2017年12月28日 (木)

第79回「海程」香川句会(2017.12.16)

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事前投句参加者の一句

        
否そして雪そして雪そして雪 小西 瞬夏
肋骨透きとほる白魚の秒針 中村 セミ
生きて愉快冬青空へ廻れ右 田口  浩
とびきりの寒の歓喜や風太鼓 豊原 清明
児に初めてのことばは落ちた茸落ち 竹本  仰
ホットレモンにんげんじんわりと適温 三枝みずほ
漱石忌アンドロイドが煩悶す 野澤 隆夫
母の骨いがいに多し冬銀河 菅原 春み
耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし 山内  聡
着ぶくれて身に覚えなき咎のごと 重松 敬子
てのひらはさかなとさかな寒月下 男波 弘志
着ぶくれて身に覚えなき咎のごと 重松 敬子
冬葛藤闇を切り裂く流れ星 漆原 義典
生き生きて浮いた落葉の自在かな 疋田恵美子
明恵上人(しょうにん)の愛でし子犬や草紅葉 田中 怜子
紫とオレンジの空 タラバガニ 古澤 真翠
冬紅葉透くや紫影の柱立つ 藤川 宏樹
木洩れ日の入る座敷や十二月 髙木 繁子
白さざんかの光の中を姉逝けり 稲葉 千尋
初冬の湯気で開封する手紙 新野 祐子
義理や義務歳暮センターの疲れ顔 野口思づゑ
聖誕祭ナイフは肉に沈みゆく 増田 天志
臘梅のほのかな家路また転ぶ 若森 京子
散落葉そんな隙間をみつけたか 小宮 豊和
まだ青春今が青春麦の芽よ 伊藤  幸
兵士って感じのイチゴ十二月 三好つや子
九つの穴ある人体今朝の冬 寺町志津子
パーマネント鏡の奥に初氷 夏谷 胡桃
箸割りそこね淡路西岸冬あらし 矢野千代子
偽の雪降らして役者芽吹きをり 小山やす子
十億年前の冬ですオウムガイ 桂  凛火
ポケットの手が冷たくて町を出る 柴田 清子
せりあがるみちやさるとりいばらの実 亀山祐美子
冬紅葉うちはあんたに捨てられた 島田 章平
コートの袖誤作動の杖の出入り 中野 佑海
イソップとかちかち山と風邪の子と 谷  孝江
国歌斉唱静かに斧の倒されて 大西 健司
札売の声や骸の漂着す 河田 清峰
みかん匂う今ふたり切りですね 鈴木 幸江
狼を呼ぶよ邪馬台国の唇 月野ぽぽな
古馬場町から百間町へ時雨連れ 松本 勇二
枯葉舞ふ落ちる駆けるも踏まるるも 高橋 晴子
若呆けもあるぞと案山子こちら向く 野田 信章
他人事のような顔して冬の月 藤田 乙女
酔漢の紐ほどけたり十二月 銀   次
柿紅葉選ばれなかった人生に 河野 志保
朝日子の渦巻くことば冬木の芽 野﨑 憲子

句会の窓

島田 章平

特選句「初冬の湯気で開封する手紙」。掲句、スマホ全盛の時代。あっと言う間に届く彼女からの「サヨナラ」のメール。恋は秒殺。それに比べて手紙の優しい昭和の香り。肌の温もりを感じる・・とそこまで思ってふと考えた。「湯気 で開封する手紙」って何だろう。夫宛ての見知らぬ名前からの手紙、そして美しい女文字。揺れる心、震える手。思わず薬缶を引き寄せて、封印を少しづつほぐして行く。高ぶる気持ちを抑えながら・・。やはり女心は昭和の匂いでなくっちゃ。

若森 京子

特選句「てのひらはさかなとさかな寒月下」自分の両てのひらか、恋人と触れ合うてのひらか。寒月下にさかなの様に泳ぐてのひら。大変リアルで美しい。特選句「コートの袖誤作動の杖の出入り」〝誤作動の杖〟の措辞が現代の象徴の ようで、コートの袖を出入りする。人間と文明の小さなおかしみを、軽妙な滑稽さを感じる。

増田 天志

特選句「冬紅葉透く日紫影の柱立つ」この柱、墓標に想えてならない。それも、兵士の墓。国家のための人柱。冬紅葉という儚い季語の効果なのか。透くという言葉の存在の希薄さのためなのか。「日」は、不要で、「や」の切れ字に、 添削したい。紫という色彩感覚の良さを、作者に感じる。紫は、犠牲者に対する鎮魂と敬意の表現か。

三好つや子

特選句「朝日子の渦巻くことば冬木の芽」 冬の朝の校庭や教室で、息をはずませて話す子どもの声が聞こえてきそう。冬木の芽のように日々成長していく子どもたちを、温かく見守る先生のまなざしまでも感じられました。特選句「十 億年前の冬ですオウムガイ」 生きている化石のひとつオウム貝を通して見えてくる、遠いむかしのピュアな地球。富沢赤黄男の「蝶墜ちて大音響の結氷期」に通じるものがあります。入選句「寒雷や魚の眼のぎっしり(野﨑憲子)」鰤の到来を 告げるため、「鰤起こし」と呼ばれる、母の故郷の冬の雷のことを思い出しました。

小西 瞬夏

特選句「肋骨透きとほる白魚の秒針」:「白魚の秒針」にどれだけ普遍性があるかはやや疑問ではあるが、この思い切った飛躍に勢いがあり、エネルギーを感じた。問題句「木洩れ日の凍蝶やはらかき旋律(三枝みずほ)」素敵な句なのだ が、「木漏れ日」「凍蝶」「やはらかき」「旋律」と同質の言葉がこれでもかと並んでいて、やや気取り過ぎなところが気になる。

藤川 宏樹

特選句「否そして雪そして雪そして雪」:「そして雪」のリフレインが映像として捉えられます。「否」での始まりは、雪深きところでの作者の生活像を想わせます。17音の象徴的な構成が効果的で、勉強になります。なお、「冬紅葉透 く日紫影の柱立つ」の「日」を「や」へとの増田天志様の的確なご指摘のとおり、この場で拙句を改めたいと存じます。「冬紅葉透くや紫影の柱立つ」

三枝みずほ

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」十二月は開戦の月。冬のイチゴ、痩身で酸味もあり、早熟だ。イチゴの赤が何とも痛々しくも思える。春のふっくらとした芳しい苺ではなく、十二月のイチゴがとても効いていて、心に響いた。

矢野千代子

「古馬場町から百間町へ時雨連れ」強く読み手にひびきあう固有名詞と時雨の音…。予想以上の効果のおおきさで特選句に。

稲葉 千尋

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」骨の数は誰も変らないが、この句の場合は、母が亡くなって火葬後の事かなと思う。冬銀河が利いている。特選句「九つの穴ある人体今朝の冬」どこまで数えて九つかわからないが、人体への(作者 自身)不思議を感じ、冬銀河の不思議も感じている

伊藤  幸

特選句「パンパスグラス一メートル半ノコドク(小西瞬夏)」孤独を強調する為敢えて仮名にしたものであろうが下語はやはり孤独と漢字で表現しても良かったのでは?巨大な芒を思わせ3メートルにも達するパンパスグラス、1メート ル半の措辞で寂しさが充分伝わってくる。パンパスグラスと孤独の相反する取合せが見事。

豊原 清明

特選句「反骨の顔ぬっと冬木の芽(三好つや子)」反骨精神が頼もしい。問題句「魂が魚簗に捕まり岩となる(中村セミ)」語句から魔物性を感じる。

田中 怜子

特選句「パーマネント鏡の奥に初氷」田舎のレトロの理髪店、鏡を前にパーマ、鏡に窓外に氷が映る。おだやかな、昭和が描かれている。特選句「丑三つの菊人形の寝息かな(新野祐子)」菊人形の寝息とは、ありそうでなさそうで、一 寸不気味でもある。

中野 佑海

特選句「生きて愉快冬青空へ廻れ右」最近、体の不調が続き、生きることの大変さをつくづく感じているので、この御句に生きる勇気と姿勢を教えて貰いました。特選句「あちこちで撫でられてきたかぼすかな(河野志保)」農家の方の 自分たち作った作物に対する愛情、それを商品として出す方の気合い、それを使って料理に使う人の気遣いそれらを短い俳句の中に見事に凝縮されているところ。この方の心の温かさを感じました。

山内  聡

特選句「散落葉そんな隙間をみつけたか」まず目に浮かぶのが敷き詰められた散落葉。もう隙間もないほどに敷き詰められている。でも埋められていない隙間がある。そこにはらりと一陣の風が。ハラハラハラと落ちて来る紅葉たち。そ の紅葉のひとつがたまたままだ埋められていない隙間にはらりと落ちた。その状況だけで十分美しい情景が想像できる。そして田口さんがおっしゃっていたが、人間の世界もまた同じで自分の隙間をみつけて心地よく人生を生きている作者の心象 も描けていると思いました。

松本 勇二

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」見立てと口語調がどちらも新鮮でした。問題句「白さざんかの光の中を姉逝けり」:「白さざんかの」の「の」を取れば韻律が一層締まるのでは。

鈴木 幸江

特選句「否そして雪そして雪そして雪」雪は人間の営みを否定するかの如く、混沌とした街を白の世界へと変貌させてゆく。そこに雪の想いを見、それを“否”と感受した。そして、“そして”のリフレインにより、雪の降り続く様を見 事に表出させた。特選句「柿紅葉選ばれなかった人生に」選ばれなかった人生を、時代に評価されなかった人生と解釈するか、自分が選ばなかった人生とするか、二通りあるが、この少し投げやりな措辞から、今は凡庸な人生を送っていることが 伺われる。そして、その人生を“柿落葉”で、明るく受け止めているのだ。その姿勢に共鳴した次第。問題句「兵士って感じのイチゴ十二月」“感じ”という言葉が無性に気になった。 “感じ”を言わずに感じさせるのが俳句ではないだろうか と、思った。“兵士”を十二月のイチゴに、新鮮な批評精神を感じ感心した。しかし、“感じ”を言ってしまったことで、読み手の楽しみが半減してしまったので、問題句。

田口  浩

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」冬銀河の星の数は、母のいがいに多い遺骨の数につながろう。火葬場で集めた、おののきと思いが、冬銀河とひとつになって、母のあれこれがよみがえる。冬の凛とした大気と、星座が、作者の気持 ちとして読みとれる。特選句「ポケットの手が冷たくて町を出る」この作品、書こうと思ってハタと困った。句の内意は、いくらでも書けるのだが、それをやると句が痩せることに気づいたからである。このような作品は、俳句の妙味を解釈する のでなく、そのまま心につたわるものを感じとればよいのである。その上で、句の内臓する淋しさや人生を受け取れば、充分であろう。好きな作品である。

夏谷 胡桃

特選句「ホットレモンにんげんじんわりと適温」。寒い日が続きます。マイナス10度になりました。それにも慣れていき、0度だと温かいと感じるようになります。暖かいとは幸せです。ストーブの傍でホットレモンを飲み胃の腑から じんわり温かくなる。にんげんは何が適温かわかりません。ちょっとしたことで幸せになり、今生きていることの不思議を感じます。にんげんがはじめて火を使い、温かいものを飲んだ時は感動したのだろうなどと思いました。特選句「寒雷や魚 の眼のぎつしり」。句として少し物足りなさも感じるのだけど、魚の目がぎっしりで「こわいこわい」とイメージが頭に染みついてしまった。魚の目、鳥の目ってぎっしりはいけません。不吉な感じの句は取りたくなかったけど特選にしてしまい ました。

野田 信章

特選句「魂が魚簗に捕まり岩となる」の句。このごっとした句調の感触が山地に生を享けた者の証しかと思える。魚簗場の活写には諧謔味がある。この句に鮮度ありと読むところに現代を生きる者の魂の漂泊がある故かも知れない。特選 句「箸割りそこね淡路西岸冬あらし」の句。日常の些細な一態がペーソスに終ることなく淡路西岸の映像をも伝達させてくれるところに確かな心情の裏打ちがある。この地に住む者ならではの風土体感の厚みを覚える句柄である。

河野 志保

特選句「蠟梅のほのかな家路また転ぶ」蠟梅に気をとられて躓いたということだろうか。自嘲を含んだコミカルな詠み口と受け取ったがどうだろう。「また転ぶ」に意外性があり心地よいアクセントも感じられた。それでは、穏やかな年 末、そしてお正月をお迎えください。

古澤 真翠

特選句「傀儡師の靴音枸杞の実は零れ(大西健司)」人形遣いを傀儡師というのですが、まず その漢字での俳句に惹かれてしまい不思議な雰囲気の中に誘われていきました。

野澤 隆夫

小生にとっての〝第九〟の二大行事、〝高高ハートフルコンサート〟と〝第九ひろしま2016〟が終わりました。一月句会は是非に参加をと思ってます。。新年会も持つようでしたら、参加の線でお願いします。特選句「反骨の顔ぬっ と冬木の芽」→「反骨の顔」が何とも迫力があります。そして「顔」が「かお」でなく「かんばせ」のルビに「顔のさま」がよくでてます。「冬木の芽」に「反骨の顔」を感じた作者が素晴らしい。特選句「イソップとかちかち山と風邪の子と」 風邪をひいた我が子に若いおかーさんが絵本を読んであげてるのかと。昭和の郷愁を感じさせられました。特選句「冬紅葉うちはあんたに捨てられた」この句も面白いですね。捨てられても何のこれしきと立ち直れる強さを感じます。今回は滑稽 でユーモラスが句が多く、選句しつつ思はず〝ニヤリ〟とさせられました。

谷  孝江

特選句「柿紅葉選ばれなかった人生に」には、共感がありました。だれもが華々しい一生を通せるものではありません。地味な暮しの中で喜びや哀しみを持ちながらの生活を思います。そのなかでの柿紅葉の紅色はやさしい慰めを受け取 る事が出来ます。柿の紅葉なれば尚更です。この句には悲観も捻れも無くさらりと詠んでいらっしゃるところに好感がありました。今年もたくさんの句を拝見出来て嬉しい一年でした。ありがとうございます。良いお年をお迎えください。

大西 健司

特選句「木洩れ日の凍蝶やはらかき旋律」詩的過ぎるきらいもあるのだろうがこの繊細な美しさにひかれる。作者は木洩れ日の中の凍蝶に拘った。それなら「木洩れ日や」としたらとの思いも少しある。

小山やす子

特選句「電柱のこゑして長き夜が混ざる(小西瞬夏)」電線が唸りを上げて爪弾いている。寒くて長い夜の厳しさを端的に上手く表現していると思います。

竹本  仰

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」収骨の時の、こんなに母は骨を抱えていたのかという発見と驚きでしょうか。手に取った箸の先に、一つ一つ何か思い出にこつんこつんと突き当たるものがあったのかも知れない。それが、今まで思 い出しもしなかったものがあれよれよと溢れてきて、そんな感慨がよく見えます。そして、多分、自分にもこの骨の多さがあって、或いは同じような気持ちを起こさせるのかもしれないと、因果の先をも思いやっているのではないか。多くのもの 、それは煩わしさではなく、与えられるものを多く持つという勇気につながるもののような気がします。特選句「全卵にひとすじの血の十二月(田口浩)」勢いのある直球は、ホップする、つまり浮き上がる。なぜかというと、球が生命を持った からだ。この句の血も、まっすぐにしかいかないという、命ある血のことを言ってるのだろう。卵は一つずつ個別にあるが、つらぬく命は一つしかない。この一つは、卵をつらぬくとともに、我々の血にもつながる、根源的なひろく通底したもの だろう。なだれるように落ちる十二月へ、まっしぐらに垂直に落ちゆく時間。それはまた、生命の立ちあがる月でもあるのだろう。生命、そして、宿命の肯定感があらわれている。特選句「散落葉そんな隙間を見つけたか」そんな隙間とは、どん なすきまか?文脈からは、散りゆく先となるのだろうが、そうだろうか?そんな隙間は、生きゆく先とか、死に方とか、そういうスペースを指しているのだとも取れる。そして、散る落ち葉はそんなすき間を見つけ得たから、落ちられるのだとも 、つまり、ゴールからスタートを逆さに見ているような面白い見方も成り立つように思う。すき間に落ちてゆくのだ、きっと我々も、と妙に納得させられてしまうような。では、作者はどうなのだろう?あのように生きねばという声だとも。いず れにしても、全体像がよく見えているような、そんな余白感を味わえた。

疋田恵美子

特選句「臘梅のほのかな家路また転ぶ」高齢に伴う体調不良など、趣味の仲間も一人二人と去り寂しくなる現状です。特選句「暮れなずむ廃炉は揺(よう)と浮巣なり(若森京子)」震災後のフクシマの廃炉のおぞましい現実。

寺町志津子

特選句「ポケットの手が冷たくて町を出る」毎月、香川句会の実に多彩で新鮮ないきいき魅力的な句をワクワク鑑賞させて頂きながら、だからこそ、読み返すたびに特選は?に悩ましい思いがあります。今号も正しくその典型で、最初一 読した折にはスルーしていました。ところが、読み返す度に、「ポケットの冷たい手」は誰の手?作者ご自身?もしかして愛している方?「町を出る」理由は何?と勝手に映画のストーリのような、それも哀愁とロマンに満ちた物語が勝手に広が っていき、目が離せなくなりました。

野口思づゑ

特選句「ホットレモンにんげんじんわりと適温」冷えた体に熱々のホットレモン。自分にとって心地よい適温まで体が少しずつ温まる。読むだけで暖かくなりました。「とびきりの寒の歓喜や風太鼓」:「寒の歓喜」が明るく前向きです。 「柿紅葉選ばれなかった人生に」選ばなかった別の人生に敬意を表すのは選んだ人生に満足しているのだと思います。

中村 セミ

☆初めて参加して☆仲々個性豊かな方々ばかりおられて俳句の方よりその人間的な詩姿というか、俳句に向っての姿勢というか面白く感じました。僕も俳句以外では色々やってきましたが(朗読、演劇、小説、絵等)早く御仲間の一人と してやっていきたいと感じた次第です。今後共よろしくお願いします。特選句「人形を負ぶう独居老人の秋(大西健司)」独居老人の重たき人生が表されていて又人形が何かーおそらく読み手次第で何でもいいのだろうがーこれ迄送ってきたもの の積み重ね、これからくる一人暮らしの先の分からない黄昏時な暗さの様なものだろう。僕もそのうちそういったものを背負うのかなとも思った。インパクトのある句でこれを特選とします。以下、頂いた句をユーモアを交えてストーリーで表し たコメントを・・「十二月八日朝日ぎらつく鏡拭く(稲葉千尋)」この鏡は家の中の鏡かと最終的に思う。ぎらついているのは朝日の反射の中の己の顔。「丑三つの菊人形の寝息かな」夜中の2時頃菊人形の様子を見ている。寝息も感じたのだろ うー暗やみの中の作者がブキミだ。「酢海鼠や悍ましきことばかり云う(鈴木幸江)」すなまこの姿が物言をいう様に感じる。経験からくる雑念―悪い経験が重なっているのかな。「寒雷に海馬嘶く読書かな(松本勇二)」脳の一部が読書をして いる時に雷の音にヒヒヒーンといった。「冬霧の奥より炎樹のののの(野﨑憲子)のののののは、はったりという人あり。のの字の、のろーの様な物と云う人あり。新しい表現だと云う人ありーしかしのを五つ並べていて読み手の自由でいいのだ ろう。なのでこれはむむむむむと思う事とした。「初冬の湯気で開封する手紙」湯気で手紙を開けるのに使う手口。縄でくくられたコヅヅミはどうして分からぬ様に開けようか。「札売の声や骸の漂着す」さあ見ていって下さいよ、たった百円だ よ。昨日漂流してきた小船の死体だよ。さあ、寄った、寄った。

重松 敬子

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」店頭に並んだクリスマス用の苺を見ていると同じ色,同じ寸法,同じ方向を向き合って,たしかに軍隊を連想させるものがあり,とてもユニークで面白いとらえ方だと思います。私も来年はこのよ うな自由な発想をしてゆきたい。

桂  凛火

特選句「国家斉唱静かに斧の倒されて」斧倒されてが妙に怖い。国歌斉唱したらこんなことになる・・。いや斧が倒されて国歌斉唱なのだ。それにしても物騒な怖さが魅力でした。硬質な精神の息吹を感じました。

新野 祐子

特選句「着ぶくれて身に覚えなき咎のごと」着膨れると、動きにくいし肩は凝るしで、牢獄にいるようです。作者の辛さに共感。この厳しい寒さを、嫌いな厚着で乗り切りましょう。特選句「カリヨン鳴る冬天という激情(三枝みずほ) 」まさしく冬将軍は激情の持ち主。冬空を仰ぐと、さてこれから何が起こるのかと心騒ぎます。と同時に魅せられます。カリヨンに象徴させたところ、あっと言わせますね。入選句「生き生きて浮いた落葉の自在かな」このような句を。私は辞世 の句として詠みたいと思います。入選句「パンパスグラス一メートル半ノコドク」カタカナ表記が孤独感を漂わせています。パンパスグラスを見たことがない人にもその美しい穂を目に浮かばせてくれます。問題句「否そして雪そして雪そして雪 」一見して引かれました。しかし、作者の意図がわかりませんでした。今回は好みの句が多くて、選句に迷いました。

柴田 清子

特選句「否そして雪そして雪そして雪」:「そして雪」の中に、いっぱい詰っている北の国の雪の暮し、雪の美しさ、怖さも。「否そして」が、さらにこの一句を確固たる素晴しい雪の句とした。特選句「耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし」耳 遠い人と作者との間にながれている、ほのぼのとした人間味にあふれている。暖かさが「冬ぬくし」で、受けとめている。

河田 清峰

特選句「傀儡師の靴音枸杞の実は零れ」傀儡がひとり歩きしているような感じが面白い…「く」ぐつ「く」つおと「く」この韻がぶきみさをかもしだしている!「みたび羽音す香久山の冬すみれ」〝みたび羽音す〟が不思議そうで大和三 山を思わせて好きな句です。

月野ぽぽな

特選句「ポケットの手がつめたくて町を出る」町を出る、というのは、おそらく住む土地を変えるということだろう。この生活の大きな変化と、そのきっかけとして置かれた上五中八の一見他愛なく見えるその落差が印象的。ある行為に は理由があるかもしれないが、意識上で認識しうる理由というのは実は本当にその行為を起こす理由ではなく、起こることは、ただ起こる、もしくは必然的に起こる、と言ってもよい。それは運命とか縁とも。他の言い方をすれば、意識上では、 どんなことでもその行為の理由ということができるのだ。意識上の思考・感情の儚さとか、人生の不思議とか、そんなことを思い起こさせてくれた。

木川貴幸ピアノリサイタルin 東京・京都 わたくしは一月に角川俳句賞贈呈式のため一時帰国いたしますが、それに合わせて夫でピアニスト、木川貴幸(Taka Kigawa)も帰国し、日本公演を行います。東京ではクロード・ドビュッシー「プレリュード(前奏曲集)」全曲を、京都では、 ドビュッシー 「12のエチュード(練習曲集)」全曲と、オリヴィエ・メシアン 「鳥のカタログ」全曲を演奏いたします。同プログラムによるニューヨークの公演は大絶賛をいただきました。 日程と会場は以下の通りです。チケットはそれぞ れの会場にお問い合わせください。ピアニストについてはTaka Kigawaで検索していただくと英語が主ですがご覧いただくことができます。オフィシャルサイトは http://www.takakigawa.comです。 わたくしも1/21、25には来場予定です。 どうぞお越し下さい!                               ぽぽな 1/20(土)午後8時 21(日)午後5時/午後8時 カフェ・モンタージュ 京都市  電話075-744-1070 ●チケット予約 1/20 Cafe MONTAGE 1/21 5pmCafe MONTAGE 8pm Cafe MONTAGE 1/25(木) 午後7時 汐留ホール(日仏文化協会)東京都港区 電話03-6255-4104  ●チケット予約ジュディ・ソワ〉木川貴幸 クロード・ドビュッシー:「前奏曲集」全曲演奏会 ~ドビュッシー没後100年記念~汐留ホー ル

小宮 豊和

特選句「山友の散骨葬や式部の実」:「式部の実」は実紫、すなわち紫式部の実と受取った。葉を落した紫色の実をイメージしたとき、散骨に似合うかもしれないと思った。すっきりとした小粒の実は山を愛した男の死にざまを思わせる。 この世のことを卒業し、あるいは際限のない執着を断ち、骨壺におさまることを拒否して山の土となり、まさに紫式部の肥料ともなって自然の循環に合流する、そんな決断を感じさせる。

亀山祐美子

特選句『ポケットの手が冷たくて町を出る』憂鬱感と孤独感が滲みでる秀句だと思う。特選句『国家斉唱静かに斧の倒されて』倒す道具である斧が倒された。何に、誰に。ただ単に物体として「斧」が倒れている風景だけではない何か、 切羽詰まった緊迫感が不安感を煽るのは「国家斉唱」に依るとこが大きい。衝撃的な句だと思う。席上、佐藤鬼房の「切株があり愚直の斧があり」の句を知る。収穫である。やはり、句会にはでなければと思う。問題句 『あちこちで撫でられて きたかぼすかな』好きな物言い、語感だが、どなたかおっしゃったように、「かぼす」の存在感が乏しく軽い。「南瓜」それも「どてかぼちゃ」や「鬼柚子」ぐらいボリュームがあれば触りがいがあるかと思い句会では特選句で頂いたが、問題句 とした。問題句『初冬の湯気で開封する手紙』とにかく怖い。「湯気で開封する手紙」内緒で他人宛の手紙を開封するなんてどんな人間関係なのだろう。何時の時代の検閲なのだろう…。背筋がぞっとした。これが作者の意図なら成功と言うべき か…。楽しい句会でした。今年一年お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。どなた様も良いお年を…。

高橋 晴子

特選句「児に初めてのことばは落ちた茸落ち」〝茸落ち〟という言葉は初めてだが生命力を感じてとらせて頂いた。〝ことばは落ちた〟とは言い得て妙。問題句「明恵上人(しょうにん)の愛でし子犬や草紅葉」好きな句で問題という程 の句ではないが〝しょうにん〟との仮名はなくていい。〝明恵上人愛でし子犬や〟の方がいい。私も湛慶作といわれる子犬の像を運慶展で見たが、耳を伏せてつぶらな瞳で首をかしげて見上げるような顔付は、いかにも実体感があり、いきいきと していた。永遠の刻をとじこめた力作で、仏道を刻る人間が身近かなこんな子犬の生命感を刻ったことに感心するが、これも一つの祈りの形かもしれないと思うのである。句にした心にも感心するが見た者にはよくわかるが、これが彫刻の小犬と いうのがわかればと、無理をいう。湛慶作とでも前書きをつけるか!面白い句が多くていい勉強になりました。私も、もう少し表現するものを意識して詠みたいと思います。

男波 弘志

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」沢山の骨が、ときに軋み、ときに笑い、母の命を支えていた。いまは亡き母。「散落葉そんな隙間をみつけたか」どんな命にも存在の在り処がある。中心と周円、は繋がっている。「旧友の死が笹鳴 きに抜けてゆく(田口浩)」死者の抜けみちは、声にならぬ声の華やぎにある。笹鳴きが隙間だらけなのは、魂がそこを通るからだろう。

藤田 乙女

特選句「生き生きて浮いた落葉の自在かな」 精一杯ひたむきに生きてきた日々、しかし、それは生身の人間として多くの煩悩に煩わされたり、我執にとらわれたりする日々でもあったことでしょう。 浮いた落葉に様々なしがらみや束縛 から解き放たれた自在を感じとった作者の深い心の有り様に感銘を受けました。また、この句を通して、自分の来し方を振り返り、行く末を考える中で、自己の内面と対峙し自分を見つめ直すことができました。特選句「あちこちで撫でられてき たかぼすかな」すだちは使いますが、かぼすはほとんど使ったことがなく、大きさが違うくらいかなと思っていたけれど、今回かぼすにいろいろな薬効があることを知り、びっくり、❗そして、この句でかぼすへの作者の深い愛と親しみを感じと りました。そして、自分もかぼすと仲良しになりたいと思いました

野﨑 憲子

特選句「狼を呼ぶよ邪馬台国の唇」この狼は、絶滅したとされるニホンオオカミ、そして邪馬台国の女王卑弥呼の唇と感受する。古代史を目の当たりにするような壮大な作品である。現代、猪が、熊が、出たと言って大騒ぎする我々だが 、そのかみの世は、ぐっと、人類と、その他の生きものたちの距離が近かった。もちろん、せっかく耕した畑を荒らされ、生命の危険も今と比べものにならないほどだったと思うが、地球は平和だった。問題句「否そして雪そして雪そして雪」今 回の句稿の中で、共鳴する作品は、ほんとうに沢山あった。中でも、引かれた句の一つである。こういう冒険句に出会うと、ぞくぞくする。俳句がますます面白くなってゆく。只、揚句は、「否」が唐突で「そして雪」の繰り返しが饒舌過ぎると 思った。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

氷柱見上ぐる少しメタボな猿田彦
野﨑 憲子
薄氷や人の意図にて砕かれる
山内  聡
薄氷悲鳴を山に響かせる
亀山祐美子
合鍵の鈴凍りついてしまっている
柴田 清子
狛犬の「吽」が逃げ出す大晦日
亀山祐美子
墨描きの仙厓の犬雪降りて
河田 清峰
人と犬二人と二匹似て冬日
山内  聡
狐火やびっこを引いて帰る犬
野﨑 憲子
蓑虫や万世一系戌の年
藤川 宏樹
犬連れて銀河まで行ってみようか
三枝みずほ
葡萄
球体のまま凍りつく冬葡萄
銀   次
にんげんを染めて葡萄の匂ひけり
三枝みずほ
干葡萄いつからか夫好きになり
鈴木 幸江
倒れ込んだ人から葡萄房になる
男波 弘志
乾杯の葡萄酒冬がはじまった
亀山祐美子
数え日
数え日や銃声止まぬエルサレム
島田 章平
数え日や好きなことしかしなかった
藤川 宏樹
誰れ彼れの日が数え日を近くする
田口  浩
数え日の手で確かめる今の顔
三枝みずほ
数え日の膝より低いところかな
男波 弘志
白峯
冬月夜西行の道御陵まで
島田 章平
白峯や冬の鴉の確かな数
田口  浩
時間あるあるないあるない白峯に
鈴木 幸江
夜が更けて雪の泣く声して来たり
柴田 清子
初雪や二本の足で立つ不思議
野﨑 憲子
銀幕に鬼籍の人や風花す
増田 天志
蒲団
蒲団のなか螺子一本の夫のゐる
鈴木 幸江
妻の声して蒲団に妻の匂ひ
島田 章平
蒲団干す沖より沖より影法師
野﨑 憲子
蒲団の中で俳諧が寝返りをうつ
田口  浩
冬薔薇
冬薔薇すぐに煮詰まる私です
増田 天志
F音のソプラノ響く冬薔薇
銀   次
九竅の緩めば白き冬薔薇
河田 清峰
冬の薔薇無人バス過ぐ曲り角
藤川 宏樹
冬ばらのポリープの如膨れ出す
中村 セミ
冬薔薇こころにABC予想
鈴木 幸江

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】▼安西 篤さんからのお便りから~このところ風邪が治りきらず、夏の疲れで文責が貯まり、今一つ乗り切れません。ご返事が遅れました。例により、第七十八回の作品について三段階評価をしてみます。【☆】「水の秋みづくち うつしくちうつし(小西瞬夏)「遊糸もまじりて阿騎野の足湯かな(矢野千代子)」「秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば(月野ぽぽな)」【◎】「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう(若森京子)「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた(伊藤幸) 「ちちははの萎む肉体かりんの実(夏谷胡桃)「ひよいと日輪十一月の赤ん坊(野﨑憲子)【○】「冬ざれや会えず仕舞という老後(松本勇二)「ぐい飲みにおれの頭(ず)青し新走り(稲葉千尋)「寝釈迦めくふるさとの島神の留守(寺町志津 子)「猪垣は壊れ塵取立ててあり(大西健司)「須磨初冬人よく喋りよく歩く(野田信章)」作品を書き写しているとだんだん元気を頂いているような気分になります。向寒の季節くれぐれもご自愛を。

16日の高松での句会には、大津からの増田天志さんや初参加の中村セミさんが加わり、一年の締め括りにふさわしい、活気あふれる充実した句会になりました。午後5時近く、銀次さんの一本締めで平成二十九年の「海程」香川句会は終了 しました。来月は平成三十年の初句会になります。そして第八十回の句会です。句会後に、新年会を計画中です。皆さまにお目にかかるのが今から楽しみです。どうぞ佳きお年をお迎えください。

2017年12月5日 (火)

第78回「海程」香川句会(2017.11.18)

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事前投句参加者の一句

     
身のうちに揺れのはじまる落葉焚き 谷  孝江
留守居してひねる俳句や冬に入る 髙木 繁子
大花野かいなを櫂にして渡ろ 新野 祐子
冬ざれや会えず仕舞いという老後松本 勇二
寝釈迦めくふるさとの島神の留守 寺町志津子
細雨よりもの悲し午後ななかまど 野口思づゑ
猪垣は壊れ塵取立ててある 大西 健司
一匹は隕石の匂い赤蜻蛉 三好つや子
水澄めり哀しみのゆく眼の底を 藤田 乙女
須磨初冬人よく喋りよく歩く 野田 信章
十一月いつも何かに追はれゐて 高橋 晴子
罪状は知らず枳殻の実の黄金 亀山祐美子
秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば 月野ぽぽな
鳥渡るいのちひとつを携えて 小宮 豊和
日向ぼこ丸まる猫へ伸びいるねこ 藤川 宏樹
新米のほっこり子とするだるまさん 中野 佑海
水の秋みづくちうつしくちうつし 小西 瞬夏
沈めれば一瞬白し足湯の脚 稲葉 千尋
仕様がない仕様がないとき蜜柑むく 鈴木 幸江
今朝冬の鴉がほぐす魚眼(うおまなこ) 野澤 隆夫
冬来る少年産毛光らせて 小山やす子
ちちははの萎む肉体かりんの実 夏谷 胡桃
坐の字あり樹魂をおろす月下かな 竹本  仰
通草の実アマノウズメの舞に光 河田 清峰
小六月ころっと騙されそうな昼 柴田 清子
冬苔やリズムチロチロ散歩道 古澤 真翠
両取りの一駒指して鳥帰る 銀   次
菩提子に乗り妻に会ふ夢の中 島田 章平
老骨のさて冬蝶の好ましく 田口  浩
榠樝は多淫霧にかえして上げましょう 若森 京子
百舌鳥高音女の担がぬ棺かな 重松 敬子
鍵穴も鍵も冷たく精神科 山内  聡
焦げゆくやりんごの芯は菩薩さま 増田 天志
肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた 伊藤  幸
ろうそくと栗鼠睦びたる宇陀郡(こおり) 矢野千代子
秋の蛇にんげんだけが顔を描く 男波 弘志
するすると愛し合う月の生き物  桂  凛火
鬼柚子やどこか寅さんに似て楽し 漆原 義典
秋思の背伸ばし立飲みの一杯 三枝みずほ
たわわなるいちじく見もせず鋤く人よ 中西 裕子
串鮎の香りほのかや草の宿 疋田恵美子
秋天下パステルカラーの神戸かな 田中  怜子
赤のまま風変わりとは良い言葉 河野 志保
枯野ゆく風よ地球の守り人 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」シンプルだけど魂に命の重みがズシンと伝わる句です。遠い北の国から日本に新しき命を授かる為、我が命を危険に晒しつつ渡ってくる。余りの荘厳な営みに頭が下がります。特選句「冬来る少年産毛 光らせて」四歳の孫の頬にうっすらと白い産毛が光っているのをいつも命の輝きとして見ているので、それを実際に俳句にしておられるので感激です。すぐに、大人の男になってしまうのかと思うと残念です。さも一人で大人に成った様な口を利き 。

島田 章平

特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」。掲句、平凡な表現との指摘もあった。命とは平凡なもの。当たり前だからこそ掛け替えがないもの。命を表現するのに、技巧は不要。鳥渡ると言う壮大な冒険の中に、生きるために必死に戦う生き物 の姿が見える。

山内  聡

特選句「水澄めり哀しみのゆく眼の底を」眼の底に涙を感じその涙は澄んでいることだろう。何に哀しみを覚えたのか、眼の底をうるっと涙が潤した。涙は出ない。目頭が熱くなった。でも涙は流れるほどではない、ものの哀れみ。この微妙 な感情を敢えて「哀しみ」という言葉を使ってこの「哀しみ」の微妙なさじ加減を言い表しているような気がしました。

稲葉 千尋

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊(野﨑憲子)」鮮明な句。十一月の赤ん坊は、日輪という。十一月でなくても赤ん坊は日輪である。赤子を見ているとこちらまで日輪になる。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」言われてその通りの句。人間だ けしか、描けない。人それぞれに描く。秋の蛇は見ているだけである。

増田 天志

特選句「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう」無常なるエロス。霧になるまで、摩訶不思議な肉体。ありがとう、そして、さようなら。

小西 瞬夏

特選句「今朝冬の鴉がほぐす魚眼(うおまなこ)」写生の句である。現実を見つめる目がある。生きることの厳しい現実に目をそらさないでいることで、「つつく」ではなく「ほぐす」という描写にいきついたのだと思う。「魚眼」という言葉 が新鮮かつなまなましい。

野澤 隆夫

特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」ドングリランド(西植田町)に時々、探鳥に出かけます。サンコウチョウも出てきます。時に猪も。この山にも猪垣があり、先日は壊れた垣に、猪注意の看板が。でも塵取りが立てられてる光景は面白い 。抱腹です。もう一つの特選句「虚子が居て咳き込んでいる猫じゃらし(小山やす子)」〝吾輩は猫〟の光景です。夏目漱石が虚子から作句の添削を受けてる光景が浮かびます。漱石も相当四苦八苦の感。問題句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲 いた」〝ままこのし りぬぐい〟なる植物がこれだと聞いときビックリしたことを思い出す。蓼(たで)の花だそうで、秋の季語になってるんですね。

藤川 宏樹

特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」句会で票を多く集めました。何でもなさそうな山村の景を切り出した一句ですが、写真、絵画以上に感じさせる力があります。単純化の力でしょうか?

谷  孝江

毎月佳句ばかり。選をするのも大変なことです。特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」心の隅にはっと気付かされる句と思いました。この様な風景は身のまわりにいっぱいあります。ありすぎて見逃しているのです。塵取り、竹筆、朽ちかけ た棒切れ、掃いても掃いても、きりのない落葉、その様な事柄の中と隣り合せに居ながら見落としている自分の感性の乏しさを痛いほどに気付かせてもらいました。「父なくてなんで今宵は十三夜(鈴木幸江)」も心に残る句です。「赤のまま風変 りとは良い言葉」そうです、そうです。十二月の句稿もたのしみにしています。

若森 京子

特選句「富士冠雪昵懇になれぬ老いるとは(中野佑海」〝老いるとは〟と下五に結果を云てしまっているのは残念だが、今迄の様に、色々な物と昵懇になれないもどかしさ、昔から変わらぬ富士冠雪の姿が眩しい。一句に切ない詩が流れてい る。特選句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた」まず、〝ままこのしいぬぐい〟と云う言葉の発見は成功。タデ科の一年草で山野の陰池に生えているが、このいじけた様な言葉の面白さ。肉薄の指に合っている。

竹本  仰

特選句「罪状は知らず枳殻の実の黄金」思わず明治の恋、とタイトルを付けたいような。藤村の「はつ恋」に似て、一生懸命で分からないから恋なんだと言うような。これは、私の感性がどうかしているのか、中学生の恋だと決めつけてしま いました。特選句「仰のけば乳房は萎えし天の川」人体、この銀河、と思わず賛嘆しました。人生という受けとめ、人体の表現として、かれん、かつ新鮮な息吹きを感じます。坂口安吾の作品を高校のころ読んだとき、女の肉体は玩具だと女性自身 の言葉で表現しようという試みにびっくりしましたが、この句、それと対極のようでいて、実はかなり近いものじゃないかなあと思いました。作者は女性なんですよね?男性だったら、もっとびっくりですが。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描 く」色んな思念を起こさせる句であるなあと感心。いつから人間は顔を描くようになったのか、人類の発展史上、壁画から抜け出して、なぜ顔を描くことになったんでしょう?安部公房に「顔」という名作があります。顔を失った男が新しいマスク を作ることに成功して、その手始めに妻を誘惑するという、奇妙奇天烈な、じつに人間の基本に立ち戻った話でしたが、顔を失くすということが社会をなくす、その人間社会とは何なんだという問いかけが今も忘れられません。「にんげん」とひら がな表記にすることで、人間なるものにおりていく、いわば人間業という修行にあるというような風貌をそなえた、ストイックな平生の思念を感じさせました。問題句「水の秋みづくちうつしくちうつし」これは、特選サイドの方の問題句であると いうことで。水が流れる、とは言わないで「くちうつし」として、流れを切って切って、でも流れているという、かなり頑張り屋さんなんだという、そういう問題句でしょうか。この口調がたまらないですね。こういう方法、いや、勉強になります 。もう一度、裏の水路に出て、思い出しながら耳を澄ましてみようかと、そんな気持ちになり、さっそく今日やってみましょう。以上です。とても寒くなりました。淡路島の西方に住んでおりますから、西風がすばらしく芯まで冷え込ませます。寒 さは落差であると思います。この冷たい西風が、線香には大変よいらしいですね。淡路島の線香を見かけましたら(実は9割以上が淡路島でつくられたものですが)、その中に西風のうねりを聞き取ってください。みなさん、いつもありがとうござ います。よろしくお願いいたします。

大西 健司

特選句「秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば」長い黒髪の揺らぐときかすかに秋の蝶の匂いを感じた。そんな美しい感性にひかれる。詩人の目には常に美しいものが宿る。すてきな女性の目覚めなんだろうなと思いたい。願望を込めて特選に。

小山やす子

特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」。渡り鳥のひたすらな生きざまに感動しました。

夏谷 胡桃

特選句「秋天下パステルカラーの神戸かな」。わたしにはジブリのアニメに出てくる素敵な港町が目に浮かんできました。山から町を見下ろしているのでしょうか。夕焼けの町かしらと想像します。こちらは銀世界。モノトーンの世界なので 憧れます。ほっこり温かな気持ちなれました。特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」。会おう会いたいと言いながら会えないで幾年か。会いたい人たちがつもっていきます。香川句会の方々にも会えず仕舞いでしょうか。

伊藤  幸

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」いいですね。日本の未来は暗いと嘆いていましたが、この句を読んでいると、そうとばかりも言えないなと一筋の灯りが見えて来るような気がします。上語「ひょいと日輪」で世の中明るくなるような 希望が満ち溢れています。作者も恐らくプラス思考で前向き人生を送っておられるのでしょうね。よ~し、私も見習って頑張るぞ~~~★

男波 弘志

「ぐい飲みにおのれの頭青し新走り(稲葉千尋)」字余りが、感情の滋味を生んでいる。「木の実雨眠りたくない河馬の耳(重松敬子)」木の実の躍動への憧れか?「猪垣は壊れ塵取立ててある」塵取が結界のように存在している。モノ俳句 、珍重。「投げやりに言葉返している短日(柴田清子)」 もっと、句意にそって投げ出しては、「言葉返して日短か」では「秋蝶の匂い寝ざめの髪梳けば」濡れ髪のエロスに反応したのは、蝶のほうだろう。「遠くから来た者同士木の実踏む(河 野志保)」家を出た、者同士、そうとればドラマ性あり。「水の秋みづくちうつしくちうつし」ふと、洗礼の場を思う。珍重。「人影の海の近くの烏瓜」かるみ、の本体、写生のそれとどこが違うのか、そこが勘所、一旦摂取した、思想、哲学を「 無化」したのが、かるみ、もとより、思想、哲学をもたぬのが写生、かと。「野に足を入れて星月夜となりぬ(月野ぽぽな)」賢治の冬帽子が見えている。「焦げゆくやりんごの芯は菩薩さま」焦燥心、それを焦げると顕わしたのだろう。「階段の 下で声する木の実落ち(夏谷胡桃)」声、落ちる、フォーカスを一つに絞るなら、「木の実どき」とすべきか。

矢野千代子

特選句「大花野かいなを櫂にして渡ろ」一寸法師は箸を櫂にしたが、作者は腕をと。花野を愛でながらすすみゆく姿がみえるよう。さて行き先は?

重松 敬子

特選句「新米のほっこり子とするだるまさん」穏やかな生活のひとこまを詠んだ好ましい句。炊き立ての新米は,本当に家中をほっこりと幸せにします。だるまさんごっこが出来る時期もほんの一瞬です。大切に過ごして下さい!!

疋田恵美子

特選句「罪状は知らず枳殻の実の黄金」カラタチと聞くだけで枝が横に広がり鋭い刺を思い起こします。生け垣の植えてありました。ピンポン玉のようなミカンを取としても棘が怖くて取れなかった子供の頃。罪状ぴったり感。特選句「野に 目覚め野に眠る露に汚れて(月野ぽぽな)」広々とした農村地帯を思わせる。そこに暮らす安らかな日々、早朝の露の光りまで見えて良い。

三好つや子

今回個性的な句が多く、迷いながらも楽しく選句いたしました。特選句「何が不満猫をずずこにじゃれさせる(新野祐子)」大人気無い。心の小っちゃな人間。と、自分で自分に呆れながら、それでも腹立たしさが収まらず、手にずずこ(数 珠のこと?)をしたまま、家猫と戯れている・・・。そんな作者の粘々した気持ちを、句として昇華させたことに拍手したいです。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」 老いてゆく自分をさらけ出さず、眉を描くなどのメイクをし、騙し騙し生 きている私の心に刺さりました。入選句「小六月ころっと騙されそうな昼」最近のATMでは、オレオレ詐欺防止のメッセージが入り、うっかり操作を間違えてしまうことも。優しさと危うさの交じりあう時代の空気を感じ、惹かれました。

柴田 清子

特選句「もち米を脱穀漢らのいる公園(田中怜子)」を特選とさせてもらった。正確に言えば、季語がない。下五は、字数が余っているが、そんな事は、どうでもいいと思はすだけの骨太のガッチとした男俳句に深く惹かれた。特選句「コス モスになれたらずっと歌います(河野志保)」このコスモスのように、どんな時も、心に歌を持って人生を歩いて終えたい。うれしい時は、うれしい歌を。雪の日は、雪の歌を。

河田 清峰

ぽぽな様第63回角川俳句賞おめでとうございます!17文字が切れそうで切れない50句ありがとうございます!特選句「さねかずら阿(おもね)るように切り岸に(矢野千代子)」切り立った崖に鮮やかな美男葛の赤よく景がみえます!

月野ぽぽな

特選句「赤のまま風変はりとは良い言葉」:「風変わり」人とは違う様子、個性的な様子、その人のありのままの様子。こだわりのない自由自在の心持ち、もしくはそれを望む心地がいいですね。赤のままの素朴な個性と通じます。

鈴木 幸江

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」太陽を”日輪”と表現することで、     冬雲の中で朧に輝くその姿が想像される。冬に向かう赤ん坊の肌の輝きを同質のものと捉える作者の感性が素晴らしかった。特選句「ちちははの萎む肉体 かりんの実」かりんの少し萎んだような皮をすぐ思った。それが老人の肉体にあるみずみずしさを捉えていてお手柄。それほどでもなかったかりんが好きになった。

新野 祐子

特選句「一匹は隕石の匂い赤蜻蛉」ネオニコチノイド系農薬の濫用で、赤蜻蛉は悦滅危惧種になりつつありますが、どっこいこちらでは盛んに飛び回っています。そのうちの一匹が隕石の匂いがするなんて、想像力は果てしない宇宙へと広が ります。これ以上大地を化学物質で汚染してはなりませんね。特選句「秋思の背伸ばし立ち飲みの一杯」この一杯は、コーヒーでも熱燗でもいいのでしょうが、ワインというのはいかがですか。四十年ほど前の新宿にあったワインの立飲みバーが、 記憶の引きだしから出てきました。ロゼ色の幸福感に満ちたお店でした。「秋思の背伸ばし」に大いに共感。問題句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」ドアの向こうには、聞き上手の優しい精神科医が待っているはずでは。「冷たく」に、作者の並々なら ぬ複雑な心理を投影しているのでしょうか。いえいえ、精神科病棟のことかも。いろんな解釈ができる句はおもしろいですね。

三枝みずほ

特選句「身のうちに揺れのはじまる落葉焚き」火を眺めているうちに、忘れていた、もしくは忘れようとしたものがふっと思い出される。心の葛藤、動揺に共鳴した。

田口  浩

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」十一月を中心にすえて、日輪と赤ン坊を置くと、軍配は赤ン坊に上がる。十一月の日の光は、真夏のように、自己主張しないためである。とすれば、句の〈ひょい〉がいい。確かである。このように、 日輪を気付くのがいい。十一月をただ置いたのではなく、さりげない味わいがあろう。その上で〈赤ン坊〉がめでたい。特選句「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう」榠樝をズバリ多淫と言われれば、妙に納得させられる。その上で霧にかえさえ た榠樝の香は、多淫をかくして優雅なひろがりを持つ。何だか平安時代の女性を思わせる趣があるではないか。

松本 勇二

特選句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた」使いにくい植物名を上手く使って一句を仕上げています。問題句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」視点が面白いのですが「も」の連続が観念臭を呼び寄せます。ここは「鍵穴と鍵の冷たき」くらい で、淡々と語ったほうが、シャープな句になるように思います。

寺町志津子

特選句「新米のほっこり子とするだるまさん」にらめっこしているお相手は、お孫さんでしょうか?温かなご家庭のお暮らしぶりが忍ばれました。子どもは、幼児期の愛着形成があってこそ健やかな成長をする、と言われます。ご家族の愛情 に包まれて日々成長されているお子さんの愛らしい姿が目に浮かびます。ほっこりおいしい新米との取り合わせもぱっちりで、ほのぼのとした思いに包まれました。

田中 怜子

特選句「日向ぼこ丸まる猫へ伸びいるねこ」ほこほこ陽のひかりと温み、猫の顔と匂いまで伝わってきます。特選句「沈めれば一瞬白し足湯の脚」まるで自分の足でないように白くきれいに見えるのですよね。一瞬の変化が描けていると思い ます。

亀山祐美子

特選句『猪垣は壊れ塵取立ててある』見たままの風景ですが、「猪垣は壊れ」「塵取り立ててある」二物衝撃の取り合わせの良さ。「壊した」者、動物への怒り。「壊された垣と荒らされた作物」への無念さやるせなさ。を『塵取り』で表現 した。しかも『立ててある』のだ。怒りで突き立ててあるのか、垣の代わりに立ててあるのか…。奇妙なおかしみが伝わる。人間味溢れる一句。特選句『今朝冬の鴉がほぐす魚眼』一読暗い句だなと敬遠したが、冬へ向かう鴉のしたたかさが端的に 詠めている。「つつく」なら平凡だが「ほぐす」で鴉を擬人化し、冬空から鴉へ嘴へ、そして地べたの魚の眼へと焦点を絞り混む技の一句。巧い。特選句『百舌鳥高音女の担がぬ棺かな』そう言われれば女は棺を担がない。その通り、私は観たこと がない。「男尊女卑」だとか「女の赤不浄」だとかではなく、ここは女への労り、役割分担だと思いたい。「百舌鳥高音」が棺を囲む女たちのかしましさ、たくましさを連想させる。「男の担ぐ」では当たり前過ぎて、景がここまで広がらないだろ う。しかし、「女の担がぬ」の「の」は不要。面白い句会でした。ありがとうございました。皆様の句評、楽しみに致しております。

中西 裕子

特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」です。荒涼とした冬のなか、会いたい人に会えずに、人生を終ってしまうという、諦め、寂しさがしみじみと迫ってきます。でも、しょうがないなというからっとしたものも感じさせます。

野田 信章

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」いまし方の初冬の日の出をその形からの呼称「日輪」と表記。これが、「十一月の赤ん坊」の喩を即物的に喚起させて生気のある一句となった。これは原初的感覚を呼び起こした句と言いかえてもよい かと思う。特選句「老骨のさて冬蝶の好ましく」:「老骨」とはっきり表記することで単に老いゆく者の感慨調に終わらず「冬蝶」そのものとの物象感を伴っての生命の響き合いが具体的に伝わってくる。平明な句ながらもそこには老いを自得して 生きる者の腰の据え方の確かさがある。

河野 志保

特選句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」作者の鋭い感覚が際立つ。具体的には分からないが、爪先立ちのような心の不安定さも感じた。難解ゆえに引かれる句。

桂  凛火

特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」いつでも会えると思っているうちにふいと亡くなっていたりする。それが老後ということなのか。わたしも昔の恩師の奥様から喪中はがきがきて、驚いたばかりの今日。この句はぐっと堪えました 。仕舞いというの「という」が少し気になるのですが、かかれている内容に共鳴して心に響く一句でした。冬ざれやの季語もよかったです。

古澤 真翠

特選句「世の隅をわれたのしけれ菊枕」名も知れず、密かに人生を楽しむ作者のそこはかとない感性に惹かれるました。

漆原 義典

選んだ作品は素晴らしく全部が特選候補で特定できませんでした。最近の海程香川の皆様のレベルの高さはすごいと思います。私も勉強します!

野口思づゑ

特選句「水の秋みづくちうつしくちうつし」艶やか、そしてひらがなの美しさ。

藤田 乙女

特選句「仕様がない仕様がないとき蜜柑むく」生きている日々の中で、しょうがないと自分に言い聞かせ諦めなければならないことが多々あります。そんなときただ蜜柑をむくという姿に人間の哀感と切なさをひしひしと感じました。特選句 「世の隅をわれたのしけれ菊枕」 人生のどんなことも楽しくおおらかに生き抜こうとする姿が想像され素敵だなあと思いました。菊枕の季語が効果的に使われていると思います。

銀   次

今月の誤読●「芒原母には方舟見えるらし」。ええー、たたた、ただいまご紹介にあずかりました、ぶんぶんぶん蜂が飛ぶ、いや、あのあの、ぶん文化人類学者のい、いいい、いー犬田銀次郎と申します。ほほ、本日は世界の各地に流布され ている、かかかか、カーゴ(貨物船)信仰についてお話しいたしたいと、おもおも思います。これはある種の招神信仰でありまして、待っていればいつか、てんてんてんまりじゃなく、天より神さまが巨大な船をおつかわしになり、その船にはあり がたいもの、ま、たたたたとえば、文明、ま、便利なものとか、ま、役に立つものですわな、あるいは、ま、美味しいものとかを積み荷として村人に運んできてくださるという、そういう、ひひひひひ非常に原始的な信仰なんですよね。この信仰に とりつかれると、なかには、こう、どうかその船がこの地に下りてきますようにと、かかかか滑走路をつくったり、広場をつくったりしたともいいます。そそそそそういう意味では「芒原」なんかはかっこうの着陸地点になたなたなたなた、なっ、 ゴホン、なったと思いますよ。で、出迎えるのはやはり長老とか呪術師とか、ま、男神さまだったら老女というのもありありありあり、ありが噛んだ、いや違った、ありだったかも知れませんね。だからこの句にある「母には方舟が見えるらし」と いうのも、お母さまはそういう呪力をお持ちになった方だったのかもしれません。ただそのカーゴが運んでくるものが、ほんとにいいモノなのかどうか。こここここ、こけこっこ、ここ大事ですね。意外と機関銃とか戦車とか、ときにはミサイルだ ったりしますからね。せんせん戦後のアメリカ神さまが日本人という村人になにをお与えになったのか。ここ考えましょうね。いえいえ、とととと、虎の威を借る狐、じゃじゃじゃなく、トランプさまのことを言ってるわけじゃりませんので、どう ぞブラックリストにはお載せにならないように。

高橋 晴子

特選句「野に目覚め野に眠る露に汚れて」うまく表現できないが内面の哀しみ、みたいなものを感じさせる句。問題句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」面白い表現だし、人間観が出ていていい句だと思うのだが、何か〝にんげんだけが〟と いう表現に違和感がある。  二十三日、東京へ行ってきました。先ず、現代俳句協会創立七十周年記念大会へ。シンポジウムのテーマは「俳句の未来・季語の未来」。私は、自分の心を表現するのに突飛な季語など要らないと思うのだけれど、何 か日本語もおかしい方向にいっているようです。そして、運慶展、子規庵と観てきました。子規の庵は小さくて色んな花があって楽しかったです。

小宮 豊和

特選句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」私情をまじえず、ずばりと事実を述べた確かな伝達力は、単なる表現技術だけで発生するものではないと思わせる。作者の実感がたくまずしてまっすぐにずっしりと伝わってくる。そして読者に言葉になり にくい、読者独特の様々な感情を発生させる。良い句であると思う。

野﨑 憲子

特選句「補陀落渡海波にむくろじ零れおり」補陀落へと向かう僧を乗せた舟。波に切り込む無患子の実の様が無情この上もない。問題句「坐の字あり樹魂をおろす月下かな」:そして、もう一つの特選句。只、「坐の字あり」が眼目なれど、 少し、くどいかなと思う。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

梯子
梯子を下りると大人になっていた冬日
田口  浩
先人の残せし梯子冬校舎
鈴木 幸江
梯子より十一月の虹童子
野﨑 憲子
ペンキ
ペンキ塗りたて触りたくって秋の手
三枝みずほ
冬暖か白いペンキの塗り始め
柴田 清子
冬ぬくし主治医先生ペンキ塗り
野澤 隆夫
窪み
四次元のくぼみに地球冬の月
山内  聡
凩の窪みきろぎろ夜が明ける
野﨑 憲子
短日やくぼみはい出す散歩犬
野澤 隆夫
セーター
首のないセーター子種のない男
柴田 清子
セーターを着て黒猫になるどこへいった
田口  浩
一日を引っ繰り返して着るセーター
鈴木 幸江
冬紅葉
結願の一段一段冬紅葉
島田 章平
雪受けてにじむ名残の冬紅葉
小宮 豊和
冬紅葉二人で歩く日曜日
亀山祐美子
女子会にちょっと気合いや冬紅葉
中野 佑海
熱燗
何事ぞ娘が熱燗つけてきた
小宮 豊和
熱燗や海馬の奥に悪の華
島田 章平
熱燗に進化忘れた孫の耳
藤川 宏樹

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】◆安西 篤さんのお便りから~第77回香川句会報有難うございました。参加人数も変わりなく、関西地区を網羅する活動振りに感嘆しております。さて、今回作品について前回同様三段階評価をしてみます。【☆】「我がうなじ鱗 はがれる黄落期」(若森京子)」「かごめかごめの小春日移民の沖ありて」(野田信章)」「水澄んでいちにち風を聴いている」(月野ぽぽな)【◎】「どんぐりころころ百歳で不良」(伊藤 幸)」「流れ藻や耳を平らに音拾う」(矢野千代子) 「釣瓶落し大笑面の限りなし」(野﨑憲子)【○】「ふかし芋割ってちょうどいい関係」(三枝みずほ)「秋涼や旅のこだまが身を揺する」(疋田恵美子)「衣被ぎ卓袱台の頃ありしかな」(稲葉千尋)「夕時雨黒い牡牛の背に湯気」(小宮豊和)

【通信欄】◆竹本 仰さんのメールより~今回、拙句「坐の字あり樹魂をおろす月下かな」を選んでくださり、ありがとうございました。去年、高知の書道館で、「坐」という作品に接しました。書というより、そこに坐骨が置いてある感じで。 何だ、この、もうもうたるリアル感は?で、今年は和歌山にある書道館に入ると、おやっ、ここの書道館は、劇場だなあとなぜか照明に感心。そこで、漢詩の作品に見入っていると、何と言うんでしょうか、書の作者の楽しさが見えてくるんですよね。 この時、感じたのは、月光があれば、何でも出来るんだ、という感覚。すると浮かんだのは、突然ですが、去年の「坐」を書いていた作者の姿です。ああ、これは、俳句と同じなんだと、妙に納得。いったい、私は、何をしていたんでしょう? この夢でも見ているような感覚を、何と言えばいいか。俳句-月光-坐。  一句をなすことよりも、これは大事かも、と、まあ、一句になるか、ならないか。私の好きな演劇のパターンですね。何かが始まりかけて、幕。ということで、あの句。 まあ、構想のストーリーを楽しんでいる、そんな句もあっていいかと。また、楽しい句が出来ましたら、香川句会へ出そうと思います。よろしくお願いいたします。

貴重な感想と自句自解ありがとうございました。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

【句会メモ】小雨の中の開催でしたが、岡山からの小西瞬夏さんを始め14名の方々の参加で、熱い句会が開催されました。先日、四国遍路の結願をされた島田章平さんが菩提子(菩提樹の実)をたくさん持って来てくださいました。高いところ から落下させると面白い軌道を描き、大好評でした。<袋回し句会>の作品は、同意くださった方々の1句~2句を選び掲載させていただきました。ますます作品が多様化し面白くなってまいりました。全て掲載できなくて残念です。次回が又たのしみです。

冒頭の写真は、島田章平さん撮影の<紅葉の栗林公園>です。

2017年11月8日 (水)

第77回「海程」香川句会(2017.10.21)

横峰寺・野紺菊.jpg

事前投句参加者の一句

 
露けしや針一本が足りなくて 小山やす子
秋涼や旅のこだまが身を揺する 疋田恵美子
水澄んでいちにち風を聴いている 月野ぽぽな
空ひらく鍵やはらかき渡り鳥 増田 天志
ふかし芋割ってちょうどいい関係 三枝みずほ
秋の聲おどけておどるひよっとこ 古澤 真翠
天の川ネットショップに寄り道す 重松 敬子
白鷺の影の流れのひやひやす 亀山祐美子
泣いている虫などなくて鳴いている 男波 弘志
おしゃべりのつづく月夜のきのこたち 柴田 清子
石人形の白首須磨の秋乾き 野田 信章
秋声の只中にある法隆寺 高橋 晴子
十六夜や島の飲み屋に蛸の這う 大西 健司
ぬしさんはへくそかづらでありんすか 田口  浩
大皿に梨栗林檎家族葬 菅原 春み
長き夜やらじる☆らじるで聴く漢詩  野澤 隆夫
刈田更け百鬼夜行の道が開く 松本 勇二
鶏頭の髄まで雨は直立す 竹本  仰
図書館の窓の大きく薄紅葉 山内  聡
虫すだく三半規管のような駅 三好つや子
排除とう風に寄り添う破芭蕉 河田 清峰
源平の戦遥かや須磨の秋 田中 怜子
その先は木犀だけが散る話 河野 志保
ペンを差す胸元漠と木の実雨 若森 京子
秋山に小さく灯す誰かの家 鈴木 幸江
石蕗の花落葉を受けてそっと咲く 漆原 義典
生協でサンマを5匹買う茶髪 中西 裕子
コスモスの花一輪とブルドーザ 銀   次
丸刈りの稲田へそよと青産毛 藤川 宏樹
沈黙のはじまり鹿がこちら見る 稲葉 千尋
腹立つと笑うも可なり捨案山子 中野 佑海
千枚田どこも刈田になりにけり 髙木 繁子
月の野へウツボカズラの匂ひ出す 島田 章平
鶏絞めて漢の仕切る秋まつり 谷  孝江
好敵手石榴笑むごと登場す  新野 祐子
物乞いを見過ごしたふり嘘寒や 野口思づゑ
夕時雨黒い牡牛の背(せな)に湯気 小宮 豊和
どんぐりころころ百歳で不良 伊藤  幸
地球の音聴く茸の耳つかむ 夏谷 胡桃
心にも窓あり柘榴爆ぜるかな 寺町志津子
覇者の果て逆さ海月は波任せ 桂  凛火
電線と唇濡らす秋時雨 藤田 乙女
流れ藻や耳を平らに音拾う 矢野千代子
釣瓶落し大笑面の限りなし 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「鶏絞めて漢の仕切る秋まつり」生贄の風習は、神への感謝と同時に、にんげんの罪業を自覚する為に、必要であった。生贄の血を流し、生命を絶つことの意義を再認識したい。

島田 章平

特選句「一の谷は此処青かりんが鈍と落つ(矢野千代子)」。義経の「逆落し」の急襲で名高い一の谷。そして平敦盛の悲劇の海、須磨。時を経ても変わらぬ平家物語の世界。栄枯盛衰の世の倣い。熟す事無く落ちるいびつな形の 青いかりんの実。「鈍」と言う鈍い音。遠い世界と今の時代の時空の狭間に聞こえて来る叫びの声の様です

中野 佑海

特選句「桃握り潰す怒りの闇明かり(小山やす子)」:「桃」って邪気払いをする聖なる木。選りにも選ってそれを潰すとはかなりの強者。怒りで閻魔様の様になってるなんて一度見てみたい。もしかして貴方が女性なんてことは無 いですよね!?特選句「つゆくさは なみだあつめの めいじんだ(伊藤 幸)」と言われたら、妙に納得してしまうんです。葬式で泣いている泣女の腰巾着が露草と呼ばれているなんて思ってもみませんでした!?体調を崩したと言う大 義名分の下。一週間をのらりくらりと過ごしていたら、何と体脂肪率が3%も増えてしまったじゃないですか!やはり人間も動物。動いてなんぼですね。トホホ。

小西 瞬夏

特選句「ドッペルゲンガ 芒より窺いぬ」:「ドッペルゲンガ」を俳句として一つの作品にした手柄。一字あけは演出としてありえる。「芒」という具象の存在感。その危うさとしなやかさ。「窺いぬ」という動詞も、実景に暗喩を 重ねている。言葉の強度が大きい。

小山やす子

特選句「覇者の果て逆さ海月は波任せ」海月じゃ波任せが効いていると思います。「石人形の白首須磨の秋乾き」凄まじさを感じます。

疋田恵美子

特選句「ふかし芋割ってちょうどいい関係」夫婦であり、親子であり理想的な関係ですね。皆さんの憧れです。特選句「鶏絞めて漢の仕切る秋まつり」子供の頃父の姿を懐かしく思いました。

男波 弘志

「抱かれねば忘れ去られし月の裏側(中野佑海)」男女何れかの受け身、はエロスの本体にあらず。抱き合わねば、では。「露けしや針一本が足りなくて」誰かが、踏む、不安、そして、諦め、流転の理法に適っている。「水澄ん でいちにち風を聴いている」色なき風、それよりも澄んだ、風、への驚嘆。「白鷺の影の流れのひやひやす」白鷺、そのものが、無化している。「逃水やときどき人が現れる」ふと、天竺を目指した、玄奘三蔵を思う。因みに、三蔵法師は 位の尊称であり、玄奘その人ではない。「大皿に梨栗林檎家族葬」俳諧、庶民性、死への祝祭。珍重也。「鶏頭の髄まで雨の直立す」徹底した写実表現。僕の髄まで泣いている。「桃啜る真昼の空を広くして(月野ぽぽな)」出来れば、意 思を外したいが、でも、巨大な虚空観がある。「千枚田どこも刈田になりにけり」俳句表現を突き詰めると、説明はなくなる。「蚯蚓鳴くきのふのすこしづつ遠し」かなかな、でも、郭公、でもない、それが俳諧の背骨、見事。「秋雨やこ の町もはや地図になし(銀次)」もはや、強すぎでは、いつか地図になし、ぐらいでは。「流れ藻や耳を平らに音拾う」不思議な風景、音拾う、は必然か?

竹本  仰

特選句「泣いている虫などなくて鳴いている」仏像の顔もそうですね、例外はたまにありますが、泣いている仏さまはまず見ないものです。病んだ人は、虫の音をそう聞くかもしれませんが、またそういう句も多いのですが、それ は投影というものです。わりと思いこみを俳句に押しつける、おいおいそんな俳句をいじめるなという風情もある中、こういうきちんと耳を澄ました句はいいなあと思いました。特選句「丸刈りの稲田へそよと青産毛」何となく、何か変に 懐かしいなあと思いましたが、宮澤賢治さんの「高原」という詩を思い出したからでしょうか。「海だべがど おら おもたれば/やつぱり光る山だたぢやい/ホゥ/髪毛 風吹けば/鹿踊りだぢやい」。この詩と似た風が吹いたようにも 。「青産毛」って何でしょうかね。馬だろうか、赤ちゃんだろうか、そのわからなさも魅力あるんですね。その風は、明日への扉ですよというか、そんな感じがいいですね。特選句「腹立つと笑うも可なり捨案山子」本当は相当に腹が立っ てる感じがしました。人間はわからなさが頂点までいくと、泣くか笑うかしかなくなるんではと時々そう思ったりしますが、ただここはその限界まで来ている自分に気づいたから、そんな選択肢も降りてきたんでしょうね。斉藤斎藤さんの 歌「雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁」というのを思いました。こういう踏み込んだ句、いいと思いました。その中で、銀次さんの銀河鉄道の夜のミュージカルですか、どんなだったんでしょう。賢治の作 品の舞台って、どれもこれも多様性があって、いつも気になります。神戸にいる知人も舞台の演出やっていて、唐版・風の又三郎観ましたが、こちらは前衛ノリノリのお芝居、よく高校演劇でも賢治作品にちなんだものが上演され、これは そうだな、いやいやそれは賢治じゃないでしょ、とかその全集愛読者だった私は、好んで観たものです。でも、盛岡の知り合いの方によれば、生前、地元花巻では変人、奇人の類で有名だったとか、どうも学校の先生には向かなかった天性 の何か不可思議なものを持っていた人のようですね。地元の人は面白いもので、賢治文学館に行ったとき、展示の書簡を目にして、「へえー、あっこの爺さん、賢治と知り合いだったんだ」とか洩らしていたり、まだ賢治はご近所さんで通 っているようですね。おしゃべり長くなりました。今後ともよろしくお願いいたします。

中西 裕子

特選句「飲み込んで満月蛇の脱皮せり(野﨑憲子)」は、蛇が満月を飲み込めばつるりと脱皮がらくでしょうと、なにか可笑しさがあります。「桃握り潰す怒りの闇明かり」の激しさに圧倒されました。「点滴の痛ましき痣吾亦紅 (菅原春み)」は、「点滴の痛ましき痣」が吾亦紅のようなかたちなのでしょうか、不運の中に詩情があります。「手ぶらでは戻らぬ伯母ぞあぶら茸(三好つや子)」は、先月のはみ出す伯母、を思い出して面白い伯母シリーズみたいです 。いつも楽しい句をありがとうございます。

矢野千代子

特選句「十六夜や島の飲み屋に蛸の這う」明石の魚の棚商店街でも、かっては道路へ逃げ出す蛸をみかけたが、こちらは飲み屋。「十六夜」効果かな。特選句「つゆくさは なみだあつめの めいじんだ」ひらがな表記と内容に注 目。この句、漢字で書かれるとあっさり通りすぎるかも――。

稲葉 千尋

特選句「排除とう風に寄り添う破芭蕉」まさに今回の選挙を左右する「言葉」を見事に句になされた力に脱帽。特選句「戦後の眼のキラキラはどこ蜻蛉とぶ(野田信章)」戦後っ子の私が思うあの「目」はどこへ行ったか、「幸せ はおいらの願い・・・・・・・」の歌を思い出す。

寺町志津子

特選句「水澄んでいちにち風を聴いている」好きな句である。誰にでも分かりやすく、アッと驚く仕掛けもなく、あるいは類句があるかもしれないとも思いつつ、晴れ渡った秋天。川や湖の澄み切った美しい水。その水を眺めなが ら、終日、一人で静かに風の音だけを聴いている作者。「聞いている」のではなく、「聴いている」のである。この静謐感、透明感の虜になった。一日を「いちにち」とした効果も逃せない。

夏谷 胡桃

特選句「大皿に梨栗林檎家族葬」。こんな家族葬いいなと思いました。葬儀屋さんが用意した供物ではなく、季節の物をわたしが好きだった皿にわんさかもって、みんなで機嫌よくお酒を飲んでもらいたいです。特選句「難聴の傾 く角度や式部の実」。難聴の方が耳を傾ける角度ってあるある。そして大きな声で話すほうも相手の角度に合わせて、声を出す。式部の実も良いと思いました。問題句「長き夜やらじる☆らしるで聴く漢詩」。句としてはとらない句だけど 、わたしも聴いていたのでとりました。普通にラジオの電波が届かない山の中なので、らじる☆らじるにお世話になっています。

古澤 真翠

特選句「鳥渡る在来線の一人旅(小宮豊和)」わかりやすい言葉で、情景を鮮やかに表現して自然と人生との融合が感じらる壮大な句だと感服いたしました。

山内  聡

特選句「コスモスの花一輪とブルドーザ」多分作業員のいないブルドーザなどの重機が殺伐と並んでいるその片隅に、一輪の花を見つけた。それもコスモス。作業員がもしかしたらその一輪のコスモスに気がついていないかもしれ ない。でも、自然の女神が一輪挿しのようにコスモスを活けて作業員をねぎらっている風な感傷を得ました。ブルドーザのような言葉が一句に据えられている驚きとコスモスとの調和。

若森 京子

特選句「石人形の白首須磨の秋乾き」須磨という土地柄、石人形の白首が生々しく伝わってくる。「秋乾き」の措辞で歴史的背景の乾きを感じる。特選句「流れ藻や耳を平らに音拾う」流れ藻の生体と人間の難聴による現象がうま く一句に詠まれているのに惹かれた。

藤川 宏樹

特選句「好敵手石榴笑むごと登場す」石榴は子供の頃以来、実物を目にしていない。赤いつぶつぶの不思議な様相の果実、どう食したか記憶は定かでない。そんな私にも「石榴笑むごと」の喩えが憎悪むき出しの好敵手登場を的確 に表現していると伝わりました。「あっぱれ」です。

三枝みずほ

特選句「空ひらく鍵やはらかき渡り鳥」渡り鳥が秋の空を開く鍵だという把握が的確で、風を感じさせられる。心まで解放されてゆくような雄大な景に感銘を受けた。

三好つや子

特選句「大皿に梨栗林檎家族葬」隣家にも伝えず、家族のみで行うお葬式が一般化し、私も句にしようと頑張りましたが、このような意表をつく言い回しには至りませんでした。脱帽です。特選句「地球の音聴く茸の耳つかむ」地 表に群がり、地球という生命体の内側から発せられる音をじっと聞いている茸たちの、神秘的な生態が目に浮かびます。入選句「間違えて大人になった南瓜かな(河野志保)」振り返ることすら恐い、恥多き人生。飄々としながらも、自虐 的な語り口に共感。

田口  浩

特選句「秋山に小さく灯す誰かの家」一読、<秋山に>のストレートぶりに、<誰かの家>の字余りが、広がりを見せておもしろい。<小さく>は、消した方が、いいかもと読んだが・・・・。そうではなかった。<小さく>を入れること によって、<誰かの家>の人物像がしぼられて愉しい。特選句「一の谷は此処青かりんが鈍と落つ」見落していた句である。読み返えして見ると、なかなかどうして不明が恥ずかしい。<青かりんが鈍と落つ>このリアリズムが、「一谷嫩軍旗 」の熊谷直実、平敦盛を、此処に再現せしめた。〈青かりん>がいい。〈鈍と落つ>の音が腸に響く。

柴田 清子

特選句「水澄んでいちにち風を聴いている」いつになったら、こんな心境になれるのかしら。ボタン一つで何でも思いが叶ふような暮しそれでいて、何かが足りない。自然に生かされていることさえ忘れてしまっている。季節くの ある日の風からの声、メッセージにいちにち中耳を傾ける日を持ちたいわ! 

野田 信章

特選句「沈黙のはじまり鹿がこちら見る」の句。生きもの同士の視線の交感がある。「沈黙のはじまり」の把握には、そこに自と二つの生命のおもたさが宿っている。特選句「流れ藻や耳を平らに音拾う」の句。一読、爽気を覚え るところから初秋の頃の視覚と聴覚のバランスのとれた句として読んだ。「流れ藻や」の効果とも。私にとっては、二句共に、即刻の見というか、出合いの直感は時間が短いほど鋭くはたらくものと示唆してくれる例句である。

月野ぽぽな

特選句「電線と唇濡らす秋時雨」雨に物が濡れるのはそのままなのだが、「電線」と「唇」を取り込んだところが面白い。ある心情を持ったその刹那に感知したからこそ立ち上がる即興感がある。モノクロの景色に静かな情念が程 よくオーバーラップしてきて、読者の想像力を刺激してくれる。今月は、いつもに増して面白かったです。よろしくお願いします。

野澤隆夫

今月もお世話になりました。あわせて今月も楽しい句会でした。特選句一つ目「蜂蜜のかたくなる朝のブラームス(夏谷胡桃)」朝はパン食のやや多い小生。蜂蜜の堅い日もありますね。ヨーグルトになかなか流れてくれなかった りして。作者はブラームスの〝バイオリン協奏曲〟ではなく宗教曲〝アベマリア〟が流れているのでは。特選句二つ目「世の中をツルリと忘れマスカット」こんな思いのする時、確かにありますね。わずらわしい、何かに決着をつけて〝エ エイ!まーいいか〟と。カタカナ表記の〝ツルリ〟と〝マスカット〟がいいです。問題句「ぬしさんはへくそかづらでありんすか(田口 浩)」ひらがな表記のセリフが面白い。今月は久しぶりの歌仙。天志さんの捌きで「萩こぼれ」の巻 。皆で和気あいあいとできるのも天志さんの人徳。出来上がった〝初折の表と裏・18句〟を通して読むと、何とも面白いです。ありがとうございました。

伊藤  幸

特選句「かにかくに人恋いて寄る獺祭忌(高橋晴子)」子規の居、獺祭書屋、多くの人が子規を慕い集まったと聞く。秋の夜は人恋しくなるものだ。円座して秋の夜長、心温め合いつつ気の合ったもの同士句会を催している様子が 手に取るように窺える。読み手までもがほのぼのとした気分にさせられる句だ。

谷  孝江

「どんぐりころころ百歳で不良」良いですね。いい年だからって妙に好々爺ぶっている人なんて嫌いです。好きな様に自由に生きれば好いのです。わたしも鬼ババアで不良と思っています。可愛い不良でいたいものですね。特選句 「かにかくに人恋いて寄る獺祭忌」子規の居、獺祭書屋、多くの人が子規を慕い集まったと聞く。秋の夜は人恋しくなるものだ。円座して秋の夜長、心温め合いつつ気の合ったもの同士句会を催している様子が手に取るように窺える。読み 手までもがほのぼのとした気分にさせられる句だ。

松本 勇二

特選句「わたくしの中へもこぼれくる零余子(谷 孝江)」一句一章により、零余子がこぼれるスピード感が伝わってきます。「も」がこぼれる量の多さを物語っています。問題句「ドッペルゲンガー芒より窺いぬ」ドッペルゲン ガーを上五とし、中七を「芒原より」などと七文字にするとリズムが良くなり、シュールで存在感のある句になると思います。

野口思づゑ

特選句「空ひらく鍵やはらかき渡り鳥」鳥が鍵に見えたことはありませんが、この句を思い浮かべながら秋の空を見てみたいと思わせた句です。問題句「長き夜やらじる☆らじるで聴く漢詩」中7が意味不明、でも感覚がわかるよ うな不思議な句です。もどかしい分惹かれる。

鈴木 幸江

特選句「ぬしさんはへくそかづらでありんすか」まず、文語口語の句であることが面白かった。そして、臭い匂いがするへくそかづらと美しい遊女と思われる女性の取り合わせがまた面白い。句そのままの光景を想像しても微笑ま しいが、遊女だって人間だ、そんなことを言いたくなる客も、いただろうにと無神経な想像をしたが、つい笑ってしまった。「世の中をツルリと忘れマスカット(河野志保)」私の気分で特選にさせていただいいてもいいのかなあ?と思い つつも、いいのだとし特選にした。自分の感受性を信じ大切にすることも現代俳句には意味のあることだ。それは、選句においても同じである。この句は、考えることを止めた時、見えてくる景色に真実があることを暗示している。開放感 が気持ち良かった。問題句評「漱石と蟋蟀の髭国荒れて」私は、漱石は東洋文化と西洋文化の統合に苦しんだ人物だと思っている。 そして、蟋蟀の髭は自然物のアンテナの象徴と思った。国荒れては今の国際情勢ことだ。三物衝撃により 、何かを警告しているのだが、何を警告しているのかよく分からなかった。

桂  凛火

特選句「夕時雨黒い牡牛の背(せな)に湯気」牡牛の存在感が抜群ですね。背に湯気にリアリティを感じました。力強い生命感といのちの息吹のようなものに共感しました。夕時雨も冷たい雨の中になおかつ湯気をたてる背が見える ようで、場面設定としてとてもよかったと思います

河田 清峰

特選句「石人形の白首須磨の秋乾き」須磨と謂えば平家物語と源氏物語を思い浮かべるがここは源氏物語であろう!石人形の白首はやはり女性であると思う…紫式部の石山寺を…そして須磨の巻を…下五の秋乾きが実に深く感じる 句である!

銀  次

今月の誤読●「沈黙のはじまり鹿がこちら見る」。ネッドは人差し指をペロリとなめて、その指で散弾銃の銃身をそっと撫でた。それはただの習慣のようでもあり、まじないのようでもあった。あの大鹿を追ってもう一週間になる 。もうすぐ日暮れだ。今日もダメか。気の早い一番星がすでにかすかな光芒を放っている。それは永遠を意味し、反対に銃は生死を一瞬に分かつつかの間を意味する。そのときだった崖のうえにあの大鹿がヌウと現れた。ネッドはふいをつ かれたかのように凍りついた。風下だ。気づかれることはあるまい。それでも動けなかった。金星はさらに光を増し、その真下に大鹿は立っていた。それは大いなる威厳に満ちた彫像だ。それは題名のない壮大な絵画だ。ネッドは目覚めた ように散弾銃を肩に押し当て、その彫像に狙いを定めた。「鹿がこちらを見る」。逃げるそぶりはまったく見せない。ネッドは立ち上がった。そうすることが大鹿に対する儀礼であると思ったからだ。「沈黙のはじまり」。大鹿はかすかに 笑っているようだった。それは神々しい神の笑みだった。ネッドはトリガーに指をかけ、ゆっくりと引き絞った。だがすんでのところで銃を下ろした。それを見届けたかのように大鹿は背を向け、ふいに消えた。気がつくとネッドは泣いて いた。なぜかはわからぬままに、苦笑しながら涙を流した。見るべきものは見た。ネッドはその日山を下りた。以来、ネッドが銃を持つことは二度となかった。

新野 祐子

特選句「その先は木犀だけが散る話」読者の心を掻き乱す小説のエピローグのようです。木犀「だけ」が散るのですから。「その先は」という使い方からも、作者の力量は相当なものだと思います。特選句「ペンを差す胸元漠と木 の実雨」こちらは映画のワンシーンのよう。『百年の散歩』(多和田葉子著)に「まわりの視線がいっせいに集まってくるのを感じ、あわててメモ帳を閉じて、何気ない顔をして歩き始めた。路上で携帯メールを打っていても誰も不思議が らないのに、メモ帳と鉛筆というのはどうやら不審と不安をかきたてるようだった」という一文があります。この句からも、異国にいて(かどうかわからないけれど)漠然とした不安に駆られている作者が、映像として見えてきます。問題 句「つゆくさは なみだあつめの めいじんだ」内容はとても素敵です。なにゆえ分かち書きにする必要があったのでしょうか。

田中 怜子

特選句「刈田更け百鬼夜行の道が開く」こんな体験を子どもの頃したことある。怖くもあり、草叢から何かが出て来てくるような。特選句「秋雨やこの町もはや地図になし」さーっと白い雨がけぶり、いつもの町が見えなくなって しまった。そんな情景が目に浮かびました。それを地図になし、と。

大西 健司

特選句「虫すだく三半規管のような駅」三半規管をどう捉えるか難しいところだが、どこか迷路のような、それでいてひなびた駅が思われる。少し書き方が素っ気ない感じもするが特選にいただいた。問題句「ぬしさんはへくそか ずらでありんすか」こちらは文句なくおもしろい。ただ作者のしてやったり感が半端ないので問題作とした。へくそかずらはつらいよなあといったところ。

河野 志保

特選句「空ひらく鍵やはらかき渡り鳥」簡潔で大きな句姿にひかれた。「空ひらく鍵」が渡り鳥にぴったり。そこはかとない愁いが漂って余韻も豊か。

菅原 春み

特選句「虫すだく三半規管のような駅」三半規管とは良く見つけたと感動。特選句「流れ藻や耳を平らに音拾う」流れ喪と耳の平らの取り合わせがなんともいい。「露けしや針一本が足りなくて」いい味です。「空ひらく鍵やはら かき渡り鳥」やわらかい鍵が眼目か。「真葛原亡母(はは)に詫びたきこと一つ(寺町志津子)」共感します。季語がいい。「十六夜や島の飲み屋に蛸の這う」景色が見える。「鶏頭の髄まで雨は直立す」直立するとは見事。「ひだる神背負 いて下る紅葉山(松本勇二)」ひだる神も紅葉山も映像化できそう。「冬の雷袋の口が開かない(重松敬子)」なんだかおもしろい。

高橋 晴子

特選句「好敵手石榴笑むごと登場す」小気味よい感覚で好きな句。「石榴笑むごと」の具象化がよく効いていて、人物が見えてくる。私もこういう人物になりたいものだ。問題句「ドッペルゲンガー芒より窺いぬ」〝ドッペルゲン ガー〟が何なのかわからなくて辞書を引く。分身とか、自分の姿を自分で眼にする幻覚現象とある。で、面白いと思ったのだが、やはりドッペルゲンガーが一般的に知られていない言葉で、少し無理があるかなあ、それとも、この句が成功 しているとすれば、ドッペルゲンガーが普及する力を見る。いづれにしても面白い句。

小宮 豊和

今月は心ひかれる句が多かったが、ちょっと言いたいことのある句もあった。いただいた句の中から失礼とは思いつつ読み手の気持ちをお伝えしたい。「わたくしの中へもこぼれくる零余子」中七「中へも」の「も」は不要と思う のです。「中へこぼれてくる」などとした場合どう変わるかですが。「どんぐりころころ百歳で不良」百歳が老いすぎの感。兜太師も不良は卒業したようです。百歳以下を「不良現役七十五(歳〉)」としたら生々しすぎるでしょうか。「 芋喰らう夫婦というは修行かな(鈴木幸江)」下五「かな」は、「なり」などの方が良いと感じる。「かな」と置くとしたら「夫婦なること」などと、体言が必要だと思います。このようなことを思いつつそれでもいただいたのは一重に良 い感性、良い題材を取り上げられたことのすばらしさです。

漆原 義典

特選句「ふかし芋割ってちょうどいい関係」の、ほのぼのした雰囲気が伝わってくるのがうれしく特選とさせていただきました。ありがとうございます。

亀山祐美子

特選句『鶏絞めて漢の仕切る秋まつり』「鶏を締める」動作と「漢の仕切る秋まつり」のシンプルな事実の二物衝突の見事さ。めでたさ。収穫の喜びの拡がりを過不足なく表現する力強さと共に、農耕民族、狩猟民族としての集団 の規律、歴史さえ垣間見える。どっしりとした青空の見える五臓六腑に染み渡る一句。 久々の天志さんの裁きの連句も楽しい時間でした。ありがとうございました。

野﨑 憲子

特選句「大袈裟に見まわして恋赤のまま」これは初恋の景と直感した。たぶん、少女の。恋しい人を待つ川岸。風に揺れる赤まんまに焦点を合わせたその風情に惹かれた。「大袈裟に見まわして恋」のダイナミックな句跨りから、 胸の高鳴りがこちらにまで伝わってくる。問題句「かちりんと銀河つめたき骨である(増田天志)」この作品も、特に惹かれた句のひとつである。今回も、頂きたかった作品がほんとうに多かった。「銀河つめたき骨である」の把握に、驚 き、不思議に納得させられた。只「かちりんと」の「と」に引っかかり問題句とさせていただいた。

(一部省略、原文通り)

半歌仙<萩こぼれ」の巻

半歌仙「萩こぼれ」の巻
萩こぼれ宮人の舟漕ぎ出さむ
天志
  海濡らしをり瀬戸内の月
瞬夏
しらしらと朝を迎える花野にて
清子
  ひょいと振り向く崖の白馬
憲子
万緑に輝く命満ちてをり
  自転車飛ばす麦わらの女子
たかお
曾祖母の異国に遊ぶこともなく
幸江
  耳の恋しき舌の恋しき
ゆみこ
接吻のあとの名残りの紅残る
章平
  標本箱に羽ばたくかたち
瞬夏
はごろもの風の青さに乗るうすさ
ゆみこ
  からから笑ひ団子食ふ子ら
宏樹
冬の月天の高さの途中なり
  指笛鳴らし梟を呼ぶ
瞬夏
書に耽る師の顔蒼し夜明け前
憲子
  スターバックス我には苦し
たかお
酒に酔ひ男に酔つて花に酔ふ
清子
  遠く近くに陽炎の立つ
憲子

【通信欄】&【句会メモ】

安西 篤さんからのお葉書から~海程終刊も北朝鮮問題も関係のない香川句会の充実ぶりに鼓舞される思いで選を(三段階評価で)。【☆】「子規にふれ蓑虫にふれ国家論(若森京子)」「兄へ白秋桂馬のように飛んでいるか(松本勇 二)」「つるべおとし逃げまわる子と石鹸(矢野千代子)」【◎】「百日紅父母亡き家の屋敷神(稲葉千尋)」「行間をはみ出す叔母です秋暑し(寺町志津子)」「聖書読むように泉を見つめている(月野ぽぽな)」【○】「竜虎図やそこ に大ぶりな無花果(大西健司)」「蜂歩く二百十日の皿の縁(三好つや子)」「停戦は廃墟の街に鳥渡る(増田天志)」「姥百合や飯喰い男となり申す(野田信章)」「そばにゐて風になりたいすすきかな(野﨑憲子)」

10月の、高松での句会では、大津より参加された増田天志さんの捌きで、一年ぶりに半歌仙を巻きました。連句の、後戻りしないで、参加者全員で、先へ先へと巻いて行く作り方や、ベテランも、俳句初学の方も、同じ舞台に立つの が、さながら人生絵巻のようで、とても興味深かったです。また、いつか挑戦してみたいです。

写真は、島田章平さん撮影の横峰寺の野紺菊です。

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