2020年3月27日 (金)

第104回「海程香川」句会(2020.03.14)

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事前投句参加者の一句

   
人間(じんかん)の正体暴く春コロナ 藤田 乙女
草青むかすかな罠であるように 男波 弘志
老いたる愚遊ばす冬の噴井かな 野田 信章
踏青す祈りのように歩を数え 榎本 祐子
たんぽぽのしとねに午睡寝過ごした 小宮 豊和
ふわふわと鳥には翼死を悼む 桂  凜火
草の芽や上手に嘘をつく装置 河田 清峰
目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス 高木 水志
沖見尽くして二月のきれいな顔 三枝みずほ
暖かや欠伸大きな魚売女 亀山祐美子
出番来て地球ひと蹴り初蛙 漆原 義典
春寒き悪霊船を見に行かむ 稲   暁
<東日本大震災を思って>もう9年椿の花が咲きだした 田中 怜子
水面打つトライアングル粒の春 藤川 宏樹
煮凝りの闇熱飯を輝かす 稲葉 千尋
ふんぎゃああ あれがタマなの猫の恋 島田 章平
ためいきのパプリカ春の星ひずむ 大西 健司
黒猫へ戻つてゆきし春の闇 小西 瞬夏
木の芽時我見えなくなる夜 豊原 清明
君とテニス一・四(いちよん)で春は飛んで来る 中野 佑海
万両の実くしゃみぽとんと乙訓(おとくに)へ 矢野千代子
いちめんのなのはなばたけなり命 田口  浩
午後雨にギターとれもろ春の夢 田中アパート
雨垂れは空の恋文桜餅 石井 はな
朦朧の民へそろそろ春の雷 松本 勇二
龍になること怠るなつくしんぼ 増田 天志
ふらここを揺らしまだある反抗期 谷  孝江
少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ 伊藤  幸
感情に分度器あてる紫木蓮 三好つや子
二歳とは言葉あふれて雛祭 寺町志津子
中年や嗚咽のように白梅 佐孝 石画
足首を波が擽る修司の忌 重松 敬子
土佐文旦ごろり今生ぶらりふらり 十河 宣洋
猫好きの同志残して2月逝く 夏谷 胡桃
旅も良し日常も良し春うらら 野口思づゑ
思い出が思い出せないつくしんぼ 竹本  仰
抽斗にはしたの切手黄水仙 菅原 春み
蕗の薹夫の背丸く針仕事 鈴木 幸江
三角の角(スミ)に棲みつく距離遥か 中村 セミ
蝶生まる話に口を挟む時 柴田 清子
弥生朔日話上手の唇薄き 荒井まり子
瞼腫れお玉杓子になりました 高橋 晴子
降りしきるコード進行春の星 佐藤 仁美
風邪ひいているしゃぼん玉あるかしら 月野ぽぽな
うつらうつら春はあけぼのうつら鬱 滝澤 泰斗
鋤鍬鎌自然体あり農具市 森本由美子
目に見えぬものに怯えて椿落つ 松本美智子
手相見の運命論聞くあとは雪 増田 暁子
立ち食いのまあるい空間春の臓(わた) 久保 智恵
落ち椿昨日無くした影法師 小山やす子
塾再開大試験まであと三日 野澤 隆夫
白鳥の引きし水際のなまなまし 若森 京子
猫柳校長せんせの燕尾服 吉田 和恵
疫病列島孵化したばかりの朧月 銀   次
春ショールきっとアルトでおおらかで 新野 祐子
ちちははのひかりはそこに名草の芽 高橋美弥子
夜の奥見つめていよう沈丁花 河野 志保
弥生のカイト日輪の貌充満す 野﨑 憲子

句会の窓

十河 宣洋

特選句「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」やわらかな感性が感じられる。出来立ての耳は、ふっと我に還ったとき、周りの音を拾った時の感じ。初蝶にマリンバも新鮮である。特選句「風邪ひいているしゃぼん玉あるかしら」しゃぼん玉あるかしらのとぼけた味がいい。これくらい余裕があると、風邪の治りも速い。

海程香川に入会させていただきました。北と南と距離は遠いですが、香川は十河家の祖の地です。昨年の海原の大会の折、帰りに十河城の址を訪ねて来れたのがいい思い出になりました。今後ともよろしくお願いします。

小西 瞬夏

特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」:「目を瞑る」ことで、意識を内側にむけると、人間の原初の感覚である「内臓感覚」がクリアになってくるのかもしれない。その内臓とヒヤシンスの取り合わせに劇的な反応が起こっている。内臓感覚からは程遠いように思える片仮名表記のヒヤシンス。だからこそ、人体の生々しさのようなものが際立ってくる。

藤川 宏樹

特選句「養花天四角四面の過疎の町(田中怜子)」香川県三豊市の花絶景の名所、紫雲出山は四角四面の入山禁止措置で、見てもらえぬ残念な桜になりました。「四角四面の過疎の町」に夕張が思い浮かびました。北海道の養花天はまだまだ先ですが、それまでに前夕張市長若き道知事の手綱捌きでコロナが治まり、大勢に見守られた花盛りになるよう願います。

榎本 祐子

特選句「百一回突入ただの揚雲雀(田口 浩)」百回でなく、百一回がいいですね。意味のない繰り返しなのか、がむしゃらに頑張っているのか、可笑しいような、悲しいような・・・

増田 天志

特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」水栽培を連想する。因果関係を考えると、この句の罠にどんどん陥る。

小山やす子

特選句「疫病列島孵化したばかりの朧月」世界中を巻き込んだウイルス騒動。混沌とした現状を孵化したばかりの朧月とは上手い表現だなと感動致しました。

若森 京子

特選句「老いたる愚遊ばす冬の噴井かな」冬枯れの中の噴井に心遊ばす老いの心境が上手に書かれている愚の骨頂と知りながら。老いの侘しさをしみじみと。特選句「万両の実くしゃみぽとんと乙訓(おとくに)へ」万両の赤い実がくしゃみをして、京都府南部の乙訓に落ちた。童話の様なこの一句に作者自身のくしゃみとして、乙訓の固有名詞がよく効いている。

佐孝 石画

特選句「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」難解な句だ。「少女に出来立ての耳」はまだ分かる。しかし「初蝶」にマリンバとは何だ。「マリンバ」の木管楽器特有の、硬質ではじけるような音感と楽器そのものの素材感。ふわりと空を漂う生まれたての蝶の内部に、この硬質な生命の響きを重ねたのだろう。少女の耳も出来立てのようにコリッと硬質で、あたかも窯出し直後のピリピリとした白磁気のような脆さを伴う。生のみずみずしさと、硬質で脆弱な未来への予感を映像化した実験的俳句である。特選句「沖見尽くして二月のきれいな顔」沖を見ているのは誰なのだろう。「見尽くす」という執念めいたものと、その果ての諦観。見尽くした後に残る「きれいな顔」とは日常の果ての遠い理想郷を見つめるせつない自画像とも見える。僕が住む福井の越前海岸には、二月ごろ岬いちめんに水仙が咲き乱れる。水仙たちは暗く厳しい冬の日本海を見つめ続けた末、堰を切ったように花を咲かせる。この句を読んで、その水仙畑のイメージを思い浮かべた。

田中 怜子

特選句「奪われし三月学び舎の静けさよ(松本美智子)」東日本大震災で閖上地区に行った時、誰もいない校舎の静けさを思い出します。特選句「二歳とは言葉あふれて雛祭」二歳とは、ぴちゃびちゃとわかったようなわからないようなさえずりをしている幼児の可愛さが表現されてます。

中村 セミ

特選句「人間(じんかん)の正体暴く春コロナ」時節柄とは云わないが、コロナウィルスの事を描写したこの句がいいと思った。情報の多すぎる現代では、もしかして、コロナより人間の暗部がさらけ出される事の方が、ずうっと恐いと詠んでいる様に思える。コロナに感染されれば静かに治療を受けて再び生活に戻りたいだけである。そこにデマ、罵詈雑言、ありとあらゆる嘘が入ると、もういても立ってもいられなくなる。その基が人間の正体と云う。そうではない部分の方が、ずっと多いと思うが、社会ではそちらがまるで優先されるところがある。人間の正体は除夜の鐘ほどあるのだろう。

佐藤 仁美

特選句「黒猫へ戻って行きし春の闇」不思議な光景が頭に浮かび、江戸川乱歩の世界を感じました。惹かれました。

野田 信章

特選句「草青むかすかな罠であるように」:「草青む」に「罠」とはーかなしき現代の句作りではある。私もこのように現(うつつ)に目を見開いて誤魔化さずに句作をすすめたいと思うのみである。特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」:「風信子」の名を諾わせる句柄。その香を取り込んで「撓む内臓」と肉体化した発想の若さを想う。

月野ぽぽな

特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」マインドフルネス瞑想が世界的に有名になってから久しい。元は釈迦が説いた涅槃への道、八正道にある。彼の智慧は2500年もの時間を超えて生き続け、その恩恵を現代人も受けている。目を瞑り頭の中の饒舌を沈めると、体はリラックスし心身ともにクリアになり本来の自分に近づいてゆく。ヒヤシンスのありようが清々しい。

稲葉 千尋

特選句「黒文字の黄の人反核貫きし(野田信章)」理屈はいらない。黒文字の黄の華と反核を貫く人の取り合わせ。特選句「造船の鉄の匂いやつばめ来る(男波弘志)」?鉄の匂いや〟が好き、春の匂いも。問題句「鋤鍬鎌自然体あり農具市」?自然体あり〟の「あり」が気になる。「なり」ではいけないのか!

鈴木 幸江

選句評「誰からも離れた顔よ春隣(河野志保)」平明で、かつ深いこんな作品を大切にしたい。その時代、その社会の中で味わい(解釈)が変化する、その柔軟性が古典となる要素ではないかと考えている。現代社会の中では人間関係から逃れては生きていけないことは分かっていても自分を喪失しつつ再生しながらの生は疲れる。疲れたのだろう。人から離れ己になった人の顔が浮かぶ。そして、春は隣にいてくれる。春と存在者の関係になった人の姿と解釈したら救われた。問題句評「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」ヒヤシンスの香りが漂う空間での出来事だろうか。この身体の反応に、訳の分からぬ不安と怖れを感じる。ただ、私には未だ経験したことのない感応であり、かつ、そこに惹かれ、自分の解釈に自信がなく問題句とさせていただいた。私には、作品の中に何か老いの真実が隠されているようで、よく感受できなかったことが残念な芸術作品を見た気分でいる。「三角の角(スミ)に棲みつく距離遥か」哲学的、数学的に難解句である。不条理の存在を提言している作品と受け取めれば分からぬことはないが。三角形の角は、一点である。距離は二点か、一点と平面の間に存在するのであるから、一点に遥かな距離があるというのは、まるで、道元の一瞬に永遠があるという思想を思わずにはいられない。それで、いいのだろうか?三角形をわざわざ登場させた意図は、非ユークリッド幾何学の世界も射程に入っているのだろうか?分からないけど異次元感が楽しかった。以上。

2句になり、作品が充実した感があります。入選作品には、入りませんでしたが。他にも惹かれる句が沢山ありました。「踏青す祈りのように歩を数え」「たんぽぽのしとねに午睡寝過ごした」「三人寄れば三人に春の色(柴田清子)」「ふわふわと鳥には翼死を悼む」「弥生朔日話上手の唇薄き」「ピラカンサスの実なりわが棲家(矢野千代子)」「風邪ひいているしゃぼん玉あるかしら」「手相見の運命論聞くあとは雪(増田暁子)」「立ち食いのまあるい空間春の臓(わた)」「落ち椿昨日無くした影法師」「雲雀東風笑いの種を売る男」

矢野千代子

特選句「うつらうつら春はあけぼのうつら鬱」ことばあそびでしょうが、やっぱりたのしいです。作者と共にあそんでみました。

重松 敬子

特選句「春ショールきっとアルトでおおらかで」春が来て、街には色があふれています。重いコートを脱ぎ、お気に入りのショールで闊歩している様が浮かびます。おおらかに人生を楽しんでいる笑い声も聞こえてきます。

高木 水志

特選句「草の芽や上手に嘘をつく装置」なるほどなあと思った。社会を生きていく中でついてもいい嘘があると、この句を読んで思った。草の芽の生命力をより響かせている。俳句ならではの世界観である。問題句「やれ狂え3・11げに遊べ(田中アパート)」どう捉えればいいのか悩んだ。 

柴田 清子

特選句「沖見尽くして二月のきれいな顔」二月の海と作者が一体になった時かと思う。海に近い所に住んでいる私には胸に響いた句です。

漆原 義典

特選句「暖かや欠伸の大きな魚売女」欠伸大きな魚売女が高松の春の訪れをうまく表わしています。昭和の高松が懐かしいです。

豊原 清明

特選句「人間(じんかん)の正体暴く春コロナ」選句稿から一句が飛び込んできた。今後、コロナの句が増えると思う。一句、よしと思い。問題句 「もう9年椿の花が咲きだした」椿の花が咲きだした。今年の東日本大震災忌、コロナの騒ぎに霞んでいたが、やはり、3・11以後、世の中の流れが変わったと思え、この一句、心に留まる。

吉田 和恵

特選句「足首を波が擽る修司の忌」旅立ちを促されているような、そんな気持ちが伝わってくる。問題句「人妻の黒髪匂う恋地獄(稲 暁)」官能を否定するわけではないが、人妻・黒髪・恋地獄。三文判をおしたような語句と思った。

亀山祐美子

特選句「春の陽を抱きつ眠ってゐるピアノ(高橋美弥子)」「抽斗にはしたの切手黄水仙」手触りのある句を頂きました。武漢肺炎の句が散見。表現に無理があり素直に感動できませんでした。  句会がないと退屈でごろごろしています。三寒四温、少し暖かくなりました。次回句座を囲めますこと願っております。

大西 健司

特選句「黒猫へ戻つてゆきし春の闇」春の闇に溶け込んでいる黒猫の存在が濃密。「黒猫へ戻ってゆく」とは悩ましい。問題句「もう9年椿の花が咲きだした」思いは伝わるが少し散文的。私的には「咲きました」としたい。

寺町志津子

特選句「春浅し会えると思う日々残し(夏谷胡桃)」老境にお入りの方の句でしょうか。勝手な解釈ですが、冬が過ぎて春の兆しに触れ、来し方行く末に思いを馳せていると、今生に、まだ、親しい友人あるいは知人の方にお会いできる日は残されていると感じた境涯感。残された日々を大切に生きたいと思う気持ちも伝わり、季語の「春浅し」がよく響き合い、好きな句です。

三好つや子

特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空(高木水志)」モーツァルトの曲をひょいとつまんで鳥にしたり、蝶にしたり。この句から、神の手による手品の帽子のような春空を感受。特選句「うつらうつら春はあけぼのうつら鬱」草木が芽吹き、虫たちも這いだす春。生命活動の盛んになる一方で、眠くてけだるい気分に陥りやすい頃を、うつら鬱という表現で捉えた句に、感動が止まりません。入選句「疫病列島孵化したばかりの朧月」新型コロナウイルスのせいで、外出もままにならない私たち。社会全体に閉塞感が高まるなかでも、春を愛でる気持ちは失いたくないものです。

新野 祐子

特選句「老いたる愚遊ばす冬の噴井かな」ちょっと自嘲しつつも、自分の老いをこれまでの人生をしかと肯定している。そんな人の姿が見えてきます。「冬の噴井」が何とも清々しく引かれました。入選句「疫病列島孵化したばかりの朧月」新型コロナにおびえ他の事象がことごとく輪郭のぼんやりしたものになっている今の日本。この句は、それをよくとらえていると思います。入選句「草青むかすかな罠であるように」かすかな罠とは、どんなものなんだろうと、想像力をかきたてられます。

増田 暁子

特選句「草青むかすかな罠であるように」青い色は罠なのか。人生の青い時は続くように思うが罠があるかもね、と作者。柔らかい言い方で、油断を戒めている。ドッキとして、なるほどと納得。特選句「老いたる愚遊ばす冬の噴井かな」自戒の句でしょうか。私も老いたる愚であり、公園の噴水のそばで時間を過ごして居る自分が見えます。

松本美智子

特選句「感情に分度器あてる紫木蓮」感情の起伏………喜怒哀楽に角度があるなら計ってみたいです。今日の角度は何度だろう?紫色の美しい木蓮が輝いて、私たちを優しく見守ってくれているようです。

河野 志保

特選句「中年や嗚咽のように白梅」白梅が嗚咽のようとは、最初よく分からなかった。しかし、冷たい空気のなかで小さく花開く姿に、泣きながら咲いている感じもすると思えてきた。同時にそれには、中年のやるせなさや愛しさが重なった。中年限定の共感かもしれないが、「嗚咽のように」という表現がすごいと思う。

野澤 隆夫

特選句「君とテニス一・四(いち・よん)春は飛んでくる」春を喜ぶ気持ちがあふれています。「一・四」で勝ったのか、負けたのか?「一・四」が決まってます。特選句「ふらここを揺らしまだある反抗期」ブランコにぶら下がっても、いまだに反抗期を卒業してない中三男子を想像します。今日は公立高校合格発表。反抗期の行方は…?この句もよかったです。「春ショールきっとアルトでおおらかで」ユーミンの「はーるよ…」が自然にでてきました。アルト&おおらかを結んだところも気持ちいいです。

中野 佑海

特選句「龍になること怠るなつくしんぼ」ちょっと苦くてお日様の様な味わいの土筆。小さい方が断然美味しいけど、頑張って捉えられない様に大きくなったら強くなれる?土筆ってあの穂の形まではよく見るが、そのあとはどうなってスギナになるの?変身の途中を見たことが無い。あの穂は龍になったのかな。不思議な生き物だ。「怠るな」が、胸に沁みる。特選句「瞼腫れお玉杓子になりました」寝過ぎた後のあの目の見えにくさ。あれって瞼がお玉杓子に変わっていたんですね!ぶさ可愛い所がとっても素敵!並選句「踏青す祈りのように歩を数え」祈りのようにが胸を突く。「煮凝りの闇熱飯を輝かす」魚の煮凝りは本当にまいう!日本まいう!「万両の実くしゃみぽとんと乙訓へ」まるで童話の世界。そしてサントリーのウィスキー山崎はまいう!「球根植うひらがなかたかな植うるごと」球根に着いている花の名前の名札。此が無いと、何を植えたか分からない。名前は大切。「雨垂れは空の恋文桜餅」桜餅は雨も優しくしてくれる。「感情に分度器あてる紫木蓮」はい、そこ。人の感情に水を注さないよ。黙って聴いてあげようね私!「思い出が思い出せないつくしんぼ」龍になろうと頑張り過ぎたんだわ。「知性かりっと終日椅子に雪地獄(十河宣洋)」雪地獄よりも、その考えが怖い。以上です。

夏谷 胡桃

特選句「ゆるぎない文旦パンデミックの世に(高橋晴子)」北国に住んでいるので柑橘系の実が生っている風景は憧れです。たしかな存在感があるのでしょう。救いになるような黄色を感じられました。特選句「蠢く地私の細胞減るばかり)(若森京子)」人間が滅亡しようが、放射能におかされようが植物は春が来れば芽吹きます。人間より強い。今住む場所も古代からの森を切り開いた地です。あと少しで森に戻るかもしれません。

銀   次

今月の誤読●「たんぽぽのしとねに午睡寝過ごした」。プルッと震えて目を覚ました。半身を起こしてみると、だいぶ日は西に傾いているようだ。両手を伸ばしてアクビした。目の前には幅だけは広いが情けないほど水の少ない河が流れている。懐かしい風景だ。中学時代は何かといえばこの河原にきたものだ。そう、今日は十年ぶりの中学の同窓会なのだ。それもいまや廃校となった旧校舎を借りての同窓会だ。朝のうちは教室を掃除して、女子はそれぞれおでんや鍋物の買い出しに行った。わたしは「ちょっと休んでくる」と言い置いてここに来た。寝転んで島崎藤村の詩集を読んでいるうちに寝入ってしまったのだ。山下さんが土手を駆け上がってきた。ハアハア息を切らしながら「もう始まっちゃうわよ、同窓会」。彼女は人妻だ。すっかり貫禄がついて、今回の同窓会でも幹事を務めている。「ああ」と生返事をすると、山下さんはわたしの横に坐った。彼女はことさら明るい声で「ここで二人一緒によく遊んだわね」と言い出した。わたしはうろたえて「そうかなあ」とつぶやいた。しばらく沈黙があって、山下さんは「わたしのこと、好きだった?」と訊いた。わたしは年甲斐もなく頬のほてりを感じた。そして声にならないような小声で「……別に」と答えた。しばらく沈黙がつづいた。山下さんは突然、ガハハと豪快に笑った。「そっか」と彼女は答えつつ、「さ、行こ」とわたしの手を引いて同窓会場に向かった。藤村の詩集はやがてたんぽぽが埋めてくれるだろう。……まだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき……。

久保 智恵

特選句「中年や嗚咽のように白梅」グサリと胸に刺さったのが年のせいですかね。会度に香川句会がたのしくて! 

島田 章平

特選句「地球脱出思案中です猫柳(森本由美子)」塚本邦雄の代表作に「日本脱出したし皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも」がありますが、掲句は正にその宇宙版。銀河系のどこかで猫柳が一面に茂っている緑豊かな宇宙もいいかもね。

田口  浩

特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空」新型コロナウイルスに地球がすっかり汚染されてしまった。住みにくいので、老人は銀河鉄道の旅に出ることにした。宇宙ステーションは牟礼町の小高い岡の上の図書館の一角にある。乗客は老人一人。快適。窓から外を見ていると、<特選句>があった。野にピアノを置いて夢中で仕事をしているモーツァルトを、もしくはその曲を、春の空がひょいとつまむ。春の悪戯である。笑ってしまう。「踏青す祈りのように歩を数え」「黒猫へ戻ってゆきし春の闇」「龍になること怠るなつくしんぼ」「抽斗にはしたの切手黄水仙」「春を待つ包帯ゆるく巻きしまま(小西瞬夏)」―銀河鉄道の車窓はいろいろな春を見せてくれるが、<黄水仙>の句や<包帯ゆるく>は、うまいなあと思う。当分宇宙の旅を楽しもう。

松本 勇二

特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」体内の暗い有り様から明るい季語への展開が見事。

荒井まり子

特選句「土佐文旦ごろり今生ぶらりふらり」鹿児島でも熊本でもない、土佐の文旦で決まり。形状も早世の苦味も龍馬を彷彿させて楽しい。問題句「いちめんのなのはなばたけなり命」平仮名の表記に意気込みを感じる。司馬遼太郎さんが好きだった菜の花。まるで極楽浄土の様。大好きです。

滝澤 泰斗

特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空」多分作者の思いとはかけ離れているかもしれないと思いつつ特選にしました。天才モーツアルトをつまみ上げてしまう春の空ってどんな空・・・と考えつつも、人智を越える自然の力の凄さ、大きさ、計り知れない深淵さを感じさせる。モーツアルトが効いている。特選句「春を待つ包帯ゆるく巻きしまま」春の句が二つ続きました。今年の春は、人類が初めて経験している異常な春。その春にあって、傷が癒えてか、包帯をゆるく巻いて春を待つ心情に希望を感じさせる。掲句に問題句はありませんが、今回は私の想像を超える句が多かったように思います。「水面打つトライアングル粒の春」粒の春とは?「蠢く地私の細胞減るばかり」「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」この二句は意味を考えてはいけないのでしょう。感覚的なところを伺えればと思いました。

男波 弘志

「思い出が思い出せないつくしんぼ」正気の呆け、とは恐ろしい。「雪原の同一性として蒼い列車」現代の風俗をこそ読みたい。この列車に終点はなさそうだ。

石井 はな

特選句「感情に分度器あてる紫木蓮」感情に分度器をあてて計るなんて、素敵な発想です。今嬉しさ60度、今悔しさ30度なんて、嬉しさは倍になって悔しさは冷静になって減っていく様な気がします。特選句「中年や嗚咽のように白梅」白梅が嗚咽のように思えるのは、中年以降でないと感じられない思いだと思います。読んでしみじみ実感しました。以上です。皆さん素敵な句ばかりで、毎日の鬱陶しさが晴れる思いです。ありがとうございます。

稲    暁

特選句「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」素材の選択が新鮮で詩情豊かな作品となっていると思う。少女と初蝶、耳とマリンバの類語関係も成功している。問題句「コンビニはオアシスめいて春の闇(石井はな)」実感としてはよく分かるのだが、表現が淡白すぎるような気もする。好きな句で捨て難いのだが・・・。

竹本  仰

特選句「草青むかすかな罠であるように」選評:なんの罠であるのか?そういう□をさがす楽しみがある。この世に生まれて善と悪とがあるなら、その二つは不可分に結びついており、悪もまた避けがたい、ならばそれを覚悟して生きよう、そんな世界観が見えているように思う。そんなすぐれた感覚を感じた。特選句「三角の角に棲みつく距離遥か」選評:ナゾなんだけれども、つき合いたいナゾというのがある。そういう誘惑を感じさせる。アリスの世界でいうなら、初めに出会うチョッキを着たウサギだ。この一行の中にある展開に魅力を感じる。ひきこもりに向かう詩情、そんなものか?梶井基次郎が檸檬を見つけた、あのひなびてはなやかな果物屋のような。特選句「造船の鉄の匂いやつばめ来る」選評:このツバメはオスだろう、いやいや、そう決めつけるのはどうなのか、とそんなところから入った。造船所が好きなツバメがいるんだろうな。そういえば、昔、手術前日のヒマを持て余し、何となく或る無人駅に座っていると、ツバメの両親がしきりに子ツバメを面倒見ている片隅があった。そうか、毎年、ここに来ているんだと妙に和んだ。鉄の男たちにもそれはあるだろうが、それよりもツバメがこの男たちの優しさに気づいていると思わせる所が実にいい。特選句「白鳥の引きし水際のなまなまし」選評:朝の干潟というのに思わず見とれたことがある。何というのか、絵ではなく音楽が満ち満ちていた。否、音楽を超越した生きものたちの何かがあった。朝のわずかな半時間で、もう一日を生きたより濃い風景があった。ああ、いいなあと言うしかない。そのリアルな感覚を思い出した。特選句「ちちははのひかりはそこに名草の芽」選評:はじめ「名草の芽」という季語がわからず、どう読むか戸惑っていましたが、名のある花についての芽、ものの芽の花版ということがわかり、この句がいっそう味わい深くなりました。私事で恐縮でありますが、お経の中に「仁王護国経」というのがあり、ほとけの光が黄金であり、悟りの瞬間に花が開くのとその光がさすのが同時であるのを、読む中で体感することができます。この句にもそれがあります。同じ光がさしているなあ、というのが極私的な鑑賞でありますが、ありがたいひかり、ありがたき人生というのを体感できる句であるように思いました。

藤田 乙女

特選句「雨垂れは空の恋文桜餅」 日々コロナ肺炎のニュースで気が滅入る中、この句を読むと明るい気持ちになり、春の訪れを心底楽しみたくなりました。恋文と桜餅の取り合わせがとてもいいなあと思います。特選句「ちちははのひかりはそこに名草の芽」永遠無きものの中に愛によって命が繋がれていくという小さな命への慈しみを感じた句でした。

高橋美弥子

特選句「造船の鉄の匂いやつばめ来る」今治の造船所を思いました。景がぱっと立上ります。鉄の匂いとつばめの取り合わせが新鮮に感じました。問題句「舌鮃白き肉解す人の闇(桂 凜火)」舌鮃白き、まで一気に読むのでしょうか?「切れ」で悩みました。

桂  凜火

特選句「雲雀東風笑いの種を売る男(三好つや子)」うっとおしい今の世の中、笑いの種を売る男は大歓迎です。しかし、笑いを売ることを商いとしている人にとっては、売る場所も今は限られていることとお察しします。早くこの疫病も落ち着くといいですね。雲雀東風という季語も新鮮でした。

小宮 豊和

「いちめんのなのはなばたけなり命」句意はよく伝わる。感動もそこそこ伝わる。しかし兜太先生のよく使った表現、もう少しパンチがほしい。私は原因は句の形態がひとつ考えられると思う。この句でいえば一字流れからはずした「命」である。こういう表現で感動を呼んだ句は少ないように思う。「命」を句の中に取り込んで少しでも新鮮な表現をさがすのが正当な方法であろう、例えば、出来不出来は別として、「ひしめくや菜畑いちめん黄の命」などのたぐいである。

谷  孝江

特選句「沖見尽くして二月のきれいな顔」長い北陸暮らしの者にとって、二月は何とうれしい月でした。もう確かに春が近づいて来ているのです。日によっては一尺近い雪が積もる日もありますが、立春過ぎればそれは、春の雪なのです。一日、一日、三月が近づいているという嬉しさは今も忘れられません。作者は、暖かい所にお住まいかも知れませんけれど、春を待つ思いは一緒だと思います。二月のきれいな顔で私の思いの中にすっきりと入り込んできました。やさしくて佳い句です。

野口思づゑ

特選句「清(すが)し苦し水琴窟の梅の響(おと)(久保智恵)」美しい情景の句のなかに「苦し」が加えられている。これは個人的心情なのか、それとも現在の世界的世情の反映なのか分かりませんが、句に深まりが出て光景と心が良く伝わってきました。その他「人間の正体暴く春コロナ」その通りだと共感します。人間、人間の延長であるそれぞれの国の事情も見えてきました。「暖かや欠伸大きな魚売女」海に生きている女性のおおらかさが伝わってきました。「奪われし三月学び舎の静けさよ」: 「奪われし」まさにその通りです。

本当にコロナウイルスにはうんざりですね。あれよあれよという間に世界に広がっていて それだけ現在はグローバル化が進んでいたという事のようですね。句会もキャンセルで残念ですね。 オーストラリアでは、室内では一人当たり4平米距離を取らなくてはいけないという事になりました。また国際便もほとんど飛ばない状態ですので、普段でしたらそろそろ5?6月頃の日本行きを計画するのですが、今年はこの時期は予測がつきません。とはいえ、そういったコロナの影響にあまり惑わされず普段の生活で行きたいと思っています。句会報、楽しみにしています。

田中アパート

特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空」ダダ。ダリ。

三枝みずほ

特選句「瞼腫れお玉杓子になりました」過労、睡眠不足、病、外傷、涙など瞼が腫れる経緯は様々。精神的に辛い。それなら、いっそのことおたまじゃくしへ!ヒトの進化を逆行し、生命体そのものに近づいてゆく。軽くて面白い発想だった。

森本由美子

特選句「黒猫へ戻って行きし春の闇」黒猫にひっそりとスプレーされた春の闇。夜の深まりとともに黒猫はそのしなやかな体に闇を吸い込いこんでゆく。溶け合うために。ちょっとした仕掛けがポエテイックなイメージを掻き立てます。「モーツアルトをつまんでしまう春の空」「立ち食いのまあるい空間春の臓」問題句ではありませんが、作者の方からお好きなように解釈して楽しんでくださいと渡されたような気分です。楽しませていただいています。

海程香川句会に参加させていただき嬉しさと緊張を感じております。70歳で偶然俳句と出会い、無知ゆえの怖いもの知らずで作ってきましたが、いまだに自分らしさを表現できず、心にもっと風穴を開けなくてはと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。→ぽぽなさんの「星の島句会」のお仲間ですね。ご参加、とても嬉しいです。こちらこそ、宜しくお願い申し上げます。

河田 清峰

特選句「万両の実くしゃみぽとんと乙訓へ」ぽとんと乙訓へが古事記の世界へ案内してくれるよう、池の辺りの万両の実ががよく景色が見えてくる。もうひとつ「草青むかすかな罠であるように」も好きな句である。

高橋 晴子

特選句「二歳とは言葉あふれて雛祭」女の子は二歳ともなるとおしゃべりが上手になる。「言葉あふれて」がうまい。「とは」に感情が出ている。問題句「目に見えぬものに怯えて椿落つ」:「目に」は不用。?見えぬもの〟を感じる心は大事だが、?怯えて〟椿落つ と、因果関係にしない方がよい。多分、?怯えて〟が、言い過ぎなのでしょう。?感じて〟位にしたら、面白い。

 一週間程前、兵庫県立美術館でゴッホ展を見てきました。ゴッホの画業はたった十年なんですね。それも世に残る糸杉だの麦畑だの明るい絵は最後の2年だけ。(37歳で自殺してる)「星月夜」を期待していったのだけどありませんでした。一枚だけ糸杉がありましたは、あの筆致に圧倒された。あれが内面を表すのでしょう。いい空でした。

野﨑 憲子

特選句「水面打つトライアングル粒の春」水面を打つ一滴の光をトライアングルと捉えた作者の慧眼に脱帽。その一瞬をスローモーションで観るようだ。問題句「春寒き悪霊船を見に行かむ」新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船を詠んでいると思い惹かれた。人類の未曾有の危機を照らす真言のような一句を、悪霊も創造主も待ちかねているのかも知れない。

(一部省略、原文通り)

【句会メモ】

新たに、旭川の十河宣洋さん、ニューヨークの森本由美子さん、そして久々に福井の佐孝石画さんもご参加くださり、ますます層の厚い魅力あふれる句会になってまいりました。これからが楽しみです❕

今回は、コロナウイルス感染回避の為、高松での句会は中止にさせていただきました。なので<袋回し句会>もお休みです。やはり、句会が無いのは淋しい限りです。4月句会は、いつもの18人収容の67会議室から38人収容の窓のある55会議室に変更し、何とか開催したいと念じています。コロナウイルスの一日も早い終息を祈るばかりです。皆様もくれぐれもご用心ください。

冒頭の写真は、海女の玉取伝説の真珠島(今は埋立られて陸続きになっています)の山櫻です。櫻には、コロナウィルスは無縁のようで、今年も可憐な姿を見せてくれています。

2020年2月27日 (木)

第103回「海程香川」句会(2020.02.15)

風船2.png

事前投句参加者の一句

          
冬の山足音だけの私かな 河野 志保
木枯らしに在原業平(なりひら)邸の角曲がる 田中 怜子
女教師が時にはりんごいじめっ子 竹本  仰
ヤンバルのみどりが鳴るよ踊りたい 夏谷 胡桃
鮟鱇解く楸邨先生紙と筆 滝澤 泰斗
モノクロの夢のあわいの冬菜美し 新野 祐子
鐡の蟻は土中からひょと現れ 豊原 清明
黒猫が鳴く淋しい二月二十日 島田 章平
他界より荒凡夫の声や荒星 野口思づゑ
初夢も身の丈となり猫と居る 寺町志津子
鳥肌立つ原爆ドーム前冬夕焼け 桂  凜火
裸木の骨格わたしには眩しい 増田 天志
菜の花やもやっと背なに翅生るやう 河田 清峰
思想などあくびと同じよ冬日向 銀   次
暗がりのポインセチアはサロメの血 月野ぽぽな
余寒なほ内耳にジェラシーの微音 増田 暁子
職人の林檎の歯形荒々し 小山やす子
岸辺には会釈の切れ端春を待つ 高木 水志
ハムレットごっこの遊び春うれい 重松 敬子
まわれ右バレンタインとスキップと 荒井まり子
如月のしじまに陽気なバスが来る 伊藤  幸
春隣 鬼隣 人隣 かな 男波 弘志
姿見を出たがるしっぽ雛の夜 三好つや子
臘梅に白き陽があり風があり 高橋 晴子
邪鬼いつも踏まれて洩らす春の声 榎本 祐子
岩堅く粘土は嘘ばかりつく 中村 セミ
凍つる夜の羽音として終電車 三枝みずほ
逡巡の恋アフリカマナティーの気泡 大西 健司
雪原を行くちちははに影がない 小西 瞬夏
月は雲を雲母(きらら)のごとく凍らせて 松本美智子
謡い初め仕出し弁当平らげて 野澤 隆夫
草臥れてわたしもひとり春の蝿 鈴木 幸江
見馴れたる景色の中へ椿落つ 谷  孝江
軽トラに屍となる春の鹿 菅原 春み
寒木瓜やしりとりあそびすぐ終る 矢野千代子
行き行きて行き行く心俳句馬鹿 稲   暁
発火せよわが爪先の冬椿 久保 智恵
ふくらむや冬芽のような女の子 小宮 豊和
佐保姫はまだか磐座火になれぬ 亀山祐美子
ソウル梅林冬日に鮫の迷い入る 田口  浩
水底に忘れ物したような二月 柴田 清子
舞い上がる恋の火の粉や牡丹の芽 藤田 乙女
僕の八朔水脈の先なる金星は 中野 佑海
鴨の引く水脈やニイタカヤマノボレ 藤川 宏樹
立春大吉免許証を返納す 稲葉 千尋
冬すみれ君の言葉は絆創膏 石井 はな
野を焼くや母の五体も天届く 漆原 義典
さよならも言えず言わずに梅がさく 田中アパート
よく歩く祖母で相撲と黄粉餅 松本 勇二
あふあふ笑う人みな童顔川紅葉 野田 信章
かなしみはましかく春の星うるむ 高橋美弥子
蛸干しや終生踊る形して 吉田 和恵
着ぶくれて誕生に触れ死にふれて 若森 京子
昇る三日月原(ウル)狼の忌なりけり野﨑 憲子

句会の窓

小西 瞬夏

特選句「昇る三日月原(ウル)狼の忌なりけり」2月は兜太先生を思う月。原を「ウル」と読むのですか? ウルフ? どちらにしても、兜太先生のとてつもない大きさを思わせる。月と狼のことしか言っていないので余白が限りなく大きい。 

豊原 清明

特選句「木枯らしに在原業平(なりひら)邸の角曲がる」木枯らしが映像として見える所が良い。映像が浮かぶから、はっきり形がある。分かり良い。問題句「村中の老いを飲み込む枇杷の花(小山やす子)」村中の老いは社会問題かと思う。老人が増え続ける。お国は更に厳しくする。枇杷の花が美として浮かぶ。

田中 怜子

特選句「如月のしじまに陽気なバスが来る」新コロナウイルスでくさくさしている昨今、早く陽気なバスが来てほしいという願いで特選句にしました。問題句「女教師が時にはりんごいじめっ子」どういう意味でしょうか? 

松本 勇二

特選句「水底に忘れ物したような二月」二月の形容に鮮度あり。

榎本 祐子

特選句「見慣れたる景色の中へ椿落つ」日々見慣れた何の変哲もない景色の中に椿が落ちる。小さなきっかけにくらりと世界が変わる。ズームアップの椿が鮮やか。

中野 佑海

特選句「はっか飴シーシーぎんねずひかる猫柳(増田暁子)」小さい頃よく買ってくれた、赤い缶に入ったフルーツ飴。白いのに甘い林檎味のと薄荷のとあって、最後に残るのがこの薄荷。でも、勿体なくて最後まで食べた。あの少し辛くて、スースーする。合わせてシーシー。絶妙な表現。拍手!それに合わせて、猫柳のあの開く前のあのなんとも言えないムズムズ感。ウー、薄荷飴。やっぱり年取っても辛い!特選句「神経衰弱指靴下五足(藤川宏樹)」指靴下を履く時、何故か指が違う所に入る。その足が百足のように五足もあったら、何処が一緒で何処が入って無いのか調べるだけで腹がつかえて、頭に血が昇ってどうしようも無いこと限り無し。このうわ~って言う感じを漢字九文字で表しているのがまるで絵のようだ。並選句「五七五季語がじゃまなの七五三(田中アパート)」季語がじゃまと言いつつ七五三と言う季語が。「思想などあくびと同じよ冬日向」高校時代はツァラトゥストラだのショーペンハウアーだのと知ったかぶりして小難しい本をよんだものだ。実は、稲さんに言われるまで、忘れていた。欠伸したら忘れるのは今の私だ。生温い日本に居て、こうやって句会に来られる。有難う我が子よ!「姿見を出たがるしっぽ雛の夜」お雛様の夜には女達の百鬼夜行が?「邪鬼いつも踏まれて洩らす春の声」鬼は外と放り出され、車に踏まれ鬼さんご苦労様。節分の次の日は立春です。「存在の耐えざる国の君いだく」世界には虐げる人と虐げられる人が。何方も心に闇が。その闇の心を儘に受け入れてあげられる人に私は成りたい。「冬すみれ君の言葉は絆創膏」心優しい人って凄いよね!言葉が絆創膏だもの。いつも尻尾出しまくりの私は反省しきり。「蛸干しや終生踊る形して」捕まったら最後干されて踊る格好のままずっと一生を終える。これって何の罰ゲーム?

島田 章平

「蛸干しや終生踊る形して」「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」二句とも生と死に触れた句。どこか可笑しくそして哀しい。『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』の「遊びをせんとや生れけむ。戯れせんとや生れけん。遊ぶ子供の声聞けばわが身さへこそゆるがるれ」がふと浮かびました。生も死も所詮、夢の中。踊り戯れそして消える。終生踊る形をして・・・。

若森 京子

特選句「岸辺には会釈の切れ端春を待つ」映画のワンシーンの様な景が浮かび、春を待つ明るさがある。‶切れ端〟の措辞が心理的なものもあり上手いと思う。特選句「姿見を出たがるしっぽ雛の夜」一読して雛の夜の妖しさがうかがえる。作者にはどうしても姿見に映したくない‶しっぽ〟があったのであろう。それが出たがって仕方ない。ユーモラスな一句。

小山やす子

特選句「鴨の引く水脈やニイタカヤマノボレ」 子供の頃父から聞いた開戦の話を思いだし鴨の引く一直線の水脈と電文が重なり切なくなりました。

増田 天志

特選句「僕の八朔水脈の先なる金星は」舟を漕ぎ出し、海の果て、水平線より、天空へ渡る。銀河に、動く舟影が、見えたという。センター入試の漢文で、読んだことがある。ポエ厶だなあ。

寺町志津子

特選句「裸木の骨格わたしにはまぶしい」春には淡く、夏には濃く、緑の葉が茂り、秋には見事な紅葉に彩られて人目を引いていた木。冬に入り、すっかり葉を落とし、骨太の幹だけになった裸木を目にした作者。寒風の中に、虚飾なく毅然と立っている裸木に、日頃、世俗の概念に捕らわれて右往左往している我が身が、ふと恥ずかしくなり、素の裸木に眩しさを感じた作者。裸木に眩しさを感じ真摯な方に違いない。裸木が季語として良く利いていると思う。特選句「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」:「着ぶくれて」の季語から、作者はおそらく年配の方であろう。長く生きてきた歳月。たくさんの生き死にを経験し、人の命への感慨も一入。その境涯感に心打たれた。

 
野澤 隆夫

特選句「木枯らしに在原業平(なりひら)邸の角曲がる」木枯らしを避けて作者は急になりひら邸の角を曲がったのかと。屋敷町の広さと木枯らし。黒沢明の映画シーンが浮かびます。特選句「初夢も身の丈となり猫と居る」若かりし頃の初夢は突拍子もない夢だったのが、今はそれ相応の夢。それが現実と。猫が登場したのがいいです。特選句「職人の林檎の歯形荒々し」作者の視点の鋭さに感心。林檎を齧ったその歯形に注目して作句する人はあまりいないのでは…。

大西 健司

特選句「余寒なほ内耳にジェラシーの微音」何と繊細な感覚なんだろうと、その身体感覚の冴えにひかれた。特選句「よく歩く祖母で相撲と黄粉餅」素朴ながら味わい深い一句。ただ「祖母で」の「で」が不満。「祖母や」または「祖母は」ではどうだろう。あくまでも個人の好みの範疇だが。

伊藤  幸

特選句「凍つる夜の羽音として終電車」ポエムですね。宮沢賢治の世界です。何かしら人間の儚さ寂しさも感じ取られます。終電車が効いています。

夏谷 胡桃

特選句「野を焼くや母の五体も天届く」野を焼きながら天に昇っていった母を思い出しているのでしょうか。田舎の80代から上の方は、自然と共に生きハッとさせられる魂の美しさを持った方たちがいます。最近わたしは、原始仏教に興味をもちました。中村元先生の本など読んでいます。慈しみという言葉が好きになりました。この句は慈しみの心があると思います。特選句「さよならも言えず言わずに梅が咲く」仕事柄、大好きな人たちにサヨナラを言う暇もなくお別れすることが多いです。年末にひとりの男性が病気になりました。家族が東京なので、わたしが盛岡の病院へ連れて行き、家族の到着を待っていました。検査が長くて、ふたりでコンビニのサンドイッチを食べました。家族が来て引継ぎ、彼は入院になり、手を振って別れました。正月明けに家族から亡くなりましたと電話がありました。手を振ったのがサヨナラだったのか。彼の笑顔だけが残ります。この句を読んで、いろいろな人の顔が思い出が浮かんできました。問題句「軽トラに屍となる春の鹿」屍という言葉が強すぎると思いました。でも、わたしの住む地では当たり前の風景です。死んだ鹿をその場でさばいて、肉をくれたりします。鹿の肉は美味しいです。

藤川 宏樹

特選句「蛸干しや終生踊る形して」句会で多数の選が入ったとおり、滑稽にして悲しみある句。これぞ俳諧の味と言えるでしょう。「終生踊る」が効いて干し蛸をズバリ言い切っており、冷たい浜風と潮の香りが届いてくるようだ。

石井 はな

特選句「纏足を包むや冬のチューリップ(三好つや子)」昔纏足の方を見掛けた事が有ります。子供心にもその変形した足が恐ろしく、歩くのも儘ならない様子に心が痛みました。あの足をチューリップが優しく包んでくれたらと思います。問題句「冬紅葉日がな眺めつ酒五合」酒五合が気になりました。一人で五合なのですか。句の感じは一人酒ですが、香川の方は一人五合は普通に召し上がるのでしょうか?

  皆さんのびのびと句を作っておられる雰囲気がして、読んでいて楽しいです。私も皆さんを見習って、思い切り羽を伸ばした句を作りたいと思います。

稲葉 千尋

特選句「寒卵割って出たかの炎鵬関(吉田和恵)」まいった、やられたという感じ。炎鵬の白い肉体と白い顔まるで寒卵、炎鵬がんばれ‼「美濃紙折り母の寝嵩を憶う冬」は、‶美濃和紙〟でいいのではと思います。

滝澤 泰斗

特選句「暗がりのポインセチアはサロメの血」一般的に、ポインセチアはクリスマスのシンボルとして鮮やかな赤と緑のコントラストを想起させるが、これが暗がりにあると確かに鮮やかな赤がやや毒々しい赤色を帯びる。それがサロメの血として見立てられて予定調和を裏切る。この血とは、父ヘロデが娘サロメに、望みがあれば、叶えてやろうと・・・サロメが所望したのは、イエスに洗礼を施したヨハネの首。そして、その首から流れる血で本来、喜ばしいクリスマスが悲しみの奈落へ。17音でありながら、ダイナミックな歴史を見事に切り取った。特選句「余寒なほ内耳にジェラシーの微音」内耳、ジェラシー、微音が奏でるデリカシーに感心しました。

鈴木 幸江

特選句評「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」人が体の芯に寒さを感じ重ね着をする時、意識するにせよ無意識にせよ己が命を守らんとしている自分がいる。着ぶくれるという人の所業に私も命を感じる。大切にしたい感性である。“誕生に触れ死にふれて”の措辞を私は三層に解釈した。一つは仏教的な世界。二つ目は細胞学的解釈。三つ目は哲学的解釈。一つ目、仏教の命を輪廻転生の中に置く一つの代表的な思想を思った。二つ目は、人の身体の中では細胞の誕生と死が同時に起きているという科学的な認識。三つ目は、哲学的に人に与えられている誕生と死を思った。今私は着ぶくれて、この三つの想いを、なんとか自分の中で消化して自分なりに吸収したいと足掻いている。問題句評「纏足を包むや冬のチューリップ」纏足は唐の時代から清の時代まで長きに渡って成された、女性の足の成長を包帯で縛って止めてしまい足の小ささとそれによる歩き方に美とエロスを感じたという奇習である。冬のチューリップも夏場低温処理をして早咲きをおこし、それを愛でるという一種の人工的な美の世界である。纏足とチューリップの形態的な類似性が鑑賞を深くしてくれる。私はこの句に身震いがした。人に潜む魔性と美意識が仲良くなりやすいことに。心に留めておきたい人の傾向として、問題句として、挙げさせていただいた。

田中アパート

田中アパートと申します。「海程香川」丸に乗船させていただきました。よろしくお願い申し上げます。尚、特選句&問題句はありません。ただしスカタン(アパート個人の選句名)党としまして、「鴨の引く水脈やニイタカヤマノボレ」を推します。

月野ぽぽな

特選句「逡巡の恋アフリカマナティーの気泡」マナティ自身の恋ではないと読みました。マナティーのむっくりした体やその動作のありようや気泡のたゆたいが恋を思わせたのと。ビリビリ切羽詰まったのではない、豊かな達観が立ち上ってきて趣がありました。

三好つや子

特選句「春隣 鬼隣 人隣かな」三段切れで句またがりにもかかわらず、リズム感があり、不思議な面白さを放っています。知らぬ間に感染しているかも知れない、コロナウイルスの恐怖も感じられ、注目。特選句「凍つる夜の羽音として終電車」コピーライターに憧れ、広告制作会社に入った私に待ち受けていたのは、深夜におよぶ残業と、終電車に遅れないよう全速力で走ること。そんな若い頃を思い出させてくれる作品です。入選句「寒卵割って出たかの炎鵬関」小さなからだで大きな力士に立ち向かってゆく姿と、栄養の塊のような寒卵が重なり、惹かれました。入選句「門限に遅れし梟かもしれず」門限を守る梟=冒険をしない生き方って、つまらないと思いませんか?という作者の心の呟きが聞こえたので、共感。 

高木 水志

特選句「余寒なほ内耳にジェラシーの微音」余寒と微音の響きが似ているように感じる。耳の奥にある内耳にわずかなジェラシーを感じて、とても繊細な感覚だと思った。

柴田 清子

特選句「雪原を行くちちははに影がない」だんだん遠のいていく、父と母の死を雪原でもって、白一色でこんなに美しい旅立ちに。感じ入りました。

漆原 義典

特選句「蛸干しや終生踊る形して」蛸干しを見て、終世踊る形という表現は感性の鋭さゆえです。素晴らしい句をありがとうございました。

中村 セミ

特選句「蛸干しや終生踊る形して」最近、アカデミー賞で主演男優賞をとった、ジョカーという映画をDVDで見た。簡単に云うとジョカーは捨て子で、ある大富豪のメイドをしていた女に拾われ育てられるのだが、小さい時から何かにつけて、ヒヒヒヒと、怒った時でも悲しい時でも喧嘩を売られた時でも、その笑いが出る。一種の病気だった。母親も少し精神病があり、ジョカーに対して「実はお前は大富豪の子供なのだ」と嘘をつき、とどのつまり、大富豪に会って「お父さん」というところで、母親がおかしい人間だと初めて分り、精神病院に入っていた事もあり、そのカルテを見て、自分の生い立ち、母親の事が分った時、ジョカーがこのシーンでヒヒヒヒヒヒヒという笑い、顔はめちゃくちゃ悲しいのだけど笑う、笑いが止まらない。ここが圧巻!それからジョカーは悪になった。という映画と重なりました。

野田 信章

特選句「凍つる夜の羽音として終電車」の句は、裡にこもりがちな凍つる夜の終電車の単調な響きを夜空へ発ちゆく「羽音」として感受する。ポジティブな把握に明日へとつながる情感が伺える。特選句「冬すみれ君の言葉は絆創膏」の句は、たとえ「絆創膏」ていどだとしても君の発した言葉だと肯定的に受けとめるところが小さな命の「冬すみれ」とも響き合うようだ。特選句「水底に忘れ物したような二月」の句は、冬と春の間(あわい)の気分の表白というか、「何か忘れ物したような」と水底を覗き込むものは水温むころの気分の把握の確かさであろうか。

吉田 和恵

特選句「雪原を行くちちははに影がない」月の雪原を行く二人という叙情に下五‶影がない〟は、少し乱暴かも。しかし胸に迫るものを感じた。私の母は、九十一歳で健在。亡父の元に行く気があるのかどうかなんだか怪しい。特選句「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」生死を達観しているようにも、またその逆のようにも取れ、ざわつきを覚えた。

男波 弘志

「大水槽の鱏とまどいの愛深く(大西健司)」囚われの身であっての執着。火宅の中の火宅だろう。 「月桃の花なんて知らないことばかり」ここは琉球王朝、大陸からの文化の交差点。知らないとは、未知そのもの!「冬すみれ君の言葉は絆創膏」だいたい絆創膏など貼る傷は大した事はない。むしろ深手を負う何かを求めている。

高橋美弥子

特選句「さよならも言えず言わずに梅がさく」梅が咲く頃のうっすらとしたさみしさが一句に漂う。言おうとして言わないのか、言えないのか。「咲く」を「さく」とひらがな表記にしたところも良いなあと思います。問題句「女教師が時にはりんごいじめっ子」どう読めばよいのか迷いました。女教師が時にはりんご まで一気に読んで、だとしたらりんごといじめっ子の因果関係は何なのかわからず、句の裏側の物語にまで頭が及びませんでした。

河野 志保

特選句「職人の林檎の歯形荒々し」きっぱりと言い切って爽やかな読後感。健やかさも伝わる。「職人」の「林檎の歯形」が私には気持ち良く響いた。

田口  浩

特選句「霞の奥くれなゐの川ながれをり(野﨑憲子)」この作品を「座頭市」と言えば古いだろうか。つまり、いつ抜いたか、いつ斬ったか、と言うような事。句の意味など(あればの話だが)ポロポロのべるわけにはいかない。無粋である。その上で、春は<霞の奥>がいい。また<くれなゐの川>をヤボではあるが、ひとこと言えば「くれなゐ」は紅花の別称、そして、名香伽羅の一種とくれば、川の流れゆく先は、そう、美しくてイロッポイ。句稿中、「ペン先の走る速さよ雨水くる(重松敬子)」「くしゃみひとつそれでも空のあかるい日(三枝みずほ)」は、読んでいてうれしい句である。

新野 祐子

特選句「寒卵割って出たかの炎鵬関」小柄で機敏に動く炎鵬関、初場所を大いに沸かせました。寒卵という比喩、抜群です。入選句「幕尻が勝つことだって大試験」この句も初場所のこと。徳勝龍関の健闘、素晴らしかったですね。あの勝利はけっしてまぐれではないでしょう。気迫と日々の努力の賜物、大試験といえますね。入選句「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」服を着るのは人間だけ。でも生まれた時は裸、死ぬ時はそれに近い。「着ぶくれて」との対比がおもしろい。問題句「冬の山足音だけの私かな」情景も心情もよく見えてきます。ただ、「私」の後の「かな」という詠嘆はどうかなと思いました。   昨日は、曇空の中、あちらこちらでノスリを四羽も見ました。銀色に近い羽がきれいでした。兜太先生の命日でしたね。兜太先生が飛ばしているように思えたものです。

増田 暁子

特選句「モノクロの夢のあわいの冬菜美し」冬の寒さに育ったモノクロの冬菜が夢のあわいのようだ、との作者の感性にびっくりです。特選句「寒木瓜やしりとりあそびすぐ終る」季語と中七下五の素晴らしい調和がなんとも言えず心に沁みます。

谷  孝江

特選句「ふくらむや冬芽のような女の子」一読、やさしくて、愛が溢れていて良い句だなと思いました。来年も又、次の年もふっくらと育ってゆく女の子の姿が見えてきます。どうか素敵な大人になって頂きたいですね。日本がずっとずっと平和である様に願うばかりです。

銀   次

今月の誤読●「軽トラに屍となる春の鹿」。若者は軽トラに乗っている。荷台には買ったばかりのダイニングテーブルを積んでいる。彼女と同棲してから今日で一年目だ。今夜は極上のステーキ肉を食べよう。若者は左の胸にポンと触れた。手応えがあった。少々ムリをして買ったリングだ。彼は今日、正式にプロポーズをしようと思っている。ラジオからは古いロックが流れている。子鹿はクウと大きく首を伸ばして空を見上げた。大きく息を吸い込んで満足げに吐いた。あたりを見まわした。春なのだ。好物の新芽がいたるところにある。なんていい日だろう。まるでごちそうの山だ。子鹿は新芽を食べながら生きていることを実感した。若者は近道をしようと山道に入った。国道を行ってもいいのだが、少しでも早くうちに帰りたかったのだ。えーと、と考えた。肉料理に合うのは赤ワインだっけ白ワインだっけ。ま、いいか、お店で聞けばいいものな。でもそういうのもこれから勉強しなきゃな。子鹿はアゴを大きく振った。アブが耳元にブンブンと迫ってきたからだ。アブは去っていき、森の静寂がもどってきた。世界は静かだ。若者は思った。いよいよ家庭を持つんだ。赤ん坊も生まれる。カメラを買おう。子鹿はちょっとしたまどろみから目覚めると、鼻先に蝶々がいた。急に愉快になった。子鹿は蝶々を追って駆けだした。若者は彼女と会うのが待ちきれず、アクセルをグッと踏み込んだ。子鹿は蝶々を追うのに夢中になって、山道に飛び出した。

桂  凜火

特選句「寒卵割って出たかの炎鵬関」炎鵬の活躍はいつも気持ちいいですが その炎鵬を寒卵破って出たとは楽しい発想です 絵画的な活写が素敵だと感心しました。

稲    暁

特選句「余寒なほ内耳にジェラシーの微音」耳の奥にわずかに残るジェラシーの余韻。季語「余寒」と感覚的に、かつシュールにつながっている。問題句「霰の電車ぱらりぱらりと細胞よ(久保智恵)」:「細胞よ」が分からない。ゆえにとても気になる。霰、電車、細胞。三つの素材の関連性やいかに。

菅原 春み

特選句「湯豆腐の白い四角を掬う明かり(田口 浩)」まさに湯豆腐の真髄。おいしそうです。特選句「あふあふ笑う人みな童顔川紅葉」オノマトペがいいです。季語もいいですね。

藤田 乙女

特選句「吊し雛縫込められし母の恋(石井はな)」母の凝縮された濃厚な恋の感情が伝わってきました。特選句「くしゃみひとつそれでも空のあかるい日(三枝みずほ)」マスクの高騰、咳トラブル、コロナ感染患者に対応した医療者への不当な扱いなど人間の在り方についていろいろ考えさせられたり、これからの感染の蔓延に不安になったりしますが、この句を読んで明るい気持ちになり、希望を持って毎日を過ごしたいと思いました。

竹本 仰

特選句「邪鬼いつも踏まれて洩らす春の声」豆まきの邪鬼でしょうか、たしかにどんな声を出すのか、その着想面白いですね。われわれの本音にごく近い生々しいものではないか。その生々しい弱さ、それを春の声ととらえる、この辺もいいものがあります。春の声がきれいではなく、けっこう濁った微生物たっぷりなうごめく感じ、いいのではないでしょうか。会津八一に「まがつみはいまのうつつにありこせどふみしほとけのゆくへしらずも」の歌がありました。寺は燃えて仏はその度にいなくなるが、その仏に踏みつけられていたあの醜い邪鬼だけは必ず残っていく皮肉。われわれ人世の真相を痛く衝くようですね。特選句「行き行きて行き行く心俳句馬鹿」小生が海程に入ったその時の動機を言い当てられたような句です。昨年の高松での全国大会でもその感じがありありと感じられました。奥の細道の最後の曾良の句「行き行きて倒れ伏すとも萩の原」に通じる風狂の句、つねにかくありたいと感じる句です。特選句「さよならも言えず言わずに梅がさく」死別には梅が合う、そんな実感を持つことが多いです。この句にもそんな匂いを感じました。桜ほど感情移入をさせない、いつの間にか咲き、いつの間にか散り、その清冽さがいいのか。いいですね。 特選句「かなしみはましかく春の星うるむ」たしかに、かなしみはましかく、です。かなしいほどましかくですね。実感を強く感じさせる句だと思います。なぜ、人間はかなしみをましかくにしか感じられないか?とも、喚起させる、詩的喚起力にみちみちた句だと感心しました。特選句「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」年を取るということは、どういうことかな、という詩情でしょうか。答えは言わないけれど、問うことで成り立つ、いい詩だなあと思います。※拙句「女教師が時にはりんごいじめっ子」について、これは昔、中学生の頃、女子のテニス部の顧問の女性の先生から、かなり不当なお仕置きをされ、長年、そのことが疑問であったのですが、ふと、一度だけ或る公式戦で、この先生から悲鳴のような声援を受けた記憶がよみがえり……何というんでしょうか、このどちらも「ああ、やっちゃった」感があり、後から思うと、この先生、けっこう不用意で野性だったと気づかされ、あのナマな感じがこんな句になったかなと思います。すごく個人的で、人間臭い話で、恐縮ですが。

三枝みずほ

特選句「逡巡の恋アフリカマナティの気泡」恋も気泡も儚いが、生きているからこそのもの。アフリカマナティの存在感、ゆったりと泳ぐ様、アフリカという地名に独特の世界観と生命力がある。「僕の八朔水脈の先なる金星は」手のひらにあるものは八朔、だが雄大な自然、宇宙との繋がりを感じた。 

矢野千代子

特選句「見馴れたる景色の中へ椿落つ」落花一輪―音まで感じられます。我家にもおとめつばきが一本ありますが、散るというより悲しいほどいさぎよく落ちる花ですね。

野口思づゑ

特選句「職人の林檎の歯形荒々し」屋外で体を張って仕事をしている職人を想像。仕事が一息ついて、林檎を大胆に齧る。「歯形荒々し」でその豪快な食べっぷりが見えるよう。その他「生きること連なることや冬の家」生きることを、連なる、の言葉に捉えた感覚に共感しました。下5の季語もしみじみと効いている。

河田 清峰

特選句「姿見を出たがるしっぽ雛の夜」鏡の中に何かいそうな雛の夜とは?雛の夜だからあり得る。特選句「水底に忘れ物したような二月」忘れ物が二月に効いている好きな句です。

高橋 晴子

特選句「さよならも言えず言わずに梅がさく」その心情に開く梅の情緒を感じさせて佳句。特選句「着ぶくれて誕生に触れ死にふれて」着ぶくれてに只今の感情が出ていて切ない。問題にもならない句「五七五季語がじゃまなの七五三」ぺらぺら俳句で遊ぶな‼言葉にはその人の全身の重みがある。口先だけなら俳句でなくていいと思うよ。

亀山祐美子

特選句「姿見を出たがるしっぽ雛の夜」雛祭りのために装おう。普段は上手く抑え込んでいるしっぽ(自我)が気を緩めると、出てしまう。白酒には注意しなければ…。狐か狸か、女と一言も言わずに女の一面を捉えた面白い自戒の一句。愉快な佳句。特選句「蛸干しや終生躍る形して」風に吹かれ乾いてゆく蛸の姿干し。ただそれだけなのに、誹諧味のある切ない一句になっているのは、写生の確かさからくるものだろう。絵の後ろにある人生観の伝わる秀句。 私の理解力不足か意味不明の句が多い。俳句として新しい表現だと手放しでは喜べない、詩か散文に近く俳句と呼ぶには余りな一行詩が並ぶ。心を引っ搔くものの、底まで届かない安易さが惜しい。骨太な一句に仕立て上げる技術力不なのか、観察不足なのか、念力(想い)不足なのか。己の作句に対する自戒としたい。

松本美智子

特選句「見馴れたる景色の中へ椿落つ」このような感覚に陥る瞬間は日々の生活のなかで「あるある!」と思います。いつもの風景にいつもないものが美しく存在するだけで、何気無い景色がひかりだすようです。

小宮 豊和

特選句「冬の山足音だけの私かな」昔よく唄われた歌に「雪の降る町を」というのがあった。知人に新潟の古町を飲み歩いていた男が居たのでうっすらと覚えているのだが、雪の降る町を「思い出だけが通りすぎてゆく」「思い出だけが追いかけてくる」などの歌詞があったように思う。これらのフレーズはやや締めがあまく、決着がゆるく一歩踏みこんだ着地にはなっていないと私はおもうのだが、先に掲げた特選句とは外観はやや似るものの中味は本質的に異る。掲句は厳しく自己を見つめ、自分の足音が無くなったら自己は消滅するのではないかと考えるのではないだろうか、こういう句を読ませてもらうと、読者は「食い足りる」のだ。

荒井まり子

問題句「神経衰弱指靴下五足」今、流行っているプチうつ等と神経衰弱とはだいぶ違うが、中七下五が身の内の揺れの姿、形かと面白い句と問題句と微妙です。宜しくお願いします。

野﨑 憲子

特選句「ヤンバルのみどりが鳴るよ踊りたい」山原(やんばる)は、沖縄本島北部の、山や森林など自然が多く残っている地域。常夏の緑の中精霊と共に踊りたい!私も、この作品を読み猛烈にヤンバルへ行ってみたくなった。‶鳴るよ〟が抜群に効いている。特選句「ソウル梅林冬日に鮫の迷い入る」‶ソウル梅林〟の響きに圧倒された。ソウルは、大韓民国の首都ソウル特別市であると思うが、‶ソウル〟で‶魂〟を想起し且つ師の「梅咲いて庭中に青鮫が来ている」と通底していると強く感じた。問題句「岩堅く粘土は嘘ばかりつく」典拠があるとおもうのだが、とても気になる作品。木思石語の世界を見事に表現している。魅力溢れる、‶嘘ばかりつく粘土〟を、今ひとつ飛躍させて欲しい。          

「昇る三日月原(ウル)狼の忌なりけり(野﨑憲子)」今年の金子兜太先生のご命日の二月二十日は、三日月の頃でした。先生は原(ウル)という言葉を好まれたと記憶しています。私にとりまして先生のイメージは精霊の王のような‶原狼〟であります。その想いから生まれた句であります。「海程香川」句会も、原「海程」を目指し、ますます熱く渦巻いてまいりたいと存じます。俳句は、世界最短定型詩。短いからこそ表現できる世界を混迷する世界へ!天然自然の内なる声を五七五で発信して行けたらと念じております。削ることにより、ますます多様性を帯びた風が生れてまいります。次回からの皆様の作品を心待ちにいたしております。私たちの心底から噴き上げる熱い言の葉が、地球を包み込む愛の風になりますように切に祈念いたしております。今後とも宜しくお願い申し上げます。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

コーヒー
冬の容積空缶転げまくる
中村 セミ
激論の後のコーヒー風信子
島田 章平
啓蟄やコーヒー缶を蹴りとばせ
松本美智子
鳥雲に入る珈琲はブラックで
柴田 清子
缶コーヒー滅法熱し冬の駅
稲    暁
百年の梅干祖母の味がして
島田 章平
文鳥逝く梅と云ふ名のお人好し
鈴木 幸江
千万の梅につつまれ空へ空へ
銀   次
白梅は空に紅梅は土に色をつけ
松本美智子
三つ子
三つ子の風カナリア色の鰭を持つ
野﨑 憲子
春泥を跳ぶお腹には三つ子
柴田 清子
体力測定
言葉の体力測定認知症
中村 セミ
体力測定何周すれば春隣
中野 佑海
日向ぼこ体力測定パスをして
島田 章平
白線の反復横跳び余寒あり
松本美智子
薄氷を踏むやうに体重測定
柴田 清子
兜太・たねを
詩削るとうたとたねを山笑ふ
亀山祐美子
たね芋の芋の子芋の子ころころと
島田 章平
逢えるならトラック島の金子兜太
柴田 清子
とうたの選変てこな句の多かりき
稲    暁
風船
舟の尾をついてくるかや紙風船
銀   次
あの日から無口になつた風船売
野﨑 憲子
飛んでつた風船は赤靴は黒
亀山祐美子
破れたる紙風船に風送る
松本美智子
湯船につかる赤青の風船
中村 セミ
風船を明日(あす)の空へと放しけり
柴田 清子
風船を放つや青き空の芯
稲    暁
自由題
北風を真っ向に受け吾は獣
銀   次
砂浜に「負けるな」の文字春動く
島田 章平
鳥が水叩いて春が動き出す
柴田 清子
嘔吐する泥の冬蝶
中村 セミ

【句会メモ】

今回、新たに3人の方が加わり、投句数も162句とこれまでの最多となりました。作品も、お陰様でますます多様性に富んでまいりました。世話人冥利に尽きます。そこで、ご参加の方々のリクエストにお答えし、今回から、袋回し句会は、お題が4題、プラス1題は自由題とし、総投句数は各自5句までと制限を設けてみました。1句1句を各自が吟味して提出し鑑賞してみようと考えた次第です。そして、次回からは、事前投句の出句数も3句から2句へ、締切日も、第3週から第2週へと変わります。ご参加の方々の声を大切にこれからも進化して行きたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

2020年1月30日 (木)

第102回「海程香川」句会(2020.01.18)

雪ダルマ.png

事前投句参加者の一句

 
冷まじやアフガンに逝く中村哲 稲葉 千尋
玉霰プラットホームにごつごつん 豊原 清明
紙の音詳しく聞けば隅にゆく 中村 セミ
睦月海の碧さよ島は眠りの中 伊藤  幸
鰭酒やマッチを擦れば父の声 松本 勇二
とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる 田口  浩
寒月や右の奥歯を削られて 高橋美弥子
受験子にアレクサ届くサンタから 野澤 隆夫
捨てられてなお立ち上がる夜の葱 新野 祐子
兜太渋面何をか言わん初句会 滝澤 泰斗
かすむ詩嚢父が愛したチャップリン 若森 京子
肝試し十年日記買うか否 野口思づゑ
冬の河馬自由な夢が見られない 稲   暁
キリトリセンヨリキリトル冬ノ空 小西 瞬夏
冬霞内耳の迷路に居るような 増田 暁子
ひなたぼこ背中のねぢをまきもどす 亀山祐美子
立冬やつまらぬものは風に捨て 銀   次
路地裏は荒星落とす遊びして 榎本 祐子
金糸魚(いとより)の鱗の睨みマジョリティー 久保 智恵
雪こんこん童話の森をさまよいて 重松 敬子
三日はや発ちゆく孫の背にシリウス 野田 信章
黒豆煮えた現状維持でいいやんか 三好つや子
昴に告ぐ十本の指を束ねます 男波 弘志
凍土(いてつち)のざらりと蒼し朝まだき 佐藤 仁美
川に鴨十日戎の男たち 高橋 晴子
冬の木はそこに震災二十五年 三枝みずほ
短日や力を込めて言う別れ 河野 志保
お見合いするってやっと本気の白椿 中野 佑海
大根の穴の向かうのサンパウロ 島田 章平
今生にすこしはみ出て餅を焼く 谷  孝江
○□△皆老い春炬燵 寺町志津子
天と地はきらり時雨に繋がれる 増田 天志
冬雀百円投貨精米所 松本美智子
白狐にもらったままの試金石 桂  凜火
三日ゆえ線香花火のごと朝陽 鈴木 幸江
種袋はらからの呼吸(いき)やわらかに 矢野千代子
雪女♯MeTooデモの後に付け 吉田 和恵
冬三日月密かな水脈に耳澄ませ 田中 怜子
山じゅうがじっと耳すます虎落笛 夏谷 胡桃
打ち明ける真白き太き大根に 菅原 春み
さみしさの白息を育てています 月野ぽぽな
訪ねたき君の消息冬銀河 藤田 乙女
雛あられ銀河に撒きて母を呼ぶ 小山やす子
表札へ班長くはへ〆飾り 藤川 宏樹
旧かなの街よおとうとは雪虫 大西 健司
忘己利他白紙の賀状もらいたる 河田 清峰
一時しのぎに生きております布団干し 竹本  仰
何処までも僕の肉体冬の空 高木 水志
嘘泣きをしたり狐になつたりす 柴田 清子
嫁が君風の宮からやつてきた 野﨑 憲子

句会の窓

豊原 清明

特選句「とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる」とうーんがいいのでは。猟銃を感じさせる。問題句「かすむ詩嚢父が愛したチャップリン」チャップリンは白黒なのに、この一句に色を感じる。

寺町志津子

特選句「立冬やつまらぬものは風に捨て」目下、終活目指して断捨離中であるが、どうして、どうしてなかなか進まない。衣服等は割合早く見切れるのだが、課題は,折々の写真や記録、記念の品等々。人様から見れば、単なるゴミくずに過ぎない物ばかり。さあ、今日こそ見切ろう、と取りかかるのであるが、手に取ると「これはあの時の・・・」「この方も懐かしい・・・」と、結局,なかなか捨てきれないでいる昨今。そんな折に出会った揚句。「つまらぬものは風に捨てる」潔い作者に敬服。風がどうにかしてくれるのだ。「風に捨てる」に大いに刺激された。さあ、心新たに断捨離するぞ!の力を頂き、特選とさせていただいた次第である。

大西 健司

特選句「嘘泣きをしたり狐になったりす」特選句であり、ある意味問題句。「なったりす」では不満。「す」では気抜けをしてしまう。たとえば「冬」というふうにピシッと締めてほしい。女心の揺らぎだろうか何とも悩ましい。

小山やす子

特選句「昴に告ぐ十本の指を束ねます」十本の指を束ねのフレーズに何か強い意志と決心を感じます。

稲葉 千尋

特選句「嫁が君風の宮からやつてきた」風の宮は伊勢神宮のなかの一社と思う。そこから「嫁が君」がやって来たという。来てもらえば嬉しい。

中野 佑海

特選句「またたきの獏を裏の木に残す(大西健司)」獏の皮をしいて寝ると悪夢を食べると言う。この僕を裏の木に残すってか?いったい君は何様なんだ?良いよ。もうどうなっても知らない。好きな様に今年を生きてくれ!特選句「今生に少しはみ出て餅を焼く」私の父は鏡割りの餅を焼いて、ぜんざいにしたのが大好物だった。勿論私も。そのぜんざいを誤飲し死んでしまった。きっと今年も1月11日は餅を焼いてぜんざいにしたのを食べに来たはず。今年も頑張って作ったよ、ぜんざい。並選句「昨日とう過去に半身埋めて冬(谷 孝江)」我が歯の痛みに今までの歯磨きせずに食べて直ぐ寝た毎日を後悔しきり。我が歯に何時春はやって来るのか!「寒月や右の奥歯を削られて」右の奥歯正しく毎日痛みます。どうしたら歯の心配から逃れられるのか?「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」キリトリ線から切り取る様にすっぱり歯は直らぬものか?「路地裏は荒星落とす遊びして」荒星落とすくらいの荒療治が必要ってこれ以上苛めないで下さい。何々、全て私の責任と。仰っしゃる通り、面目次第もありません。「打ち明ける真白き太き大根に」大根を切りながら、大根に文句言える立場じゃないか。「珈琲淹れる木の幹を抱きしめるよう」珈琲一つ淹れるにもこの丁寧さ。もっと自分にも、人にも丁寧に接して生きていくべきなんだよね。佑海反省しています。「狐火のコンセンサスは檜風呂(久保智恵)」反省したところで、ここはいっちょう皆で風呂に入るのが心身共に回復するよね!やっぱり檜の香は癒やされる。「ポインセチアが強く波打っている」この花は私の大好きなクリスマスを運んでくれる。「遠火事のたとえば外反母趾にかな(三好つや子)」私も頑張ってお遍路して、大分左足の親指が内側に寄ってしまっている。靴を履かなければなんともない。火事も遠くにある分にはなんともない。人間てなんと我が儘な生き物なのか。あ~それにしても、何時まで歯に苦しむのか。もっとも食べなければなんともない。皆様の俳句で、私を楽しんでみました。お付き合い頂き有難うございました。拙句ではなかなか楽しめるほどの深みはありません。来月も皆様の興味深い俳句を楽しみに致しております。

若森 京子

特選句「別の世の音まぎれこむ書斎冬」冬の書斎は静かで重々しい雰囲気がある。‶別の世の音〟の措辞から色々な音を想像出来る。私には書斎にある色々の本からの主人公の過去の声や音が聞こえる様な気がする。特選句「一時しのぎに生きております布団干し」軽く諧謔的に書いているが何か人生の重みを感じる。‶布団干し〟の季語がよく効いている。

小西 瞬夏

特選句「初雪のふと遠い人と重なる(三枝みずほ)」さらっと書かれているが、心に残った句。遠い人とは亡くなった人か、遠くに行って会えない人か。どちらにしても、その人を思う気持ちの強さが、「雪と重なる」という描写によって、かたちを持った。

夏谷 胡桃

特選句「鰭酒やマッチを擦れば父の声」。わかりやすくていい句だと思いました。燐の匂いが好きです。だから俳句を読むだけで燐の匂いが漂い亡き父を懐かしむ気持ちが伝わりました。特選句「雪女♯Mee Tooデモの後に付け」。いまどき、雪女にもいろいろ訴えたいことがあるのかもしれません。「こんな白い衣装は嫌だ。おしゃれしたい」とか、妖怪界での男女差別とか。面白さで特選にしました。

島田 章平

特選句「雪こんこん童話の森をさまよいて」いいね!白雪姫がいる。あれ、向こうには雪の女王とアナ。赤ずきんちゃんもいる。今日は童話の森に泊まります。特選句「種袋はらからの呼吸やわらかに」種袋の中の種ってどんな夢を見ているのかな、桃栗三年柿八年、柚子は? 童心っていいですね。 

鈴木 幸江

特選句「またたきの獏を裏の木に残す」“またたきの獏”を最初は、少し興奮している状態の獏と思ってしまったが、悪夢を食う想像上の動物と捉えれば、これは、夢を見ているレム睡眠の状態なのだろう。そうイメージすると、とてもすっきりした。主体的に“残す”という行為には、想いが深い。一緒に連れては行かないということだ。薄れてゆく悪夢のような思い出を、忘れはしないが、自分の外に置いておくという、まるで心理療法の一つのようで、哀しいが癒される。問題句「聖夜産院地図燃え尽きるまで待て(竹本 仰)」いわいる難解句であるが、惹かれるものがある。まず、問題は一行詩のようであること。いいのかな?と今も私には問題である。リズムは7,9,2と切って読んだがなんか物足りない。内容は2句構成。サスペンスの雰囲気の中で、新たなキリストが誕生するドラマを見ているようだ。“地図燃え尽きるまで待て”では、はっきり言い過ぎてしまって俳句の叙情的効果があまり出ず残念。でも、行き先を人に知らせぬためと、解釈するととても含蓄のあるいい句だ。以上。

松本 勇二

特選句「今生にすこしはみ出て餅を焼く」餅を焼くときにふとよぎった作者固有の感覚を上手く掬い上げた。

伊藤  幸

「冬の木はそこに震災二十五年」阪神大震災より25年、難を逃れた木は今年も 冬木の芽をつけ人々を見守り続けているが「そこに」という措辞によりまだまだ拭い切れていない悲しみが伝わってくる。

増田 天志

特選句「昴に告ぐ十本の指を束ねます」詩的世界に溺れゆく。社会性俳句を志向しつつも。

田中 怜子

冬霞内耳の迷路に居るような」霞にまかれると、こんな気持ちになります。特選句「万歳のふっくら土偶初明り(菅原春み)」土偶のおおらかさ、可愛さが表現されていますね。

藤川 宏樹

特選句「〇□△皆老い春炬燵」:「〇□△」、ん? ひととき置いて「春炬燵」で状況把握。途端に〇□△が人の顔に見え、五輪の塔に見え、熱々のおでんにも見えてきます。想像力全開に楽しませていただきました。  さて新年早々の袋回し。意表を突こうとお題に「モンロー」を出したのですが佳句良句見事になされ、あらためて皆さんに恐れ入りました。ということで、今年もよろしくお願いします。   

高木 水志

特選句「旧かなの街よおとうとは雪虫」人の温かさが残る街に、雪虫のような弟がのんびり暮らしている景が見えて、情を忘れずに生きたいなあと思った。

三好つや子

特選句「白狐にもらったままの試金石」 何もかも目まぐるしく変わる現代社会のなかで、絶対変わらないものを見つめ、変えてはいけないものを探ろうとする作者の矜持が感じ られ、共鳴。特選句「いきはいてすうてにっぽん寒の入り(田口 浩)」 経済、温暖化、年金などの問題に直面し、あたふたしている一日本人として、この句に惹かれました。まずは呼吸を整え、これらの問題と向き合いたいです。入選句「グレタさんを日本へつつーと鶺鴒(稲葉千尋)」自然環境の悪化するこの星でひたむきに生きている野鳥に、人間のことばが話せたらどんなことを発するのだろう?花も鳥も風も月も、むかしとどこか違うのに、今までとおなじ感覚で詠んでいていいのだろうか?グレタさんのような人が増えてほしいと願わずにはいられません。

田口  浩

特選句「旧かなの街よおとうとは雪虫」<旧かなの街>は現実にあってもなくてもよい。出来れば作者の造語であればうれしい。私は外国の寒い地方都市を想像した。<おとうと>は、その街で何故か雪虫に変身して・・・。そんなピアノ曲をきいたような気がしてくる。句に感性が密着していてブレがない。おもしろい作品である。

柴田 清子

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」大胆なカタカナ表記、リズムをとりながら冬の空へと。『冬の空』が、上五・中七を邪魔していない。理解に苦しむ人をみるような句、いつまでも頭の奥の方に入ってとどまってしまいそうな句、特選句です。

高橋 晴子

特選句「いきはいてすうてにつぽん寒の入り」ひらがな書きに、何か、にっぽんが ‶いきはいてすうて〟と生きている不思議な感がする。日本が生きて呼吸をして寒の中に入っていく、このリズム感がそういう感をもたらすのだろう。お見事!!

吉田 和恵

特選句「ぴよぴよぴよぴよ白フクロウの灯が点る(野﨑憲子)」森の哲学者白フクロウが無心に灯す姿をイメージした。特選句「嘘泣きをしたり狐になつたりす」見憶えのあるような一句。でもおかしくて面白い。私、兜太先生にお目にかかることは叶わなかったけれど、もし先生に叱られたら嘘泣きしたかも知れない。

松本美智子

特選句「胸中の蛇の蕩ける冬日向(田口 浩)」冬の日の日向ぼこに当たると抱いていた恨み辛みの気持ちも蕩けていくような気分になるものです。それを(蛇の)と表現したところが素晴らしいと思いました。 私の句について、少しアドバイスをいただきたいです。「冬雀百円投貨精米所」の句は悩みました。漢字ばかりで良いかどうか!上の句を「小春日や………」としようか迷いました。アドバイスをおねがいします。すいません、まだまだ勉強不足なもので、皆さんの意見が参考になります。→ 初句会に遠路ご参加くださりありがとうございました。私は、貴句は、<冬雀>だからこそ映像化に成功していると思います。漢字ばかりの句も、とても魅力的です。

河野 志保

特選句「とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる」晩秋から冬の静かな山を思い出した。静寂を破る「とうーんと」が物悲しい。「羽根」は作者の心にある大切な何かなのだろう。締め付けられるような喪失感が余韻となっていつまでも消えなかった。

竹本  仰

まずはじめに選句とは何かと病院の待合室で考えました。よい句を選ぶこと。よい句とは何か?自分が俳句を探し求めるにあたって道しるべとなるような句。昔、旅の友というふりかけのヒット商品がありましたが、そういう俳句探しの旅の友とでも言えばよいか。特選句「天と地はきらり時雨に繋がれる」まず、時雨に「きらり」が新しい。時雨のあとの夕日のひとさしの、きらりではないか。まるで涙のあとのきらりのような。しかし、と、思う。そんな時雨のあとに天と地がつながって見えるようなところはどこか?経験的には琵琶湖?してみると、時雨でつながる芭蕉と義仲のような不思議なきらりを連想してしまう。と、まあ、そういう勝手な連想で楽しめた句でありました。特選句「打ち明ける真白き太き大根に」真情をうちあける相手とすれば、なるほど抜きたてでひと洗いした大きな大根は信じるに足る「安心(あんじん)」の相手である。大根は真実である最高の聞き手。自己主張を呑み込み、真情を抱きとめてくれると納得できる。特選句「旧かなの街よおとうとは雪虫」弟よ、おまえは、旧かなを守るしかない古い町で、雪虫になってまで頑張って生きているのか、という姉の愛か。カフカの『変身』は、グレゴールが毒虫になり最愛の妹から決定的な裏切りをこうむるという話だったと記憶するが、それとは真逆で、『紫式部日記』で大晦日宮中に出没したひとりの賊を捕まえさせ手柄を立てさせようと、検非違使のおとうとをまっ先に呼びにやる姉・式部の愛を思い出した。古典的な姉のいる愛、おとうとよ、がんばれ。特選句「何処までも僕の肉体冬の空」いま、オリオン座の左手、われわれから700光年の近さのベテルギウスが爆発するか、もうしたか、という話があり、これには私たちは全く手が出せない傍観者でいるよりほかはないのですが、この傍観者でいるよりほかはないという感覚と、どこまでも「僕の肉体」というこの句の感覚に妙に響きあうものを感じました。無関係ではないのだが、でも、どうにも出来ない、でも、どうしても関わりがあるのだ、もどかしいそんな愛、そんなリアリズムを感じました。以上です。

いつもなぜか、選句は通院の病院の待合室でしています。たまたま時期がそうなるのと、なぜかそんな場所が意外と選句に合っているという不思議なコラボを楽しんでいます。そうそう、「海原」を読むのにもこの待合室がベストなんです。だから、通院の楽しみの一つは、ここなんですね。みなさま、いつもありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

稲   暁

特選句「冬の木はそこに震災二十五年」今なお作者の脳裏に焼き付いているあの日の光景。それを一本の冬木に集約して悲しみを新たにしている。

月野ぽぽな

特選句「別の世の音まぎれこむ書斎冬」書斎は心を研ぎ澄ませ想像/創造する空間。融通無碍の境地に到達すれば、過去も未来も自在にその空間を行き来することでしょう。今という永遠の豊かさ。心の内の充実には冬が最適ですね。

新野 祐子

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」類句類想がないですよね。表記の仕方も。冬の空の感じが出ています。大変ひかれました。入選句「冬青草兜太芭蕉の旅寝論(矢野千代子)」」冬青草が、中七下五を生き生きとさせていると思いました。入選句「ヘリ騒音普天間思う年始かな(滝澤泰斗)」本土に住む私たちにとっても切実な問題です。入選句「万歳のふっくら土偶初明り」初明りの中、戦争がなかったという縄文時代に想いを馳せているのでしょう。

桂  凜火

特選句「種袋はらからの呼吸(いき)やわらかに」はらからの呼吸やわらかにのフレーズのえもいわれぬ魅力にとても心惹かれました。はらからの平仮名表記も効果的だと思います。 どこかしら艶かしさもあり不思議な句です。種袋との取り合えあわせでリアリティが出ていると思います。

中村 セミ

特選句「水の闇寒鯉ぬるっと交差する(桂 凜火)」ぬるっとが、この句の要と思う。冬の池の中の鯉、水も冷たいと思う。物理で粘性係数という言葉があり、温度が低い程粘りが出てくるというもので、流体(水・空気)が管渠の中を流れる時に、温度が低いほど、粘性係数は大きくなるという事で、流体の流れは温度が高い時と低い時では、早い、遅い、という事に物理的にはなっている。これは勝手な解釈であるが、ぬるっとが面白かった。水の闇もよく効いている。

谷  孝江

特選句「とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる」もう何年前になるでしょうか、湖のほとりの温泉宿での事です。朝、日の出と共にあちらこちらと銃の音が聞えてきました。ああ今日からは狩猟解禁日なのだな、と思いました。解禁初日は鴨がよく捕れるのだと聞いたのを思い出し、鳥たちが可哀想だな、と心が痛んだ事でした。「わたしの羽根が落ちる」思いをしました。世界のどこからも銃の音が聞こえなくなるようにと願うことしきりです。

高橋美弥子

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」うまいなあと思いました。カタカナ表記が、冬の冷たい空を象徴しているかのよう。これは季語が動かないですね。脱帽です!!問題句 「三日ゆえ線香花火のごと朝陽」線香花火は朝陽の比喩だとはわかりますが、三日だから朝陽が線香花火のようだというところが今ひとつ理解できませんでした。ごめんなさい。

榎本 祐子

特選句「今生にすこしはみ出て餅を焼く」作者の立ち位置や、心情が見える「すこしはみ出て」が淋しい。生きる糧として餅を焼くことも少し悲しい。

重松 敬子

特選句「種袋はらからの呼吸(いき)やわらかに」待春のエネルギーに満ちた躍動を感じます。四つの季節があるというのは何と素晴らしいことでしょう。正に俳句の心髄。

小宮 豊和

特選句「天と地はきらり時雨に繋がれる」この「繋」の使い方はすばらしい。ふつうは繋留などのように多くの場合、繋の一方は大きくしっかりしたものである。この句の場合は無限大と言ってさしつかえない天と地と、細い時雨の軌跡が繋ぐというのだ。壮大な概念の飛躍である。

増田 暁子

特選句「捨てられてなお立ち上がる夜の葱」元気をもらう句ですね。ほんとに葱は枯れそうになっても首をあげますから。作者の魂を感じます。特選句「種袋はらからの呼吸やわらかに」優しい句です。はらからとは生き物にも通じますから、同じ地球に住んでいる者同士いたわりあいたいと作者は感じておられると思い共鳴しました。

野澤 隆夫

特選句「睦月海の蒼さよ島は眠りの中」1月の海。そして島。小生の50年以上前、小豆島に住んだことを思い出しました。その年に東京オリンピックがありました。カラーテレビが出てきました。島の子ども、人たちと多くの交流がありました。特選句「大根の穴の向かうのサンパウロ」今年は暖冬で大根が大きくなり過ぎ、市場に出せず引き抜いてる農家の写真をみました。大根を引き抜いた穴の向こうはサンパウロなんだと。妙に納得!!「ストーブの消えてアラビア海想ふ」この句もスケール大きく、面白い句だと感心しました。

菅原 春み

特選句「訪ねたき君の消息冬銀河」初恋の人か懐かしいひとか、このごろになってやけに相手のことが思い出される。冬銀河との取り合わせがいい。特選句「少しずつ遺品となりて年明くる(松本勇二)」去年亡くなられた身内の方だろうか。とても一気に遺品整理などできない。少しずつというところ、年の明けるまでの季語ともに切なさと、相手への深い情愛を感じる。

三枝みずほ

特選問題句「別の世の音まぎれこむ書斎冬」冬の書斎にある本の匂い、灯り、ひやっとした空気感と本の世界。「まぎれこむ」によって、現実との境界線が曖昧になってきている感じが伝わる。ただ、声に出して一句を読んでみると、「書斎冬」の語感にどこか違和感。でもこの句は冬だからいい!迷うところだ。

滝澤 泰斗

特選句「ひなたぼこ背中のねぢをまきもどす」ワオキツネザルは陽を両手で受け止め体温維持するが人間は背中で陽を背負い日向ぼこを楽しながら・・・思索したり、ただぼーっとしたり。だが、作者の日向ぼこはエネルギーチャージだと・・・秋の午後の傾いた陽にそんな力を感じる。問題句「亡己利他白紙の賀状もらいたる」幼馴染が後年仏門に入り、年賀状にこの亡己利他の文字を揮毫して送ってくれる。しかし、白紙ではない。冒頭の亡己利他と中七の白紙の関係がもう一つ見えない。しかし、何か、この上と中七に妙な因果を感じさせてスーッと看過できないでいる。

藤田 乙女

特選句「初雪のふと遠い人と重なる」初雪に急に昔を思い出したり懐かしさを感じたりして、関わりをもちながら今は遠い存在となってしまった人を思い浮かべる、そのような感覚は自分にもあり、とても共感しました。特選句「冬三日月密かな水脈に耳澄ませ」透き通るような感性と研ぎ澄まされた美しさを感じました。

亀山祐美子

特選句「川に鴨十日戎の男達」鴨の生存のための群れと男達の商売繁盛祈願の群れ。おもしろ取り合わせだと思う。「十日戎の男達」か「十日戎に男達」とするのか。この句の助詞の選択だが、「の」とすると絵としては完成されるが動きが無く、面白みに欠ける。「に」としたほうが、「に集まる」「に寄る」「に~」とする動詞の省略に想像の余地があり一句が脹らむ気がする。また、「川に鴨十日戎に男達」と「に」「に」と畳かけた方がリズミカルだと思う。特選句「キリトリセンヨリキリトル冬の空」見渡す限り寒晴の真っ青な冬空。裸木の下に入った瞬間空にキリトリ線が出来た。見事な把握。そのキリトリ線に沿い少し、ポケットに入る位で良いから持ち帰りたい願望に同感し、脱帽する。「線」をカタカタ表記にし「から」ではなく「ヨリ」を選択したセンスの良さで「キリ」「トリ」「ヨリ」「キリ」の「リ」の小波の繰り返しと「キリトリセン」「キリトル」の大波の二重構造でリズム感を増し、冬木の枝のボギーボギ感まで表現した。冬空でなければ出ない発想。お見事。問題句「雛あられ銀河に撒きて母を呼ぶ」雛あられが大好きだったお母さんだとしても、これは無い。まるで米を撒いて雀をおびき寄せるようで気に入らない。物で釣られる母なのか。そんな母が好きなのか。人間性を疑う。しかも「銀河」は夏の季語。何でも有りの句会でも、此は酷い。まだ無季のほうが良い。蛇足ながら、「表札へ班長くはへ〆飾り」の「くはへ」の同音異義語に悩んだ私のような粗忽者には「加へ」と限定した漢字表記が有り難い。

明けましておめでとうございます。寒中お見舞い申し上げます。初句会初っぱなから迷子になりご心配ご迷惑おかけいたしました。無事帰れました。今年もよろしくお願いいたします。

久保 智恵

特選句「肝試し十年日記買うか否」十年日記帰ればネ。心を込めて作者の心情、短い中に別れの心情!!心の底に沁みる日常の私でした。

河田 清峰

特選句「三日はや発ちゆく孫の背にシリウス」我が家でも二日と三日に帰っていきました。それもシリウスの出てくる真夜中に…共感する句です。特選句「風花や臆病なわたしを知りたい」好きな句です。

男波 弘志

「玉霰プラットフォームにごつんごつん」とにかくリアルです。「川に鴨十日戎の男たち」春が来ている。「お見合いするってやっと本気の白椿」椿はぽたぽた落ちました。「胸中の蛇の蕩ける冬日向」蛇をも、5体に同化させる日向、バイローチャーナ讃。

野口思づゑ

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」白い紙をまず思い浮かべたのでカラッと晴れた青い冬空というより、どんよりと重い空をイメージした。大きく広がる空、というよりは切り取られたような自分の頭上の小さな範囲の空の印象でしょうか。特選句「意に沿わぬ人にも母あり九年母(寺町志津子)」作者は九年母のよう、良き香りで人を幸せにしていれるようなお母さまをお持ちだったのでしょう。自分とは到底相入れない人であっても誰かの子供であったのだから寛容に受け入れなくては、という気持ちが伝わってくる。

佐藤 仁美

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」カタカナの効果があり、「切り取り線」と言う発想が、素晴らしいです。冬の空にも色々あると思いますが、私には、雲が暗いのと明るい層にくっきりと分かれている様を表しているように思えました。特選句「黒豆煮えた現状維持でいいやんか」黒豆と現状維持と言う、取り合わせの妙、「いいやんか」の、とぼけた感じが好きです。「色々あったけど、これでよし。」と、お正月を迎えようとしている様子が、自分と重なりました。

野﨑 憲子

特選句「さみしさの白息を育てています」<白息を育てています>このやわらかなフレーズの中に、エッシェンシャル一本槍な生き方が見えてくるようだ。この<さみしさの白息>は、きっと作者の心の糧になっているのに違いないと思った。問題句「○□△皆老い春炬燵」この作品は、句会の合評でも大いに話題になった。「○□△」の表記にびっくり。きっとおでん鍋を囲んでいて、天ぷらや蒟蒻、卵の形ではないかとか、いやいや集まった人たちの姿だとか、五輪塔では?と言った高尚な把握もあった。「春炬燵」が良い。老年に入った仲間達が集まってワイワイガヤガヤ楽しいお喋りが聞こえてくるようだ。表記もとても新鮮!「○△□」「△□○」何通りも楽しめる。限りなく特選句に近い問題句である。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

モンロー20.jpg
モンロー
初時雨モンローの睫毛は上向きに
松本美智子
湯婆もモンローも同じ抱きごごち
柴田 清子
モンローが好きな一羽の百合鷗
田口  浩
初明りモンローよりもいいをんな
鈴木 幸江
冬すみれ
冬すみれ伸びて縮んで影法師
野﨑 憲子
冬すみれ四時には四時の色になる
田口  浩
お題より着る物選ぶ冬菫
中野 佑海
ひとり寝にシャネルの五番冬菫
藤川 宏樹
思い出は別れが多し冬すみれ
稲   暁
冬菫やさしくされるのが嫌い
柴田 清子
新玉葱
新玉葱齧り女の話など
亀山祐美子
新玉葱育休始める環境相
藤川 宏樹
一皮剥けば人間新たまねぎ
島田 章平
櫛切り新玉ネギや初笑
松本美智子
初鏡
初鏡嘘を吐かないから嫌ひ
島田 章平
百年が揺れて百個の初鏡
田口  浩
アモーレとルカは言うのか初鏡
鈴木 幸江
幼な日の指切りげんまん雪明かり
稲   暁
雪明り深みに入る逢瀬道
中野 佑海
そう言う事かと降る雪が止んでいる
田口  浩
なあになあに雪が空から降つてくる
野﨑 憲子
霜焼
霜焼やつくづく用の無くなれり
柴田 清子
霜焼るされど待ち人あらわれぬ
藤川 宏樹
霜焼や自分をほめて生きていく
松本美智子

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】本句会の仲間、滝澤泰斗さんのプロデュースで、『金子兜太先生の軌跡を旧トラック島に訪ねて』の吟行旅行が開催されることになりました。滝澤さんは、朝日新聞社系列の旅行会社に勤務され朝日俳壇の選句会へ先生を訪ねよくお話をしていらしたと聞いております。現在も、旅行会社でご活躍中です。☆旅行期間は本年四月十九日(日)~二十四日(金)です。募集人数は十五名、実施最低人数は十名です。私も参加の予定です。詳細を知りたい方は私宛にお問い合わせください。 noriko_n11☆yahoo.co.jp(☆を@に変換してください) 新型肺炎の流行が一日も早く終息するようにと祈るばかりです。

【句会メモ】令和初句会は、「ふじかわ建築スタヂオ」での開催でした。柴田清子さん、中野佑海さんが着物姿で句座に加わり会場がとても賑わいました。坂出の松本美智子さん、観音寺の亀山祐美子さんも参加され嬉しかったです。句会場には、藤川さんが描かれたマリリンモンローの素敵な肖像画がありましたので、藤川さんにお許しを得て<袋回し句会>に掲載させていただきました。一部、作者の意向で掲載しない句もありますが、とても面白い作品がたくさん集まりました。次回が、今から楽しみです。

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