと共に身に入みて伝わる。やがて手に一本の棒だけが残る。この即物的な景を通して作者の生き様としての意力をも確かな残像として感得される。「蛇に祟られ猫はふぐりを失えり」は、へえーそういうこともあるのかという意外性の中にかなしさと可笑しみを宿す句柄であり、俳芸の芸の際立ちがある。「メール一通夕焼けの中の少女」は中句以下の少女像がまるで夕焼けの中に埋没してしまいそうである。外界との窓となっているのはメール一通のみとも読める。少女期の多感さ故に裡へ裡へと籠もる一態が美しく把握されている句である。「萍のはじめは雨のひとりごと」は落ち着いた句柄で、即物的な景の切り取り方が適確なために、次第に雨粒の拡大と共に想念の波紋もまたひろがってゆくものがある。
- 野﨑 憲子
特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」一読、不思議な空間に引き込まれた。そして読む程に、心の中に、天上の雨音が、ぽつりぽつりと広がり、水面には、萍が少しずつ増殖をはじめてゆく。耳を澄ませば雨の呟きが萍の囁きが聞こえてくる。一行のなかの「萍」と「雨」が映像となり立ち上がってくる。見事なり。特選句「捕虫網兄と走ればほんとの青」蟬や蝶を求め、捕虫網を持ち野山を駆け巡った幼い頃、兄さんは、色んなことを教えてくれた、魚の集まってくる岩場や、美しい蝶の現れる茂み、草笛の吹き方、雲を千切って食べる方法・・・あの頃に戻って、もう一度兄さんと山河を歩き回りたい、作者の思いが、ひしひしと伝わってくる。「ほんとの青」ってそんな幼い時代の青。でも、「ほんとの青」は、今も、ここにあるっていうことも、作者は、きっと知っている。と、思った。
袋回し句会
蓮
- 去来するもののぬくさよ蓮ひらく
- 野﨑 憲子
- 石橋に人の消えゆく蓮の花
- 河田 清峰
- 蓮池にうしろすがたのをんなかな
- 島田 章平
茅の輪
- 時計いま茅の輪の円の方にある
- 男波 弘志
- 波音の大きな茅の輪くぐりけり
- 柴田 清子
- 青空に向ってくぐる茅の輪かな
- 漆原 義典
水着
- 中央線お茶の水駅の水着かな
- 柴田 清子
- 腹ぼてでとび込みどぼん水着の子
- 野澤 隆夫
- 四十年同じ水着の父でした
- 鈴木 幸江
- 夏目雅子水着のポーズ眩しくて
- 島田 章平
牛蛙
- 熱病のやうな結婚牛蛙
- 河田 清峰
- 唯我独尊讃岐屋島の牛蛙
- 田口 浩
- 空にでもなるように鳴く牛がえる
- 男波 弘志
- たっぷりと雲を喰ひし牛蛙
- 野﨑 憲子
甘酒
- 弱虫のためにあります甘酒は
- 鈴木 幸江
- 土器(かわらけ)を投げて立ち寄る甘酒屋
- 島田 章平
蝉
- 真夜中の蝉の殺られた叫びかな
- 小宮 豊和
- 裏の蝉表の蝉を鳴かせけり
- 柴田 清子
- 窓あけて蝉の世界の樹になるか
- 田口 浩
- 愛犬の生まれて初めて蝉と会う
- 鈴木 幸江
毒消し
- 雨あがり毒消し売の来たりけり
- 野﨑 憲子
- 会話切れくるぶし出すか毒消しに
- 藤川 宏樹
- 君に告ぐ又逢う日まで毒消しを
- 鈴木 幸江
- 素直さは毒消しの効く水あたり
- 小宮 豊和
虹
- おーい妻その虹の橋おりて来い
- 島田 章平
- 虹を見て何色が好きと妻が問う
- 漆原 義典
- 虹の道あの人この子いなくなり
- 藤川 宏樹
- 風のとまる場所を探して夕虹
- 野﨑 憲子
- 振り返り気が付けば虹無国籍
- 鈴木 幸江
- 虹の根があるだろうか泣くだろうか
- 男波 弘志
句会メモ
安西篤さんのお葉書より/前回同様三段階評価をさせていただきます。「73回句会報より」☆レベル「とおすみとんぼ妊りて透く暮し」(若森京子)」「棄民集落いまも波音浜万年青(大西健司)」「五月雨や抽斗のなかのアフリカよ(銀次)」◎レベル「ゆらゆらと敗者集まり氷菓子(松本勇二)」「炎昼の奥へと一歩ずつ迷うよ(月野ぽぽな)」」「落し文青しよ八十路のわが肉(しし)も(野田信章)」「帰去来(かえりなん)ひたすら麦の禾わけて(矢野千代子)「島影や書くたびに文字白濁す(男波弘志)」「崩壊の危機こそ力月涼し(野﨑憲子)」○レベル「もう空を飛ばぬ箒と夏帽子(小西瞬夏)」「鉛筆を落とした指から春眠(河野志保)」「箱根八里青葉のアレグロアンダンテ(寺町志津子)」「誕生日ふくいくと新茶カステーラ(疋田恵美子)」「万緑に埋もれた家に遅き灯よ(中西裕子)」「蟻が蟻運ぶ正面石切場(亀山祐美子)」
句会は猛暑の中でしたが、句会場ほぼ満席の盛会でした。島田章平さんが山口に住む、ご友人が開発された「夏津海(なつみ)」という、夏に食べる蜜柑の魁となった珍しい蜜柑をたくさん持ってきてくださいました。まさに干天の甘露!参加者一同、美味しい蜜柑を堪能しました。今回も、とても楽しい句会でした。
「海程」七月号には、先の全国大会の折に、金子兜太主宰が読み上げられた『2018年9月(8・9月合併号)をもって、「海程」を「終刊」することとします。』の文章が掲載され、改めて、来年の「海程」の終焉を思い胸がいっぱいになりました。師も、私たちも、新たな出立の時を迎えることを強く感じています。この、「海程香川」の句会は、香川の地で、踏んばってまいります。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。猛暑の続くこの頃ですが、この暑さをわがものにするべく来月は句会の後、二時間ほどの納涼会を男波弘志さんの幹事で開催いたします。遠方からのご参加も歓迎です。皆様、奮ってご参加ください。
<袋回し句会>の作品集は、ブログ掲載を快諾してくださった方の作品のみ掲載しています。
Posted at 2017年7月28日 午前 12:44 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第73回「海程」香川句会(2017.06.17)
事前投句参加者の一句
唇溶けて脳も溶けたるミミズの心 | KIYOAKI FILM |
樹海より帰りましたとサングラス | 島田 章平 |
陽炎や避難解除も戻れない | 稲葉 千尋 |
愛知らず恋など未だに夏落葉 | 鈴木 幸江 |
麦秋や雲が西へと向かってる | 山内 聡 |
蛍嗅ぐ夜のふくらむ時間です | 田口 浩 |
そうめんの紅糸青糸三姉妹 | 重松 敬子 |
明け早し釣り師の孤影湖ゆらぐ | 田中 怜子 |
麦秋や命輝く兜太句碑 | 寺町志津子 |
落し文新緑の愛に包まれし | 漆原 義典 |
炎昼の奥へと一歩ずつ迷うよ | 月野ぽぽな |
芥子坊主こんな咄家居たような | 小宮 豊和 |
人間(じんかん)の驕るなかれと蟻の列 | 藤田 乙女 |
あゆやなに纏わる黒猫の悪よ | 疋田恵美子 |
最果ての地に敦盛と名乗る花 | 古澤 真翠 |
その先のことばは夏野そして空 | 小西 瞬夏 |
ゆったりと椅子婚礼の髪ほどく | 三枝みずほ |
君といて遠浅どこまでも素足 | 若森 京子 |
棄民集落いまも波音浜万年青 | 大西 健司 |
ゆらゆらと敗者集まり氷菓子 | 松本 勇二 |
サラダに薔薇わがまま女の水曜日 | 伊藤 幸 |
鉛筆を落とした指から春眠 | 河野 志保 |
沈黙というくらがりへバラ一花 | 谷 孝江 |
いっせいに蛙明るき通夜となり | 竹本 仰 |
下の名をよべる三日め紫陽花さく | 夏谷 胡桃 |
落し文ひらく樹海の溶岩(らば)の上 | 河田 清峰 |
麒麟には麒麟の夏の空がある | 柴田 清子 |
落書きの壁はゲルニカ不如帰 | 小山やす子 |
海程の終刊赤き夏の月 | 菅原 春み |
普段着の宮司多羅葉青葉して | 高橋 晴子 |
渡る世はここぞとばかり蛙の子 | 藤川 宏樹 |
鍵穴は古墳のかたち風薫る | 増田 天志 |
口の切れ味薔薇の棘にも似て美なり | 中野 佑海 |
暗やみに子等の叫びや螢狩 | 髙木 繁子 |
イヨッオッと鼓高らか薄暑来る | 野澤 隆夫 |
父の日の父を探して歩く町 | 三好つや子 |
帰去来(かえりなん)ひたすら麦の禾わけて | 矢野千代子 |
眩しさよきみもわれもポピー土手歩む | 桂 凛火 |
牡牛座に腰掛けずっと人見てる | 野口思づゑ |
万緑に埋もれた家に遅き灯よ | 中西 裕子 |
ちちの空蟬ははの空蟬水にのり | 男波 弘志 |
五月雨や抽斗のなかのアフリカよ | 銀 次 |
蟻が蟻運ぶ正面石切場 | 亀山祐美子 |
可惜夜(あたらよ)の初鮎こんがり富士の旅 | 野田 信章 |
崩壊の危機こそ力月涼し | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 三枝みずほ
特選句「棄民集落いまも波音浜万年青」浜万年青、字面を見ると恒久平和のように感じられる。それと対比して棄民集落、ここに暮らす人々にも平和に安全に暮らす権利があるはずなのに、それを奪われ、あたかも今の生活がずっと続くように、波音だけが聞こえる。作者の怒りや悲しみが季語との対比に集約され、感銘を受けた。問題句「木下闇白い緑に逢いたいが(小宮豊和)」白い緑とは何だろうかと勝手に推測。きっとこれは強い光に当たっている葉のこと。木下闇の中に作者はいて、脈々と生きている光る緑を求めているといったイメージが出来てしまった。勝手に解釈したかったので、問題句にさせて頂きました。
- 月野ぽぽな
特選句「崩壊の危機こそ力月涼し」ピンチはチャンスの前向き精神に共感。眼光には迷いなくそこに映る月は清々しく美しい。
- 中野 佑海
今日も香川句会は盛況で盛り上がりましたね。お世話になり有難うございます。 特選句「下の名を呼べる三日め紫陽花咲く」ジューンブライドでしょうか?やっとご主人を下の名でさん付けて呼べる様になると言う。この事を俳句にされた貴女は新婚さん?そして、降る雨によって色の変わって行く「紫陽花」と取り合わせるとは手練れ過ぎると思います。うーん手練れの新婚さん。特選句「可惜夜の初鮎こんがり富士の旅」富士山吟行楽しかったです。鮎も美味しかった。可惜夜と言う言葉がぴったりです。もう一度楽しめました。有難うございました。富士山にこんがり憧れている佑海です。
- 藤川 宏樹
特選句「奥行き無くそこに足踏みミシンかな(大西健司)」昔、母が嫁入り道具のミシンで家族のものを縫っていました。足を踏むリズムと洋服の縫い上がりが同調して垂れいく様に見とれていました。一人で足踏み板に座って揺らしてみたものです。大輪の革ベルト、クランクの動き。居心地よい小さな空間の体験が蘇りました。上五「奥行き無く」がよく効いています。
- 矢野千代子
特選句「螢嗅ぐ夜のふくらむ時間です」蛍の光のみを愛でていた幼少の記憶…。掲句は詩的発見であり独自の感受でしょう。その調和に魅かれる。他に「ツガヒノキツマドリソウすべて富士(漆原義典)」「牡牛座に腰掛けずっと人見てる」に注目。
- 増田 天志
特選句「落し文ひらく樹海の溶岩(らば)の上」貴方だけが生き残るとは、口惜しい。:富士樹海は、自殺の名所、心中も有るかも。落とし文には、死者からの怨念が書かれているかも。熔岩が、とても、リアルで、臨場感が、有る。
- 島田 章平
特選句「麦秋や命輝く兜太句碑」はじめて海程全国大会に参加させて頂きました。金子兜太先生の「海程終刊」という劇的な大会となりました。これまでの海程の歩み、そしてこれからの未来、万感迫るものがありました。吟行は金子兜太先生の句碑巡りでした。金子皆子先生のお墓もある総持寺には有名な「ぎらぎらの朝日子照らす自然かな」の句碑がありました。朝日に輝く命、まさに兜太先生の俳句の神髄です。豊かな秩父の野に広がる麦秋の中に句碑が輝いていました。
- 柴田 清子
135句から選ぶ十句の難しいこと。今回選んだ句は全て私の特選です。独自性の強く刺激あるものばかり。その中の「麦秋や雲が西へと向かってる」を特選。麦秋の頃のこの風景がたまらなく好きです。
- 山内 聡
特選句「万緑に埋もれた家に遅き灯よ」です。ただでさえ万緑に埋もれた家が夜になり万緑が黒ずんで家も所在がわからなくなります。あれこんな時間に家に灯がともった。灯がついた瞬間の黒ずんだ万緑を描いている、そしてそこに生活している人たちまで想像させてくれる。なにか一涼を得た心持ちになりました。
- 野澤 隆夫
特選句「卯の花や自転車押した通学路(河野志保)」中七「自転車押した」の「押した」にドラマを感じます。石坂洋次郎「若い人」のシーンです。そういえば、最近は石坂洋次郎も新潮文庫で再販してないですね。時に読みたくなりますが…。もう一つ。「サラダに薔薇わがまま女の水曜日」これもドラマです。「わがまま女」の「水曜日」が面白く、どうも「日曜日」ではダメのよう 。これもハヤカワ文庫にこんな「わがまま女」(でも普通の女かな?)が出て来るようです。問題句はなし。
- 若森 京子
特選句「芥子坊主こんな咄家居たような」芥子坊主が風にゆれていると咄家が喋っている様に見えた。この比喩の面白さに惹かれた。〝こんな咄家居たような〟の曖昧な措辞も一句を軽くはずませている。特選句「日光黄菅ちょい悪親爺にも朝日(小宮豊和)」ゆり科の黄金色の可愛らしい花の群れに朝日が差している風景がまず浮かび、そこにちょい悪親爺も仲間に入れて欲しい願望がユーモアたっぷりに書かれている。男の哀愁もちょっぴり。
- 小西 瞬夏
特選句「とおすみとんぼ妊りて透く暮し(若森京子)」とおすみとんぼがおなかに卵を抱えている様子、それが透けているという景を思わせ、いや身ごもっているのは作者か、とも思わせる。最後は「暮らし」という日常を置き、命を繋ぐたんたんとした営みが描かれている
- 男波 弘志
「とおすみとんぼ妊りて透く暮し」とおすみとんぼ、で切れ、人間が懐妊していると理解した。身籠り、透く、の連絡に女身の強さあり。「奥行き無くそこに足踏みミシンかな」単に狭い空間、だけではなく、過去への時間軸が寸断されている。「胸の辺の羽化するかたち烏蝶(三好つや子)」既に蛹から変態している蝶が、心音との交歓で更に変容している。「春の野に立てばあれこれみな情事」:「みな」の実体がうすい。「春の野に立てばあれもこれも情事」ぐらいでは。「その先のことばは夏野そして空」:「その先」が、全体の詩情の凄みに負けたかも。「そして」ではなく「そこに」、こそ。「まなかいの夏野はことばそこに空」「まなかいの夏野は一書そこに空」「ゆったりと椅子婚礼の髪ほどく」詩情よろし、確かな表現力。「君といて遠浅どこまでも素足」個から汎へ解放したい。「人といて」そのほうが物語性も生まれる。「ゆらゆらと敗者集まり氷菓子」この敗者は、人生の敗者にして一切を超克している。その証が、ゆらゆら、と氷菓子の華やぎだろう。「落し文ひらく樹海の溶岩の上」樹海で焦点がばらける、「真昼の溶岩の上」ぐらいでは。「表札なく白レグホンの産みつづく(矢野千代子)」異様な風景、家畜の性をつくづく考えさせられる。「明石出て風に抗う穴子鮨(重松敬子)」俳諧の風格、珍重、滑稽さが何かに抗うさま、重ねて珍重。「牡牛座に腰掛けずっと人見てる」神話の時代から人間は本当に進歩したいるだろうか。「蟻が蟻運ぶ正面石切場」石棺の中を歩く蟻、もう一切が済んでいる。宜しくお願い致します。今月も熱気があり楽しかったです。
- 漆原 義典
特選句「愛知らず恋など未だに夏落葉」は、愛、恋と夏落葉が妙に響きあい、感傷的な雰囲気が感じられる句で、特選とさせていただきました。私は1月以来5ヶ月ぶりに参加させていただきましたが、雰囲気が少し変わったように感じられ最初戸惑いました。句会のあと、小西瞬夏さんたちとお茶を飲みました。短い間でしたが楽しい時間を過ごせました。
- 大西 健司
特選句「君といて遠浅どこまでも素足」何となく二人の行く末を暗示するようで妙に気にかかる一句。ただ「君といて遠浅」短律の句として十分のような気もする。そんな勝手な読みをしながら、それなりに素足でどこまでも歩き続ける二人を認めている自分がいる。
- 夏谷 胡桃
特選句「そうめんの赤糸青糸三姉妹」。わたしの頭の中で高野文子の絵で三姉妹がそうめんを食べている図が浮かびました。短い言葉の中に色をイメージさせ懐かしさを喚起させてくれて、良い句だと思います。特選句「五月雨や抽斗のなかのアフリカよ」。これは個人的にわかる句でした。20代のときに半分仕事でアフリカに行きました。「アフリカの水を飲んだ者は帰ってくる」といわれながら、アフリカに帰れません。アフリカの記憶さえ遠ざかるなか、机の中のちいさな木彫りがアフリカへ行ったことの思い出なのです。全体的によその方の句を読んで、いろいろなことが思い出されるのが楽しかったです。
- 竹本 仰
特選句「その先のことばは夏野そして空」言葉というものを考えさせる句だなと思います。意味の面ではなく、その音楽性というか、霊性というか。たとえば、十三、四歳の頃の幼い恋に成り立っている言語観、ああいう世界の持つ、意味を離れた詩性というのか。あるいは、言語機能も運動機能も発達の遅れた子と十分交感しえているその一人の親友との間に成り立っている言語圏というか。言霊といったらいいか、意味の息抜きができて、うまく空無化されているあの世界を彷彿とさせます。この「空」は、ソラであり、クウでもあり、いいなと思います。特選句「ゆったりと椅子婚礼の髪ほどく」:「婚礼」という語彙が新鮮に感じられます。儀式というものの表と裏、準備があって、中味があって、その終わりが来て、そんな時間の流れと構造が立体化されているようです。それが、すべてにどの語もある重量を持ち、肉体化されていて、前の四七の句と対照的に、がっしり閉じた形の時間性、造形性を仕上げているように思いました。以上です。この間、香川句会ではないんですが、別の同人誌に鑑賞文を送ったところ、ある熊本の方からその選句について感謝のはがきをいただきました。あらためて、こういうコメントが、たまには人の役に立っているんだと、襟を正す思いになりました。徒然草で兼好法師は、祭りは終わった後こそ見るべきものがあると言っていたように思いますが、「句会の窓」など、本当に貴重なものだと思います。選句したものに限らず、この香川句会の流れなどもについてのふとした感想なども聞きたい気持ちもあります。清掃ではありませんが、はつらつとこの句会も皆さんで磨いていけたらと思うものであります。差し出がまし意見ですね、申し訳ありません。いつも、ありがとうございます。
- 銀 次
今月の誤読●「ビル街の朝焼け歓喜して奔る(河田清峰)」。あれは徹夜麻雀が終わった早朝やった。通りかかったんは「ビル街の」なんとも愛想のない無機質な道でな。わてら徹夜明けや。「朝焼け」がまぶしいてな。ほたら、あんた、若いオトコはんがビルから飛び出してきて、わてらのほうに走ってきますねん。その表情いうたら、どういうたらええんでっしゃろ、満面に笑みを浮かべて、まあいうたら「歓喜して」っちゅうやっちゃ。コラ、ぶつかるがな。わてそういいましたんや。ほたら、その若いオトコが、わてらを振り返って、企画書できたー! ちゅうて七、八枚の紙を空にかざすんですわ。知らんがな、そんなもん。ま、そういうて走って、というより全速力っちゅうか、漢字で書いたら「奔る」ですわな。飛ぶように奔っていったんですわ。なんや複雑な気分でしたわ。わてらヤクザもんは徹マンで疲れ切っとる。一方の若いオトコは徹夜で企画書書きあげて喜んどる。どっちが充実した夜を過ごしたんやろな。わてらは自販機から缶ビールを取り出してグイと飲んだ。だれかがボソッというた。あいつアホちゃうか。なかのひとりがこう混ぜっ返した。わてらもアホやけどな。わてがつづけて、生きとるもんはみんなアホじゃ。いうたらなんややたら可笑しゅうなってみんなで笑うたんですわ。
- 伊藤 幸
特選句「海程の終刊赤き夏の月」10日程前であったか大きく真っ赤な月が出た。 余りの感動に私もどうにかして句にしたいと思ったがインパクトが強すぎて出来なかった。故に海程の終刊を上語に持ってきてあるのには驚いた。納得!これなら赤い月にも匹敵する。よくぞ!という感じ。特選句「樹海より帰りましたとサングラス」オゾンいっぱい吸い込んでここは魔法の国か。夢と現実の間で酔いしれていたところ、いきなり俗世に連れ戻された。ああ、あれは何だったんだろう。サングラスを外し日常の眼になる。素晴らしかったでしょうね。行きたかったな~~。サングラスが夢と日常の境界線を表し効果をもたらしている。
- 稲葉 千尋
特選句「落書きの壁はゲルニカ不如帰」中七の「壁はゲルニカ」が強烈に私に迫りくる。ピカソの代表作を想う。特選句「鍵穴は古墳のかたち風薫る」まったく旨い。でも、どこかに有りそうな気もする。「帰去来ひたすら麦の禾わけて」は、おそらく大ベテランの句であろう旨すぎる。
- 重松 敬子
特選句「シュールな象の絵船は出て行きぬ(大西健司)」奇抜な象の絵と、背景に港の風景。特別なことを言っているのではないのだが、異国情緒豊かなこの感覚は、素晴らしい。: 今月も良い句に出会うことができました幸せに思います。宜しくお願いいたします。
- 野田 信章
「箱根八里青葉のアレグロアンダンテ(寺町志津子)」の句は私にとって、動きのある洒脱な浮世絵の現代版の趣がある。この線上において次句も味読している「シュールな象の絵船は出て行きぬ」の句になるとその舞台はさらに拡がりを見せて国外へと私を誘う句としての展開がある。揚げられた「シュールな象の絵」と共に。内から外へ。私も感性の窓を開きたい。
- 小山やす子
特選句「牡牛座に腰掛けずっと人見てる」少し不気味でそれでいて何処かユーモアを感じます。有り難うございました♪
- 鈴木 幸江
特選句評:「『構図はええよ』野太い声がばら園に(矢野千代子)」“ええよ”は、どこの方言だろう。厳しい助言も、優しくなる。ばら園で思わず構図を考えたくなる弟子の姿に、考え過ぎるな、まず、身体を動かしてみろと、伝えたいのだろう。考え過ぎる傾向のある私にも、口語体がよく働き、思いがよく伝わってきてありがたかった。特選句評:「父の日の父を探して歩く町」あっさりと書き、二通りの読みをごく自然に無理なくさせてくれるところがいい。ひとつは、認知症の父親を探しているという切ない姿。もう、ひとつは、現代社会の中で、変わりつつある新しい父親像を模索しているという困惑の想い。現代的テーマを扱あっておりながら俳味があり上手い。
- 中西 裕子
特選句「その先のことばは夏野そして空」は、明るくて広がりのある感じが好きです。問題句は「可惜夜の初鮎こんがり富士の旅」で上五「あたらよ」、のイメージと鮎がこんがりってなんかミスマッチで面白いと思いました。
- 三好つや子
特選句「ゆらゆらと敗者集まり氷菓子」格差社会の中で「勝ち組」と「負け組」のことばをよく耳にしますが、「勝ち組」とは、もともと太平洋戦争終結後、ハワイやブラジルなどの日系人社会で「日本が勝った」と狂信的に信じた人々を指すことばだったとか。そんな時代に思いを馳せ、鑑賞しました。特選句「もう空を飛ばぬ箒と夏帽子(小西瞬夏)」未来を信じ、いつも何かにときめいていた頃が懐かしいです。入選句「一木にやたらつく蝉出生地(男波弘志)」蝉の鳴き声にも、樹によって方言があるのでは・・・と想像。とても惹かれました。
- 菅原 春み
特選句「蛍嗅ぐ夜のふくらむ時間です」ふくらむ時間がおもしろい。季語も嗅ぐまでいうところも。特選句「蟻が蟻運ぶ正面石切り場」よく見ています。蟻が蟻に感銘。
- 松本 勇二
特選句「夏の空いつも腹ぺこ三兄弟(増田天志)」小生も男3人兄弟で育ちました。その少年時代そのもので懐かしく拝読。問題句「ちちの空蟬ははの空蟬水にのり」瑞々しい感覚で書かれていて共感しました。しかしながら父と母をひらがなにする意図が今一つ見えてきませんでした。
- 寺町志津子
特選句「海程の終刊赤き夏の月」選句表を開くと、一目、パッと飛び込んできて、最後まで目の離せない句であった。過日の熊谷大会での兜太師の決意をお聞きした時の衝撃の大きさは筆舌に尽くし難い。俳句誌上、類稀な長きに亘っての歴史ある『海程』。句歴の浅い私にとっても、『海程』所属は大きな誇りである。これは、勿論、『海程』所属の方々どなたも同じ思いでおられるのは自明のことに違いない。それが無くなる。一瞬思考が停止した。それが納得できたのは、兜太先生の「『海程』を「終刊」する」お話の最後にされた「美意識」と言う言葉であった。『「金子兜太が主宰した俳誌が海程」と言うことに、強い拘りがあります』とお聞きした時、何かすっと胸に落ちてくるものがあった。大変烏滸がましいことではあるが、兜太先生に徹底して美意識を全うして頂きたい思いに駆られた。複雑にうごめく胸の内に、心に、掲句の「海程の終刊」と「赤き夏の月」の取り合わせが、理屈無く、すっと入ってきて頂いた。
- 田口 浩
男波さんの撒き餌に上げられた。「海程」の集まりが、サンポートであることを知った。老いの好奇心が騒いだ。そして、野﨑憲子さんにたどりついた。特選「雨音や一瞬の死が通りすぎ」上五の切れが、〝通り過ぎ〟へ巧みに転回する妙に感じいる。天候自然の運行を前に、人の生死など、何ほどの事があろう。問題句「麒麟には麒麟の夏の空がある」キリンを漢字にする必要が、あるのだろうか?リフレーンの効果は?キリンと夏空だけで詠んでほしい。三メートルを越すキリンの孤高と夏空の対比が面白くての、非礼。
- 古澤 真翠
特選句「翠蔭の底の深みにひとりかな」森林浴を愉しむ作者の 静謐な感覚が伝わってくるようです。「ひとりかな」に「凛」とした姿勢が感じられて清々しい風が運ばれてきました。
- 疋田恵美子
特選2句。「今が一番楽しいんですほうたる(野﨑憲子)」今が一番「私達の年代になりますと責任ある諸用を終、自分の為のみの時間嬉しさ」を思います。「君といて遠浅どこまでも素足」君といて「熟年のご夫婦、平凡でいい、共に健康で幸をかみしめている」羨ましいような。
- 河野 志保
特選句「万緑に埋もれた家に遅き灯よ」緑濃き季節のたそがれ時の空気が伝わった。語られているのは人の暮らしと自然の近さ。どこか懐かしい、ある日の平穏といった感じも。しっとりとした魅力の句だと思う。
- 小宮 豊和
特選句「鉛筆を落とした指から春眠」居眠りして鉛筆をとり落とした。これを逆に言った。表現も発想も粋でお洒落。問題句「落し文新緑の愛に包まれし」:「の愛」がやや唐突に感じられる。削除しても句になっている。ここに良いフレーズを。問題句「五月雨や抽斗のなかのアフリカよ」良い句だと思うが少々語呂が気になる。語順を変えただけでも語呂は多少良くなる。(抽斗のなかのアフリカ五月雨るる)もっと良い表現は必ずあると思う。問題句「独身の物理学者や草かげらふ(菅原春み)」着想すばらしい。「草かげらふ」が気になる。物理学者が弱々しくかわいそう。夏の月などに変えても印象が変る。
- 桂 凛火
特選句「棄民集落いまも波音浜万年青」棄民集落という強いことばに負けない強さが浜万年青に感じられました、やるせなさがひたと伝わる凝縮力のある句だと思います。問題句「可惜夜の初鮎こんがり富士の旅」可惜夜は素敵なことばですね。俳句に使われることに斬新な感じがしました。ただ、明けるのが惜しいようなというロマンと初鮎こんがりという食べものとの取り合わせと「旅」で締めく くるところの結びの緩さに少し違和感が残りました。
- 田中 怜子
特選句「ほうたるの夜や母がゐて父がゐて(小西瞬夏)」懐かしい日本の田舎の原風景。特選句「父の日の父を捜して歩く町」この人はどんな生い立ちだったのか、どんな人なのか、思いを馳せました。
- 藤田 乙女
特選句「その先のことばは夏野そして空」眼前の風景も自分の心の空間もどんどん広がっていくような爽やかな気持ちになりました。特選句「君といて遠浅どこまでも素足」 青春の明るさと目映さ、そして過ぎし日への懐かしさを感じ、清々しい気分になりました。
- 高橋 晴子
特選句「百年の梅の実なりて退職日(中西裕子)」百年の古木の梅もびっしり実をつけて私の退職を共に祝ってくれているようだ。長年の勤めを無事に終えた感慨の一句。問題句「陽炎や避難解除も戻れない」思いはよくわかる。自己責任だなどど無責任なことを言って止めざるを得なくなった大臣もいたが〝も〟だけでは表現不足。字余りになっても、そこの処をもう少し何とかしたいもの。
- 河田 清峰
特選句「落し文青しよ八十路のわが肉も(野田信章)」くぬぎの葉を筒に巻きその中に卵を産む落し文へ青しと呼びかけ、われは八十にして文を書く若さがあると言う!その若さに感服しました!そうありたいものです!
- 亀山祐美子
特選句「普段着の宮司多羅葉青葉して」辞書に「多羅葉。古代インドで文書や手紙を書くのに用いた多羅樹の葉。干して切り整え、竹筆や鉄筆で文字を彫りつけたり、写経に用いた」とある。多羅葉と宮司と云う古くからの文化を今に伝える存在の特別感とその神職も普段着(背広やシャツ)を着るのだという今時の宮司の日常の変化に軽い驚きを覚えた。平明な内容ながら伝えるものは深い。特選句「青葉木菟毎日来ます豆腐屋も(谷孝江)」森の哲学者たる梟の仲間の「青葉木菟」は夜鳴く。「豆腐屋」の朝は早い。出来立ての商品を持って豆腐屋がやって来る時間に青葉木菟も鳴く。毎日判を押したように一日が始まる。何と羨ましい環境なのだろう。旨い豆腐が食べたい。問題句。「春の野に立てばあれこれみな情事」既に春の野にいるから「立てば」は不要。「あれこれみな情事」は春だから当たり前でしょう。「春の野」の季語の説明をしてはいけない。「今が一番楽しいんですほうたる」俳句は今この瞬間を詠むものだから「今」は不要。「一番楽しいんです」は作者の感想、主観。「楽しいこと、愉しさ」を物に託し語らせましょう。「薫風やトイレ掃除は素手でする(稲葉千尋)」「トイレ掃除は素手でする」は「掃除道・運気の上げ方」等のハウツー物の一文にありそう。当たり前過ぎて、あなたトイレ掃除は生まれて初めてか?と逆に羨ましい。俳句と散文の違いは十七文字に時空の拡がりがあるかないかだと思う。自分の言葉で語ることだと思う。久々の句会、盛況で何よりです。またお邪魔致します。
- 野﨑 憲子
特選句&問題句「唇溶けて脳も溶けたるミミズの心」私にとって難解な句である。だから余計に惹かれる。〝心〟に集約してゆくミミズの思い。そこに詩が生れる。大いなるいのちの中に生かされている。ミミズも、螢も、私も。作者の、いのちの詩にこれからも耳を澄ませていきたい。特選句「海程の終刊赤き夏の月」五月の「海程」全国大会の総会に於いて『2018年9月をもって、「海程」を「終刊」することとします。』の文章を読み上げる、金子兜太主宰の声は明るかった。この一瞬も「過程」であると、私は、そう感じた。主宰は、まだまだ進化されるのだと思った。終刊後も、「海程香川句会」は、存続できることになった。これからが本番であると強く感じる。俳句に、こうでなければならないという創り方は無い。師は常に「自由に、お創りを!」と話される。揚句の「赤き月」は、その時の、海程人の心情を見事に描いている。しかし、私にとって師は今も、真っ赤に燃える太陽そのものである。
袋回し句会
蛇
- 泳ぎ来る青大将をポチと待つ
- 野澤 隆夫
- ゆらゆらと立っている人蛇の衣
- 男波 弘志
- 顔を寄せた土偶が笑う蛇が笑う
- 田口 浩
- まざまざと人間の眼大蛇の眼
- 三枝みずほ
朝焼
- 富士山を摘まんで撫でて朝焼す
- 野﨑 憲子
- 朝焼の蛇の視線のあをさかな
- 亀山祐美子
- 夏朝焼のやうな野際陽子
- 柴田 清子
- 子が母の手を引くやうに朝焼ける
- 三枝みずほ
梔子
- 本当のことまだ言えず梔子の実
- 三枝みずほ
- 梔子の花に疲れる男女かな
- 田口 浩
- 梔子のどこまでも過去いつまでも
- 鈴木 幸江
花林糖
- 花林糖ふつふつ思いを練り上げし
- 中野 佑海
- 毎日毎日花林糖みたいなことを言う
- 鈴木 幸江
- くちなしや前歯なき子の花林糖
- 藤川 宏樹
- 花林糖山盛り失恋の麦酒
- 亀山祐美子
- 花林糖ガリッ六月の旋風
- 野﨑 憲子
- 梅雨晴れや麻布十番花林糖
- 野澤 隆夫
夏野
- 昇る日の夏野の呼吸(いき)の青に酔う
- 小宮 豊和
- 本番に力出す奴夏野かな
- 藤川 宏樹
- 夏野の扉カチャッとウクライナの風
- 野﨑 憲子
- 矢印を夏野に向けよ阿弥陀堂
- 田口 浩
- 青春は遠し夏野をさまよえば
- 小宮 豊和
波
- ひとひらの花を攫いし荒き波
- 銀 次
- 石ころはどこにでもあり卯波かな
- 山内 聡
- 前衛書弾けし墨の香夏の波
- 漆原 義典
漣
- スープにも漣立ちぬ薄暑かな
- 男波 弘志
- 漣や夜の底から来る期待
- 中野 佑海
- 六月の漣ジュゴンじゃないよ人魚だよ
- 野﨑 憲子
- 漣の光となりし残り鴨
- 山内 聡
- 夜具の舟畳さざなみ夜は遠永(とは)
- 銀 次
- 漣と名簿の上に生きる人
- 藤川 宏樹
青鷺
- 青鷺や美しいのか悲しいのか
- 藤川 宏樹
- 青鷺や田植し農夫の背中舞ふ
- 漆原 義典
- 青鷺や静から動へ誇張せし
- 山内 聡
- ここぞと思う一歩譲らぬ青き鷺
- 中野 佑海
- 青鷺の夢見し結婚白鷺と
- 鈴木 幸江
句会メモ
安西篤さんのお葉書より/72回句会報より私なりの三段階評価をしてみましたのでご参考までに。☆レベル「生も死も花に遊びし生傷(きず)のまま(若森京子)「老師来て貂の冬毛のごとき冴え(松本勇二)「目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部(あべ)完(か)市(ん)(矢野千代子)」◎レベル「戦争のはなしソーダ水は水に(月野ぽぽな)」「座棺ありそこにほとほと麦こぼる(大西健司)」「白馬酔木カタカナ文字の反戦詩(稲葉千尋)」「あんぱんを春の形に焼く神戸(重松敬子)」「ぶらんこや膨らんでゆく影法師(野﨑憲子)」○レベル「子を二人連れ芹摘みに行ったまま(伊藤幸)」「甲冑の眼窩初蝶過ぎりけり(野田信章)」「ただそばに居るが大切ヒヤシンス(小宮豊和)「揚げ雲雀ポケットに亡母(はは)の診察券(寺町志津子)「はなちるや甘き腐敗の臭ひせり(銀次)」銀次さんのエッセイなかなか達者。
今月の高松での「海程」香川句会は、15名の参加。初参加の、田口 浩さんも、男波弘志さんと同じ、かつての岡井省二門の俊英。作品も句評も、とても興味深かったです。小西瞬夏さんも着物姿で句会にご参加、多様性こそ俳諧の華を実感しました。
五月の「海程」全国大会では、金子兜太主宰から、来年の「海程」八・九月号で海程誌を終刊するとの発表がありました。白寿を迎えられる主宰は、以後、俳句専心なさるとのことです。師の俳句への底知れぬ恋情を目の当たりにしたようで、深く感動いたしました。幸い「海程香川句会」での活動は終刊以後もお認めいただけたので、香川の地から、世界へ向けて世界最短定型詩である俳句のいのち漲る世界を発信していきたいと念じています。混沌の渦巻く自由なる俳句世界。それが、「海程」の真髄であると信じています。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。次回のご参加を楽しみに致しております。
句会報の<句会の窓>のコメントの中、三枝みずほさんの文章を、うっかり記載するのを忘れていました。次回の「通信欄」に銘記させていただきます。みずほさん、ごめんなさい。冒頭の写真は、八栗寺の菩提樹の花。島田章平さんの撮影です。
Posted at 2017年6月28日 午後 11:05 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第72回「海程」香川句会(2017.04.15)
事前投句参加者の一句
海征きて陸(おか)はサクラと石の人 | 藤川 宏樹 |
春の水ちちははの透くところまで | 小西 瞬夏 |
山里にしゃぼん玉する老女かな | 髙木 繁子 |
大橋の向こうに沈む日永かな | 山内 聡 |
生も死も花に遊びし生傷(きず)のまま | 若森 京子 |
夕桜かなしみしまう鍵なくす | 桂 凛火 |
白馬酔木カタカナ文字の反戦詩 | 稲葉 千尋 |
山焼くや強風よりも大き声 | 菅原 春み |
水仙の花の孤高と言へばさう | 谷 孝江 |
ただそばに居るが大切ヒヤシンス | 小宮 豊和 |
大仏の心臓きゅっと花もくれん | 増田 天志 |
清明や海の朗らよ山に鳥 | 高橋 晴子 |
目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部完市(あべかん) | 矢野千代子 |
花吹雪どの街角も美しき | 中西 裕子 |
戦争のはなしソーダ水は水に | 月野ぽぽな |
唇の渇ききったる受難節 | KIYOAKI FILM |
迷路より海へ抜けだす放哉忌 | 島田 章平 |
日傘いまも姉はまわせり字弟国(おうぐに) | 大西 健司 |
幕あひの草餅旨し金丸座 | 野澤 隆夫 |
老師来て貂の冬毛のごとき冴え | 松本 勇二 |
花筏森の息吹きも載せており | 漆原 義典 |
子を二人連れ芹摘みに行ったまま | 伊藤 幸 |
菫咲く淡谷のり子の唇よ | 夏谷 胡桃 |
甲冑の眼窩初蝶過ぎりけり | 野田 信章 |
白木蓮こかれるゆめの敢(あ)へなかり | 疋田恵美子 |
揚げ雲雀ポケットに亡母(はは)の診察券 | 寺町志津子 |
春雨や花びら塗れの大鳥居 | 古澤 真翠 |
タンポポの仲間に入れてもらう昼 | 柴田 清子 |
蛇泳ぐ真最中の水となり | 男波 弘志 |
春満月今日の私を食べてって | 中野 佑海 |
スキップするお尻が飛ぶよ花薺 | 三枝みずほ |
引越して遍路に道を尋ねらる | 鈴木 幸江 |
昼月に見入る蟋蟀理知的だ | 野口思づゑ |
墓に土筆婆ちゃんわたし唄っていい? | 竹本 仰 |
逃げ水のあれはナースの帽子かな | 三好つや子 |
菜の花やパレットに置く海の青 | 藤田 乙女 |
あんぱんを春の形に焼く神戸 | 重松 敬子 |
白梅に耳透く目覚め白湯うまし | 小山やす子 |
春爛漫かたや空爆町破壊 | 田中 怜子 |
はなちるや甘き腐敗の臭ひせり | 銀 次 |
旅馴れた人波の中花万朶 | 亀山祐美子 |
鵜の鳶の水のゆるゆる睦む春 | 河田 清峰 |
ぶらんこや膨らんでゆく影法師 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 中野 佑海
『桜吹雪湧きし句会の熱き友』:特選句「生も死も花に遊びし生傷のまま」幼い頃って、なぜか手に足にお尻に生傷が絶えなかったですよね!?それだけ真っ向から真剣に色々なことに向かって行って、敢えなく粉砕してた気がします。そのくらい、死ぬまでこの人生勝負し、やりたいことを諦めないでってメッセージ。有り難くお受け致しました。 特選句「妹にもどるスイッチ桜餅(三好つや子)」桜餅の甘くて可愛くて初々しいあの桜の葉の匂い。妹という語感にぴったりフィットです。世の女性諸君、桜餅を食べて、妹背の契りを致しましょう!うーむ、この口が何時も言わずもがなを述べてしまうのです。
- 島田 章平
特選句「春の水ちちははの透くところまで」ちちははの透くところまで・・というゆったりした間合いの中に作者の父母に対する深い愛情がこんこんと湧いてくる。気になる句。問題句「春爛漫かたや空爆町破壊」シリア、アフガニスタンの悲惨な空爆のニュースが胸を痛める。北朝鮮の厳しい地勢状況を思うと日本も他人事ではない。掲句の「春爛漫かたや空爆」と言う表現に空々しさを感じる。詩は作者の心を表す。常に対象の心に寄り添いたい。
- 山内 聡
特選句「菜の花やパレットに置く海の青」この句が今回抜群に良かったです。「菜の花や」、ときて、「パレットに」、絵を描いているんだな、「置く」、黄色の絵の具ですか?、「海の」、エッ、「青」!何か手品を見せられて最後に種明かしを瞬時にさせられたような驚き。そして何と言っても美しい詩であり脳に鮮烈に浮かび上がらせる情景、客観写生。これは僕の中で名句にさせていただきます。いったい誰ですか?それと、問題句と言うわけではないのですが、とても気になる一句があります。「春爛漫かたや空爆町破壊」この句をいただいたのですが、この句に足りないものは詩情。こういう句はたぶん実感ではないしテレビなどで得た情報から作られた詩であるがために俳句に必要な実感が足りない。そしたら、反戦句はどうやって詠めばよいのだろうか?僕も反戦の句を詠んだことはありますが、自分で詠んでいて自分の句でないような気がするのです。そしてなぜか反戦の句はなかなか俳句になりにくい気がします。喉の切っ先に突きつけるように詠みあげるのか、オブラートで包んだように詠みあげるのか。もっと想像を膨らませて実感に近づけるのか、いや近づけない…。
- 小西 瞬夏
特選句「戦争のはなしソーダー水は水に」戦争のはなしを聞きながら、ソーダ水の泡がゆっくり抜けて水になっているのかもしれない。そんなリアリティを下敷きに「戦争とはいったいなんなのか」「ソーダの泡のように、なにも解決せずに消えてゆくようなものなのではないか」というような「無意味さ」が表現されている。
- 男波 弘志
「海往きて陸はサクラと石の人」サクラ、もフクシマ、も石のように硬直している。現代の風景。「人体は寺院よ初夏の風に立つ(月野ぽぽな)」:「立つ」、を生かし切るならば、「寺院」を「伽藍」にするべきかと。「父の春街にキリスト教の唄(KIYOAKI FILM)」長崎の風景であろうか、隠れキリシタンのことが浮かんだ。「黒椿四肢の水光の女流たち(野田信章)」特選、四肢のリアリズム、四つん這いの狂気を感じる。赤黒い色。「指先を濡らして透明リラの街(三枝みずほ)」:「指先の濡れて透明」只事に徹したほうが句意に合っているかと。「日傘いまも姉はまわせり字弟国」下5の地名が異界に拡がっている。「鳥帰りますコンパスの軸脚へ(増田天志)」製図の正確さが帰巣本能に暗示されている。「へ」を取って手元から虚空へ開放したい。「揚げ雲雀ポケットに亡母の診察券」終い切れないでいた、母の遺品。それをはおって雲雀野へ。「髪洗う身の内の海昏れるたび(月野ぽぽな)」実景の「海」、身の内の「海」、時間軸が2つながら存在している。詩の世界は時空をも変容させる。「白梅に耳透く目覚め白湯うまし」詩情は秀逸です。フォーカスを「耳透く」に絞りたい。「白湯そこに」でどうですか。「はなちるや甘き腐敗の匂ひせり」好きな句です。「匂い」を言わない方が嗅覚が働く。「甘き腐敗の向うより」では。
- 野澤 隆夫
昨日はお世話になりました。十四日(金)には夏井いつき句会ライブに参加。そして昨日は「海程」香川の句会。いつきさんの句会は千人以上の参加で各自一句の投稿。テーマは〝「なん?」〟。作句時間五分。袋回しで慣れてるようで、でも作れないものです。小生の駄句…〝我が体重53キロ花の冷〟。最終は参加者の拍手の音で決めるというやり方。一位は〝草の笛吹く子吹けぬ子見ている子〟でした。
特選句「目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部完市(あべかん)」阿部完市を知らず、男波さんに句と人となりを紹介され、これこれと特選句に。翡翠に目をあわせるドキドキ感。翡翠に〝あべかん〟さんを見た驚きがいいです。特選句「迷路より海へ抜けだす放哉忌」昭和三十九年、放哉の南郷庵近くに下宿してました。俳句も放哉も知らない二十代、迷路のようなどこから出てくるかわからない路地をよく散策しました。問題句「子を二人連れ芹摘みに行ったまま」:「そして誰もいなくなった」。クリスティの世界です。- 若森 京子
特選句「春の水ちちははの透くところまで」あくまで懐かしい甘ずっぱい感傷的な春の水の流れを思う。永遠に探し求める流れである。特選句「日傘いまも姉はまわせり字弟(おう)国(ぐに)」字弟国の意味がはっきり分からないがきっと弟の国。自分の気持を入れると弟の黄泉の国の様に思え、弟を愛し続ける姉の気持が美しく哀しく書かれていて好きだった。
- 増田 天志
特選句「白馬酔木カタカナ文字の反戦詩」サリン、化学兵器の使用に対する反応の素早さが良い。
- 藤川 宏樹
特選句「菫咲く淡谷のり子の唇よ」放映中の昼ドラで見かけた浅丘ルリ子。白髪頭の私が子供の頃見ていた淡谷のり子に印象を重ね、思い巡らしていたときこの句に会った。印象的な分厚い紅唇。「淡谷のり子の唇」を「浅丘ルリ子の唇」に見立てて鑑賞した。若き日の可憐な姿も声も「菫咲く」様・・・。しかし「菫咲く浅丘ルリ子の唇よ」では字余り。「菫咲く淡谷のり子の唇よ」が、ドンピシャ嵌まります。さて作者の作句意図は、・・・如何?→作者の夏谷胡桃さんに自句自解をお願いしました。→句会で、作者の意図は?と話題になったそうです。あまり意図はないです。今、昭和史を勉強しています。二・二六事件や天皇機関説。歴史でキーワードとして習っていただけで、自分が何も知らないとわかって本を読み直しています。そんな本を読んでいた時に、ラジオから淡谷のり子の歌が流れてきました。懐かしい。私は歌というより、小さい頃にテレビで観た毒舌の淡谷のり子を思い出しました。淡谷のり子を調べてみると、昭和史をそのまま背負ったような人でした。彼女が生きていて今の時代を見たら、あの唇でなんといったでしょうか。「菫咲く」は「薔薇が咲く」とはじめ考えました。派手な彼女にあっているような。でも、調べているうちに、大胆な表向きの中に繊細な心があると考えて「菫咲く」にしました。
- 夏谷 胡桃
特選句「夕桜かなしみしまう鍵なくす」。はじめ読んだとき、鍵という言葉は使い古されてきたように感じ、通り過ぎました。しかし、「かなしみしまう鍵」をなくしている人が多いのでは、と思い至り、特選としました。かなしみしまう鍵は、私には俳句でしょうか。俳句にかなしみ閉じ込めて、どうにか生きていきます。特選句「揚げ雲雀ポケットに亡母の診察券」。お母様を亡くしたばかりなのでしょうか。最近まで通院に付き添っていたのでしょう。何気ないお母様が生きていた証です。問題句「あんパンを春の形に焼く神戸」。春の形とは? わからない。見てみたい。神戸ではよくあるもの?
- 野田 信章
自分が、不調の時は他者の句も読みたくないし、見ても不満足なことが多々ある。これはやはり自己中心的で、次第に視野を狭ばめてゆくことだと反省しきりである。よき作り手になるには先ずよき読み手になることかなと思い定めている、愚者の言でもある。そこで勇気を出して今回の一二九句を拝読。不作、苦吟を嘆くよりも、これを見よと明示してくれる句が常に存在するものだと思いつゝ選句をしたのがこれらの十句です。鼓舞してくれる十句です。→野田信章選;十句 「白馬酔木カタカナ文字の反戦詩」「大仏の心臓きゅっと花もくれん」「山笑うあの人この頃口籠る(鈴木幸江)」「老子来て貂の冬毛のごとき冴え」「昼月に見入る蟋蟀理知的だ」「オオイヌノフグリしあわせ踏んで戦って(夏谷胡桃)」「墓に土筆婆ちゃんわたし唄っていい?」「かたかごや寒くないです若いから(小宮豊和)」「白たんぽぽ邪鬼のなみだの涸れきって(矢野千代子)」「ぶらんこや膨らんでゆく影法師」
- 月野ぽぽな
特選句「老師来て貂の冬毛のごとき冴え」:「貂の冬毛のごとき冴え」というこだわりの描写が眼目。その老師は野性味がありしかもしなやかで細やかな感覚を持った方なのでしょう。
- 稲葉 千尋
特選句「目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部完市(あべかん)」阿部完市が今も目の前に居る感じ、翡翠が生きている。特選句「若草や同じ匂いの赤子かな(中西裕子)」まさに赤子の匂い。実感を一句にした。
- 伊藤 幸
特選句「老師来て貂の冬毛のごとき冴え」兜太師のことと察せられる。兜太大師を、あの見事な毛並みの貂と喩え、最後に冴えと的確に表現した賛辞、匠の技またも見せて頂きました。特選句「白木蓮こかれるゆめの敢へなかり」和歌でも読んでいるような気分。切なく美しい。俳句にしては珍しいがこれも又ありかな?とも思う。
- 竹本 仰
特選句「日傘いまも姉はまわせり字弟国」亡き姉を回想する句か、「字弟国」がその姉の仕草と相まって、よくくるくると回っている。特選句「甲冑の眼窩初蝶過ぎりけり」対比が効いています。「初蝶」がその眼窩にありし夢幻を想像させ、あらゆるコントラストがよく響く句かと。特選句「目を閉じて五万哩の桜狩り(銀次)」、これも想像を掻き立てる作りです。「五万哩」、かつて呼んだヴェルヌの「海底二万哩」を思い、もっと深いかとため息が出ます。
- 三枝みずほ
特選句「戦争のはなしソーダ水は水に」8月になると祖父から必ず聞く戦争体験の話。毎年聞くので、長くてつまらなく感じた時もあったが、内容は鮮明に覚えている。時間の経過をソーダ水と水で表現した点に共感した。炭酸が戦時中の喧騒であれば、水は敗戦とも。こんな水はつらい。特選句「あんぱんを春の形に焼く神戸」一読して、爽やかで大好きな句!あんぱんという素朴なものを、春の形に焼くとはどんな形だろうかと、想像が膨らむ。
- 松本 勇二
特選句「大仏の心臓きゅっと花もくれん」大仏が生あるごとく書かれていて秀逸です。きゅっとに感覚の冴えがあります。特選句「目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部完市(あべかん)」阿部完市先生のとても静かで鋭い眼光を思い出しました。鳥は時折、彼岸からの使者になることを作者はよくご存じのようです。問題句「スランプに鈍い日ざしのよなぐもり(小宮豊和)」スランプの時の日射しが鈍いと感じる感性は素晴らしいと思います。しかしながら、座五のよなぐもりが鈍い日差しに対する回答になるおそれがあるので、ここはもっと遠い季語がよいのでは。たとえば四月来るや春の朝ではどうでしょうか。
「海程」香川句会へ参加させていただきます。隣の県である香川で野﨑憲子さんが頑張っているのは承知いたしておりましたが、今日まで何も出来ずに日々を過ごして参りました。香川句会の皆さんの厳しい選を受け、勉強して参りたいと思いますのでどうかよろしくお願い申し上げます。- 疋田恵美子
特選句「水仙の花の孤高と言へばさう」伊吹島での爛漫の水仙と久保カズ子さんのお姿を思わせるお句。特選句「ただそばに居るが大切ヒヤシンス」夫婦も相手が欠げると事あうことに、居ない寂しさを痛切に感じるものです。
- 古澤 真翠
特選句「 かたかごや寒くないです若いから」:「かたかご」とは「カタクリの花」のこと。私の大好きな花ですが、絶滅危惧種なのです。桜咲く頃に ひっそりと咲く群生地を幾度も訪ねた日々を想い出しました。問題句「 花ミモザ鮮烈デビュー蟾蜍」:「蟾蜍」を「蟇」としなかった作者の意図は?と 検索に検索を重ねました。「夏の季語」「羿」「仙女」次から次へと無知を実感させられながら 疑問は膨らむばかりです。「鮮烈デビュー」に隠された意図が潜んでいるのでしょうか?私の中の「大問題」となり、夜も眠れませぬ。→「花ミモザ」の作者稲葉千尋さんより「そんなに難しく考えなくてもと思っています。花ミモザを見たときの鮮烈さ、そして久しぶりに会えた蟇との取り合わせと思っていただければとおもいます。花ミモザは登山から降りた村の大きさに感動しました。蟾蜍は、〝ひきがえる〟と読んで頂ければとおもいます。」
- 亀山祐美子
特選句「タンポポの仲間に入れてもらう昼」楽しくて明るくて好きです。特選句「ぶらんこや膨らんでゆく影法師」ぶらんこを漕いで空に近づくほどに地面に残る影法師は膨らんでゆく…。ぶらんこと影法師しか言っていない。それだけに読み手の想像力を掻き立てる。個人的には「ぶらんこ」より「ふらここ」の方がより春愁を感じる。
- 大西 健司
特選句「逃げ水のあれはナースの帽子かな」この句が妙に気に掛かってなりません。どこがいいのか説明が出来ませんが、この感覚に共鳴しています。「指先を濡らして透明リラの街」「髪洗う身の内の海昏れるたび」の叙情もとても好きな世界です。
- 鈴木 幸江
特選句「春満月今日の私を食べてって」今日は、何か失敗でもしてしまったのだろうか。でも、“食べてって”の措辞より、めげていない前向きな姿勢が伺われ、とてもいい感じだ。春の満月にそんなことをお願いしている人を見たこともなかった。特選句「今日の駄々昨日の駄々よ鳥曇(桂 凛火)」“駄々〟から拗ねているような心持ちが伝わってくる。今日も昨日もそんな気持ちに襲われた作者。曇り空の中、大自然に導かれ帰る鳥たちに、無意識に救いを求めているような詠い振りがいい。問題句「墓に土筆婆ちゃんわたし唄っていい?」ずばり、この“?”は、必要だろうかと思った。もちろん句の内容にも惹かれ、土筆の似合うお婆ちゃんの素敵な人柄が好きだ。日本語の終止形は、口語では、語尾を上げれば疑問文になる。だから、“?”はなくてもリズム尊重してこの句を読めば疑問文になる。例え断定文と解釈してもその内容は面白い。
- 三好つや子
特選句「大仏の心臓きゅつと花もくれん」満開の白木蓮に廬舎那仏の大きな心を感じた作者。そんなスピリチュアルなまなざしに胸がキュンとしました。特選句「西海五月犬猫魚の貌賢こ(野田信章)」五月の九州の海や瀬戸内海の聡明なブルーと、ひたむきに生きる犬や猫や魚たちの顔が目に浮かびます。「目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部完市」俳句をはじめた頃、阿部完市氏の作品と出会い、とりわけ「ローソクもつてみんなはなれてゆきむほん」に衝撃を受けました。阿部氏がどんな人だったのか・・・想像をかきたててくれる句です。
- KIYOAKI FILM
特選句「スキップするお尻が飛ぶよ花薺」俳句に「お尻」という体の部分を表現した場合、成功するのがむつかしいが、この句はよく出来ている。スキップする…おそらく女子の、健康な体が想像され、「飛ぶよ」となると、「お尻」だけが飛ぶのか…。問題句「耳うらに少女永久なり冬いちご(竹本 仰)」問題句に挙げているが、毎回、問題句とは思ってなかった。この一句、「少女」からエロチックを感じ、読者の僕はどきっとしてしまいました。
- 谷 孝江
それぞれ個性豊かな句ばかり。選句のむつかしさをいつも感じています。短歌は調べ、俳句は切れ、と聞かされたことがあります。まだしばらくは「切れ」に悩まされそうです。
- 小山やす子
特選句「逃げ水のあれはナースの帽子かな」看護を受けたことの有る者にしか分からない何か微妙な心理が隠れているようで不思議な感性の持ち主と感じ入りました。
- 寺町志津子
特選句「戦争のはなしソーダ水は水に」きな臭い世になりつつある。その不安は日増しに強くなっていく。掲句を勝手に想像すると、シーンは気の合った老友との話。互いに世相を嘆きつつ、話は戦争に及んだ。先の大戦の話、戦後の話、そしてシリアのこと、テロのこと、原爆や化学兵器のこと等々。話は反戦への、平和への強い思いを込めて、ソーダ水が水になるほどに延々と尽きない。「ソーダ水は水に」の措辞自体は、決して新鮮とは言えないが、話のテーマが「戦争」となれば別である。反戦の、平和への願いを込めての戦争の話が、これからも、ヒソヒソではなく、安心して、「ソーダ水が水に」なるほど延々と話すことができるだろうか。安心して話すことができることを祈り、頂いた。
- 河田 清峰
四月も楽しい句ありがとう!特選句「あんぱんを春の形に焼く神戸」どちらも私の好きなものであるが普通似合わないあんぱんと神戸を春の形が繋げている!どんな形に焼き上がるか楽しみである!食べたくなってくる~koubeで…
- 重松 敬子
先日のお問い合わせについて「あんぱんを春の形に焼く神戸」この句は、私が今凝っている、パンつくりから、ヒントを得たものです。丸くした生地のてっぺんに、十文字の切り目を入れます。焼き上がると、そこが開き、中に入れてあるうぐいす餡が、のぞきます。低温でゆっくり焼き上げるため焦げ色が付かず、白い開きかけの花の蕾のような形に出来上がり、春を形にすれば、こんなかなあ・・・・・? と、詠んだ句です。
- 田中 怜子
特選句「花吹雪どの街角も美しき」桜がさくとなんか町がにおいやかになりきれいになるんですね。それを素直にうたっているのがいい。特選句「ぶらんこや膨らんでゆく影法師」自分がぶらんこにのっているような錯覚を感じました。
- 桂 凛火
特選句「老師来て貂の冬毛のごとき冴え」「「老師来て」は、説明のように書かれているのだけれど、何かただならぬ気配が伝わり、一つの世界が見えるよう、導入として巧みだと思います。白黒の映像のようで心ひかれました。「貂の冬毛のごとき冴え」という比喩がまた渋くて素敵でした。
- 銀 次
今月の誤読●「オオイヌノフグリしあわせ踏んで戦って」民兵は「オオ」と大声をあげてわずかな草むらに横たわった。疲れたぜ。砂漠には不似合いの一つかみの草むらだ。そこには小さなピンク色の小花が咲いていた。わたしはボソッと「イヌノフグリ」に似ているな、とつぶやいた。なんだそれはと民兵は聞き返してきた。うん、犬のキンタマという意味さ。バカな、この花がか。ああ、たぶん違うんだけど、なんとなくな。それにしてもキンタマとはね、と民兵は笑った。わたしも苦笑した。彼は言った。オレはいままで「しあわせ」ってやつを実感できずに暮らしてきた。だが、こうしているとしあわせってやつがわかるような気がする。戦場のつかの間の休息。それを言っているのだ。わたしが近づこうとすると、おっと気をつけなと彼は言った。地雷を「踏んで」おっ死んじまったやつが何人もいるからさ。遠くで砲煙があがった。つづいて遠雷のようなマシンガンの掃射の音が聞こえてきた。ええいくそ、しあわせってやつは短い。短いから本来のしあわせがあるのかもしれないとわたしは思った。さ、「戦って」くるかと民兵は機銃MK23を杖代わりに使って立ち上がった。わたしは愛機のカメラ、ニコンD750を手にしてあとに従った。砂漠の戦場は遠くに見えて思ったより近い。わたしはその名も知らぬ民兵の背に向けてシャッターを切った。
- 柴田 清子
特選句「春の水ちちははの透くところまで」父恋ひの母恋ひの極みg「透く」で言い表わしているところが凄い。特選句「山焼くや強風よりも大きい声」風と声を比べているところが新鮮な発想で気に入った。特選です。
- 中西 裕子
特選句「清明や猿(ましら)のごとき少年来(野﨑憲子)」清明とは、4月の初め頃?清く明るく字のとおりの時期でしょうか。猿のような生命力のある少年の姿がよく合ってると思います。何となく元気のでる句でした。「子を二人連れ芹摘みに行ったまま」の子を二人連れという句もドラマがありそうで面白いです。
- 漆原 義典
特選句「花冷えや遠き記憶の恋たどる(藤田乙女)」暖かくなり心がウキウキする春において花冷えは、気持ちをネガティブにし少しもの悲しいものです。この心情を、「遠き記憶の恋たどる」と表現したところに感動しました。
- 菅原 春み
特選句「清明や海の朗らよ山に鳥」季語と朗らがなんともいい。特選句「春泥やかつて地上に棲みしもの(銀 次)」妙に納得してしまう。甲乙つけがたく特選がなかなか選べません。
- 小宮 豊和
特選句「はなちるや甘き腐敗の臭ひせり」桜花であるからこそ、腐臭が芳香となる。人生において誉められるのは結婚式と葬式のときだけ、あとは袋叩きみたいなもの、たまには腐臭が芳香となってほしいという心の奥の甘え、健全な句が圧倒的に多い句稿の中で、耽美的、頽廃的、虚無的な感情にひかれる心の一面を詩まで高めている。特選句「生も死も花に遊びし生傷(きず)のまま」花に遊びし生傷とは、人生で負った浅傷,深傷のことであろう。自分の傷だけでなく、他人に負わせた傷もあるだろう。そしてその治癒を待たずに人生を終り、そのままあの世へ旅立つ。逃げも隠れもしない、できない、人生とはこんなものかとも思わせる。
ご挨拶。私、このほど香川県に転居いたしました。さっそく句会にお誘いいただき光栄です。名ばかりの俳徒ですが、ご挨拶に駄句を一句 讃岐へと飛翔上野(こうずけ)春鴉 小宮豊和 新天地で、懸命に勉強させていただきます。よろしくお願い申し上げます。- 藤田 乙女
特選句「夕桜かなしみしまう鍵なくす」 夕桜の悲しいほどの美しさに自分の心にそっと閉まって置いた過去の切なく悲しい思い出がふとよみがえってきたのでしょうか。その哀しみもまたいつか浄化されていくのでしょう。特選句「ただそばに居るが大切ヒヤシンス」 日々生きる中で、悩み、苦しみ、不安、悲しみ、様々な思いを抱きますが、「ただそばにいてくれる」ことが大きな支えだと感じます。白く根を伸ばし太い茎で真っ直ぐに立つヒヤシンスの佇まいが目に浮かび心が癒され安堵するように思います。
- 高橋 晴子
特選句「揚げ雲雀ポケットに亡母の診察券」万葉集、大伴家持の心情に通じる句で、しみじみとした余情がある、いい句。何もいってないけど、よくわかる。問題句「ただそばに居るが大切ヒヤシンス」問題句とする程の句ではないが、こういう表現が多いので一例にあげてみた。この句〝ただそばに黙つてをりぬ〟ならいい句だが、大切を入れると標語になっているように思います。
- 野口思づゑ
「人体は寺院よ初夏の風にたつ」人体が寺院とは、寺院が人のように見えたのか自身が寺院のような清々しさの中にあったのか、この「人体」と「寺院」の組み合わせが新鮮であり強いインパクトがあった。「旧友の近づき過ぎぬ菫ほど」女学生のようにベトベトしない、親しい友人と大人の距離でありながら菫のように見れば、会えば、心が和らぐ。理想的な友人関係がとても巧く表現されている。「地下東京ひとが湧き出る春の月(三枝みずほ)」地下道から出て来る人間、一体どこから湧き出て来るのかと、東京の街に行けばだれでも実感する。地下は人で溢れる喧噪であるが空には月。都市の春の夜の風景画。「流し雛ピアスするとき我執消え(寺町志津子)」ピアスすると自分の雰囲気が華やいで、いつもの自分が流れて怖いもの無し、とでもいった自由な気持ちになるのでしょうか。私もピアスしてみたくなった。「それは分かるけどって無視する花の冷え(中野佑海)」こういう人って嫌ですよね。ただ無視されるのは単純に腹立たしいのでまだマシだけど「それは分かる」なんて社交辞令のような言葉を添える。冷え冷えとした相手を巧く表した鋭い句。「子を二人連れ芹摘みに行ったまま」あら、ちゃんと帰って来たかしら。いつも家事で大忙しのお母さん、今日だけは子供と芹摘みに出かけ夢中なのでしょう、まだ帰って来ない。芹摘みの経験はないけどまるで昭和の映画を見ているようなほのぼのとした気持ちになる。「揚げ雲雀ポケットに亡母の診察券」ポケットに手を入れたらもう亡くなってしまった母の診察券があった、とただそれだけかもしれないが、高い空飛ぶ雲雀を見ている、聞いている、そして母を思い出している、その情感がよく出ている。「春満月今日の私を食べてって」春の満月、ふっくらしている。お腹いっぱいかもしれないけど自分を食べてもいいよ、と自分を月に食べさせようという発想がとても面白い。満ち足りた一日だったのでおいしいはずの自分です。「ミセスローバと称す老婆や春爛漫(寺町志津子)」こういうお年寄りっていいな、と思う。明るくて無邪気な人柄が春爛漫に凝縮されている。「はなちるや甘き腐敗の臭ひせり」果物は熟し過ぎて腐敗する手前が一番美味しいという説がある。花のその状態の時の匂いを嗅いだ事はないが他人にとっては腐敗でも当人は甘い汁だった。社会の腐敗を詩的に描く技量に感心した。
- 野﨑 憲子
特選句「墓に土筆婆ちゃんわたし唄っていい?」お墓に土筆を供えた孫娘の問いかけに、泉下の祖母の顔が浮かんでくる。眩いばかりのお日さまの様な笑顔が・・。「いのちの空間」を感じた。
袋回し句会
新入生
- 警察官へ最敬礼や新入生
- 野﨑 憲子
- ひらひらと新入生の廊下かな
- 三枝みずほ
- だぶだぶの制服てれる新入生
- 野澤 隆夫
- 顔文字とぶつかる朝の新入生
- 河田 清峰
空家
- 目借時空き家に吠える散歩犬
- 野澤 隆夫
- 満開の桜の庭の空家かな
- 島田 章平
- 沈丁や空家の中に昼の月
- 男波 弘志
- 北風も春風もよし空家かな
- 銀 次
- 空家にも団欒の日々花の散る
- 山内 聡
- 春昼の空家の庭の古如雨露
- 小宮 豊和
宿
- 花の宿花の気配の夜更けかな
- 小宮 豊和
- 宿命を受け入れた時飛花落花
- 三枝みずほ
曲
- 春愁や左手の曲弾きし時
- 山内 聡
- 舟歌の流るる夕べ初蝶来
- 野﨑 憲子
桜闇
- 死んでいいと思ふさくらの闇ならば
- 柴田 清子
- 捨て台詞言って死にたい桜闇
- 鈴木 幸江
- 桜闇人近づきやすく離れやすく
- 三枝みずほ
- 酔客の横たわりをり桜闇
- 銀 次
- 底抜けの青を切り取る桜闇
- 中野 佑海
- 三丁目三番サード桜闇
- 藤川 宏樹
- 桜闇蛇口ざらざらしているよ
- 男波 弘志
- 桜闇静かに開く自動ドア
- 島田 章平
- 足音の波音となる桜闇
- 野﨑 憲子
花
- 恋愛神経開花宣言何時ですか
- 中野 佑海
- 本当は泣いていました花咲けり
- 鈴木 幸江
- 花や花追っかけて逝ってしもうたり
- 柴田 清子
- 一点に集まるこころ花吹雪
- 野﨑 憲子
春落葉
- あさぼらけただまっすぐに春落葉
- 銀 次
- 春落葉テレビ女優の嘘らしさ
- 藤川 宏樹
- 春落葉海へ真向ふ海女の墓
- 島田 章平
- 春おちばそれ知ってたらしなかった
- 鈴木 幸江
- 爪痛くなる程噛みし春落葉
- 中野 佑海
田水張る
- 田水張る春の命をうるおして
- 小宮 豊和
- いさかへる鳶(とんび)をよそに田水張る
- 野澤 隆夫
- 田水張る泥に光を鋤き込みし
- 山内 聡
- 反省をし過ぎる君よ田水張る
- 鈴木 幸江
髪
- 春昼の髪に秘密を握られて
- 柴田 清子
- ねぢくれし髪の先まで囀れり
- 野﨑 憲子
- 人の髪さわりつづけて花の冷え
- 男波 弘志
朧
- 返信の右手の迷ふ朧月
- 三枝みずほ
- 島多きことの喜び瀬戸朧
- 山内 聡
- 朧夜やボトルシップに波の音
- 島田 章平
句会メモ
今月の高松での句会には、小宮豊和さんが、新たにご参加くださいました。小宮さんとは、今も、「海程」秩父俳句道場でよくご一緒しています。少し前に、ご子息様の住む香川へ転居していらっしゃいました。そして、事前投句に初参加の、松本勇二さんは、 私が、「海程」に入会した頃には、既に、若手の注目作家でした。人情味溢れる温かなお人柄で、現在は、愛媛の俳句界を牽引していらっしゃいます。お二人のご参加で、ますます多様性を帯びて行く「海程」香川句会です。俳句の神さまにも、感謝、感謝です!
十年近く前の道場で、帰り支度をしていると、大先輩の今は亡き加藤青女さんが、「野﨑さん、熊谷駅まで車に乗せてもらって帰るから貴女もご一緒しない?」と誘われて便乗させて頂いたのが、小宮さんの車でした。車中、岡本太郎の話になり、私が、「太郎は、木登りが得意でなかったそうで、猿の中で、木に登れないのが人間になったんだと本の中で力説していました」と申しますと。運転席の小宮さんが振り向いて「私は、木登りが得意です!」と、少年の様な目で話されました。そんな、小宮さんと当地の句会でご一緒できるとは、夢のようです。・・この文を句会報で見た月野ぽぽなさんからメールあり「私も、小宮さんの車に乗せてっ貰ったことがあります!」・・・そうでした、ぽぽなさんとご一緒の時もありました。ぽぽなさん、ごめんなさい!
来月は、「海程」全国大会に参加の為、香川句会はお休みです。6月のご参加を今から楽しみに致しております。詳細は「句会案内」をご覧ください。
写真は、中野佑海さん撮影の栗林公園の夜桜です。
Posted at 2017年4月26日 午後 11:57 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]